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14話 赤い髪の冒険者2

 炎をまとわせた魔法剣、それをこちらに向け、ジリジリと間合いを詰めてくる王国正規軍。

 赤毛の女…フレイと呼ばれていた冒険者が、私を殺した方が得だと、正規軍の長である貴族、それにそう言葉巧みに言った事で、今こんな現状になっている。

 元々貴族の機嫌をそこね、殺されそうになっていたのは冒険者たちだったが、上手く矛先を変えられてしまった感じだ。

 まあ遅かれ早かれ、魔族と人間、さらに彼らの目的であるイファリウスの使徒ルゥイラ、それがこちらにいる以上、争いは避けらなかっただろうが…。

 そんな中、こんな状況にしてくれた張本人。

 フレイはと言うと、懐から瓢箪を取り出し、その飲み口を、入れ物をくくってある紐を使い、器用に口元に近づけると、クイと中身を飲んでいた。

 その一連の所作は、酒を飲んでるそれ。

 そうしてフレイひとしきり飲むと、頬を朱に染め、ぷはーっ、と言う感じに豪快に息を吐いていた。

 近くにいた冒険者たちはそれに、嫌な顔をしながら手を仰ぐ。

 フレイが飲んでいるあれは間違い無く酒だろう。

 自分に累が及ばないと見て、高みの見物を決め込んだか…。

 フレイのその態度に憤りを少し感じる。

 とは言え、フレイが戦闘に参加しないのはありがたいかも知れない。

 先ほど見せた、幾重にも放たれた炎の魔法、それを自在に操った力量は、相当な腕前の冒険者と見て間違いないだろう。

 それが戦わないのであれば、救い以外何者でもない。

 王国正規軍だけが相手なら、私一人では無理かも知れないが、今はマレーゼがいる。

 マレーゼの縛を解き、一緒に戦ってもらえば…いや瞬間移動を使ってもらえれば、一瞬でこの場から離脱でき、窮地を脱する事が出来るかも知れない。

 それで行くか? …いや、だが、マレーゼがルゥイラだけ置いて瞬間移動する可能性もある…どうするか。

 そんな事を悩んでいた時だった。

 一人の王国正規軍が、装填した炎の魔法をこちらに向けて撃ってきたのだ。

 突然迫る熱量。

 しかし狙いが甘かった事で、かわす事は容易だった。

 …だが、かわしたのは良くなかった。

「きゃああ!!」

 かわした炎の魔法が、ルゥイラの近くの地面に落ち、爆ぜてしまったのだ!

