(12)7月1日 4時44分
わたしはまどろみの中にいた。
周りは暗く、静かだ。シーツと素足が擦れた時の音がする。
いつも通りベッドで寝ている時みたいだ。
パッと、視界にカーテンが映った。うっすらと開けた瞼の隙間から徐々に周囲の様子が見えてくる。
あたりはまだ暗い。日の光が差し込まない明け方前と深夜の間の境目の時間。
眠りから目覚める時の、あの感覚に似ている。
わたしは飛び起きた。
そう、まさに薄手の布団をガバッと上げて、上半身を起こした。間違いなく、わたしの部屋で。
薄暗い室内で、カーテンが白く浮かび上がっていて、早朝だと悟る。
枕元に置いてあったスマホを見る。
7月1日(日) 04:44
スマホは「14:00 樋川先輩と会う」
と、本日の予定を知らせてくれる。
さっきまでわたしは回想電車に乗っていた。
死んだと言われ、死後の世界なのか、次の人生なのか、わからないけどどこかに連れていかれる途中だった。北見朱音としての人生は終わったはずだった。
でも今は普通に朝を迎えている。
あれは夢だったのだろうか。
今はもうそれを確認する術はない。
わたしの体は暖かく、脈打ち、自然に呼吸をしている。
深呼吸で胸を満たす。いつもと変わらない朝だ。
わたしは生きている。死んでいたことを確認するのは不可能だった。
起床した直後、見た夢を強烈に覚えている時がある。まだ寝ている状態と起きている状態の境界で、意識だけではなく体も体験したような錯覚に陥る時もある。
夢の世界は、現実世界と同じように五感が感じられるほどリアルで、とっぴな設定じゃなければ、現実と錯覚するほど。そんな夢を見た朝は、胸がザワザワと騒がしい。
それも普段と変わらない朝だ。
きっと、夢なんだろう。
時間が経てば経つほど、回想電車での出来事はぼんやりと薄れていき、夢なんだと思う以外考えられなくなった。
だって、死者を運ぶ電車なんて聞いたことがない。
わたしが読んだ童話にも登場したことがない。どうせわたしの中の空想の産物なんだろう。
どうかしている。
そもそも進路調査票が配られてから、心穏やかではなくなった。自分の将来に対峙することになり、このまま絵を描き続けるのだろうか、と不安に駆られた。
それだけじゃない。
絵の仕上がりはしっくりこない。自分的に駄作続きだった。
そんな中の進路調査票。
わたしの将来の見通しは暗い。
夢もそのせいなんだろう。やたらと、わたしに現実の厳しさや自分の浅はかさを教えるような、そんな夢だった。
楽しくもなんともない。
わたしは背中からベッドに倒れ込んだ。目蓋が重くなり、自然と眠気が襲ってくる。
今日は日曜日。約束は午後だし、もう少し寝よう。
そうだ、せっかくだから絵を見せてあげよう。拙いけど、軽音部の演奏会ポスターを。
見返りなんて期待していない。ただ、自分の中で何かが変わればいい。
遠くで新聞配達のバイクの音が霞んで聞こえた。まるでテレビから聞こえてくる生活音のように、別の次元から聞こえてくる音のようだった。




