表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スノードロップ  作者: 白崎なな
第1章 玉 月 杏
2/46

2。スノードロップ

 私たちの所属している"スノードロップ"

 この組織は、この国の保持する特殊部隊のこと。



 でも何だか特殊部隊と言われると、とても凄いみたいに聞こえるけど。

 実際はそんなことない。

 ただ上からの要請に従って事を遂行する。

 ――……ただそれだけ。

 でも、こんなこと他の子達になんてもうさせたくない。


 (人を殺す。そんな政府からの要請。 誰もやりたがらないよね。 ……だっていい気がしないんだから。)



 そう、私たち3人でこの組織を解体する。

 それが私たちの目標であり、夢でもあった。




 17年前に発足した我が国。

 ――華楽からくの現在では最高戦力と言われるようになった、特殊部隊スノードロップ。

 …………国の保持する殺し部隊。




 最高戦力と言われると、本当に上の望む殺戮兵器さつりくへいきのようだ。

 実際にそう思っている人も多いだろう。

 心が機械のようだから、兵器としてやっていけるんだ。 と。



 (私たちは人だ。 兵器じゃない。

 人を殺すのは、気持ちのいいものじゃない。 やらなくていいならやりたくない。 自由がいい。 こんなことしなくてもいい、平和な世の中に早くなって欲しい。)




 国の頂きに立つ者は、自分は手を染めたくないが……殺される前に殺してしまいたい。 と、考えてるようだ。

 政治を行う者達は、国外からたくさん命を狙われる。

 そのため、国長はもちろん政府のほとんどがスノードロップを保持し続けたい。 と。


 ーーただの建前なのでは?と思うが。 証拠もそれを紐解く手がかりも何もなければ、政府の意見の方が確実に通るものだ。



 ぎょくは、ふーっとため息をついて大きな窓の向こうを見る。

 (こんなに天気のいい日なのに、何でこんなに体は重たいんだろ。

 ……あぁ、昨日の()()がまだ消化しきれないのか。

 こんな殺しの仕事なんて、もう何年も繰り返しているのに。)



 ずっしりと重たい身体を机に手をついて立ち上がる。



 「ゆえ、ちょっと外の空気吸ってくるね。

 リフレッシュも大事だと思うでしょ?」

 「うん、いってらっしゃい」


 (相変わらず、こっちを見ずに言うんだもんなぁ)


 「え! 私も行きたい!!」

 ぱっと顔を上げて、満面の笑みでこちらを見る。


 「しんは、だめ。さっきまでうたた寝してたでしょ。

 仕事が溜まってるでしょ?」


 「えぇ……、 ぎょくだけずるくない〜?」


 (確かに、ほっぺに寝跡がくっきりついてる。

 きっと、うたた寝というよりしっかり寝てたのでは?)


 「……しん、一緒に行く?」

 「また、そうやって甘やかすんだから。

 戻ってきたらぎょくの仕事増やすよ?」



 ゆえが持っているペンで私を指す。

 チラッと自分のデスクを見ると、書類の山になっていた。


 (え? ここから増えるの? 無理すぎる!)



 ゆえの目の前のデスクに座る杏は、私も行きます! とばかりにすでに席を立っている。


 「うわ。ここから増えるの?それは嫌だ。

 しん、悪いけど今回はひとりで行くね」

 「えええぇ〜」


 「あ! そしたら、なんか甘い物でも買ってこようかな!」


 「新作タルトが出るって言ってたから、いつものお店のがいいなぁ〜! そういうことなら! やる気が出る!!」

 「それはいいことで」


 二人のそんなやりとりを見るのが好きだ。

 とても微笑ましい。

 (ツンとしてるけど、なんだかんだ優しいんだよなぁ。)


