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第12話 進軍開始

 村を襲ってきた冒険者を撃退し、一夜が明けた。

 その間人間の軍勢の襲撃は無かった。

 勇者連合筆頭のヤマダが、上手く足止めをしてくれると言っていたが…本当にそうしてくれたのかも知れない。

 そのおかげでゴブリンの母親は無事子供を生む事が出来た。

 難産だったが、母子共に命を落とす事はなかった事に、ゴブリンたちは深く感謝し喜んでいた。

 出産が終えた後は、いつ人間の軍勢が攻めてくるか分からない事もあり、早々に村を出て、とりあえずデスメソルの小城に向かう事にした。

 子供を生んだばかりの母親を歩かせる訳にもいかなかったので、荷台車に乗せて行く事にした。

 その際一緒に、いまだ魔法封じの紐でぐるぐる巻きにしているマレーゼを乗せる事にした。

 彼女はラファルドの手下だ。

 ラファルドは子供の頃からの友情からか、民の為に危険を犯す私の身を案じ、拘束してまで無茶を止めようとしてきた。

 そんな彼の部下であるマレーゼだ。

 紐を解けば、きっと彼女の得意な瞬間移動で、あっと言うに連れ戻されてしまうだろう。

 もうデスメソルに戻るだけだからそれでも良いかも知れないが、今の私は一人では無い。

 私を頼りついてきたゴブリンたちがいる。

 そのゴブリンも、一緒に瞬間移動してくれれば良いが…それは無理だろう。

 何故なら彼女は上級魔族だからだ。

 基本身分と力だけが重要視される魔族の社会。

 魔族が相手を見て態度を変えるのは、当たり前にある事だ。

 …あまり話した事は無いが、恐らく彼女もそう言った性格。

 仮にそうだとすれば、ゴブリンは三劣である最下層魔族。

 マレーゼがゴブリンを助ける為に、力を貸すと言う言葉は無いだろう。

 魔族と言うのは、下の者に何かしてやろうとするだけで屈辱を感じる生き物。

 何故この私がお前如きの為に労さらなければならない…そう考えてしまう物なのだ。

 レヴィルの記憶を思い返しても、そんな魔族ばかりだった事が思い浮かぶ。

 とは言え、心があるならば色々な考えを待つ者もいるだろう。

 初めて見たが、シェルドラーグのような、民の為に戦う魔族もいた。

 それを考えれば…もしかしたらマレーゼも話し合えば分かってくれるかも知れない。

 そう事を思い、一瞬マレーゼの方をちらりと見る。

 その視線に気づいたマレーゼは、拘束を解いて欲しいのか、また懇願するように目を潤ませていた。

「…拘束を解いて欲しいのか?」

「むぅ!….(こくこく)」

 必死に顔を縦にふり、肯定する意思を伝えるマレーゼ。

「…ならばこの私に協力するか?」

「むー! むー!(こくこく)」

「ゴブリンを含めたここにいる者全員、デスメソルに瞬間移動させたい…出来るか?」

「む…」

「出来ないのか?」

「む! むむむ!(ブンブン)」

 その問いに、今度は否定するように顔を横に振る。

「出来るんだな?」

「むー!!(こくこく)」

「絶対だな?」

「(こくこく)」

「それじゃ…」

 そう言うと、マレーゼがかまされてる猿ぐつわに手を伸ばす。

「むぅぅぅ…」

 やっと外してくれると思い、嬉しそうに呻くマレーゼ。

 しかし。

「…やっぱり嘘かも知れない、やめておこう…」

「むううううううう!!!!」

 やはり今回も直前で思い留まり、拘束を解くのは止める事にした。

 彼女は優秀な間者…簡単には信用してはいけない。

「良し、ではデスメソルに向かうか…皆の者出発しよう!」

 いまだ抗議の声を上げるマレーゼを無視し、出発の号令をかけた。

