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第10話 劉備玄徳、異世界で冒険者パーティーと戦う。

 不思議な浮遊感を感じる。

 自分が上にいるのか下にいるのか分からない。

 感じる事は、ただ緩い清流の中を、流れに逆らって進んでいくような感覚。

「ほい、着きましたよ」

 隣から不意にそう声が聞こえると、その場で踏みしていたはずの固い土床が急にやわらかくなり、そして…幾重の紙を潰すように、足元が沈み込むのを感じた。

 先ほどまで聞こえなかった、鳥の囀りや木々が擦れ合う森の音が耳に入ってくる。

 そこでうっすらと閉じていた目を開けると、視界に飛び込んできたのは、生い茂る木々…それにゴブリンの集落だった。

 これが瞬間移動か…。

 ゴブリンの村が冒険者に襲われてる事を、通信で知った私は、同じ異世界人として協力を仰ぎ、勇者スズキに瞬間移動を使ってもらい、すぐに救援にかけつけたと言う訳だが…どうやらまだ本格的な戦闘にはなっていなかったようだ。

 確かもう一人の勇者サトウが、初心冒険者たちがランク上げの点数稼ぎの為、軍勢とは別行動でゴブリンの村に襲撃をかけたのでは? と言っていたが…確かにそうかも知れない。

 遠目から見る冒険者たちは見えたが、ゴブリン相手にかなり慎重な動きと立ち回りしていた。

 まさに恐る恐ると言った感じに。

 まあそのおかげで、救援が間に合ったので良かったかも知れないが…。

 とは言え少し数は多い…私一人では、ゴブリンたちを守りながら撃退するのは厳しいか…。

 上級魔族とは言え、過去のレヴィルはその意地汚い性格から修練を怠っていた。

 その事から魔法もほとんど使えず、あるのは劉備玄徳の記憶に残る剣技のみ。

 初心冒険者とは言え、恐らく魔法を使える者いるだろうし、剣技だけで戦うのは無理かも知れない。

 そう思い、救いを求めるようにスズキの方を見たが…。

「助けませんよ?」

 スズキはこちらに見向きもせずそう言ってきた。

「申し訳ありませんが、私はヤマダさんほど貴方の事を信用してる訳じゃ無いし、三国志のファンでも無い…何よりまだ神領域の人達と揉めたくは無いんですよね」

「…さんごくし? ま、まあ…そちらにも立場があるでしょう…仕方ないです、ここは一人で何とかしてみます」

「すみませんね…まあ健闘はお祈りしておきます…それじゃ」

 そうスズキは少し困ったように笑うと、ゆらめきながらその場から姿を消した。

 さんごくしなど相変わらずよく分からない事を言い、掴みどころの無い者だが、手伝えない事を気にする辺り、根は良い人間なのだろう。

 まあそれはさておき、一人で一体どうやってこれだけの冒険者たちを撃退すれば良いのか…。

 その事に意識が集中した時だった。

「あ、そうだ…これ忘れ物」

 不意に声が聞こえ、その瞬間、隣にどさりと何かが落ちた。

 見れば、猿ぐつわをかまされ紐でグルグル巻きにされた銀髪赤眼の女…マレーゼが、ムームーと唸りながらそこにいた。

「あのまま勇者連合の天幕に置いておく訳にもいかないですし…お返ししますね。それでは今度こそ本当に去ります。ではでは」

 …そう言うとスズキは再び姿を消した。

 残されたマレーゼは拘束を解こうとしてるのか、くねくねと身を捩らせている。

 そして拘束を解いて欲しそうな目でこちらを見ていた。

 しかもなんか泣きそうな顔をしながら。

 …こんな情けない姿になってるが、実力は私より上、眼前にいる冒険者たちを倒すくらいは容易いはず…ここは彼女の力を貸してもらおうか?

