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七皇魔王姫

 突如、周りの景色が、色が失っていくように灰色に染まっていく。

 色を抜かれた物は動きは止まり、それは宙に舞う木の葉もそうなっていた。

「これは…一体」

「時間を止めたのよ」

 そう言葉をかけたのはフレイ。

 王国正規軍が一斉に放った炎の魔法を乗っ取り、自分の魔法にしてしまうと言う、驚くべき魔法技術力を見せた、謎の赤毛の女の冒険者だ。

 その彼女が時を止めたと言って来たが、時を止める魔法を使ったと言う事だろうか?

 そんな魔法は聞いた事は無いが、先ごろ見た彼女の魔法技術から考えれば、それを使えても不思議では無い。

 また彼女は色を保っており、よく見れば自分も色があった。

「止まった時を中を動けるようにすると、色が残るのよ、不思議でしょ? 多分光の反射とかが関係してるのかしら…知らんけど」

 自分だけ色が残ってる事を不思議に思い、マジマジと自分の体を見ていたら、不意にフレイがそんな事を言って来た。

 光が色に関して、どんな関係性があるのか分からないが、今はそんな事はどうでも良い。

「…こんな聞いた事もない魔法を使い、そしてその燃えるような赤髪…」

 そう呟くように言うと、飄々と話していたフレイはスッと真顔になる。

 向けられた視線の圧は凄まじく、蛇に睨まれた蛙のように、油汗が滲み出た。

 それでもこんな時間が止まってるような、一種の閉鎖された空間に閉じ込められたなら、もはや逃げ道は無い。

 逃げる事が出来ないなら、感じた疑問について聞くしか無い。

 …そう、彼女がそうなのかと言う確認を。

「其方は…いえ、貴女様はフレイ……ディアの姉上様…なのですか?」

フレイディア…そう聞いた瞬間だった。

フレイはにーっと嫌らしい笑みを浮かべ、こう言って来たのだ

「…良く分かったね?」

 彼女はそう言葉を返すと、肩をコキコキ鳴らした。

 すると背中の辺りから燃えるような羽、さらには腰の辺りからも鋸歯状の尾羽、その二つがバサリと火の粉を巻き上げながら現れ、そして左右の側頭部辺りから、触覚のように長い冠羽を生やし、その正体をあらわにした。

 その姿は、魔鳥もしくは魔翼人に分類される魔族が統治する夜翔州カラミティアル・フェザー、その中で一番の権力を持つと言われてるフェニックス家の者…そして七皇魔王姫の一人、天翔凰姫フレイディア・グロリアス・カイゼル、その人だったのだ。

 そうしてフレイディアは魔族の姿に戻ると、腕を伸ばし、体をほぐすかのように柔軟していた。

「ん〜〜〜〜………さてと、さっきも言ったけど、よく私の正体見破ったね、どうして分かったの?」

 フレイディアは親しげな笑みを浮かべ、そう尋ねて来た。

 それが妙に引っ掛かった。

 何故なら、劉備玄徳な記憶が戻る前、フレイディアとは皇族の集まりで何度か会った事があるが、その時彼女がこちらを見た時感じた事は、侮蔑を含む冷ややかな目…相手にする価値も無いと感じている、それだった。

 それをされたレヴィルが、同じ魔帝の子なのにと、激しく屈辱を感じていたのが、鮮明に思い出される。

 そのような感じだったのに、今は何故か、親しい姉弟の間柄のように接してくる…。

 それに加えて、恐らく魔力は抑えてると思われるのに、それでも今も感じる背を冷やすほどの圧をビリビリと感じ、それがより今のフレイディアの態度に、不気味さと恐怖に拍車をかけていた。

 何故彼女の正体が分かったのか。

 彼女が不意に聞いて来た問い。

 下手な事言ったら、ここで命を落とすかも知れない。

 そう感じた私は慎重に言葉を選び、口を開いた。

「…最初に気づいたのは、その赤い髪でございます」

「髪?」

「我ら姉弟たち、今は違えど子供の頃は常に一緒でした…その時に、フレイディアの姉上のお美しい赤い髪はよく見ていたので、それに見覚えがありましたので…」

「ほお」

 フレイディアは顎をつまみ、まるでこちらを感心するような笑みを浮かべ、こちらの話に耳を傾けていた。

「そして人間では中々いない、あの魔法技術の高さ、そして力を隠していても感じられるただならぬ雰囲気…これはもう七皇魔王姫である姉上しかいないと、感じた次第でございます」

