35。戦闘開始 月
玉の"戦闘開始"の声より、役になりきった表情が頭にへばりつく。
(こんな表情を今でもさせる。そんな政府もアルタイアも許せない。私のお母さんも灯も。
仇を取る。これで終わらせる。…まってて、みんな。これでみんな自由だ。)
月とは反対の公開練習場を目指す。
鳳凰木の森林が練習場の近くまで広がっている。
森林を抜けたが、アルタイアの軍はこちら側には誰もいなかった。
(まずい。図書館方面か、武器庫方面に密集してるかも。)
「ジジ……こちら、月。こちら軍なし。」
(ん?返事無し?)
『ジジ……こち、杏ーーリン……』
(なに。無線機、調子悪い?)
「ジジ……」
(なんか、私の音勝手に入るし。全く聞こえないなら、いっそのこと切ってしまいたいけど。
ちょっと情報は入ってくるんだよなぁ。)
「公開練習場を抜けて進軍!」
「「御意」」
『ジジ……く。か、レイ……』
(もう、全く使い物にならない。私の入れたインカムも聞こえないんだろうし。黙ってようかな。)
前に進んでいき、軍部の公開練習場を抜ける。
抜けた先には、軍部棟が建っている。
さらに南に進めば皇室だ。
(皇室側へ軍が向かう前に軍部の中はここで終わらせるか。)
公開練習場に入ったところで、帽子を深く被り後ろで緩く長い髪をまとめた男が後ろを向いて立っている。
(ルーラ。)
「おはようございます。今日の天気は晴れだそうですよ。ここから太陽がもっと上に上がってくると暑くて汗が出るほどでしょうね。」
「なんの話?」
「なんの話?……今日の天気の話ですよ?
世間話というものです。そういう話は、お嫌いですか?」
「いや、今そういう現場じゃないじゃない。」
「はぁ。……」
スッとこっちを振り返った。
帽子には鳳凰木の金の紋章が3つ。
月が左手で鞘を握り鯉口を切る。
その時、ルーラの背後からニーナが現れた。
「月、ニーナはわたしが。」
月の肩をとんっと叩いて畑がニーナの方に歩いて行く。
「乱闘って、僕好きじゃないんです。
どうしますか。ニーナとの戦いが終わってから僕たちがやりますか?杏さま?」
「やりません。乱闘でいい。」
そう言い、月がルーラの方に一歩踏み出し止まる。
「僕は、剣ですけど。」
「どうぞ。お好きに。」
右手首を返してぐっと柄を握る。いつでも刃を抜ける準備をする。
ルーラがこちらに進んできながら、鞘を投げ捨て剣を抜きクルクルと回転させて握り直した。
ルーラが左手を引き、月の首にめがけて剣を動かす。
そのタイミングで月が腰をぐっと落とし、真一文字を払うように一閃。
ルーラは、それをバク転をして後ろに下がる。
「刀と戦うのは、やはり怖いものですね。」
今度は、月が両手で刀を握る。
そして、振りかぶりタタタタっとルーラのところまで走り斬り下ろす。
ルーラが一歩引いて避けた。
その時、長い髪が切り落とされた。
「おい。お前。お前の刀は良い刀だろうが。
でもオレの剣には、劣る。チカラも同じ。」
「そう。好きに言ってればいい。」
右手に剣。左手に短刀を出して。こちらにかかってくる。
右手の剣を左から回し、それを刀で受けた。
さらに左手の短刀を月の眉間を狙う。
月が鳩尾を蹴り上げる。
後ろによろめいたところを背後から畑がとどめを刺した。
「ぅう。二対一は……反則。」
「戦争に反則も何もない。」
バタっと倒れたのを確認し、周りを見渡した。
敵が誰もいない。
「畑国長、ありがとうございます。助かりました。」
「いえ、でしゃばりました。怪我もなさそうで安心です。」
(皇室側に師がいて、おそらくそちらに玉も参戦することになるだろうし。)
「華楽軍、軍部へ進軍!」
「「御意。」」
武器庫と公開練習場との間には何もない更地になっている。
6時の方向を見ると玉がレボルバーでレイティを撃ってるところが見えた。
(武器庫のところまだ行ってはないけど……かなり進軍してきているならそっちは任せるね。)
『ジジジー…こ……玉。レイティ…。月の…ない。だー幹部と……無線…て。』
(あーー。すっかり壊れたインカムの存在を忘れてた。)
「ジジ…こちら月。無線の調子悪い。」
軍部棟の入り口には、扉がついていない。
そのまま一斉に入っていく。
敵が剣でつく動きで月を狙う。
スッと重心を落とし相手の隙をつき左ひじで鳩尾を狙う。相手がぐっと身体を落としたところで体を戻し右足で相手の首を落とす。
銃を構えたアルタイア兵に撃たれた銃弾をサッと身を交わし、左腰に下げた刀を抜き付け腹部を刺した。
刃についた血をブンッと降って血振りをし、鞘に納刀した。
(軍部の出入り口はここしかない。ここにいる人はここで叩く。それが、となりの皇室で戦う龍元軍のためになるはず。)
「ここの出入口から、絶対に誰も出さないで!」