 だがマレーゼの目的は、ラファルドの命令により、私をデスメソルに戻す事…拘束を解いた瞬間それを実行してくるかも知れない…やはりやめておこう。

 そう思い無言で目を逸らす。

 すると。

「むうううううー!!」

 それを不服とする彼女の唸り声が聞こえてきた。

 しかしその時だった。

「こ、こっちに来るな!」

 ゴブリンの声が聞こえてくる。

 どうやら体勢が整った冒険者たちの攻撃を開始しされたようだった。

 その声を聞き、慌ててゴブリンたちの元に向かおうとする。

 背後からはマレーゼがさらにむーむーと激しく言っているのが聞こえたが、気にしてる暇もなく、ゴブリンと冒険者の間に躍り出る。

「レヴィル様!」

 私の姿を見たオロが嬉しそうに声を上げていた。

「え…嘘、上級魔族?…ちょ、ゴブリンしかいないんじゃ無かったの?」

 冒険者たちの中にいた女が、そんな事を言っていた。

「リーダー? ねえ話違くない? ねえリーダー!?」

 大きな声をあげる女。

「う、うるせえな! 下調べした時はいなかったんだよ!」

「でも今目の前にいるじゃ無い! 上級魔族なんてアタシたちが倒せる相手じゃ無いわよ! どうするの!? すぐ決めて!!」

 女のその言葉に、リーダーと言われた男は、より深く眉間に皺を寄せると、意を決したように声をあげた。

「…作戦はそのまま! ただし目標はあの上級悪魔! とりあえず様子を見るぞ…いけ!!」

 そうリーダーらしき男が言うと、まず後ろにいた男がこちらに矢を打とうと弓を構えてきた。

 それに気づき剣を抜いて待ち受けると、それと同時に矢が放たれる。

 そこまで鋭い撃ち込みでは無かったので、体を逸らし矢をかわした。

 かわした後、再び正面に意識を戻すと、メイスを持った神官職らしき太めの男が、リーダーに向かって何かの補助魔法をかける。

 その直後にこちらに向かって走り出すリーダー。

 補助魔法をかけられた魔法光が収まると、こちらに向かって袈裟斬りを打ち込んできた。

 繰り出された太刀筋は、補助魔法のおかげか、気づいた時には眼前に剣が迫るほど鋭い打ち込みとなる。

 それはとてもかわせる物では無く、咄嗟に剣で受け止めた。

 甲高くも鈍い金属音、それが辺りに響き渡り、途端に激しい鍔迫り合いが起きるも、彼の膂力に打ち負けてしまう。

 押された事でよろめくように後ずさるも、何とか剣を構え直した。

 しかしその様子に、リーダーは、はっとした顔をすると、直後にニヤリと笑ってこう言ってきた。

「こいつ…弱いかも知れないぞ、きっと苦労知らずのボンボンだぜ!! はは…こいつはついてる…ゴブリンと一緒に、上級魔族討伐の実績も得られるかも知れないぞ!?」

「リーダー油断しないで! まだ魔法の力を隠してるかも知れない! …火の精霊よ…我が……穿て! ファイアーボール!!」

 女がそう叫ぶと火球がこちらに向かって飛んで来た。

 一気に目の前に迫る炎の球。

 体勢が崩されていた事で厳しかったが、咄嗟に目の前に向かって飛ぶと、空中前転をして火球をかわした。

 通り過ぎる際、火球の熱量で服がチリチリと焦げる。

 そうして火球をやり過ごすと、そのままクルクル回りながら地面へと着地した。

「…け、結構良い身のこなしをするな」

 少し呆気に取られたリーダーがそう呟いていた。

「だから油断しないで言ったのよ…あの動き只者じゃ無いわよ!? 初級のアタシたちじゃ勝てないわ! 撤退しましょう!」

 そう叫ぶ女。

 リーダーはその言葉に、一瞬考えるそぶりをするが…。

「…今更引けるか! 冒険者人生…攻める時に攻めなきゃ上にはいけないんだよ!」