「なるほど以前とは比べ物にならない洞察力だ、やはり中身は別物か」

 別物と言う言葉に無意識に体をビクリとさせてしまう。

 だが中身が人間だと知られたら、姉上は魔族、どうなるか分かった物では無い。

 ここは務めて知らないふりをするべきか…。

 だが七皇魔王姫の中で、一番頭脳に長けていると言われているフレイディアの姉上の事だ。

 無駄な生兵法になるかも知れんが、それでも自ら言うのは気が引ける。

 その心境から、誤魔化す方向に言葉選んで口を開く。

「別物…と言われますと?」

「あーいいそう言うの、今のお前は、あのアホなレヴィルじゃ無いんだろ? 心が入れ替わってる? いや前世の記憶が蘇った後天的転生者と言う現象だな」

 そう何もかも知ってる風に言うフレイディア。

 なんと言う事か、一言喋っただけで、こちらの実情は全て看板されてしまった。

 いや、そうであると言う前提で話していると言う事は、もう分かっていたのか…。

 これは無駄に隠し立てする方が、反意を疑われてしまうかも知れない。

 そう思い、一つ溜息をつくと、観念して洗いざらい話す事にした。

「さすが七魔王姫の中で、屈指の智を誇ると誉高い姉上、お察しの通り、私は以前のレヴィルでは無く、ある異世界の人間の記憶が蘇った後天的転生者です」

「で、あろうな、うんうん」

「…しかし姉上も、何故私が別物だとお気づきに?」

 そう聞くとフレイディアは、我知り顔でこう言って来た。

「転生して記憶や性格が変われば、前の者と比べて行動に差異は出るもの、その一つ一つ情報を見逃さなければ簡単に推測できる…まあ、お前の場合は分かりやすすぎたがな」

「と、言いますと?」

「お前は後天的転生者なら、前の、アホのレヴィルの記憶も残っているな?」

「…はあ?」

「それから考えてみれば簡単な事だ、あの我欲に塗れたレヴィルが、従者一人に命をかけて戦うか?」

 そうフレイディアは言うと、チラリとルゥイラの事を見た。

 確かに、以前の外道なレヴィルなら、我が身可愛さに、体を張って戦う事などはしないだろう。

 私が以前のレヴィルとは違う、人間、劉備玄徳である事をバレないようにする為には、ルゥイラを見捨てなければいけなかっただろうが、私にそんな事は出来る訳も無く、その行動で、例え最もバレたくは無かった七皇王姫に勘づかれてたとしても、やむなしと言う他ない。

「…私が以前のレヴィルと違うと知って、姉上はどうするおつもりでしょうか?」

 恐らくは観念した顔で、フレイディアに問いた。

「そんなに警戒するな、前のアホのレヴィルなら、目に余る物があったから、いずれ処分しようとは思っていた」

 処分と言う言葉についビクリとする。

「だからビクつくな、今の、情け深く、人の為に体を張る事が出来る、転生した今の性格のお前ならそうする必要は無い…何より、転生者なら私たちは同じ同郷の者だ」

「は?」

 今何と言った? 同郷の者?

「…良く聞こえなかったのですが、今姉上は同郷の者…そう仰られましたか?」

「そうだと言っている、私は転生者だ、まあ、お前とは違い私の場合は先天性転生者…つまりこの世に生まれた時から、前世の記憶はあったがな…」

 先天性転生者…私のように、生まれてしばらくしてから前世の記憶が戻る、後天的転生者とは違い、姉上が言う通り生まれてすぐに、前世の記憶がある事を先天性の転生者と認識される。

 と言う事は姉上も私と同じ、魔族でありながら、人間としての前世の記憶を持って魔族として生きて来たと言う訳か…。

 勿論、彼女が口で言ってるだけなので、本当に転生者かは怪しいところだが。

「そんなに疑わなくても…信じるか信じないかはお前次第って状況だが、誓って本当の話だよ」

 不意にフレイディアからそんな言葉出て、肩をビクリと震わせる。

 しまった、疑ってる事が顔に出ていたか…。

「だからそんなに警戒しなくて良いから、あ、そうだ…私が人間だった時の身分を紹介しよう…それを聞けば少しはこちらの話も信用出来よう」

「い、いえ…別に姉上を疑ってる訳では…」

「あ〜いいからいいから…」

 フレイディアはそうやってこちらの言葉を止めると、一つコホンと喉を鳴らしてから話を始めた。

「私の名前は須谷朱乃、生粋の日本人女子、死ぬ寸前まで日本のとある酒造メーカーの営業をやっていたOLで、死んだ原因は大好きなお酒の飲み過ぎで体を壊しちゃった感じかな? 今では魔族の頑丈な体になって、酒飲み放題になったから良いけどね〜」

 そう言うとフレイディアは、それを示すように、自身が持ってる瓢箪から酒を盛大にグビグビ飲むと、ぷはー、と幸せそうに、酒臭い息を吐き出していた。

 その姿を見る限り、酒が好き、と言うのは本当そうに見えた。

 しかしまた『日本人』と言う民族の名称。

 つい先日あった異世界人であるヤマダも日本人と言っていたが…、元は確か漢帝国より東にある海を挟んだ島国、倭国だと彼らは言っていたが、この異世界に来てしまうのは、日本人が多く見受けられるが、私と同じ漢人の者は一人もいないのだろうか?

