26。皇室
朝方に船を動かし通常の船着場に動かした。
「…もう紫の瞳をまた人間が来るってことも。
それが玉ってこともここでは知られているんだし。カラーコンタクトつけるのやめたら?視界も悪くなるんでしょ?」
「え?ああ、これね。毎日のことで何も考えてなかった。でも、紫の瞳の人間がくることが知れていたとしても外していいのかな。
”私を狙ってください”って感じじゃない?」
「狙われてやられることはないでしょ。もはや、堂々としてた方がいいかも。」
「うん……まぁ、そうだね。そしたら、このまま行く。」
隠すようになってからはじめて玉は、紫の瞳のまま外に出た。
3人は、スノードロップの黒のワンピースの軍服に着替えた。
「さぁ、行こうか。」
船から玉を先頭に降りていく。
ダッターン、ダダッター
3人の姿が現れた途端に待ってましたとばかりに、たくさんの楽器で演奏して出迎えられた。
船に伸ばされた渡り板を渡りきると歓迎の曲が止まった。
そして、ジルが音楽隊の合間をぬってやって来た。
『とても久しぶりだね。……玉、君はその紫の瞳をオープンにするようにしたんだね。本当に綺麗ないろだ。…神の血が入ってるお陰で、さらに君はとても魅力的になった。…あぁ、忘れてたよ。』
華楽の言葉で話をしてジルは右膝をついて頭を下げた。
ーー華楽の軍部での最敬礼だった。
アルタイアでは、膝をつくことはしない。
目上の人と握手を交わし、握手した手をおでこに当たる。
「3人の御公明はかねがね承っております。」
(なんと、わざとらしい。今の部分だけ、アルタイアの言葉で話すなんて。"私たちなことを大切にしている"ってアピールをしたいの?)
そう言い終わって、手招きされた。
軍部のある方ではなく、皇室へ連れて行かれた。
「君たちに会いたがってる人がいるんだ。」
「……私たちに会いたい人ですか?」
(皇室ってことは、現皇帝のノア?とか?)
「久しぶりに会うから、向こうも楽しみにしているようだよ。ささ、中に入って。」
扉が開いたままになった応接間に通された。
長テーブルを椅子が囲むように並んでいる。
1番上座に座るよう指示を受け、部屋の扉から遠い席に座った。
(何かあった時は、後ろの窓を割って逃げる?
扉から攻められたら、そうするしかないよね。)
ジルが扉の前から指示を出し、そのまま止まっていた。
誰も何も話さない静かな空間が流れ、かなりの時間を待ったと思う。
静か過ぎて居心地の悪さからそう感じたのか、部屋にいる4人は瞬き以外の動きをせずずっと背筋を伸ばし"会いたがっている人"を待った。
ドン…ドンッーー
「待たせたようだ。久しぶりだ。私のことを覚えているかい?玉、月。」
「み、水本、元国長……?」
「何故、あなたがこちらにいらっしゃるのですか?」
「久しぶりだというのに。矢継ぎ早に質問をするのかい?……ゆっくり話をしようか。さあ、座るんだ。」
水本の顔を見た瞬間に玉と月は、立ち上がってしまった。
杏は、直接会ったことがなく玉が名前を言ったときにはじめて知った。
「私たちは、あなたに話すことは何もありません。」
「まあまあ。いろいろと水面下で動いているそうじゃないか。何を知ったのか教えてくれるかい?」
「……何も知らないです。教えてくださるなら、話を聞きましょう。」
「何も知らないなんてことはないだろ?それとも、ジルに席を外してもらおうか?」
「……水本元国長は、何がおっしゃりたいのでしょうか?端的に述べてもらえますか?…私たちも練習に参加しなくてはなりませんので。」
(本来なら、私が言わなくちゃいけないのに。
月が代わりを担ってくれてる……
…話さないと、私が受け答え、しないと。)
「…月、君は私に言うようになったんだな。もう私は政府の人間じゃないからってことか?」
「いえ。と否定したいところですが、"元国長"ですから。私たちの権限は、もうありませんね?」
「月はそう言っているが……玉は、そんな事なさそうだな。
杏は、はじめて会うが君は何も言わないのか?私の顔を見て立ち上がりもせず、失礼だと教育は受けなかったのか?」
「…水本元国長をお目にかかるは、はじめてで…
失礼いたしました。」
「……私の瞳の色の話でしょうか?」
「君の瞳の話、ね。それもある。
そもそもスノードロップを作った話、だとか。君たちの境遇に対して、だとか。」
「私たちの境遇ですか?」
「ああ、そうだ。スノードロップに所属している子達の同じ特徴があるが、気づいているか?」
「……親がいません。」
「そう。親がおらず、君たちの戸籍も抹消されている。だから、新たな名前で生活するように命じた。
玉ならあの夜に、"高松梨那は、死んだ"もう存在しないんだ。」
「戸籍が無い…だから、簡単に命を奪ったりしていたのですか!」
「何を言っている。君たちは人間ではない。」
(はぁ、嫌だ。いやだ。いやだ。この人は私たちにその言葉をまだ言うの?…胸が、苦しい。息づまって、上手く呼吸をとれない。)
「……殺人兵器だ。兵器の家族が増えて良かったなぁ。」
「兵器…、では、ありません。」
「何を言っている?スノードロップは、死を意味する花。その花のように、君たちが現れたら殺されるんだ。
殺しの集団、スノードロップだ。兵器じゃないならなんだというんだ。」
「……私たちにはココロがあります。人です。」
「国の駒の軍部の人間、の方がまだマシな言い方ですね。」
「そうです兵器に家族という概念はありません。人にしかないか感覚です!」
「ほほう。まあ、そこはいいだろう。少し過去の話をしようか。」