 それと同時に、体格の良いゴブリンであるガスが荷台車を引き、デスメソルがある方へと歩き始めた。

 これからデスメソルに戻るのは、ラファルドの事や人間の軍勢が攻めてくる事を考えたら、あまり行くのは得策では無いが…。

 しかし私には、ゴブリンの村の事が解決した後、エゥリィラに首を斬られてやると言う約束がある。

 私は人間である彼女、そして彼女が大切にしてる者たちに邪神の魂を融合させ、化け物してしまった非道をしてしまったのだ。

 その詫びの為、そうしてやる事に決めたのだ。

 その約束を反故にする事は義に反する事。

 この劉備玄徳、そのような不誠実な事をする事は出来ない。

 それに…私に恨みを持つもう一人の人間…異世界人のハルビヨリ・ユメルが、デスメソルに向かったと言う話も気がかりだ。

 私についてくる民の事を考えるなら、このまま亡命先に考えていたナルフェルンへ向かった方が良いのだろうが…ここは皆には申し訳ないが、一度デスメソルに戻る事にしよう。

 そんな事を考えていた時だった。

 村を出ようとしたところで、茂みからいくつかの影が現れる。

 それにシェルドラーグが、私を守る為、前に出て警戒する。

 しかし。

「みんな…!」

 子供のゴブリン…オロがそう叫んだ事で、その影たちがゴブリンだった事に気づく。

 オロが顔を知ってるところを見ると、逃げ出した村のゴブリンたちなのだろう。

 そんな風に考えてると、年老いたゴブリンが前へと出てきた。

 「レヴィル様、この村の村長です…村長! こっちはあの城の領主レヴィル様だ!」

 そうオロが紹介するように言うと、老ゴブリンは跪きこちらに頭下げてきた。

「この村の村長をしておりますホグルと申します…この度はオロの母親リラを助けて頂き本当にありがとうございました」

「…この辺り預かる領主として当然の事をしたまでだ…気にする事は無い」

「おお…上級魔族様が、私たちのような三劣に、そのように気をかけて頂けるとは、感謝してもしきれません」

「…三劣など、自分を蔑むような言葉を私に使う必要は無い…言葉通ずれば私たちは同じ魔族だ…これからも困り事があれば気兼無く言いなさい」

 利己的な魔族の社会性からか、下の者はひたすら上の者に媚びへつらう。

 ただひたすらに上の者為に尽くす、それが魔族の常識だ。

 その事から下層の魔族は、何か問題が起きても、それが自分たちの害でしか無ければ上に相談すると言う事はしない。

 それが習慣的になっている事を知っていたので、彼らがこの先遠慮せず、何でも言うようになるよう、そう思い声をかけたのだ。

 するとさっそくと言わんばかりに、村長はこんな事を言ってきた。

「なら私たちもレヴィル様について行ってよろしいですか?」

「ついて行く…私にか?」

「はい…このまま隠れていても、人間の軍勢に殺されるのを待つだけ…それならいっそレヴィル様と一緒に行った方が良いかと…」

「…うむ、そうか、お前たちがそうしたいと言うなら私は構わない…このレヴィル、未熟なれど出来うる限り力となろう…皆安心してついてくると良い」

 そう言うと、ゴブリンたちは顔を見合わせて喜んでいた。

「では私たち全員受け入れてくれると言う事でよろしいのですね?」

 確認するように聞く村長。

「ああ…勿論全員だ…この劉…レヴィル、領主としてただの一人も見捨てるような真似はしない…残らずついてくると良い」

「では私たち『三劣』魔族全てレヴィル様についていきます」

「…だから自分を卑下するような言葉は使わなくて良いと…」

 また村長が、先ほど禁じた自身を卑下する三劣と言う言葉を使ったので、使わなくていい、そう言おうと思ったが、その言葉言い終える前に、村長がその言葉を使った意味が分かった。

