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スノードロップ  作者: 白崎なな
第3章、過去
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17。玉の過去

 ーーハッピーバースデートゥユー

 ハッピーバースデーディア りーな〜


 ハッピーバースデートゥーユー ーー



 5月10日のりなの、3歳の誕生日の日だった。


 父方の祖父母も母方の祖父母も全員が梨那のことを祝うために集まっていた。



 梨那が歌の最後に蝋燭をふーふーと二回吹き消した。真っ暗な部屋に、家族から拍手が上がった。

 それと同時に拳銃の音が鳴り響いた。


 バーンバーン……

 「なにがおめでとうなんだ。こんな茶番にもう付き合ってられないんだ」


 電気を父がつけてそう言った。怒りでなのか目まで真っ赤になった瞳で、祖父母に銃口を再度向けていた。

 梨那がちらりとみた父親は、髪の毛が乱れ銃を握る右手とは反対の手で胸元の服を握りしめて苦しそうだった。父は、怒りに満ちたオーラを放ちつつもその少しの動きから悲しみも感じさせる。



 「まだ、生きてるのか。辛かったし外したのか。ーー死ね」

  ーーパンッパンッ



 「ぅう……」



 祖父母のことを銃で打ってる姿が見えた。母は、電気がつき梨那が無事なのを確認してすぐに抱えて外へ飛び出した。父は、玄関を出たところで母の背中を打った。


 パンッーーガチャガチャ


 「あれ、弾切れか。 ……お前も、みんなで地獄で楽しくやろうじゃないか」



 「ゔっ…… ゲホゲホッ。いい、?梨那、逃げて、逃げて生きて、……」




 「お、おかあさん、ち、が… …」



 「早く!!」


 母に背中をぐっと押されて、怖い顔をした父を背を向け急いで走った。

 その時一街区から伸びている橋から、梨那のいる三街区に歩いてくる人がいた。軍の服を着ていて、梨那はこの人に助けを求めれば助かるそう思った。



 「たすけて! !おねが、い!!」


 その人に向かって、梨那は夢中で走りながら叫ぶ。その人が何かを胸から取り出し、梨那の後ろにいる父に見せた。その瞬間父は膝から崩れこみ 『ああああああ』 と、叫んだ。握りしめられていた銃は地面に落とされ空いた両手で頭を押さえていた。 

 その人が父に手錠をかけ、梨那の方は振り向く。



 「このひとは、君のなんだ?」



 「わ、わたしの、おとうさん」



 「そうか。君はどうしたい」



 「い、いきたい。おかあさんが、そうやって言ってた、から」



 「お母さん達は、家にいるのか」



 「いえには、 ……おじいちゃんもおばあちゃんも、おと、おとうさんが! ……しんじゃった。ちがでてた」



 何が起きているのか理解が追いつかないしまだ言葉も大人のように操れない梨那は、つたない言葉でなんとか状況を説明した。本人でも気持ちの整理がつかず、よく分からない涙が止めどなくポタポタと流れた。


 あの光景は、一生忘れない。そしてあの時に叫んだ父の声も今でも耳にへばりついて取れない。



 「そうか。そしたら、私について来なさい。ちょうど君みたいなのを探そうとしていたんだよ」



 「うん」



 涙は止まらなかったが、その人に着いて軍部のビルに入って行った。その人とは、水本だった。

 梨那は、水本に助けてもらう形でこの軍部のビルの入り口を潜ることとなった。



 ちょうどこの事件が起きたとき、前皇帝のルークと水本がスノードロップについてやりとりをしていた時だった。

 親のいない女児を集めてスノードロップを作る。幼ければ幼いだけいい。あまり大きくなってからだと、心が育ちすぎて言うことを聞かなくなる。従順な奴隷が育たない、とされていた。  

 幼い方が扱いやすいということで、5歳〜7歳で探そうということになった。



 梨那は、紫の瞳を持つ子供だった。紫は悪魔の色として、虐げられる。


 そのため、梨那の母は家の中に梨那を閉じ込めて外に出すことは無かった。外に出させてくれるのは、真夜中の誰も外を出歩かない時間だけ。

 それも毎日ではなく、第三部隊の見回りのない日だけ。

 


 母は、常々 『紫の瞳で産んでしまってごめんね』 と梨那に言っていた。




 梨那は、紫の瞳はいけない事だ。と幼いながらに理解はしていた。

 そして、そんなおかしな生活に限界を感じた父が梨那の3歳の誕生日に事を犯したのだった。




 父の尋問が行われて、罪人であると死刑が言い渡された。そして梨那の手に水本は、ナイフを握らせた。



 そして実の父親を殺すように命令した。 『君が殺さないならそれでもいい。

 それなら、私が君を殺すだけだ。殺すか殺されるか。ニ択一択だ。好きな方を選ぶといい』



 目の前に錠をかけられ、目と口に布を巻き付けられて両膝をついて座っていた。父親は、震えて目元の布が吸い取りきれなくなった涙が地面を濡らしていた。



 ーーカランッ

 梨那は、震えが止まらず手に持ったナイフを落としてしまった。慌ててしゃがんで拾って、震える声で父に話しかけた。


 「おとうさん…… わたし。おかあさんがすき。おとうさんもすき。

 おじいちゃんもおばあちゃんもすき。さみしいけど、おかあさんとやくそくしたの」




 そう言って、握りしめて手汗でビタビタになったナイフで父のお腹をめがけて刺した。自分の大事な家族を壊したお父さん。いつも私のことを抱きしめてくれるお母さんとの約束を私は守らないとと考えた。自分が生き抜くために、しなくてはいけないと震える自分に言い聞かせる。



 もちろん、殺しの経験もないずっと家に閉じ込められた3歳の子供。どうすればいいのかもわからず、お腹を刺すしかなかった。

 今思えば痛みで苦しんで殺す方法だったと思う。心臓をひとつきであれば、出血死を待つことなく死ねたはず。しなくてはいけないなら、その方が良かった。今ならそうした。でもきっと、淡々とその時のことを自分でフィードバックするあたり自分の心は機械なのだろう。



 そしてこれが梨那の初めての殺しの仕事、だった。

 父親を殺して ドクンドクン。と耳元にあるかのように心臓がうるさく鳴り響いていた。父に刺したところで、呼吸の仕方も忘れたように固まっていた。ナイフから手を離す事もせず、思考も停止していた。




 固まった梨那に、水本は

 「この人は君の父親であり父親ではない。華楽からくは、良い国にならないといけない。

 アルタイアと共に歩いていくことになる。そんな素晴らしい国を率いる軍部のトップに君は立つことになる」




 そう言われて、ようやく父を刺したところから後ろにには下がることができた、 



 「おとうさんは、わるいことをしたの?わたしは…どうなっちゃうの。

 おかあさんもおとうさんも…… おじいちゃんもおばあちゃんも、 だあれもいない」



 「君にお父さんのような存在を用意しよう。君は殺人兵器になるんだ。沢山のことを学んで強くなって国を守るんだ」



 「さつ、じん? くにをまもる? わたしが?」



 「そう。君が」



 ――はぁ。嫌な夢だ。りなの入隊が決まった時の過去の記憶だった。


 あの時の外は、とても冷たい空気だった。凍えるほどの寒い空気に包まれて、心まで凍えてしまったんだ。

 5月で寒いはず無いのに、とても冷たく感じていた。この後、1年間は華楽からくがいかに素晴らしい国なのかを教えにくる家庭教師がついた。



 そして、ゆえが入隊をしてきた。



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