4。ペンダント
…バンッーーガシャン
ダンダンッ…ーダンッーーーー
立てこもりもしていて、相手が有利なはずなのに結局その3人もあっさりだった。手応えを全く感じないその様に、違和感を覚える。
(こんなにすぐ終わるものかな。
なんか、おかしい気がする。 ……まだ何かがある?)
これだけ人数も少ないし、こんなに弱い人たちを "あの人" が送り込むのはおかしい。そう感じた。いや、知っている者であればみな感じるだろう。
玉は、スナイパーを構えていた一人の首にかかっていたペンダントを見つけた。月明かりにペンダントの先についている宝石がきらりと光る。嫌なものほど、目につくものだ。
……紫水晶の宝石。
玉は、そのペンダントを首から外して光に当ててよく見る。光に反射してひかる紫色。そこには、何かが刻まれている。
文字なのか記号なのか。果たしてそれが何かは、分からない。ただ、一つ理解できたのは。
ーーーーただのペンダントじゃない。ということ。
おそらく玉が対峙したグループを送り込んだ人物。もしくは、組織を断定できる物だ、と。
紫水晶をペンダントとしているあたり、私という人間を知ってのことだろう。
なぜなら、玉の瞳の色は珍しい紫水晶と同じ薄い紫色だから。
華楽では、紫という色は悪魔の色と忌み嫌われている。
しかし、他国では紫というのは ”高貴な色” とされているらしい。国が違えば、考え方も感じ方もまるっきり違う。それが、色ひとつとってもよく示されている。
今回送り込まれている人たちは、恐らくアルタイアの人たちだ。そのアルタイアという国では、瞳の色で階級が決まる。
高貴とされる瞳の色は、紫、黄色、青。
最下層として扱われるのが、赤色の瞳。
仮に親が紫の瞳で子供が赤色だった場合。その子供は最下層の人。というように、瞳の色が絶対。
血縁関係よりも瞳の色を重要視している。
華楽では月や杏のような黒や茶色の瞳の人しかいない。龍元の人々も、黒と茶色の瞳が多い。
華楽の島は、元々は龍元の大陸のひとつだったとされている。大きな地震によって華楽の島は孤島となり、力をつけて国となった。
なので、龍元の大陸の面持ちを感じる。瞳の色も同じく、黒や茶色が多いの龍元大陸の人間の特徴だった。
アルタイアや、龍元に渡ったことがある玉でも紫色は現アルタイア皇帝でしか見たことがない。
それほどに紫色の瞳は珍しい。
もちろん黄色や青も、指で数えられるほどしか出会った方がない。出会ったことがないだけで、実際には存在しているのだろうが。
そしてこの紫水晶のペンダント。玉という人間の瞳の色が紫ということ知っている、ということだろう。
さらには、その瞳の色と同じ紫水晶に自分たちのマークを刻むということは……。
単純明快。玉の命を狙っている。それを示すもの。または、玉自体を狙っている。
どちらにせよ、命を狙われていることに変わりはない。
(こんなわかりやすい物持ち歩くなんて、不用心?
それとも、こんな小娘になんて負けるわけがないと私たちを馬鹿にしているの?)
ーーどちらにしても、このペンダントはかなりの情報。
部屋の隅々に目をやる。ペンダント以外に特に何もないことをしっかり確認をしてビルを後にする。螺旋階段を降りながら、玉は考えていた。 "自分を狙うなら誰なのか" を。
ビルから出てすぐに声をかけられた。
「失礼致します。玉様」
玉に気がついた、第一部隊の隊長の桜井が右膝をついて頭を下げる。軍部での最敬礼だ。
「桜井、そのビルも頼んだ」
「御意」
簡単にやり取りをして、玉は事務所へ急いだ。
ーーーーサクッと処理したつもりだったのに、結局太陽が昇る直前になってしまった。日付も変わり、清々しい程の風が肌を掠める。
それなのに、自分の体は鉛のように重たく感じる。それは、ただ単に寝不足だからかもしれない。
玉は、大きく息を吐いた。そして、そんな昨日の夜起きた出来事を思い出していた。
思い出すたび、処理をした後の気持ちが沈んでいく感覚が蘇る。そんな嫌なことを頭から忘れようと、先ほどまで食べていたケーキに手を伸ばす。
「鑑定部は、相変わらず仕事が遅い」
「月、そんなこと言わないで。彼らのおかげで、これまでもいろんな情報を手にすることができたんだから。」
そんなことを話していると、扉をノックする音がした。
……コンコン
「はい、どうぞ」
玉が返事をして扉を開けた。
「玉様、月様、杏様
昨日のペンダントの鑑定結果が出ましたので、お伝えに参りました。」
そう言って、鑑定部の長谷が右膝をついて頭を下げる。私たちスノードロップ幹部は、軍部の中でも上位。そのため、必ず軍の最高敬礼をされる。
「どうぞ、こちらに」
部屋に招き入れ、話を聞く。玉に続いて、部屋のデスクの前まできた。
玉が着席をすると、長谷ははなしを始めた。
「このマークは、アルタイアの "ニーナ" という人物の組織であることがわかりました。
ニーナは、現皇帝をあまりよく思っていないらしく。
現皇帝を蹴落とし代わりとなる人物を探していたところに、玉様の瞳の色が紫である旨を知りこのような事に及んだようです。」
「そう、それで、どこから私の瞳の色の情報が?」
もちろん前線に立つ時には、カラーコンタクトを外すので軍部や政府の人間は知っている。敵となる人物も見ることになるが、捕まえられるか殺されるかの二択で。
捕まえる、という場合には玉は前線には立つことはない。
処理の仕事をスノードロップの他の子達に回さないために、率先していた。そのため、捕まえる仕事であれば別のスノードロップの形に任せていた。
ーーとどのつまり、玉の瞳の色を知るのは軍部の人間または政府の人間。
もしくは、玉たちが敵対視をしている人物。
「軍部や政府の人間であれば、簡単に情報を相手国に手渡す裏切り行為として見過ごすわけにはいかない。」
そう言って月は、長谷が手にしていた書類を受け取る。
「そちらに関しては、わかりかねます。
が、しかし。おそらくはアルタイアのプロの殺し屋 ”ジル” ではと推測されます。
彼なら、この事務所エリアは把握してますし。
玉様、月様、杏様を教育した人物ですので、知る情報は私たち鑑定部より多いと思います。」
(ジル、彼しかいない。)
私たちが敵と認識をしている人物。ジル。
アルタイアの人間で彼は玉の瞳の色が紫であることを知る、唯一の人物。
「わかった。下がって。」
「御意」