 迷いを振り切るようにそう叫ぶと、リーダーはこちらに向かって剣を構え直した。

 ここで女の言葉に従って引いてくれれば助かったのだが…仕方が無い。

 こいらも対抗するように剣を構える。

 その時だった。

「ち…仕方ないな!」

 弓士はそう言うと、こちらに突然矢を打ってきた。

 リーダーに意識が集中し過ぎて反応が遅れたが、何とか後方に飛び退って矢をかわした。

 …ように見えた。

 飛び退った刹那、ゆっくりとした時間の中、弓士は既にニ射目を装填し、飛び退った私に照準を合わせ…打ってきた。

 しまった…空中に飛んでいる以上これはかわせない。

 く…最初の一撃が大した事なかったから油断してしまった。

 そもそも最初に射った矢は牽制目的で、攻撃のそれじゃ無かったのだ。

 だが今となってそんな事が分かっても後の祭り、眼前に迫る矢は確実に顔を捉えていた。

 ダメか…!

 ぎゅっと目を瞑りその時を待つ。

 ダン! と言う突き刺さる音が辺りに響き渡った。

 …しかし顔に何かが刺さるような感触はしない。

 恐る恐る目を開けると、そこには緑色の逞しい背中が見える

 これはガス…そうあのガタイが良いゴブリンのガスがそこにいた。

 矢はガスが棍棒で受け止めていたのだ。

「だ、大丈夫だか!? レヴィル様!」

「あ、ああ…助かったぞガス!」

「どういたしたしてだだ…さあお前らやるぞ!」

 そう言うと残りの3人のゴブリンも踊る出る。

 戦うつもりなのか、手には武器を持っていた。

 しかしその武器は、刃が溢れた小刀に手斧…それとボロボロの柄の槍、ゴブリンらしくはあるが、何とも心許無い装備に、つい心配から声をあげてしまう。

「お前ら無理はするな! 相手は普段からお前らを狩ってる冒険者だぞ!?」

 そう彼らの身を案じ言ったのだが…。

 それにガスはニヤリと笑うとこう返してきた。

「おらたちの村の事なのに、おらたちが何もしない訳にはいかないだ! …それに」

「?」

「レヴィル様は、おらたちみたいな三劣魔族なんかの為に体を張って戦ってくれたんだ…それに少しでもむくいてえ! だから一緒に戦わせてくれ!」

 そうガスが言うと、他の3人のゴブリンたちも同意を示すように頷く。

 そしてこちらが止める間も無く、4人は鬨の声を上げてリーダーに向かっていった。

「や、やめろ! 無駄に命を落とすな! 戻れ! 戻るんだ!」

 そう叫ぶが、ゴブリンたちは一切後ろ振り向かず突進する。

「ち…来るなら来い!」

 リーダーはそう言うと、ゴブリンたちを迎撃するべく剣を構える。

 今のリーダーは補助魔法で、単純な身体能力は私より上、貧弱なゴブリンが束になっても勝てる訳が無い。

 このままでは一方的に殺されてしまう。

 しかしもう止める術は無い…後数瞬でその未来は現実の物になるだろう。

 そう思った時には、ガスに向かって剣が振り下ろされていた。

 体格が良いとは言え、あの剣を防ぐ事はガスには出来ないだろう。

 …そう思ったのだが。

 ガッと言う打突音が聞こえたが、刃はガスに届いてはいなかった。

 ガスは自身が持つ棍棒で、リーダーの剣を受け止めていてのだ。

 あの私を打ち負かした剣を、ただの棍棒で受け止めていたのだ。

「な…!」

 驚きの声を漏らすリーダー。

 しかし驚く暇も無く、今度はゴブリンの子供オロが、リーダーの顔を目掛け斬りかかる。

 それは頬かすめたものの、何とか寸でかわすリーダー、しかし攻撃は止まらない…今度は太っているゴブリンムッチョが手斧で追撃、それも後方に飛んでかわしたが、さらにそこを痩せているゴブリンのヒョロが槍でついてくる。

