41。翠玉の衣
(本当に翠娘娘は殺されてしまったの?こんな人を弄ぶような人の言うこと、だよ。……まだわからないよね、?)
そうこう話をしているうちに、燃え盛る炎の中からゆらりゆらりと人影が映る。
ーー人を抱えて。
(違う違う。お願い!)
信じたくない思いで、強く願った。
そんな願いは、簡単に消えることになる。
翠のお気に入りの淡い緑の衣の色が見えたから。
『これ見て欲しいの。新しい衣を新調したの。翠玉の色で、とっても綺麗でしょう?
私この色が一番好きなの!』
数年前に龍元を訪れたときに翠が、そう言って袖をもちクルクルと回って見せてくれた。その翠の姿を思い出した。
いつもはお淑やかな彼女が、喜びのあまりとても幼く見えたのが印象的だった。
その色の衣を身につけるのは彼女しかいない。
抱えられたひとは、間違いなく翠だった。
「…………水本、許さない。」
抱えていた男――畑が地面を這うような声で言う。
「なぜだ?龍元の考え方に則って、すぐに火葬をしただろう。………早く天国に行ったほうが幸せ?なんだろう?」
「違う。お前が殺したことに対して言っている。母上は、何もしていないのに。」
「へぇ、君は、国の頂き立つべき人間では無かったということだな。
自分のことだけしか考えられないなんて。
スノードロップを解体する。とか言っておきながら、戦わせるのは彼女たちだ。
殺しをさせたくない。と言っておきながら結局、戦争をこうして起こしている。
戦争というのは、殺すか殺されるかのどちらだ。犠牲は必ずともなう。
自分だけは違うと思っていたのか?自分の母親が殺された時だけ怒りを覚えるなんて。」
「……」
水本は、ようやく玉から顔を逸らして畑の方を見た。
「そんなの子供のすることだ。」
「お前の方が、自分のことしか考えてない。
そんなことを言える立場ではない。」
「人間というのはみな利己主義なんだよ。
私はこの戦争はとても心待ちにしていたことだから、感謝しているぐらいだけど。」
(早く、水本を…やらなくちゃ。この手で終わらせないと。この戦争は、起こしては行けなかったんだ。)
「水本…もういいです?言いたいことはそれだけですね?
先ほどあなたが言ったように、犠牲がつきものです。あなたの犠牲でこの戦争を終わりにします。」
「玉。それは私にやらせてください。」
「……、確かに、翠娘娘のこともありますが、これは…スノードロップの問題ですので。そこだけは譲れません。それより、お側にいてあげて下さい…」
「わかった。」
「ハハハッ、玉に殺してもらえるなんて。本望だよ。君ならやってくれるね?
私を殺して、君はこの国を率いて華楽を世界で一番にしてくれ。その世界を見れないのが心残りだ。生きているうちにそれを見たかったなあ。」
すっかり日が落ち、暗くなった天を水本は仰いだ。
手をひらひらと振り、普段の様子とはかけ離れていた。
(悪魔だ。)
「ひとつ言いますけど。」
玉は腰からリボルバーを抜き銃口を水本に向け、カチッとトリガーに指をかける。
「…なんだい?」
「私は、皆を解放して自由な世界を作ります。あなたの望む世界ではなく。」
「フッ。実際、国の頂に立てば私の言うとおりにするしかない。と気づくだろう。
華楽こそ、世界の中心になるべきなんだ。とね。そして、君は私が言った通りにする。」
ひらひらとしていた両手を広げて声高々に言う。
その様は、悪魔のように玉の瞳には映った。
ーバンッーーー




