15。薬物
次の日の日の朝、翠と畑が雲嵐の部屋に入ってきた。その手に書類を持っていた。
「そんなに慌てて…… 翠、朝少し早すぎるんじゃないかい?」
「これを見て欲しいの。この記号と文字の一覧表を……
これを使ったら、この紙に示されていることが解明できないかなって!」
「す、すごいです。なぜこちらを翠娘娘がおもちなのですか?」
「アルタイアで紫の瞳を探している人がいるの。
その人とアルタイアで接触したことがあって、そこでさりげなくとってきた書類なの。」
翠は、ニコニコと柔らかい雰囲気を醸し出しているがやはり国のトップに立つ人間だ。したたかさを持っているようだ。
「そ、それは! もしかして、ニーナという女ですね!」
ガタッと思いっきり立ち上がった杏が言った。
「え、ええ。彼女が紫の瞳を持つ人を探していることをなぜ知っているの?」
「先日、華楽に紫水晶のペンダントを持つ組織を送り込んできた人物がニーナでした。
不法侵入者でしたので、私が処理をしました」
玉が杏のはなしに、付け加えた。
「紫水晶を…… そうなのね」
文字と記号を照らし合わせて解読をしていった。やはりサインした相手は、前皇帝のルークのものだった。
スノードロップを作ることについて示されているようだった。
華楽とアルタイアが手を組み、龍元をおとしいれる。アルタイアから薬物を手に入れる代わりに、スノードロップを作りそこから女児を送りこむ。という取引内容だった。
どうやら、気性の荒いアルタイアの人々は穏やかな性格をもち男尊女卑の傾向が元々あった華楽の女が扱いやすい。と考えてるようだ。
ちなみに今では、スノードロップが最高戦力となり男尊女卑の傾向も薄れつつある。
その紙には当時の国のトップ同士の名前で尚且つ、国の名前も記されていることから ”アルタイアと華楽” とのやりとりということだった。
その薬物を使用して侵略戦争を起こすこと企んでおり、華楽に龍元との戦争を引き起こそうと考えていることが内容からも見てとれた。
表向きスノードロップは、国を守るためとして移民族を処罰する部隊。とういうことも記されていた。
要は、人身売買のためと殺し部隊をかね揃えた部隊ということになる。
「ーーそれで私たちのような子達ばかりが集められたわけなんですね」
「100人ほどいたスノードロップが、どんどん減って今では16人になったのも。
もしかして、アルタイアに連れて行かれたから…… ということでしょうか?」
「みんな、戦死扱いにされていたのに! そんな……」
「そうだろうね、きっと戦死でもなんでもなく奴隷として連れて行かれた。が正しいかもしれないね。
この印鑑からしても、その線は濃厚だろうね。
でも、奴隷ならもしかしたら生きている子もいるかも知れないね」
「しかし、父上。今私が国長ですが、そのような薬物が入ってきていることはあり得ませんし。万が一持ち込まれていても、それを龍元に輸出している事実もありません。
それに水本元国長ということと、スノードロップ発足を考えて…… 17年前で薬物がここ龍元に持ち込まれていたら、薬物中毒で今頃大きな問題になっていませんか?
それもないのですよ、ね?」
「ええ。確かに、賢祐の言うとおりでそのようなものは流行ってないの」
ハッとし顔をあげて立ち上がった月が言った。
「翠娘娘、アルタイアで取れる薬の材料が何かとか有名な鉱物はありませんか?」
「鉱物……? そういえば、10年前ぐらいから "奇病" に効果があるとかで華楽から水銀が」
「水銀!? それです! 薬物とは、それのことです!」
珍しく大きな声で月が言った。
(水銀? 確か薬として使用されるとかで座学の勉強の時に苦手な毒殺書に書きてあったような…… 歴史書? だったかな? でももし毒殺書だったら、水銀は毒なんだった、かな?)
「水銀は、良薬なのよ? それが薬物だって言いたいの?」
「薬物です。中毒症状がでると手足の震えや吐き気が出ます」
「えぇ、吐き気ね。奇病の患者に使うと吐いて毒素を抜くことができると聞いたの」
「違います。それは、中毒症状です。
飲めば体調不良になったり歯が抜け落ちたり、肌に塗り続ければ足が木の幹のように腫れ上がったりするのも中毒症状のひとつです」
(さすがは博学の月だなぁ)
「中毒……? でも、実際に治ったという人もいるのよ?」
「そもそもその奇病とは、どのような症状なのですか? 病によっては、一度治ったように見えてまた再発してと繰り返しながら悪化するケースもあるのです。あまり私もそのあたりの知識はありませんが」
「うーんと。たしか…… 赤い発疹が身体中にできるけど痛みや痒みは無いっていう奇妙な病気なの」
「その病は、何度も繰り返していく病だと思われます。病に対しては私もそこまで詳しくありませんが、水銀は人にとって有害です」
「……ということは、水銀がここに記される薬物ということ。なのね」
「おそらくそうだと思います。……アルタイアから輸入された水銀が龍元へ再輸出されていることを畑国長は、ご存知でしたか?」
「……水銀は、まず輸入されていない。
水銀は私たち華楽で過去に中毒症状が出たことがあり、禁止されている鉱物です」
「はい、そうですね。ですが、龍元は華楽から買い付けているのですよね?」
「ええ。薬になると貿易商人が医師だという人を連れて説明を王城でしてくれたの。だから、奇病で悩む者たちを救いたいと思って輸入をし始めたの。
……それが、危険な薬物だなんて」
「その貿易商人との文書やりとりの履歴はありますよね?」
「残っていると思うわ。王城の手記で確認をしてみるわ。
――やっぱりアルタイアや華楽のように情報社会にしていかないと置いていかれるわね」
「情報は、武器です。勝敗をわかつ鍵になります。
もっと最新情報技術を入れるべきです!」
「そうね……」
「私たちは、今までジルが後ろで糸を引いていると思っていました。でもここまで色々と情報を集めてみると…正直違う気がしてきました。情報は、武器になるとひしひしと感じます」