 迫る槍はリーダーの体を捉えたかと思ったが

、リーダーは槍先を剣で弾き、難を逃れていた。

 そこから槍が弾かれて体勢が崩れたヒョロに斬りかかったが、それを防ぐようにガスが棍棒で弾き飛ばした。

 その後も4人は攻撃を止めず、次々と襲いかかる。

 中々どうして見事な連携だ。

 リーダーの顔には確実に焦りが浮かんでいた。

「補助魔法かかってるのに…ゴブリン相手に何やってるのよ!」

「そんな事言っても…何か強いんだよこのゴブリン共…一体どうなってんだ! …く、ヒルト援護を頼む!」

 そうリーダーが言うと弓士はゴブリンに向けて弓を引き絞る。

 弓士はそのまま指を離すと、矢はゴブリンの一人、オロに向かって飛んでいく。

 それにいち早く気付き、ゴブリンたちの前に躍り出ると、矢を撃ち落とすべく剣を振るった。

 キンッと言う金属音と共に、地面へと落ちる矢。

 弓士はハッとするが、すぐ悔しそうな顔をすると、すぐ第二射を構え…放つ。

 彼の射速に慣れてきたのか、飛んできた矢に向かって行くように飛び出すと、そのまま矢を剣で弾き、勢いのまま一気に距離を詰めた。

 一瞬で距離を詰められた事で驚きの声を上げる弓士。

 取った…! そう思い、彼の命を刈り取るつもりで下に構えていた剣を斬り上げた。

 だがその瞬間横腹に鈍い痛みが走る。

 「おおおおおお!!!」

 突然の雄叫び、見れば神官が、私の脇腹をメイスで殴っていた。

 神官はその勢いのまま、私を弓士から引き剥がそうと、メイスを横に薙ごうとする。

 だが、まだだ!

