13。人身売買
「それでは、私は、どうすればよろしいのでしょう?」
「あなたは、今まで通りでいいのよ。
華楽の特殊部隊スノードロップ 総司令官 姫 玉覇として仮の姿を演じるのに、なんの障害もないはずよ」
珍しく強い口調で言っているがとても辛そうな表情で翠は、玉をまっすぐ見て言う。玉は、彼女の表情から玉がスノードロップの子たちに仕事をさせたくない想いと同じなんだと感じる。
「……はい」
龍元も華楽も元々、茶色と黒の瞳をもつ人種。アルタイアの大陸の人は、色彩豊かな瞳をもつ。
その珍しさから宝石商と奴隷賞は結託をし、アルタイアから人心売買として人と宝石との交換を持ち出した。その結果この界隈の人間はかなり潤い、あまつさえ人を攫い売ることもしばしば見受けられるようになった。
奴隷としてやってきたアルタイアの人々は、奴隷解放を訴え続けた。しかし主人に刃向かったとして、斬首される結果となった。そこから、奴隷たちは声を上げることを諦めた。
貴族や皇族は、物珍しい紫や黄色の瞳の娘を好んで買い取った。その中の一人として、翠は龍元に連れてこられていた。
たまたま皇族が引き取り、雲嵐と出会った。そう、雲嵐は皇族の人間だった。
兄弟には、男児しかおらず下の弟たちは早々に海外へ行き技術を磨きに出て行った。
長男ということもあり、雲嵐は龍元に残ることにした。その結果、翠と出会い恋に落ちた。
その綺麗な紫の瞳に吸い寄せられ、彼女の笑顔を見たいと国を守れる男になるべく体術や剣術の技を磨きに磨き上げた。はじめは、珍しい色の瞳に惹かれていた。次第に、翠の優しさに人として心を寄せていくようになった。
全盛期当時の雲嵐に右に出る者なし。と言われるほどの強さを身につけた。
その後、奴隷解放を政策と打ちだし貴族と隠蔽することを条件に奴隷解放宣言を下した。
奴隷解放がされ自由の身となった翠を妻に迎え入れ、彼女の気高さと謙虚さで娘娘として認められるようになっていった。
……龍元はもちろん移民受け入れに抵抗がないが、奴隷制度があった過去を隠蔽するということで瞳の色を隠すことにした。
”今後もアルタイアとの人身売買禁止” を貴族に出し、翠が娘娘となり、目を盗んで奴隷のやり取りをするものがまだいた。
禁止令だけでは完全に無くなることがなかったため、どうにかさせない方法を思案した。
翠は奴隷商という仕事がなくなり収入が無くなることで同じことを繰り返してしまうのだと考えた。奴隷商に新たな職業として、国の官僚制を打ち出し官僚試験を受けさせ書記官や司書官という職を与えた。
宝石商にも、宝石の加工技術を身につけさせたり別の商いを行うよう促した。その結果、奴隷商人の数を減らしていくことに成功した。
また、貿易港を減らして情報交換も閉鎖させた。今開港している港は、華楽側のひとつだけしか開けていない。それも、華楽に畑たちがいることが、大きな理由だ。
空路もあるが、まだ発展途上のため搭乗人数が最大3人で飛べる距離も華楽と龍元の間がギリギリと言った具合なのだ。そもそも、航空機は万が一戦争となった時に危ないので戦闘機開発を禁止していた。そのため開発が遅れている。
さらには航空機もかなり高価なことから、移動には船を使用している。あまり、航空機にメリットがない。
奴隷商と宝石商から仕入れていた宝石が減ったアルタイアでは、数に限りがでたために宝石一つ一つに番号で管理をされるようになっていた。
自由になった奴隷のアルタイアの人々は、アルタイアに戻りたい人は送り届け住みたい人には永住権を作った。
ほとんどはアルタイアに戻らず、恩人として翠に忠誠をつくすとして残った。
いろんな懸念材料を潰し、今の輝かしい荘厳な国としての威厳を手に入れた。
古き良き文化を持つ龍元と新しく成長が著しいアルタイアは、次の世界ランキングは逆転しているかもしれない。
それでも、移民は許せるが人身売買禁止を徹底するまめに翠は鎖国状態を決めた。
世界ランキング発表は、10年に一度。そして、先日発表があり僅差で龍元が一位を死守した。
一方のアルタイアの大陸の人攫いたちは、どんどん減っていく収入に苦虫を潰す思いをしていた。その矛先は、遠い龍元ではなく本土のアルタイアに向き大きな戦に発展した。
その後、アルタイアは一つの国となり今の形になった。この大きな戦もあり、アルタイアと龍元との人身売買は完全に無くなった。
また人身売買の船が途中に華楽に泊まっており、それ以降から貿易の中継地点として利用されるようになった。貿易の中継地点ということで、移民や不法侵入者が後を立たなかった。
そこで、政府は ”国の宝である民を守る” ために不法侵入者は情け容赦なく殺める。と海外に発信した。
海外移住に対しても厳しい憲法を作った。
その結果、龍元ではアルタイア程ではないが別の瞳の者が存在していた。それは、先ほどはなしにあったような奴隷がいた過去があるからだろう。
反対に華楽では、玉を除き茶色と黒の瞳の人だけだった。
「そして、この印鑑は ”待雪草の花” ……別名 ”スノードロップ” 」
スッと翠は、左腕をまくり見せた。
ーー書類に押印された印鑑と同じ待雪草の花の印が刻まれていた。
「ーーあなたの死を望む。 ……龍元に不幸をもたらし国を破滅に追い込む存在になる。
そう意味が込められた花の印なの。この花の印は、奴隷のあかし。
アルタイアは、龍元を追い越し世界ランキング1位を狙っているの。
それには、龍元が目障りなのよ……」
「そ、それは、私たちスノードップも同様の。ど、奴隷であるという意味が込められているということでしょうか。
……華楽は龍元と深く関わっているとはいえランキング外ですし」
世界ランキングは、5位までが算出される。大きな国に挟まれた貿易の中継地点だが、小さな小さな島国である華楽はランキング外なのだ。
「スノードロップが奴隷であるというのは違うかもしれません。私たちには翠娘娘のような印は誰にも刻まれていません。ねえ、玉、杏?」
玉と杏はコクコクと頷いた。
「そもそも私はこの印を、初めて見ました」
「私も初めて……
玉が見たことがなかったら、他の子達はもっと知らないと思いますよ」
「畑国長、今の話からしてこのサインはアルタイアの誰かではないですか?
……その誰かが分かればいいのですが」
と言いながら、指を顎に当てて考える構えで月は書類に視線を落とした。
(うーん、この癖をみたことある……はず。あぁ、あの人か。)
「私の見解なのですが、前皇帝ルークではないかと。彼の文字は、斜めに下がっていくように書く癖があります。
その癖が、この書類には見受けられます」
「なるほど。私は、彼とやりとりをしたことがないので知りませんでした。
……もしかしたら、スノードロップ解体の糸口になるかと思ったのですが。まさかの繋がりがあったのですね。」
(これは、かなり厄介なことになりそう。
スノードロップは、ただの殺しをする特殊部隊ではない。とは薄々感じていたけど。まさかの人身売買、奴隷…… とは)