 爆風で吹き飛ばされるルゥイラ。

「ルゥイラ!」

 そう叫んだ時には、ルゥイラの元へ走っていた。

 立ち昇る爆煙を掻き分け、彼女の元へと急ぐ。

 そうして近くまで来ると、すぐに彼女を抱き起こし声をかけた。

「おい! 大丈夫か!?」

 そう声をかけると彼女は頭を押さえながらも。

「え、ええ…少しびっくりしましたけど、多分怪我は無いと思います」

 そう普通に答えていた。

「そ、そうか…良かった」

 どうやら怪我は無く、安堵に胸を撫で下ろす。

 彼女、イファリウスの使徒は、強力な回復魔法、それが使える女神の加護と引き換えに、この世のあらゆる癒しの術が効かない体になっている。

 つまりこの私、劉備玄徳がいた前の世界のように、一瞬で治らなければ死ぬような傷を受けた場合、彼女に取って全てが致命傷になるのだ。

 貴族もその事を知っていたらしく。

「馬鹿! イファリウスの使徒を傷つけたらどうするつもりだ! 絶対に傷つけるんじゃない! 危ないから魔法は使うな! 剣だ…剣だけにしろ」

 そう焦ったように指示を出していた。

 魔法が使えないのはこちらとしてありがたいが、奴が引き連れている兵は20〜30人といったところ。

 冒険者は加勢しないにしても、一人でこの兵たちを相手にするのは流石に厳しい。

 そう思い、ルゥイラに向かって叫んだ。

「ルゥイラ! マレーゼの縛を解いてくれ!」

「え? え?」

「その銀髪の女を縛ってる紐を解くんだ! 早く!」

「は、はい!」

 マレーゼがこちらの言う事を聞くかは分からないが、もはやなりふりは構ってはいられない。

 相手が魔法が使えない内に、何とかマレーゼに瞬間移動を使ってもらい、この場から脱出する以外に、この窮地を脱する方法は無い。

 そう思っての指示だった。

 そんな事を突然言われて焦ったのか、ルゥイラは困り顔をしながらも、懸命に紐を解いていく。

 そして猿ぐつわが外れた時だった。

「レヴィル様! 前!!!」

 突如マレーゼがそう叫ぶ。

 言われるがまま、視線を前に向けると、キラリとした銀線が走っていた。

 王国正規軍の魔法剣だ。

 マレーゼの紐が解ける様子を気にしすぎて、迫っていた王国正規軍が、完全に意識から外れていたのだ。

 その最初の初撃が、首元に向かって振り下ろされていたのだ。

 だが、反応が遅れてしまったものの、何とか体を大きく逸らし、かがめた事で、それはかわす事が出来た。

 だが体勢は大きく崩し、次の回避をする為の動きが完全に鈍ってしまう。

 そこを狙われ、もう一人の王国正規軍が大上段で斬りかかってきた。

 もう回避は間に合わない…ならば。

 一瞬の判断で二刀を抜くと、頭上で交差させ、迫り来る剣撃に備えた。

 瞬間、甲高い金属音と押し掛かる重圧…しかし何とか受け止める。

 しかし相手の兵士の数は多い。

 まだ相手の攻撃は止まらなかったのだ。

 さらに3人目の兵士が、この両手が塞がった状態で、脇腹を狙いが横薙ぎしてきたのだ。

 完全にかわしきれない、そう感じた事は、無情にも現実の物となる。

 その横薙ぎは止まる事なく、自身の脇腹に食いこみ切り裂いていったのだ。

 さらに炎をまとった刃は肉を焼き、ヂリヂリと、耐え難い苦痛を容赦なく与えてくる。

 しかしそれよりも、このままでは胴体から寸断されてしまう。

 炎をまとった刃は、通常よりも切れやすくなっているのか、ズブズブと容赦なく肉体に侵入してきた。

 く…もはやここまでか。

 …そう思った瞬間だった。

 敵の刃は半分くらい、背骨に届く一歩前で何故か押し込む力が止まった。

 見れば剣ごと相手は吹っ飛んでいたのだ。

 その時の敵の胸には、血色の槍が突き刺さっていた。

 それに吹き飛ばされたのだ。

 驚いてる後ろを見ると、縛が解かれたマレーゼが手のひらをこちらに向けていた。

 彼女が魔法を使って敵を吹き飛ばしてくれたのだ。

 助かった…と思ったのは束の間、今度は脇腹に焼き切られた痛みが襲ってきて、血を吐きながら膝を崩してしまった。

「レヴィル様!」

 ルゥイラは私の名を叫ぶと、祈るような所作をする。

 すると辺りに回復光に似た光が溢れ、その瞬間、脇腹の痛みが引いていくのを感じた。

 例の認識した味方だけを完全回復する、イファリウスの使徒だけが使える強力な回復フィールドだ。

 これだけの範囲の回復させるフィールドを作って、本当にそんな器用に、回復対象者だけを選べるのか半信半疑だったが、先ほど、マレーゼの魔法を喰らって吹き飛んだ兵士、その傷は治らず、瀕死の重症のままでいるところを見ると、伝説は本当だったのだと信じざるを得ない。