 吹き飛ばされそうになる中、弓士が持つ弓に剣を届かせ、何とか両断する。

 木の細片を撒き散らしながらへし折れる弓。

 その光景が遠くなるのを感じた直後に、背中に激しい衝撃を感じた。

 吹き飛ばされた衝撃で地面に打ち付けられたのだ。

 ガハッと血を吐き嗚咽を漏らすと、土煙を上げながら地面を転がる。

 メイスの直撃、それは当然の事象。

 ダメージは結構な物があったが、流石魔族の体、人間よりは頑丈で、痛みはあったがすぐに起き上がる事が出来た。

「レヴィル様!」

 それでも心配する声をあげるガス。

「こちらは心配するな! お前たちは目の前に戦いに集中せよ!」

「は、はい!!」

 私の言葉にすぐに目の前のリーダーとの戦いに意識を戻すガス。

 再び始まる猛攻。

「お、おいアンリ! 魔法で援護してくれ!」

 また再開する攻撃に、弓士の援護も失った事から今度は魔法使いの女に援護を期待するリーダーだったが、しかし…。

「無理よ! そんなに密集してたら、あんたにまで魔法があたっちゃうわ!」

 ゴブリンたちがまとわりつくように攻撃してる事から、仲間に当たるのを恐れて魔法は使えないらしい。

 どうやら戦いの流れはこちらにあるようだ。

 ここで魔法使いも無力化させれば、後方からの援護は無くなる…そうなれば完全にこちらの物だ。

 そう思い魔法使いへと向かっていく。

 しかしそれを遮るように神官が立ちはだかった。

 それに飛び出した勢いのまま、大上段の袈裟斬りを浴びせるが、神官はどっしりとした構え、メイスを構えると。

「ぬうん!」

 いかにも力がありそうな掛け声をあげて剣を受け止める。

 甲高い金属音と共に始まる武器の押し合い。

 しかし鍔迫り合いとなった瞬間、肩と脇腹に痛みが走り力が抜ける。

 先ほどのメイスの攻撃と…治りかけていたハルビヨリに受けた肩の傷が痛んだせいだ。

 それに意識を奪われ、つい込める力が緩んでしまった。

 神官はその隙逃さず、吹き飛ばすようにメイスを横へと薙いだ。

 あっさり吹き飛ぶ身体。

 飛ばされた勢いから、足が地につくと滑るように流されたが、何とか踏み留まる。

 直後に神官は、魔法使いの女を守るように立ち塞がる。

 魔法使いを倒せば形勢は逆転出来ると思ったが、そう上手くはいかないか…。

「アンリ! 頼む何か援護を!」

 再びリーダーが叫ぶ声が聞こえる。

「そんな事言ったって…」

 困るような声をあげる女の魔法使い。

 リーダーにまとわりつくゴブリンに向けて照準を合わせていたが、その動きはおぼつかない物になっていた。

 初心冒険者らしく、精密な魔法の射撃はまだまだ不得手なようだった。

 しかしそうこうしていると。

「こっちは良い! 他の、何でも良いから…何かそこらの家とか燃やして、とにかくこいつらの気を引いてくれ!」

 焦ったリーダーが突如そんな事を言い出す。

 女の魔法使いはこくりと頷くと、杖の照準をリーダー達から外し、適当な建築物に合わせると火球を撃ち放った。

 木と皮布を組み合わせただけの家はすぐに燃え上がる。

「あああああ〜!!」

 オロはそれに明らかな動揺を示す声をあげてしまう。

 今この村には難産で苦しんでるオロの母親がおり、その子供が生まれるまで時間を稼ぐのが、この村を守る元々の目的だった。

 今のは運良く、オロの母親がいた家では無かったが、このままでは母親がいる家に火をつけられるのは時間の問題だ。

 それを知ってか知らずか、女の魔法使いが次に狙ったのは…何とその母親がいる家だったのだ。

 オロも杖が向いてる先で母親の家だと気付き、身を呈して守る気か、家に向かって走り出した。

 そのオロの行動を見て、しめたと感じた女魔法使いは照準を走るオロの背中に定めた。

 ゴブリンが初級とは言え、ファイアーボールの直撃を喰らえば、即死は必死。

 殺させるものか!

 そう思った瞬間には走り出すも、女魔法使いの杖の先からは火の精霊が集まり、もう魔法が放たれる寸前だった。

 もう魔法の妨害する事は間に合わない。

 そう感じ、向かう先をオロ方へと変える。

 立ち塞がる神官の前で力強く踏み締めると大きく跳躍、頭上を大きく飛び越えて行く。

 虚を突かれた神官の驚く声が下から聞こえてくる。

 そしてその直後、オロに向かってファイアーボールを放たれたが、その間に割り込むように降り立つと、魔法に向かって背中を大きく広げた。

 直後、ドンと言う衝撃と共に、凄まじい熱風が髪を凪いだ。

 そして次に感じたのは、熱い針で背中一面を刺されるかのような感覚。

 焦げついた肉の匂いが漂い、染みつくような痛みがジンジンと強さを増してくるのを感じる。

「く…」

 あまりの痛みに片膝をついてしまう、

「レヴィル様!!」

 心配するオロの声。

「…私の事は…良い、それより魔法使いを…」

 魔法使いを何とかしろ、と言いたかったが痛みで言葉が続かない。

「おら…おら」

 オロはこの状態にしてしまった事を自分のせいだと思い、完全にパニックになってオロオロとしていた。

 その動揺は他のゴブリンにも伝わり、リーダーを相手にしていたゴブリンたちも、こちらを心配した為か、おぼつかない動きになってしまう。

 リーダーはその隙を逃さず、次々にゴブリンたちをその刃の餌食とした。

 切り付けられる度に上がる悲痛な叫び。

 命までは刈り取られなかったものの、皆相当な深手を負って、こちらへと下がってきた。

 自身の傷ももはや満足に体を動かせる物じゃなく…完全にこちら側は総崩れ状態。

 もはやこれまでか…。

 そう感じ、ゴブリンたちに叫ぶように言った。

「お、お前たち…無理でも母親を担いで逃げろ!」

「だ…だどもレヴィル様はどうするだ!?」

「私の事は気にしなくて良い、さあ早く行け!」

「け、けど…」

「行け!!!」

「は、はい!」

  怒鳴るように言うと、母親いる小屋に向かって走り出すゴブリンたち。

「良し! 良い感じに距離が取れたぞ! アンリ、ダメ押しに魔法を叩き込んでやれ!」

「分かったわ!」

 答えると同時に詠唱を開始する女魔法使い。

 途端に杖先に火の精霊が集まりだす。

 …またファイアーボールが来る。

上級魔族の肉体があったから弱い私でも一度は耐えられたが…次はもうダメかも知れない。

 だが、それでも彼らが少しでも逃げる時間が稼げるのなら…!