 茂みの奥からさらに新たな魔族が二つ出てきたのだ。

 一つは犬の顔を持つ獣人コボルト、もう一つは豚の顔を持つオークだった。

「三劣魔族全て、レヴィル様についていきます…ご面倒おかけします」

 突然想定以上の数を増やしたのにも関わらず、悪びれも無くそう言う村長。

 …いや実際悪気は無かったんだろうが、それでも何とも言えない後出しを感じ、断りはしなかったが、返す言葉は、あ、ああ…と、動揺が隠せない物になってしまった。

 そんな事もあったが、その後は村長たち村民とデスメソルへと向かった。

 3種の魔族が寄り集まった大所帯。

 人数が増えれば基本移動は遅くなる。

 理由は単純に足の遅い者、荷物の運搬などなど、どうしても歩みが遅くなってしまう者たちに、合わせて進んでいかなければいけないからだ。

 その事でどうしても遅くなってしまう。

 理由があって歩みが遅い者を急かすつもりは無いが…もしここで人間の軍勢の侵攻が始まったら…そう考えるとどうしても不安を覚えてしまう。

 劉備玄徳の時も、10万の民を引き連れ曹操軍から逃げた時があったが、今の状態はまさにその時と一緒だ。

 あの時も多くの民が無惨に殺され、私も妻を失ってしまった。

 同じような惨劇が起きなければ良いが…。

 幸い人間の軍勢の軍勢が攻めてくる気配は無い。

 …そう思ったのだが。

「レヴィル様…なんか後ろの方で茶色い煙がみたいなのが見えるけど、それに何か響くような音が…」

 オロの唐突な言葉に心臓を跳ね上がった

 即座にオロに言われた方向を見ると、確かに茶色の煙…大きな土煙が立ち昇っていた。

 そして微かな地響きのような音。

 それで全てを理解した私は叫ぶように言った。

「これは騎馬隊だ!!」

 大人数で移動していた事から、通りやすい開けた道を歩いていたのだが、デスメソルに侵攻を開始した人間の軍勢も、馬を走らせやすいこの道を進軍路に使ったのだ。

「どどどどーするだ!? レヴィル様!」

 上擦った声で聞いてくるオロ。

「皆、荷物を捨てて森の奥に逃げろ!! 体が動かない者がいたら動ける者が運ぶんだ!」

 そう指示を飛ばすと、一斉に森の中へと逃げ出していた。

「シェルドラーグ!」

「は!」

「悪いが私と一緒に来てくれ、皆が少しでも逃げられるよう騎馬隊を足止めしたい」

「喜んで! しかし行くのは私一人で十分です…レヴィル様は皆と一緒に安全なところへ向かってください」

「い、いや…其方一人だけにいかせるのは…」

 シェルドラーグより力は無いとは言え、私も少しは戦えるのだ。

 それなのに全く戦いに参加しないのは、流石に気が引けてしまう。

 そう思ったのだが…。

「こう言う時、前線に出て戦うは配下の務め、それにレヴィル様は先頭に立って皆を率いてく役目がございます…その事に専念してください!」

「だがしかし…」

「…大丈夫です! それよりレヴィル様は彼女を連れて森の奥へ」

 シェルドラーグはそう言うとルゥイラを見た。

 彼女は癒しの女神の加護を持つ、最強の回復魔法使いの一族であるイファリウスの使徒だ。

 今ではその能力は大昔に失われた物として、非常に起床価値が高い物になっていたり、また逆に忌み嫌う者がいる事で、彼女をつけ狙う人間は多い。

 そんな彼女は庇護を求めて私の元で暮らしたいと言ってきた。

 …確かに特に彼女をつけ狙ってる人間、その軍勢が迫る中、彼女を一人にさせて置く訳のは危険だ。

 ここはシェルドラーグの言う通りにしよう。

「分かった…しんがりは任せたぞ」

「はっ!」

「後…敵の目標は恐らくデスメソルだ、ゴブリンたち村民は構わないかも知れない、だからある程度ゴブリンたちを逃す事が出来たら、無理に抑えず…こちらに戻ってきてくれ」

「食い止めなくてよろしいのですか?」

「村民の安全を確保したら、デスメソルに戻りたい…あの兵数差で城に籠るとは思わんが…あそこにも私が守りたい民がいる…確認だけはしておきたい」

「分かりました…! 騎馬隊は直ぐに全滅させ、すぐに御許に戻る事をお約束します!」

 シェルドラーグはそう言うと、物凄い速さで土煙が上がっている方へと走っていった。

「だから無理に倒さなくて良いと言ってるのに…」

 つい呆れ気味にそう言ってしまう。

 まあ、ともあれ…。

「良し…いまのうちに森の奥に避難しよう、ルゥイラよついてきなさい」

「はい!」

 先に進む私の後を、素直についてくるルゥイラと共に、森の奥へと進んで行くのだった。

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