42。花火
「玉………」
「畑国長、水本の死を待ってこの戦争は幕を閉じましょう?」
「えぇ。」
「私たちは過ちを犯したのです。この戦争は、本当にすべきだったのか。と。……たしかに…水本と、話をしたとき、話が通じる様子ではありませんでした。…ですが、本当に正しい選択だったのでしょうか?
ーー特に私は、今までにも何人も罪のないアルタイアの人間を殺してきました。相手を殺さずに捕まえる手段もあったのに…。
そして、この事実は変えられないのです。」
「……」
「きっと私の心は、機械と化してしまったのですね。だから、戦争をしようと考えてしまった。その……結果、叶果も翠娘娘も失うことになりました。
……わたしは、これからどうしたらいいのでしょう?
こんなの、政府の言う本当に殺戮兵器です。どう罪を償えばよろしいのでしょうか。」
「いいえ。あなたのせいではありません。
この悲惨な世界を生み出したのは、誰か1人だけでは出来ませんでした。
たくさんの人の欲によって生み出されたのですから。
……それに、あなたは機会中からでも殺戮兵器でもありません。今こんなに思い悩んでる。それだけで、優しい心を持った人ですよ。」
「しかし!」
「えぇ。言いたいことは分かります。
確かに、実際に手を下したのはあなたです。でもそれで、自分を責めるのは間違ってます。
その状況を創り出したのは、水本ですから。
実際に、過去は変えられません。ですが、あなたは杏によって生かされたんです。
それなら残された人間は、未来を生きましょう。」
「…"同じ過ちを繰り返さない"ですね。」
「はい。そうです。スノードロップを解散して、私たちができうる限りやり遂げましょう。…私も前を向いていかなければ…いけませんね。」
玉は、俯いて水本が倒れているのを目線の先に捉えた。
(未来を、生きていく。…か。
それが、残されたものがやり抜くべきこと。か。私たちの命は、犠牲の上に立っている、んだ。)
玉は、ぱさりと黒のケープを脱いだ。
そして、燃える船に投げ捨てる。
「これでようやく…スノードロップも解散。皆が自由の身。……さようなら、玉。」
ふぅっと息を吐き切り、気持ちを切り替える。
(よし。これで。終わり。終わった。ようやく、私たちの夢が叶ったんだ。)
「さあ、そろそろ……みなさんと合流を…しましょう。」
「そうですね。畑国長私が花火、上げてよろしいですか?」
「はい。お願いします。あなたの手で終わらせてください。」
……ーパーンッ
華楽軍と龍元の連合軍の勝利を意味する花火。
無線機を全員がつけているわけではないので、最終の合図は花火を上げることになっている。
(これで、やっと終わった。でも、まだ……これから……みんなのために、私がやれることをやらないと。……)
広場になっているところを目指して森林を抜ける。
鳳凰木の木々が、風を受けてザザザッっと音を立てる。
その音がなんだか、人殺しは生きている資格はないのだと後ろ指を刺されている気分になって足を早めた。
森林を抜けて広場に出ると、花火の知らせを受けて華楽軍が集まってきていた。
「玉様。我ら華楽の勝利でよろしいのですか?」
「……ノア皇帝、ジル、幹部…それに、水本も酒井も処理済み。これは、華楽の勝利を意味するでしょう。」
玉の声に兵同士で喜びの声が上がった。
「……しかし、まだ喜ぶのには早い。身を引き締めよ。」
「なぜですか?…勝利を確信なさったのではないですか?」
「たしかに、この国と我々と対立していた主要人物は殺している。……でも、まだ月が戻ってない。
あと、見つかってないのはノア皇帝妻エマ。弟のエイダン。この2人がどこにいるか分かってない。」
「2人を探しますか?」
「うん。探したいところ、ではあるけど。これだけ広範囲で戦ったのに、見つからなかったから。逃げているかも。」
「御意。…月様は、今どちらにいらっしゃいますか?」
「皇室。」
「…人を送りますか?」
「……」
「月なら、大丈夫ですよ。きっとすぐに戻ってきますから。待ちましょう。」
「…私もそう思います。月とは長く一緒にやってきてますが、かなり強いですから。」
「えぇ。信じて待ちましょう。」
(月……)




