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第11話 外道なのに何故か慕われる

「レヴィル様!」

 メイド姿の女が、嬉しそうな笑顔を向けてこちらに走り寄ってくる。

 彼女の名前はルゥイラ・メレストナ。

 この世のあらゆる癒しの術を、究極的に使いこなす事が出来ると言う、癒しの女神イファリウスの加護を持つ伝説の民、イファリウスの使徒の生き残りだ。

 彼女の一族は、その能力を狙う者…または忌み嫌う者から、熾烈で凄惨な扱いを受けてきた事から、イファリウスの使徒と言う事を隠しながらひっそりと暮らしていた。

 彼女もそう生きてきたが、イファリウスの使徒が持つ特異体質、女神から加護を授かる代償に与えられた一種の呪い、この世のあらゆる癒しの術が効かなくなる体質だったのだが、偶然それを知らずに回復薬を使ってしまった事で、彼女がイファリウスの使徒である事を知る事になった。

 彼女の事を憐れんだ私は、彼女の事は口外しないと約束し、どこか人が少ないところで暮らしていけるよう一財産渡した後、その道中の護衛を暗黒騎士に任せて別れたのだが…。

 何故か彼女は目の前にいた。

「何故ここに!? ひっそり暮らせそうな人間の領域に向ったのでは?」

 そう聞くとルゥイラは、手を重ねながらこう言ってきた。

「あれから少し考えたのですが、人が少ないところで暮らしていても、バレる不安を抱えながらずっと生きていかなければいけません…そんな不安が絶えない生活を送るなら、いっそ私の事を知ってるレヴィル様の元で暮らした方が良いと思ったんです! お願いですレヴィル様…私も貴方様が治める国の民…いえ奴隷でも構いません! どうか貴方の元で暮らさせてください!」

 そんな事を必死な様相で訴える彼女。

 そう思ってくれるのは嬉しいが、だが…。

「ま、待て、少し落ち着け!」

「ダ…ダメですか…?」

 ルゥイラは不安げに目を潤ませてきた。

「そ、そう言う訳では無いが…その、お前は良いのか?」

「何がですか?」

「いや…私は魔族だし、それに私はお前の頬を…その殴った男なんだぞ…そんな奴を信用出来るのか?」

 そう言うとルゥイラは、いまだ痣が残る頬をさすりながら少し考えるようにし。

「はい…信用できます」

 そう言い切ったのだった。

「な、何故…そう思うんだ」

「何故…と聞かれても私にも良くわかりませんが、とにかく今のレヴィル様はとても信頼が出来る…そんな風に思えるんです」

 そうルゥイラは言う。

 優しさを受ければ、多少なれど酷い事をした者にも心を開く事はあるだろうが、私が劉備玄徳の記憶が戻る前、外道だったレヴィルの時、一回や二回じゃ済まない暴力行為を、彼女に対しやっていた記憶が残っている。

 そんな彼女が一回優しくされた程度で、ここまで信頼してくれるなんて…少し妙に感じる。

 ヤマダの時もそうだ。

 彼は私がいた世界の2000年後の子孫らしく、この私、劉備玄徳の事は、何かしらの歴史書で知り慕っていたらしく、その事から私が劉備玄徳の転生者だと言っただけで、彼は大喜びして信じていた。

 見た目どころか種族も変わったのに、劉備玄徳と名乗っただけで信じ、私の配下になるような事を言ってくるなんて…ルゥイラはともかく、彼は勇者連合筆頭勇者…力だけでは無く、それなりに世の権力者と口で渡り合ってきた筈だ。

 そんな者が、そう名乗っただけ…と言う根拠だけで…普通信じる物だろうか?

 そう言う事もあるかも知れんが…どうも引っ掛かる。

 何か別に理由があるのでは? と思い考え込むが。

「あの…レヴィル様…やはりダメでしょうか?」

 不意に聞こえてきたルゥイラの声が思考を途切れさせる。

 ルゥイラは私が中々答えなかったからか、不安げな表情をしていた。

 これ以上彼女を心配させるのも気が引ける。

 そう思い、とりあえず考えるのはやめ、彼女との会話に集中する事にした。

「ダメと言う事は無い…其方が構わないと言うなら、好きなだけ私の元で暮らすが良い」

「…本当ですか! ありがとうございますレヴィル様! 本当にありがとうございます!」

 ルゥイラは跪き、涙を滲ませながら礼の言葉を言っていた。

 その姿に、やはり嘘偽り無く喜んでいる事が見て取れた。

 その事はやはり妙に感じるが、考えても分からないので気にしない事にする。

 ともあれ村を襲ってきた冒険者は撃退する事が出来た。

 後はゴブリンの母親が、子供を生むまで待つだけだ。

 その間少し休むか…。

 そう思い、何処か腰を据える所はないかと辺りを見回した時、不意に暗黒騎士の姿が目に入った。

「おお、暗黒騎士よ其方にも助けられたな…ありがとう」

 今回もそうだが、ラファルドに捕まりそうになった時も助けられ、この者には本当に世話になった。

 そう感じ礼を述べただけだったのだが….その瞬間、暗黒騎士は跪き、手を拱手の形で組むと深く礼をした。

 以前もやっていたような気がしたが、やっぱりあれは見間違いじゃ無かったのか…。

 魔征域での身分が上の者に対する礼は、バウアンドスクレープ…胸に手を当てて礼をするのがほとんどだが、この世界にも私が前にいた世界のような礼をする魔族の部族が存在するらしい。

 まあそれはともかくとして…この暗黒騎士、金で雇われた割に礼儀正しいような気がする。

 そして畏まって礼をしたのは…もしかして追加の料金が欲しいのか?

