16。帰国を急ぐ
王城の手記にはしっかり名前も記載されていて、商人が阿部で医者が橋本と書いてあった。
華楽は医療が進んでいて医者として認められるには、医学を学び試験に受かってもなれない。国の名医10名に ”医師となっても問題ない”と医師 ”仮免許” に印とサインをもらい医師免許に昇格する。
仮免許の段階で他人に医療行為をした場合には、罰則が与えられる。そして医者には、番号管理をされている。
誰がどんなことをしたのかを国が管理をしている状態なのだ。
そして、現在の医者は名医の10名と医師免許保有者が5名、仮免許者が3名のみ。
その中の誰でもない場合、憲法違反ということになる。もちろん仮免許者でも同様のことだ。
そして、医療が進んでいる国に『水銀は薬だ』と言われたのだから知識のない翠がそんな嘘の文言で騙されてしまった。
国民を助けてれた信用のある翠が言うのだからと、龍元の民は信じて薬を摂取していた。
商人は特定ができなくとも、医者に関してはかなり限られた人しかいないのですぐに特定ができる。
今ここで特定することはできないが、空路を使って華楽に情報を求めることもできる。
空路なら一日あれば、行き来できる。
しかし、航空機に乗せるエネルギーには限りがあるので本当に急ぎの時にしか使わないことが多い。
また華楽に戻って調べることにした。急ぎで約束を取り付けたいと考えた畑は、今回の合同軍事練習のことを空路を使って連絡を取っていた。
よほどのことがないと、基本的には使用しない。
龍元との方向感覚を身につけた伝書鳩を使う連絡方法もあるが、少し時間がかかるのでそれを考慮して連絡手段を選ぶ。
これが対アルタイアとなると、情報社会の国なのでパソコンを使って連絡を取ることができる。華楽にもパソコンはある。それでも、大活躍とはいえずないよりはマシと言った程度だった。
アルタイアでは、基本がパソコンになるのでアルタイアとの連絡手段はそれになる。
ただし、ハッキングされたりして第三者の手に渡る可能性も考慮しなくてはいけない。あまり内密にしたい内容は送らない。
合同軍事練習は、1週間程の滞在となった。結局のところ名前だけで、龍元で華楽が軍部の練習をしている、に近い。
最終日だということで、スノードロップ、第一部隊、第二部隊。龍元の武術部隊とで体術や剣術を練習した。
昼を過ぎたところで玉は呼び止められた。後ろを振り向くと、2人の隊員が軍の最敬礼をしていた。
「玉様。第一部隊の桜井です。
第二部隊の永井とこちらを片付ける指示を出します。先に華楽へお戻りください」
「分かった。しっかりやって戻ること」
「「御意」」
(こう言われたら、先に戻ろうかな。ここでやるべきことは一通りやり終えたし……
それに、華楽に戻ってやらないといけないことが増えたから)
現在の華楽の部隊編成がスノードロップ ”殺し部隊” 、第一部隊 ”男性の軍部での精鋭部隊” 、第二部隊 ”訓練生” 、第三部隊 ”国の警官” 、特殊部隊 ”テロのような特殊時出動” となっている。
過去には、第一部隊が最強と言われていたが、スノードロップが成績を叩き出し逆転した。特にこの第一部隊の人間が、玉ら3人のことを毛嫌いしている。
しかし、軍部での順位が変わったために声にすることはできない。
第二部隊は、訓練生と言っているが精鋭部隊に選ばれなかった者が派遣される部署だ。第三部隊が国に入ってきた不法侵入者を見つけ、政府に報告をする。
この報告が入ったら政府から要請を下され、スノードロップが動くようにできている。
第一部隊の桜井、第二部隊の永井に下がるよう告げ、月、杏に帰国する準備をするように伝え、 雲嵐と翠に最後に挨拶をして、龍元を後にした。
船にまた揺られて帰って行く。 その船の中で昔の古い記憶の夢を見た。
あぁ、今では悲しい思い出だ。肌が痛くなるほど冷えた空気に包み込まれた記憶。思い出したくない、記憶の奥にしまったままにしたいそんな思い出だ。
(ああ、早くこんな嫌な夢から目を覚ましたい)




