37。3人で。
「嫌。いやだ。いやだ。だめ。叶果。きょ、ぅかぁぁあ。」
玉は、杏の両肩に両手を置いている。
手の震えが止まらない。
師は、全身から血を流しながら玉のそばに行き何も言わずに抱きしめる。
どれぐらいそうしていたか分からない。
実の父親を殺した時に泣いた涙よりも、熱い涙だった。
(叶果、ごめんね。私のせい。
私が早く終わらせなかったから。そのせいだ。
そもそもこんな、……こんな戦争なんてするべきじゃなかった。必ず、犠牲は出るのにーー。)
玉が泣く声だけが部屋に響く。
一緒の部屋にいる師は、ただ抱き止めるだけで何も言わない。
タタタッと走る音が聞こえてくる。
「玉?杏?ーーここにいる?」
と。遠くで月の声が聞こえてきた。
「玉?声が……こっち?」
開いてる扉からバンっと、月と畑が入ってきた。
「し、杏…………?」
血まみれで倒れている杏を見て、月は動けなくなっていた。
立ちすくんだ梓を梨那が見上げて、苦しそうな声を絞り出した。
「………わ、わたしっ、私のせいで。……」
「ぎょ、く。……この戦争を終わらせて、早く杏を、安心させてあげよう、…ね?」
「……あず、さ。私、早く終わらせたぃっ!」
「うん、そうしよう。……それにほら。叶果の顔……笑ってる。」
梨那が、小さな声で"叶果"とつぶやいた。
「……もう、泣かないで。ここに来るまで、周りの状況を見てきたけど……まだ、終わってないんじゃない?
……私のインカム入ってなかったでしょう?ニーナとルーラは処分済み。まだ、見つかってない人いる?」
「……まだ、水本、エイダン、エマが見つかってない。……いかなくちゃ、叶果。わたし、みんなのためにも。叶果のためにも。
…………私が、やらなくちゃいけない。」
梨那は抱きしめてた叶果を床に優しく寝かせた。
"すぐ、戻ってくるね。"
「……り、な。…もう。辞めよう。
あなたは玉じゃない。叶果を1人にするわけにもいかない。だから梨那は、ここにいて。
私が探してくるから。……こんな時こそ、頼ってよ。」
「あず、さっ、だめだよ。この戦争は私が引き起こしたんだから。戦争は犠牲がつきもの、最初からわかってた。……分かってたか、ら!」
「僕が君たちの代わりに残る。杏のことは、僕に任せて。僕も、もう歳で動かないからね。」
「……わかりました。叶果を、お願いします。…いってきます。」
「梨那!!私も。私も一緒にいかせて。」
フルフルと首を梨那は振った。
「違うよ。……最後まで私の隣を歩いてて欲しい。
来ないでって思いもあるけど、梓までも失うことになったらそれこそ、戦いだからじゃなくなる。でも、今ひとりになったら……もう私じゃ居られないかも、」
「うん。"さんにんで"終わらせよう。叶果の魂はまだここにある。だからもう。終わらせよう。」
「うん。……行こう。もうあと見れてないのは、鳳凰木の森林だね。」
「船から狼煙は出てないはずだから。翠娘娘に危害が及ばないうちに。探し出そう。」
2人で顔を合わせて頷いた。
後ろで畑が2人のやりとりを自分の刀の柄の部分を撫でまわしながら見守っていた。
何か言いたいが、今は言わない方がいい。としているようだった。
師は叶果から目を離さず、頭を自分の膝の上に乗せて頭を撫でていた。
その手はいつかの3人との修行のときを思い出すかのようなあたたかく包み込む手だった。