 確かに今までの暗黒騎士の功績を見れば、追加料金を払っても良いくらいの働きはしている。

 それに報いてやりたいのは山々だが…。

「あ〜暗黒騎士よ、お前の働きぶりから私も追加の金を払っても良いと思う所なのだが……すまん! 今は手持ちが無いのだ…デスメソルに戻ったら必ずお前が望む金額は払うから、もう少しお前の力を貸してくれないか?」

 何とかもう少し暗黒騎士の助力が願えないかと思い、そう言ったのだが…。

 その言葉に暗黒騎士は、拒否するかのように慌てて手を振ってきた。

「そうか…其方が嫌だと言うなら、金も払えないし無理にさせる訳にもいかんな…すまんな今の言葉は忘れてくれ…そして今までよくやってくれた。また生きて会う事があったらその時はよろしく頼む」

 彼は元々は雇われの傭兵…金が払えなければもはや用は無い。

 そんな私の元など、すぐにでも去りたいのかと思い、そう言葉をかけた。

 しかし、それでも、また暗黒騎士は拒否するかのような手を振ってきた。

 何故去る事も拒否する意味が分からず、その答えを求め、天を仰ぐようにして考える。

 金でも無く、去りたくも無い…となると暗黒騎士が求めている物は…。

「まさか…私の命が欲しいのか!?」

「違います!」

 叫ぶように言う暗黒騎士。

 と言うか…喋った。

 喋ってるところを初めて見た。

 聞こえてきた声色は、青年のそれのように聞こえる。

「じゃ、じゃあ、一体…何が望みなんだ?」

 そう言うと暗黒騎士は、再び礼儀正しく頭を下げるとこんな事を言ってきたのだ。

「先ほどゴブリンを身を呈して守るお姿…深い感銘を受けました…私は覇竜族出身で、名はシェルドラーグ…以前より貴方様のような弱き者の為に戦う主君に仕えたいと思っておりました。どうか私を貴方様の配下にして頂けませんでしょうか?」

 何と暗黒騎士は、配下になりたいと言ってきたのだ。

 暗黒騎士のような、そんな凄い剣士が配下に加わりたいと言うなら、それは飛んで喜ぶ所だ。

 しかしすぐに頭に浮かんだ事はそれでは無く、こいつもか? その事だった。

 勇者ヤマダ、イファリウスの使徒ルゥイラ、そして今度は凄腕暗黒騎士シェルドラーグ…次から次へと凄い者が配下になりたいと言う…一体どうなってるんだ。

 それと暗黒騎士は竜族で、しかも魔征域竜族の中で頂点に君臨する一族、覇竜族だったのか…。

 強くて当然の筈だ。

 力だけなら七皇魔王姫(しちこうまおうき)最強と言われてる、竜の姉上、ヴァルラージャの姉君も、母方は覇竜族の出身だったからな。

 その覇竜族の………。

 覇竜族? それで…暗黒騎士…名前はシェルドラーグ…もしかして…。

「…そうか思い出したぞ、まさかお前…あの白銀魔槍の暗黒騎士シェルドラーグなのか?」

「は…その通りでございます」

 私の問いに素直にそうだと答える暗黒騎士。

 白銀魔槍の暗黒騎士シェルドラーグ。

 暗黒騎士と言えば、普通漆黒の鎧をまとっている物だが、彼がまとう鎧は何故か白銀…まるで聖騎士が着るような鎧をまとっており、そしてそれとは対照的に、扱う武器は禍々しい魔槍だった事から、白銀魔装の暗黒騎士と呼ばれるようになっていた。

 そんな彼の強さはかなりの物と聞く。

 彼は以前、皇魔族の七皇魔王姫アゼリーヴェトと揉めてしまい、一戦を交えたらしいのだが、その戦いで、嘘か誠か分からないが五分の勝負をしたと聞いた事がある。

 もしその噂が本当なら、この者は七皇魔王姫と渡り合える力を持ってる事になる。

 それは凄い事だ。

 だが…一つ腑に落ちない事がある。

「しかし今の其方は普通の暗黒騎士の格好しているが…噂に聞く白銀の鎧はどうしたんだ?」

 そう問いかけると、シェルドラーグはそこで初めて兜を外し顔を見せた。

 中身は声の通り男だったが、その美しすぎる顔は、ラファルドに劣るとも勝らない美丈夫だった。

 その美丈夫の男は困ったように笑うと、白銀の鎧を着てきない理由…その問いに対し答えを返した。

「白銀の鎧を着ていないのは変装の為です。私の二つ名を知っていると言う事は、事情は知ってると思いますが、私はアゼリーヴェト姫殿下に剣を向けた事により、逆賊としてルードレファス魔帝国に追われる身になりました…この格好はバレない為の変装ですよ」

