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スノードロップ  作者: 白崎なな
第1章 玉 月 杏
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5。ジル

 ぎょくゆえしんが14年前に殺し集団のプロとして仕事をこなせるようにと、前国長の酒井さかい 大和やまとがアルタイアに行くことを命じた。

 アルタイアとの同盟をさらに強固な物にしようと考えたからだ。



 そもそも華楽からくは、7年に一度大きな選挙を行う。連続して、2期まで国長を務めることができる。



 14年前に酒井が国長となり、初の口令がこうだった。

 「国の宝は民だからこそ、今必要とする軍部強化に務める。

 きたる戦に我が華楽からくが勝利するために!」



 軍部強化(殺し組織の確立)に尽力した人物だった。

 "戦争? それなら、華楽からくが先陣を切ろう。"


と、報道人に囲まれた取材でそう答えていたほどだ。自分は戦わず、指を咥えてみているだけ。戦うのは、軍でありさの中心に立つのはスノードロップだ。




 (あんな人が、14年も続けられるなんてどうかしてる)



 この口令でまずぎょくゆえしんの3人がアルタイアに渡った。アルタイアは銃社会。また情報に強い人間が多い国だ。



 銃殺や爆薬について、そして情報を早く手にいれるためにハッキング技術を学びのに2年を費やした。

 その2年間の間に、何人ものスノードロップが送り込まれた。



 そこで稽古をつけていた師匠が ”ジル” という人間だ。



 アルタイアに向かう前の2年間で訓練や実践を重ねてきた、ぎょくゆえしんの3人ですら全く歯が立たないほどの腕前の男だった。



 「……ジル、やっぱりそこに繋がるよね〜」



 「それ以外に、わざわざ紫水晶をペンダントにする人いない。ジルの組織と対峙するとしたら?

 私たち3人では数も能力も劣るかも。」


 「ゆえ……ジルとトップメンバーは、私たち3人でなんとかするとして。

 他の組織の人間はスノードロップ、第一部隊、第二部隊で捕まえる方針はどうかな?

 やっぱり、こんな状況でって言われるかもしれないけど。殺しの仕事はさせたく無い。もちろん、2人にも極力させたく無いんだよ。」



 「うーん。そうなんだけどね。現実的じゃ無いよね。

 あとおそらくだけど、データを見る感じ第三、特殊も追加が望ましいかな。」



 「えぇ〜でもさ〜?

 第三部隊は、要請書出せば来るだろうけど〜! 特殊部隊はさ、嫌がるよね〜」



 「……確かに、拒否されたことあるしなぁ。

 あの人たち変わってるからね」




 「でも前回は第三部隊が別任務に当たってたから代わりにって話だったでしょう? 代わりに来い、なんて誰でも嫌がるでしょ

 今回は、戦争。そんな悠長は事を言ってられない」



 「まぁ、ね! ちょっと変わってる人たちだから期待はしない方が身のためなのでは〜?」



 「……考えるの疲れちゃった! もうめんどうだし……さくっと乗り込む? ――――なぁんちゃって!」




 「ぎょく、報告書だけまとめたら一旦休みなよ。もう今日で徹夜して4日目とかでしょ。」



 「確かに、休んでないせいで変な思考になってるかも。報告書だけまとめちゃうね!」





 「私、乗り込むはなしだけど……

アリだと思うなぁ〜

 ここでこうしてたってさぁ? しょうがないじゃん?」




 「しん、一旦そのはなしは保留で。それにそんな無謀なことするのは良くない。

 そのために、情報収集を頑張ってるんだから」



 「そうだね。はぁい〜」




 ぎょくは、自分のデスクで昨日の報告書をまとめつつ二人に話しかける。




 「あのね、一つ聞きたいことがあるんだけど。



 龍元りゅうげんなんだけど、向こうは味方してくれるかな。そこまで敵に回したら……もう華楽からくは終わりだよ」




 「師とやり取りをしているけど、そのつもりで動いてもらっているよ。

 それに現国長は誰だか忘れちゃったの?」




 「……うん、確かに心配に値しないね」



 「あぁ〜あのネックレス、あんなに綺麗な加工なのに

 文字を刻んでしまうなんて勿体無いよね〜」



 (本当、しんは自分の中では話が繋がっているだけで急に話が変わるんだから。

 聞いてるこっちは、話が噛み合ってないって感じる)





 「……よし。報告書も完成したから、畑国長はたくにおさのところに行ってくるね。

 そのまま一旦、寮に戻るから」



 自分の荷物をまとめながらそう言った。



 「また明日ね〜」

 「気おつけて帰るんだよ」


 と二人にそれぞれ声をかけられる。そのふたりに、手を振って部屋をでた。




 帰還後に部屋で着替えも終えてから顔を出しに行き、口頭でどんな状況だったかと例のペンダントを報告をした。ただ、簡単なものだったので報告書も持っていく。

 政府側のビルへ伸びる、渡り廊下を歩いた。




 すれ違う軍部の人間が数人いるが、いつも以上に廊下を歩く人が少ない。



 (ものすごいガランっとしているけど、昨日の一件の影響?)




