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スノードロップ  作者: 白崎なな
第3章、過去
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20。最高戦力

 水本は、集めたスノードロップの人数をどんどんと増やし続けた。

 気がつけば、ぎょくから始まり100人ほどの組織になっていた。先にいた3人に続き、龍元に数名送り込まれ龍元りゅうげんの軍に教えてもらうようになった。



 3人は、雲嵐うんらんから基礎から教わっていたのでそのまま師から教わることになり軍に行くことはなかった。そこではたも3人の稽古を最初は当目で見て過ごしていたが、徐々に近くで見るようになった。



 ゆえがそれを見かねて提案した。

 『師のご子息も一緒にどうですか』 その言葉を待っていたとばかりにそこから一緒に稽古をした。



 ゆえは、一番年上ということもあったが何よりも賢くなんでもすぐに理解できた。座学で教わる、言葉遣いや文字の書き読みも一番できた。

 二人が、言葉遣いなどで注意を何度も訂正をされていたのに対して、ゆえは一度もなかった。



 『なんでぇ、そんなうまくなんでもできるの〜』としんは注意を受けるたび文句を言っていた。



 その後、水本から酒井に国長が変わるタイミングで帰国をするよう通達を受けた。3人を含めたスノードロップは、華楽からくは2年の滞在を経て帰国した。

 そのタイミングで、はたもおなじ船に乗り華楽からくへ渡った。





 帰国して港で待っていたのは愛藍あいらんだった。初めて見る女に3人は警戒をしていたが、はただけはなんということもなく接した。


 「お嬢さんは、ここで何しているのでしょう?」



 「私は、水本さんにここであなたを待つように、と言われたのです」

 白いワンピースを着て薄い茶色の帽子を被っていた。柔らかい口調で、ニコニコと笑っている。



 「私を、ですか?」


 「ええ、はい! あなたは、移民としてこのまま入国すれば扱いを受けます。移民族を許さないこの国で、生きていくには国籍を手にいれる必要があります」



 「ええ、その話は聞いてます。 ……でもこれを見て欲しいのです、この入国許可証があれば問題ないと聞いてます」

 はたの手元には、華楽からくの印鑑が打たれた許可証が握られていた。龍元りゅうげんでは、女性の王女が収める国。昔から、男児は海外に勉強に出されていた。

 華楽からく隆元りゅうげんは、昔は一つの大陸で大きな地震によって離れた。そのため、元は同じ民族でありお互いに人員育成でやり取りをしていた。



 「はい、入国許可証があれば ”入国は” 問題ないです」



 「……というと?」


 「あなたの目的は、この華楽からくで学ぶこと、ですね?

 そうすると滞在することになるのでしょう。滞在を認める証明書でないので、見つかり次第殺される可能性があります」



 「なるほど…… 国籍を手にしたらよろしいので?」

 今までは、この証明書があれば問題なかった。はたは、最近では華楽からくはアルタイアともやり取りをしているようで政策も変わったのだろうと考えられた。



 「そうです。なので今から水本さんのところに一緒に行きましょう。

 ……あなた方、スノードロップの方々は、軍部で酒井さんがお待ちです」



 「「御意」」



 ぎょくゆえは、  ”水本”の名前に反応して返事をした。 『私の言葉は絶対だ』 が脳裏に焼き付いていた。



 それからはたは、国籍を手にするためはじめは酒井が保証をするとして滞在許可が降りた。酒井が国長に就任し、就任式で声高々にたみの前で演説をした。



 『スノードロップという国の宝の民を守る組織を立ち上げた。その組織は、今からアルタイアにて訓練を受ける。

 帰ってきた時には、国を統一したアルタイア軍に匹敵する強さを身につけていることだろう』



 ジルの元に送り込まれ寝る時間も与えられず一日中、訓練を受けた。食事もかなり質素なもので、一日一食のみ。

 そんな生活を2年過ごし、なんとか華楽からくに帰国することが叶った。



 ぎょくたちにとって、ジルの元で過ごした2年はかなり悲惨なものだったと噛み締めながら華楽からくに戻ればこの辛いのからも解放される。そう思っていた。



 しかし実際は、仕事だ、と連れていかれるたびに人を殺す。そして、 ”できない” と泣き出した子に対して容赦無く”殺せないならお前が死ね”と目の前で殺されていった。


 アルタイアは、まだアルタイアになっていないところとの国境では紛争が絶えず起こっていた。

そこへ連れていかれ、実際の戦場という体験を何度もしており、 『殺さなければ殺される』 という現場に出ていた。



 しかしそこは、戦場という場であり致し方がないと腹を決めることができた。華楽からくでの仕事の殺し、というのは銃などの武器は持っていない人であったり武器を持っていても戦場ではなく昼になればほのぼのした街の中。