 その一念で立ち上がると、全てを受け止めるが如く大きく体を広げた。

その姿を見て女魔法使いが、少し顔をしかめると。

「…何で上級魔族がゴブリンなんかの為に…」

 そう呟いたのが聞こえたが、しかしすぐに。

「余計な事に気を取られるな! 早く撃て!」

 リーダーは、女魔法使いが感じた疑問を、払拭させるかのように声を上げた。

「…分かってるわよ!」

 その声に女魔法使いは、少しイラついた顔をするも、命令通りこちらにファイアーボールを放ってきた。

 再び迫る、身を焦がす熱風。

 その後、一瞬で炎に包まれた。

「ぐあぁぁああぁぁ!!」

 先ほどと同じ痛みがまた襲ってきた。

 さらに今度は、視界が端から暗くなっていき何も見えなくなってしまう。

 目が焼けたのかも知れない。

 それでも身を焦がしてくる炎。

 意識も遠のいて行くような気がする。

 この感覚は劉備玄徳の時、白帝城で死んだ時に感じた物と似ていた。

 私はまた死んでしまったのか…。

 それを確信させるように体の痛みも無くなって行く。

 それと同時に目も見えるようになってきた。

 死後の世界に行き、魂だけの体になったから、また見えるようになったのだと思った。

 現に体も淡く光っており、それが魂となった姿形なのだろうと感じた。

 この体から発せられる白緑色の光が死んだ証なのか…まるで回復光に似た光だ。

 ん? 回復光…これは回復光じゃ無いか?

 回復光とは、回復魔法もしくは回復薬など、何かしらの癒しの術を受けると対象者から発せられる発光現象の事だ。

 その光が体から発せられてると言う事は…。

 恐る恐る辺りを見回してみると、そこは死後の世界では無く、先ほどと同じ場所、ゴブリンの村だった。

 後ろにいたゴブリンも、回復光を体から放ち、傷が回復しているように見えた。

 一体これは…?

 何が起きてるのか考えていると、不意に声が聞こえてきた。

「レヴィル様ー!」

 女の声だった。

 その声の方へ向くと、そこにはあのメイド、ルゥイラがこちらに手を振って立っていた。

 そうかこの回復はイファリウスの使徒の…仲間だけを完全回復させる伝説の回復フィールドか…!

 …だけど何故彼女がここに?

 彼女はイファリウスの使徒である事を知られずに生きてく為、人が少ない地を目指して暗黒騎士と旅だったはず…ん? 暗黒騎士?

 それを思い出した瞬間だった。

 私の頭上を超え、黒い物が飛んでいくのが見えた。

 それはそのまま地面に降り立つと、着地と同時にその重みからか、地面は爆発し土煙が立ち昇った。

 そしてゆっくりと起き上がると、完全にそれが何なのか理解した。

 全身を漆黒の鎧で覆った騎士。

 あのマレーゼも赤子同然に扱うほどの腕前を持つ、あの暗黒騎士だったのだ。

 それを見た冒険者の顔は即座に真っ青になる。

「無理無理無理! 暗黒騎士は流石に無理」

 無理を連呼する女魔法使い。

「こ…ここまで来て…上級魔族でもどこかのボンボンだと思ったからやれると思ったのに…」

 悔しそうに言うリーダー、そして続けてこう叫んでいた。

「撤退だ! 皆、全力で逃げろ!!」

 そうリーダーが叫ぶと、冒険者たちはこちらの様子を探りながら後退りし、少し距離を取ったところで一斉に後ろに広がる森へと向かって、一目散に駆け出して行った。

 しかしその時だった。

 逃げる冒険者は皆必死な形相を浮かべ逃げていたが、あの女、魔法使いだけは最後までこちら訝しむような視線を送ってきたのが、少し気になるのだった。

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