 ーーコンコンコン

 「ぎょくです。失礼致します。」




 「どうぞ」

 と中から女性の声が聞こえた。その声にぎょくは、身構える。




 そしていつものように、ボディーガードが二人扉を開けて頭を下げる。



 「愛藍あいらん様、お久しゅうございます。」

 女性の最敬礼の両手を左腰に揃え、頭を下げて膝を軽く折る。




 愛藍あいらんは、 「楽にしてね」 と柔らかい口調でいい微笑む。



 「報告書を賢祐けんゆうに出しに来たのでしょう?彼がここにいられないから代わりに私が受け取るように、と言われたの。」



 おっとりとした雰囲気がある彼女だけど、どこか掴めない。賢祐けんゆうとは、現国長のはた 賢祐けんゆうのこと。




 そして今対応しているおっとりとした雰囲気の彼女は、畑の妻。



 ここにくる前の情報が一切ない。謎極まりない女。だいぶ突っ込んだ内容の書類になっているから、この女に渡すのは危険だ。

 他の人間はどうかわからないが、ぎょくはこの女のことを信用していない。

 過去の遡上もしれない人を、易々と信用していたら自分の身が危ないから。




 「そうでしたか。畑国長はたくにおさに直接お話をしながら情報共有をしたいのです。

 ですので、ご本人お渡しいたします。愛藍あいらん様のお手を煩わせるわけにもいきませんし。」




 (自分じゃ役不足だ。信用ない。と突きつけたような言い草なのに、ニコニコと。本当に何を考えてるのやら。)




 「そうなの。それならしょうがないわね。……でも、ぎょく?」



 貼り付けている笑顔がスッと、一瞬消えた気がした。本当気がした。が正しいほどの一瞬。すぐにいつものニコニコ顔に。




 「あなた忙しそうだし、賢祐けんゆうも忙しいから。大切な要件なのにそんなに悠長にしててもいいのかしら?」




 嫌な女だ。本当は、この書類の中身まで把握しているのでは? と感じる。



 「ええ、そんな急ぎの要件ではありませんので。それと…… 長居するのも失礼ですので、私はこれで失礼します」


言い終わるや否やさっと身を翻す。

 一歩前に足を進めたところで、愛藍あいらんに呼び止められる。




 「……あ、待って。



 賢祐けんゆうがあなたに殺しの依頼をしたんだって?

 彼が就任して半年。今回まで彼からそんな依頼はなかったのでしょう?



 彼は、殺しや戦争を嫌っているみたいだけど。そんな彼が、依頼をしたってことは……?」






 失礼なのは承知で、振りかえらない。自分の表情から、何か読み取ってきそうで恐ろしいから。


 「何が言いたいのでしょう?」



 「そのままの意味よ。戦争をするのよね。

 ……龍元りゅうげんと」




 (ん? なぜ。ここで相手が龍元りゅうげんになるんだ?)


 たしかに、以前まではアルタイアとの関係性を保つために使われていたうそ。華楽からくに侵入してくるのは、龍元りゅうげんの人間だとしていた。



 しかし彼女は、一般国民とは違う。龍元りゅうげん畑国長はたくにおさとの関係を知らないはずがない。それなのになぜか、龍元りゅうげんと戦争をしようと考えている。と発言をした。

 もしかしたら、なにか彼女にあるのかも。と考えたぎょくは、言葉を濁す選択をする。



 「お答えしかねます。気になるのでしたら、畑国長に直接お聞きになられてください。」


 「……」




 背中に向けているので彼女がどんな表情をしているかわからない。その無言の圧を背中に受けた。



 (いつものように笑っているのだろうか。)




 彼女の表情がきになり、振り返った。やはり、食えないいつもの微笑んだ表情だった。

 「……それでは失礼します」



 なんだか、負けた気がした。その気持ちを隠して、部屋を後にした。




 しかし、部屋を出る時に見えた彼女の姿に内心驚いた。

 いつもの彼女からは想像できないほど眉を顰めて、怪訝そうな表情で腕を組み下を向いていた。





 (彼女には何かが必ずある。どうにかそこも、突き止めないと。)




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