 戦場でするのとは、全くもって別物だった。


 (私がやらなければ、みんなが殺される。それなら、私がやらないと。これ以上、皆んなが殺されるところを見たくない)

 そう思い、ぎょくがタタタッと走って行き命令されたその人を撃った。




 はじめて殺した父親の時と違い、きちんと人の急所を心得てる。一発で頭を撃ち抜いた。



 仕事を終えると、軍部の男性の相手をさせられた。軍部の考えとして、スノードロップというのはなんでも好きに扱ってもいい軍の奴隷。



 ぎょくは、とにかく今の状況を変えたいとさらに技術を磨いた。寝る間も惜しんで仕事をどんどんこなしていった。


 ゆえしんぎょくだけでなく、この3人で殺しの仕事をなるべく3人でするようしようとした。



 とくにぎょくは他の人に殺しの仕事をさせるのを嫌がった。自分の3歳の時に実の父親を刺した時の記憶が頭から離れず、どれだけ仕事が重なってもなるべく自分が赴くようにしていた。

 見かねたゆえには何度も、 『もっと私たちを頼って』 と言われたものだ。



 それでも少しでも "人を殺した" と苦しむ思いが少なくなれば。そう思ってのことだった。


 (自分は3歳の時に手を血で覚めた。今更、手を汚す仕事が増えたってなんということはない)

 そうなんどもなんども自分に言い聞かせてやってきた。



 最初の頃は、元々仕事は特殊部隊や第一部隊が担っていた。そのため、スノードロップよりも信頼がおけるとして第一部隊や特殊部隊に要請が出ることもあった。

 そこで犠牲になる隊員がいるのは仕方がないとされていたが、ぎょくゆえしんが仕事をすると手際もよくそのうえ余分な殺しをしない。

 政府として求めている仕事内容をきっちりとこなしてくれるとして、仕事がスノードロップへ集中するようになった。



 何人も手にかけてきたぎょくとでは、殺しのスキルの差が開く一方だった。

 現在も第一部隊は "精鋭部隊" と言われるが、ほとんどがスノードロップのこなした仕事の 『あとかたづけ』 になっていた。戦場へ行く、となれば武力攻撃をするので戦力になるのかは甚だ疑問が残る。




 もちろん、武術面や銃、剣、刀の技術を磨くために地下室で練習を行っているが、練習を重ねているのと実践を重ねているのでは大きな差が生じる。



 (そろそろ、大きな戦争が起こってもおかしくない状況だし…… もう少し実戦に近いことをするべき?)



 成果を上げ続けたぎょくら3人に龍元りゅうげんのおしえに習って、名字が与えられた。また、その命名式を境に 『スノードロップは、国の最高戦力』 と言われるようになった。

 そこからさらに仕事内容が拡がっていき、不法侵入者の対処から派生して外交問題や武力強化面まで手広く行うようになった。



 ゆえは、頭の良さから外交関係の書類からはじまり政治的なやりとりの書類も担当するように。しんは、体術のスキルの高さから指南役として第一部隊のレベルアップやスノードロップの能力引き上げを担当するように。



 もちろんゆえも、しんぎょくと同様に殺しの仕事もこなした。




 まだ写真も普及されておらず、この人はこの目印がある。というような断片的な部分でしか人々は知り得ない。


 ぎょくは、黒の髪に黒の珠かんざし。隊服は白ネクタイに黒のケープ。



 ゆえは、黒の髪に首に月の彫り物。隊服は黒ネクタイに黒のケープ。


 しんは、茶色の髪に赤のリボン、赤の紅。隊服は、黒ネクタイにチャームをつけ、黒のケープ。



 他の隊員の隊服は、黒のリボンに白のケープ。黒のケープは、スノードロップ及び軍部での幹部クラスであることを示す。 白ネクタイは、そのトップであることを表す物である。

これだけの情報しか開示されていないため、隊服を脱ぎかんざしやリボンなどを外してしまえば気づかれないのだ。



 現によく行くケーキ屋の夫婦に、 『昨日の銃声音、聞いた? スノードロップのぎょくさまが不法侵入者から私たちを守ってくれてた音なんだって!ありがたいよねぇ』 なんて呑気に話しかけられるぐらいだ。




 (よく知ってるよ、それ私がやったからね……)

 なんて毎度この話をされると思うのだ。



 市民を守るなんて体よく言っているが、実際のところ政府が自分たちを守るためでもあるだろうとぎょくは、思っていた。

 (最高戦力…… 慰み者として扱うことが減ったのはその名前のおかげではあるんだけど。同時にそれだけ成果…… 殺した人がいるってこと。)


 やるしか無くて……この方法しか分からなくて。こんな方法以外があればその選択をしていた。やるしか無かった。やるしか無かったんだ。



 そうやって、国の最高戦力と言われる組織に成り上がった。



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