記録 1
この家の決まりで、みんなでおじい様。当主のいるお屋敷で食事をする日がある。
その日は、決まって孫である僕たちは談話室でそれぞれ、当主になるために必要な勉強をする。
礼儀作法。
関わりのある家の人の顔を覚える。
敷地のこと。
財産の管理方法のこと。
そして。
当主になるための条件である、丘のこと。
お父様もお母様も。
叔父様も叔母様もみんな、自分の長子や上の子たちばかり気にかけて。
末っ子の僕やあの子は目に入っていないみたいで。
だから声をかけた。
今日も談話室で小さく、隅っこにいるあの子に。
話してみて、自分の直感が正しかったと確証をえた。
この子の目はとてもきれいだったから。
丘については聞こえてくる会話から、そこは特別な場所で。
わざわざ花の名前を問うくらいだから、花が咲いている場所なんだろうけれど。
この家が所有している土地で丘と呼ばれるような場所で。
なおかつ花が咲いている場所なんて。
それだけで絞れそうなものだけれど。
おじい様から当主の話が出ていないということは、まだ見つけられていないということ。
少なくとも、子どもたちの代では。
そしてみんな年齢の制限を迎えて。
だから必死になってみんな孫の僕たちに托すんだ。
この家の膨大な財産を受け継ぐために。
子どもが小さければ、その分、親である自分たちが管理するという名目がたつ。
大きくても、自分たちに恩恵があるように、手塩にかけて育てる。
……気持ち悪い。
そんな両親の良心のなさに、僕は息が詰まりそうだった。
自分の子どもをそんな風に見ているなんて。
だからこそ。
そんな風に見られていないあの子は、とても光って見えた。
周りが言うようなできない子じゃない。
しっかりと周りを観察し、リスクを減らしている。
よく見ているし、見えている。
あの子の目で見られると、こちらの悪い部分が見透かされているのではないかと思うほど。
まっすぐで。
特別な丘は、きっとそういう子にしか見つけられない。
丘に咲く花。
答えがあるということは、年中咲いている花。
丘も、季節に影響を受けにくい場所。
条件にある丘はあっても、花はない。
幻の丘と言われる場所だから。
なら、きっとここにいる誰とも違うあの子なら。
話をして。
純粋無垢なこの子に。
僕は心から笑いかけた。
ああ……。
本当に。
愛らしい。
僕の役に立ちたいか。
うん。
その願いを。
かなえて。
僕が当主になるために。
君を使うね。