 「ふふ、じゃあ行ってくるね」


 しんが小さく手を振ってくれる。



 普段はこの3人で仕事をこなす。 ずっと昔からこの3人でやってきた。



 新しいスノードロップの子達にももちろん、そう言った(殺しの仕事)が振り分けられる。

 でも、私たち3人としては "こんな心に穴の開くことは、他の子達になるべくやらせたくない" だった。



 特に、ぎょくはその気持ちが3人の中でも強かった。



 昨日も昨日とて、嫌な仕事の要請があったばかり。

 そのおかげで、他の書類仕事は手につかないほど心が重たくなっていた。


 ふーっと 深呼吸をして軍部の建物から出た。

 外に出ると街にはたくさんの人が行き交っている。


 『今日もいい天気だね〜』

 『こないだ頂いたお菓子、美味しかったよ〜』

 『そういえば! 聞いたよ! 孫が産まれるんだって? おめでとう!』

 『今日のランチ美味しかったね〜』


 色んな人が色んなところで、それぞれ会話している。

 ちらほらと聞こえてくることば。




 (あぁ、 "平和" って言葉が似合う風景だなぁ。)

 なんて、思ってるとそのまま心の声が口に出てたのかと思う会話が聞こえてきた。



 『今日も平和だね〜』


 『何でこんなに平和に過ごせるか知ってるかい?』



 『昔ね、あるお偉いさんが言ったんだって

 国には、守らなくてはならないものがあるって』



 『ああ! それなら、おばちゃん僕知ってる!

 昨日授業でやったんだ! 国の宝は民! でしょ!』



 おばさんと小学生ぐらいの男の子たちが輪になって、話をしていた。


 (国の宝は民……ねぇ。 それを守るのは国の頂に立つものの宿命だ。 ねぇ?)




 よく言ったものだ。

 やれやれとした気持ちで街を歩く。


 自分たちは、何もしてないくせに……。




 梨那りなは、いつものケーキ屋さんに寄る。


 ーーリンリンリンッ


 「いらっしゃい〜!

 ああ、 梨那りなちゃん! 新作できてるよ!」

 「おお、梨那りなちゃん。 新作3つでいいかい?」



 何ども訪れるので、顔見知りの仲になっている。

 名前も今は、ーー "梨那りな" でいい時間だ。 組織からでて、自分の本当の名前で呼んでくれる数限られた人たちでもある。


 「こんにちは。新作ができたって聞いてきました! 3つください!」



 「はい、これね!」


 「ありがとうございます! また、来ますね!」


 夫婦で経営してる彼らに、手を振ってお店を後にした。



 リンリンリンッ……

 背後で心地の良いベルの音がした。


 (さあ、まだ戻りたくないけど。

 昨日の報告書の続きもあるし、下から上がってきた書類にも目を通さなくちゃ。)



 事務所と行きつけの老舗ケーキ屋とは、事務所の目の前の大通りをずっと歩き裏路地に入った先にある。

 どんなにゆっくり歩いても、15分もすればついてしまう。



 慣れた手つきで事務所のキーを開けて入る。

 ーーピピピ…

 「ただいま〜! 新作のケーキ買ってきたよ〜」



 「わーい! 休憩にしよ! 紅茶淹れるね!」


 「随分早くに戻ってきたね」


 「昨日の要請で書類が増えてるの。

 早く手をつけないと今日も徹夜になるからね。」



 「……大変だったと思うけど、昨日のは大収穫だったんじゃない?

 これから大きく事が動くことになるだろうけど。

 私たちにとっては、とてもいい兆しになると思う」



 「私もそう思う。

 ……でも、まだ鑑定部から返事がないってことは?」



 「うん。違う可能性もあるね。

 でもそれはそれで、また問題になるね。」




 「今日はね〜! いちごのフレーバーティーにしたよ〜」


 「もう…… 相変わらず、呑気なんだから〜」


 3人で休憩用のテーブルを囲む。 



 ぎょくは、しんの持って来たカップに口をつけた。



 「あのグループ、でも相当弱かった。

 本当に、あの人が寄越したのだったら? こんな簡単だったかなって考えてたの」


 「確かに。あのペンダントのマークは、初めて見る。マーク……なのかも怪しいけど」



 「でもあのペンダントの先についた石の色、わかっててあの色にしているとしたら? 可能性はゼロじゃないかもよ〜?」


 「……どうかな」


 パクッとタルトを3人で頬張る。




 ……昨日の夕方に一報が入った。



  『ジジジ……』


『スノードロップに告ぐーー……』



 (はぁ。また要請か。今度は一体どんな要件何だか。

 スノードロップなんて、可愛い花だけどなんて残酷な名前なんだろ。)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