 シェルドラーグはそんな事を笑いながら言っていた。

 なるほど変装の為か…、本国に追われた者が行き着く先…放逐領域デスメソルにはお似合いの理由だ…だがそんな事よりもだ。

「しかし…本当に私の配下に入って良いのか?」

「私は構いません…何か問題でも?」

「いやいやいや…私はお前がアゼリーヴェト姉君と揉めた理由は知っているぞ? 姉君が自由魔族に課した不当な重税に怒りを覚えて、民の為に立ち上がった…そうだったな?」

「…その通りです、それが何か間違いだったのですか?」

「違う違う…そう言う事では無い、苦しむ民の為に立ち上がったお前の行動は、紛れもない正義の士そのものだ…しかしそこがおかしいんだ」

「…そこで何故おかしくなるのですか? 私には言ってる意味が分かりません」

「いや分かるはずだ…何故そのような正義の心を持つお前が、あらゆる外道な事をしてきた私の配下になりたいと言うのだ? 女を殴り、いたいけな娘たちを邪神兵に変えてしまった…そんな非道をやっていたのを…お前も目にしていた筈だ」

 そうこの者は劉備玄徳の記憶が戻る前、外道なレヴィルだった時にデスメソルに来ており、私の非道ぶりは、自分の目で見て分かっている筈なのだ。

 彼の言動を聞く限り、利己的な魔族社会ではあまり見なかったが、正しい心を持った魔族のようだ。

 そんな彼が、今まで悪虐の限りを尽くしてきたこの私を、ちょっとゴブリンを命懸けで助けたくらいで…配下になりたいと思うようになるだろうか?

 これはおかしな事なのだ。

 だがしかし…。

「貴方様は正義に目覚めたのです…十分私が使えるに値する君主でございます」

 感極まった顔してそう言うシェルドラーグ。

 …何を言っても、自分が仕えるに相応しい者にしたいらしい。

 これは…何を言っても考えは変えないだろう。

 私は半ば諦め気味な口調で言った。

「…分かった、お前がかまわないなら…こちらは大歓迎だ。 これからも…その、何だよろしく頼むぞ」

 そう言って肩を叩いてやると、シェルドラーグは肩を震わせ喜んでいた。

「シェルさん!」

 その時だった。

 不意にルゥイラが彼の名を呼んでいた。

「ルゥイラ! 私もレヴィル様の側にお仕えする事が出来たぞ」

「良かったですね!」

 二人はそう言葉を酌み交わすと、お互いの手を握り、くるくる回りながら喜んでいた。

 …随分仲が良くなったもんだな、それに寡黙だと思ってた暗黒騎士が、実はあんな感じになるのも驚いた。

 ともあれ悪い事では無い。

 本気で喜び合う二人の姿に、何か良い物を感じ、こちらもつい頬が緩んでしまう。

 その時だった。

「むぅー!! むーむー!!」

 突然、足元から唸り声が聞こえてくる。

 眼下に視線を向けると、そこには芋虫もとい、銀髪赤眼の吸血鬼…マレーゼがいた。

 ほったらかしにした茂みから這ってここまで来たのだろうか?

 そして先ほどと同じく、何か訴えるようにひたすら唸っていた。

 猿ぐつわをしているので、何を言ってるか分からないが…恐らくは拘束を解けと言ってるのだろう。

 しかしこいつはラファルドの手下。

 拘束を解いたら、いつ何時、瞬間移動を使われて連れ戻されるか分からない。

 …放っておくか。

 そう思い彼女の横を通り過ぎようとする。

「むぅぅぅ…」

 すると彼女は泣きそうな、懇願するような目を向けて悲しい唸りをあげていた。

 その姿を見て足を止める。

 彼女から可哀想で拘束を取ろうとかそんなのでは無い。

 さっきまでの流れから、ある事が気に掛かったのだ。

 それは…。

「…さっき何か必死に訴えているが、まさかお前まで、私の配下になりたいとか言い出すんじゃ無いだろうな?」

 そう聞くと、彼女は少し考えてから、顔を何度も縦に激しく振ってきた。

 早く何度も、何度も。

「…ほ、本当にそうなのか?」

 訝しむようにして聞く、すると彼女は大きく目を広げると、やっと話が通じた…そんな風に思わせる笑顔を浮かべ、また小刻みに顔を振っていた。

「そう…なのか…本当に」

 そう言い、彼女の口にかましてある猿ぐつわに手を伸ばした。

 すると彼女も解いて欲しいのか、自分から顔を近づけてきた。

 後少しで拘束を解いてもらえる。

 マレーゼは、そんな期待に満ちた顔をしていた。

 しかし。

「いや…やっぱり違うな」

 私はそう言うと、マレーゼから手を離す。

「むうううううううううう!!!!」

 辺りに響き渡るマレーゼの声。

 私はそれを無視して、その場を去っていくのだった。

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