11: ハジメテの経験
……なーんて、今まで感じたことのない、よくわからない感情に悩みそうになっていた瞬間。
「リ、リリアナ様?」
「────────はい、なんでしょうか?アデル伯爵令嬢」
心配そうなアデル伯爵令嬢の声に瞬時に反応してにっこりと微笑みを作った。
「え、……今、白目を剥いて気絶していたような……い、いえ、気のせいですわね!そ、それとわたくしの事はクリスティーナと呼んで下さいませ!……もう、お友達なのですから」
「わかりました……クリスティーナ様。クリスティーナ様のように素敵な方がお友達になって下さるなんてとても嬉しいです」
少し恥じらうように頬を染め、視線を下にする。それは一歩間違えば恋する乙女のような表情だった。ギリギリ「初めての友達」に照れているように見えると思うのだが……。と、そんな内心の焦りは徹底的に隠すしかない。本当ならこれはあの馬鹿ゲス野郎向けの仕草だが今は仕方が無かった。なんと言っても緊急事態なのだから。
そう……リリアナは《《あの後》》この伯爵令嬢が言うように本当に気絶してしまったのだ。
緊張の糸が切れたのか、急に我に返って自分のしたことが恐ろしくなったのかはわからないが、今は真っ白に燃え尽きたみたいな感じになっているようである。全く、自分からオレを押しのけて外に出てきたくせに気絶するなんて困ったものだ……。
やっぱり、まだオレが面倒を見てやらないとダメみたいだな。
オレはなぜか内心ホッとしつつ、その後もアデル伯爵令嬢と和やかにお茶を飲んだ。
「明日もお伺いしてもよろしいでしょうか?!」
「もちろんですわ」
オレがそう返事をするとアデル伯爵令嬢は「楽しみですわ!」と嬉しそうにしている。明日は学園のある日だから帰りに立ち寄るってことだろうか?それならお茶とお菓子の準備をメイドに頼んでおかないとな。伯爵令嬢のおもてなしくらい出来ないと“リリアナ”の評判にも関わってきてしまう。
それにしても、この令嬢は本当に“リリアナ”の味方になったのだろうか?“リリアナ”はすっかり信用しているみたいだが、《《あの女》》みたいに騙して裏切る可能性だってゼロじゃない。オレくらいは警戒しておかないと────。
「私も、楽しみです」
真意を隠し、にっこりと笑えばアデル伯爵令嬢は満足気な顔をした。
こうして明日の約束までしてなんとかその場を凌いだのであった。
***
そして、翌日。オレはまたもや困惑する羽目になった。なんとアデル伯爵令嬢が朝も早くから男爵家にやってきたからである。
しかも、大量の荷物を詰め込んだ馬車を2台ほど引き連れてだ。男爵家の使用人がリリアナを起こしに来たのだが……うん、リリアナは昨日から気絶しっぱなしなのでオレが対処するしかないかぁ。
「おはようございます、リリアナ様!」
「……おはようございます、クリスティーナ様。あの、こんなに早くからどう「ではさっそく始めましょうか!」へ?え?えぇぇぇぇ……?!」
いつの間にか応接室に運ばれていた馬車の中身は、大量のドレスにメイク道具、さらには宝石まであった。ずらりと並んだそれを未だに状況についていけないでいるオレにあれやこれやとあてがい、「これも似合いますわね!」とアデル伯爵令嬢は興奮気味に目を輝かせている。
「わたくしがリリアナ様をプロデュースすると申しましたでしょう?ご心配なさらなくても、男爵夫妻に許可はとっていますわ!お友達の……いえ、親友のわたくしにお任せ下さい!学園にも今日から一緒に登校しましょうね!」
さすがにこの展開はオレも未経験だ。この伯爵令嬢、ちょっと強引すぎやしないか?!なんなんだこのテンションの高さは……それとも令嬢同士ってこういうものなのか?!わからない!
この時だけは“リリアナ”に代わってほしいと思ってしまったほどだ。
こうしてオレは、昨日の今日でなぜかお友達から親友になっていた鼻息の荒いアデル伯爵令嬢に朝からもみくちゃにされたのであった。




