「おっぱいの北半球と南半球」について熱く語り合っている友人達が、俺の彼女の「ちっぱい」をバカにした。怒りで「俺は巨乳派ではなく貧乳派だ!」と叫んだ結果……彼女と初体験してピロートーク♡
※下ネタあり
※2「ニコニコ大百科記事」から引用。一部改変。
高校の昼休み時間。
俺は自分のクラス(2ーA)で、幼馴染みで同級生の彼女「小雪」と一緒に昼飯を食べる約束をしているため、教室の椅子に座ったまま待っている。
(小雪と一緒のクラスになりたかったなぁ……。来年は受験で、デートする時間なんかも減るんだしさ。神様は意地悪だよなぁー)
「達哉。お前は北半球派か? それとも南半球派か?」
一人心の中で愚痴っていると、男友達の俊介が俺にそう聞いてきたので、普通に答える。
「北半球だな。いつかエジプトのピラミッドを見に行きたいと思っているからさ」
「……お前何の話してんの? 俺様が聞きたいのは『おっぱいの北半球と南半球』だぜ?」
(…………)
「俊介、俺さ、いい病院を知っているから今度紹介するよ」
「俺様は正常だぜっ! 人を病院送りにしようとするなっ!」
「そうか……なら、俺が地理の勉強を優しく教えてやるよ? 安心してくれ、決して見捨てはしない! 君の屍は――越えていく!」
「ただの勉強の話なのに壮大すぎるだろうがっ! あと俺様死んでるじゃん!?」
「骨は拾ってやるよ!(グッ!)」
「いい笑顔で親指を立てるな! 死んでねーし!」
うんうん、相変わらずいいツッコミ。
けど話が進まないから止めよう。
「マジな話、俊介はもうちょっと勉強を頑張ろうな? 北半球と南半球は、地球を赤道で二分したときの北側と南側のこと。どこをどう間違えたら『地球』を『おっぱい』として覚えてしまったのか……。俊介の将来が心配だよ」
「確かに俺様は勉強が苦手だが……。『おっぱいの北半球と南半球』という単語は、昔から存在している言葉だと言ったら……どうする?」
「アッハッハッハッ! って笑う」
「笑いながら言うなッ!」
「……笑うところでしょ?」
「いんや、ネタじゃなくてガチでマジな話だぜ」
「……ふ~ん。なら今スマホで調べるから、違っていたらジュース奢れよ?」
「いいぜ」
俊介の言質を取ったので、俺はさっそくネットで「おっぱいの北半球」と検索してみると……このようなことが記されていた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
【北半球】※2
1.天体において赤道より北側の部分を指す。対して南側は南半球と呼ばれる。
2.女性の胸部、平たく言えばおっぱいの上部分の比喩として使われる。
【おっぱいの北半球】※2
・概要
主に胸元が開いた服から覗いた状態や露出度が高い衣裳でおっぱいの上半分が見える状態に使われる。
逆に下半分が見える場合は南半球と称される。
ただし「球」と称されるためにはそれなりの曲線を描くだけの質量が必要とされるため、通常胸部が貧しいというか――ぶっちゃけちっぱいな方々に対して使われる事はない。
・起源
女性の胸部でも巨乳またはそれ以上のサイズを持つおっぱいを、メロンやバレーボールなど球状の物体に喩える事はメディアを問わずかなり以前から存在し、その点では具体的な起源は不明と言ってもいいだろう。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
俺は今読んだ記事を頭の中で整理する。
(つまり簡単にまとめると……)
おっぱいの北半球=おっぱいの上半分(上乳)
おっぱいの南半球=おっぱいの下半分(下乳)
注意点――巨乳限定。
…………マジだったよ。
やべーよ人類。
どんだけ「おっぱい」が好きなんだよ……。
いや、あまり人のことは言えないんだけどさ……。
「今回勉強が必要だったのは、達哉くんのほうでちたね~」
俺が驚きで黙っていると、俊介が赤ちゃん言葉で煽ってきた。