 そんな事を考えていた時だった。

「こい娘!」

「え、あ、ちょ…きゃあああ!!」

 突然、マレーゼはルゥイラを抱えると、こちらに向かって跳躍し、目の前に降り立ったのだ。

 そして目の前まで来た彼女はこんな事を言ってきた。

「レヴィル様、瞬間移動でこの場から逃げますよ!」

 そう言ってきたのだ。

 しかもちゃんとルゥイラを連れて、そう言ってくれたのだ。

「…ルゥイラも一緒か!?」

「そうしないとまたゴネるでしょう! さあ早く!」

「…! 良し、分かった! 頼むぞマレーゼ!」

「は!」

 彼女が言おうとしてる意味を理解した私は、即座に瞬間移動を使う事を許可した。

 だかその時だった。

「そう簡単にはさせないんだな」

 そう不意に耳元に声がし、その瞬間。

「カハッ」

 マレーゼがくの字になって折れ曲がっていた。

 腹に足が突き刺さっていたのだ。

 それに気づいた時にはマレーゼは吹き飛ばされ、そしてその蹴りの威力で起きた風圧で、目の前に赤い物がなびくのが見えた。

 その赤い物、それは髪。

 赤毛…そうマレーゼを吹き飛ばす蹴りを入れたのは、あの赤毛の女冒険者フレイだったのだ。

「ちょっと拝借」

「え、あ、あのちょっと…」

 フレイはルゥイラが抵抗する間もなく、手に持っていた魔封じの紐を引ったくると、飛んで行ったマレーゼの方へと跳躍して向かっていった。

「く…!」

 蹴りをモロに喰らったものの、何とか体勢を立て直していたマレーゼは、飛んでいったフレイに、先ほど王国正規軍に喰らわした血色の槍、それをいくつも飛ばして牽制を試みた。

 しかしその全ては、フレイに当たる前に蒸発するように消えてしまっていた。

「な…!」

 驚嘆するマレーゼ。

 それとは対象的に、余裕な態度でマレーゼの前に降り立つフレイ。

 その顔をに苛立ちを覚えたのか、悔しそうに歯噛みすると、今度は体術でフレイに襲いかかった。

 マレーゼの放つ突きや蹴りは、かなりの物に見えたが、フレイはそれすらもかわして見せた。

 しかも余裕でかわせるのか、何か話しながらかわしていたのだ。

「マレーゼ・シュルティス・ヴァンベリエン、爵鬼(しゃくき)族出身の吸血鬼、暗殺を生業とした名家ヴァンベリエン当主シュルティスの長女、成人してからラファルドの戦闘使用人として仕える。戦略兵魔級の力を持ち実力も確か、冷静沈着に物事を考え、言われた命令は忠実にこなす。その性格からかなりの任務をこなしてきた実績はあるが、物事を真っ直ぐに考え過ぎるせいで、融通が中々効かない一面もあり、それが原因で事態を悪化させてしまう…そんな抜けてる一面もある」

 フレイは、マレーゼの人物評価するような内容を、攻撃をかわしながら、しかも立て板に水の如くに流暢に話す。

 そのやり取りは、弟子が師匠に赤子扱いされてるようだった。

 その事に苛立ちを感じたマレーゼは、眉間に皺寄せながら、フレイの言った事を否定していた。

「く…! 適当な事を!」

「そうかな? 実際こんなに追い詰められてる状況になってるのも、巡り巡っての結果じゃ無い?」

 そう言われると、思うところがあったのか、動きに苛立ちを乗せる。

 そうして放った突きは、フレイの喉目掛けて向かう。

 だがフレイは、突きを放った手の手首を簡単に取ってしまう。

 手を取られたマレーゼは、すぐに腕を引き、フレイの拘束から逃れようとする。

 しかしいくら力を込めようとも、まるで大人に手を取られた赤子の如く、びくともしなかった。

「体術の技術なら…きっと貴女の方が上なんだろうけど」

 フレイはそう言葉をこぼすと、もがくマレーゼを、引き上げるように手首を引っ張った。

 瞬間、マレーゼの足は地面から離れ、あっさり宙へと浮く。

「だからこれは単純に力でゴリ押ししただけ…貴女の技術は確かに凄い、だから落ち込まないでね」

 フレイはそう言うと、宙に浮いたマレーゼの太ももの辺り、そこに器用に自身の足を滑り込ませると、空中で、彼女の体が横になるように押し上げた。

 マレーゼをその姿勢にすると、フレイはもう片方の手で持っていた、先ほどルゥイラから奪った魔封じの紐を使い、あっという間にマレーゼを、ぐるぐる巻きにして拘束してしまう。

 紐で縛られたマレーゼは、魔力を使う事も出来ず、うつ伏せのまま地面へと落ちる。

 そして再び、むうううう、と情けない有様に逆戻りとなるのだった。

 それでも体を起こそうと、必死に腰を浮かせるマレーゼ。

 しかしそこに、ドスと音を立て、フレイは容赦なく腰を下ろし、マレーゼの動きを封じる。

「むう!」

 悔しげな呻きを上げるマレーゼ。

 そんな事はまるで気にせず、フレイは、得意げな笑みをこちらに向けて、こう言ってきたのだった。

「はーい、残念…魔王からは逃げられない」

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