28。ノア
窓から風が入ってくる。
6月半ばだけど、もう既にアルタイアの大陸は暑い。
暑さでさらに心にモヤをかけてくるような、そんな生暖かい風だった。
取りに座る杏のポニーテールとリボンがふわふわと揺れている。
(ここだけの情景を切り取れば、すごい平和。
私たちを犠牲にすれば……
いや、ここまで来てもう引に引けない。それに、解散させるということは、必然的に次に入ってくる幼い子たちを守ることにも繋がるんだから!弱気にならない!)
「ねえ、玉?自分を犠牲になんて考えてないよね〜?そんな顔してたけど〜?」
こういう時の杏は、どこか鋭い。
「ちょっと、思っちゃった。でも、負けないぐらいの力をつけて来た。それにもう引けないところまだ来ちゃったよね。」
「大丈夫。杏も私もいる。
それに、スノードロップのみんなも。頼らないかもしれないけど第一部隊のみんなも。
彼は前回の龍元での合同練習のおかげでかなり腕を上げたと思う。」
「うん、みんなを信じてる。」
――コツコツコツッコツ
開いたままのとびらの先で歩く人の音がした。
(皇帝ノアが来る。)
「失礼するよ。アルタイアに来てたとウワサは聞いていたが、毎度顔を合わせることもなく今日になってしまったね。
ーー初めまして。現皇帝のノアだ。」
「初めまして。私は姫 玉覇。玉とお呼びください。」
握手をするにはテーブルが邪魔でできなかったので、会釈をして答えた。
「はじめてお会いします。私は白 香月。月と。」
「……はじめまして。私は陽 儷杏です。杏と呼んでください。」
「御公明はかねがね……。それよりも、玉。あなたが欲しいんだ。」
(ん??欲しいってどういうこと?
アルタイアに売ってくれ。いくらだ?ってはなし?)
「それは、どういう意味でしょう?」
「まあ、とりあえず座って。
……血が欲しいんだ。穢れた血を混ぜたくないんだ。
この意味はわかる?」
「分かりかねます。ひとつだけ分かることは、紫の瞳を持つ男児が欲しいのですよね?ということだけです。」
「ああ。そういうこと。
紫の瞳の子供は、瞳の色が赤と青。紫と赤か青。紫と紫。でしか生まれない。
そして、私の子供が6人存在するが全員青か赤になってしまった。
紫の男児をそろそろ設けないといけない。」
「それで、私をさがしていたのですか?」
「そういうことだ。」
「しかし、知っておられますか?紫の瞳の子は、身体が弱く長生きができないという話を。」
「あぁ………なんとなく、だが。聞いたことはある。」
「何故だかご存知ですか?」
「……知らない。」
「近い血液が混ざると欠陥が生まれます。それが寿命という形で、あらわれているのです。
ですので、紫の瞳をもつ私との間には難しいでしょう。
………それに、青色の瞳の男児がいれば問題ないのではないでしょうか?」
「青色の子供は女児だ。男児は、赤い瞳。
もう最終手段として、紫の瞳を探した。
あなたと龍元の翠娘娘の2人しかいない。
しかも2人とも女。子を成せる。
それに、あなたとおれの間に親族関係は認められない。」
「それで、血眼になって私を探していたのですね。
しかし私を殺そうと狙いに来ていたように思いますが?違いますか?」
「セルジオがか?」
「ええ。彼らは、私に銃を向け撃ってきました。回避しているので擦りもしてませんが。」
「なるほど。それもあって殺されたわけか。
あぁ、それに関しては問題ない。
スノードロップの仕事の一環として、殺しをすることは心得ている。」
「それほどに紫の瞳を重要視するには、理由があるのですよね?」
「紫、というのは。国花である、ジャカランダの花。四季のある国で言う桜の木にあたる。特別な花なんだ。」
「そうですね、実際見たことがありますが、桜の花が紫色になったようで。息を呑む美しさでした。」
「ジャカランダ…あなた方の国だと鳳凰木というんだったね。
鳳凰、聖徳の天子の兆し。つまりは、神ということ。神の色の紫は、尊いんだ。」
「ええ、でも。それだけですか?」
「それだけではない。紫の瞳は、夜間でも目がよく見えて戦で有利。戦で戦果を挙げられるかどうかは、国のトップとして重要なことなんだ。」
「そんな尊い紫の瞳の無駄遣い。それなら、きちんとした使い道を果たしてもらいたい。そういうことですね?」
「そういうことだ。まあ、拒否してもいい。
でも、あなたたち華楽と戦争を起こしてもいいと思っている。
最近の華楽…畑国長は、アルタイアに対して非協力的だ。
以前交わした"共に歩く。"を忘れているようだからね。ここで釘を刺すのもいいかもしれない。」
「本気でおっしゃっていますか?戦争をすると。」
「本気だよ。あなた方がまとまって来たとしても、勝つのはどちらか。目に見えているだろう。
それも踏まえていい答えを待つよ。
"戦争をする"のか、"おれの妻となる"のか。
帰国するまだの間に答えを聞かせてくれ。」
「ぅ……。分かりました。」
そのやりとりをして、軍部へ行くように言われた。
下女と思われる人が軍部まだ案内をしてくれた。
下女は、周りをキョロキョロと見渡し、誰もいないことを確認した。
そして、後ろの3人の方を振り返る。
『あの。実は、私も昔。スノードロップにいたんです。その後こちらに連れてこられて。』
『〜!!…人身売買のことだね。』
声をひそめて杏が言った。
『私だけじゃありません。この華楽の言葉を理解できる人はほとんどいません。
なので、アルタイアの言葉を教え込まれた後、それぞれ配属場所を言い渡されました。』
『他にわかる人でスノードロップの子は、どこにいる?』
『軍部が一番多いと思います。左手首にスノードロップの花の印が打たれています。
それを頼りに探してみてください!わたしが話せるのはこのぐらいです。
玉さまですよね。助けてください!』
涙を浮かばせた下女目を見返すことしかできなかった。
(翠娘娘の腕にあったものと同じだ。)
アルタイアは、暑いので袖が短い服を着ている。
そのため、腕をまくる必要もなくその花の印が見える。
アルタイアに滞在できるのは玉たちが参加をする明日から3日間と短い。
その間に解答を決めなくてはいけない。
(明日、畑国長がアルタイアにくる日だ。そこで作戦を練ろう。)