 異世界から来たと言う者が、あまりに日本人が多い事を不思議がっていたが、フレイディアは、そんなこちらの心境気をにせず、会話を続けて来た。

「…まあそんな感じに毎日酒飲んでたら、いつの間にか肝臓やられて、あちこちガン出来てて〜もう手遅れって感じで、モルヒネ治療段階入った時からもう意識無くて、で、次に気づいたら、この体、生まれた瞬間のフレイディアだった訳………って細かく説明しても、あんたには分からないか」

 フレイディアは一方的に話すと、そう言って話を締め括った。

 確かに、『がん』や『もるひね』と言う言葉は聞いた事は無いが…まあ酒の飲み過ぎで体を悪くした、と言うのは理解できた。

 その話が真意かどうかは、はっきり言って私に根拠づける物は何も無い。

 が、例え同じ転生者と言えど、力も立場も上の姉上が言ってくれた事を、疑うような真似は出来ない。

 そう思い、フレイディアが語ってくれた事に対し、最大限の礼儀を払うかのように、手を拱手の形にし、一礼してから、言葉を返す。

「姉上に取っては、恐らくは…秘密にしていたであろう事を教えて頂けるとは…このレヴィル、まさに感嘆の極み…その礼に値するかは分かりませんが、お返しに私も転生前の私の事をお話しましょう」

 フレイディアが転生する前の事を話してくれたのだから、当然自分話すべきだと思いそう提案した。

 しかし言葉を続ける前に、フレイディアは人差し指を、私の口に押し当て続く言葉を遮りこう言ったのだ。

「それは良い、それよりもっと聞きたい事があるんだ」

 そう言うと、人差し指をスッと離す。

「聞きたい事?」

「ああ、お前さんは記憶が蘇った時、つまり転生した後に、何か身の回りで以前と違った変わった事は起きなかったか?」

「…以前と変わった事?」

「何でも良い、何かしらの能力が上がったとか、特異な能力が使えるようになったとか…とにかく何か違和感を感じるような事は無かったか?」

「違和感…そう言われれば、最近妙に人に慕われるようになった気がします」

 違和感と言われて、すぐに思いついたのは、人に慕われるようになったと言う事だ。

 以前の外道だったレヴィルでは、恐られたり嫌われたりする事は数あれど、好かれるような事は無かった。

 それが最近になって、レヴィルの時に暴力を振るってしまったルゥイラや、私の悪虐を見て来た正義感の強いシェルドラーグが、私の配下になりたいと言う勢いで慕って来て、それに違和感は感じていた。

 咄嗟に思いついた事だったが、フレイディアにそう告げると、彼女はパチンと指を打ち鳴らし、こう言って来た。

「恐らく、それがお前さんの転生スキルだろうな」

「転生スキル…あ」

 記憶が戻ってすぐに見た、転生者を記した本にそんな事が書いてあった事を思い出す。

 転生スキル、転生者だけが持つ固有のユニークスキル…人に妙に慕われやすくなっていたのは、そのスキルの為だったのか…。

「私の調べでは、転生スキルが何になるかは、前世の人間性や生き方で決まる」

「人間性や…生き方?」

「そう、武に生きて来た者なら戦闘系のスキル、学を追求して来たなら知性に特化したスキル、そしてお前のその人を引き寄せるスキルは、前世で人に慕われやすかった事からそうなってるのだろう」

「人に慕われやすかった…?」

 …なるほど、自惚れかも知れないが、前世、私が劉備玄徳だった時は関羽や張飛、子龍はもちろん、それ以外にも多くの民が私の言葉だけでついて来てくれた。それを考えれば確かに私は人に慕われやすかったのかも知れない…その私の人生が形となって、今私の中に転生スキルとして存在する、と言う事なのか…。

 フレイディアに言われ、最近妙に慕われやすくなっていた事に得心し、自然と、スキルの存在を確認するかのように胸に手を当てしまう。

「どんなスキルか私が詳しく鑑定してやろうか?」

 突然そう言われ、顔を上げる。

「スキルの鑑定をすると言う事は、まさか姉上は相手の能力を詳細に調べられるほど、高位の鑑定のスキルをお持ちなのですか? 異世界人でも持つ者は限られてたと思いましたが…」

「ああ」

「な、なんと…」

 ゴクリと固唾を飲む。

 鑑定スキル…アイテムや対象者の能力、スキルを調べるそれは、対象の名前、浅い見識での能力を調べる程度なら、ある程度の者なら持っている者はそれなりにいる(それでも希少)

 だが詳細に調べるとなると、それは伝説級の高位な鑑定スキルしかなく、それを持つ者は、伝説が示す通りごく稀にしか存在しない。

 ただ、ここ最近の多くの、異世界人の流入により、元々強力なスキルを持ちやすい異世界人に取ってはその限りでは無く、高位の鑑定スキル持ちも増えてきた話は聞いていたが、姉上もその一人なのかも知れない。

「どうする? 調べておくか?」

「は…是非お願いしたいところです」

 私が持つ転生スキルが、どんな効力を持ってるのかは何となしに分かったが、さらに詳細が分かると言うなら、自分の能力を把握する為にもここは調べてもらった方が良いだろう。

 そう思い二つ返事でフレイディアの問いに答えると、フレイディアは、良いだろう、そう言葉を漏らすと、じっとこちらを見るようにしてくるのだった。

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