……若干イラッとするが、ここは素直に認めよう。
「悪かった。俺が無知なだけで俊介は正しかった。笑ってしまって……ごめん」
謝罪の言葉と一緒に頭を下げる。
「いいって、いいって、気にしてないぜ! 普段は俺様のほうがバカだからな! 日頃のツケだぜ!」
こういうところが俊介のいいところだよな。
「それよりようやく分かってもらえたから、改めて聞くぜ? 巨乳派の達哉は、おっぱいの北半球と南半球――どっちが好きだ?」
ああ……肝心な質問を忘れていた。
俊介は最初から「おっぱいの北半球と南半球」の好みについて、俺に聞いてきたのだった……。
……失敗したなぁ~。
俺は巨乳よりちっぱいの方が好きなんだけど、ちっぱい好きはマニアックな奴、と呼ばれかねないので「巨乳が好き」という嘘を以前俊介に伝えていたのだが……裏目に出てしまった。
「……人に聞く前にさ、自分はどうなんだよ?」
おっぱいの北半球と南半球。
どちらを「好き」と言うのが正解か分からなかったので、俊介に質問で返した。
「俺様か? 俺様は北半球だぜ! あのどこまでも視線が吸い込まれそうな――深い谷間! 埋もれて死にたいとすら思えるほどのエロさを感じられる――北半球の谷間! 谷間! 谷間! 谷間! おっぱいは谷間が命! そして谷間が最も美しく映える角度こそが北半球からの眺め! つまり――おっぱいの北半球こそが最強最高なんだぜっ!」
いやいや。そんな熱く語られても、俺は巨乳に興味ないし……。
ひとまず、俺も北半球が好きだと言っておけば間違いないと思い、口を開きかけたとき……。
「いえいえ。下から見る! 下から覗く! 下からのアングル! 普段見えない、見ることが出来ない、南半球こそ至高! そしてなんと言っても――おっぱいの付け根のエロさが素晴らしい! もはや一種の芸術品! 断然に南半球の眺めのほうが、北半球よりもいいですね!」
俺の後ろの席で話を聞いていたらしい男友達の英影が、いきなり俺と俊介の会話に参加してきた。
「英影、お前マニアックすぎてウけるわwww。南半球なんて、AVぐらいでしか見られないだろう?」
「ぐっ。俊介君が正論で責めてくるとは……」
「だがな、北半球は違うぞ! 日常的にも見れる可能性があるし、グラビア写真集を開けば見放題だからな! エロい、手軽に見れる、谷間最高!」
「違うんですよ、俊介君! あなたは何も分かっていない! 普段見れないからこそ、手軽に見れないからこそ、そこに希少性が生まれ、より輝いて魅力的に感じられるのです! 南半球は『希少性』という点において、北半球に勝利しているのです! つまりは南半球こそが至高なのですよ!」
なんか話が白熱してるなー。
俺、いらなくねぇか?
こんな下らないおっぱい話なんかより、小雪と一緒に弁当を食いながらお喋りしたいなぁー。
……というか、当たり前のように英影も「おっぱいの北半球と南半球」の意味を知っていることに、俺は驚きなんですけど……。
何? 巨乳派コミュニティでは知ってて当然なの?
どこでそんな情報を得たのか、逆に興味があるんだけど。
「達哉! お前はどっちだ!? こうなったら多数決で決めようぜ!」
「ええ、それが平和的解決ですね。達哉君は『おっぱいの北半球と南半球』どちらが素晴らしいと思いますか?」
ん? どっちが好きか、という話から、どっちが最高で素晴らしいか、という話にズレてるよな?
「達哉君、お答えを」
「どうした達哉? 早く答えろよ」
俺……なんて答えればいいの?
どっちを選んでも、選ばなかった方から責められる未来しか見えないんだけど……。
「………………」
「……なぜ答えないんですか、達哉君? まさかとは思いますが……貧乳派?」
(ギクッ)
「そう言えば達哉が付き合っている彼女……おっぱいが小さかった気がするぜ?」
(ギクッギクッ)
……っておい、ちょっと待てよ。
服の上からとはいえ、人の彼女のおっぱいに視線を向けたことを、彼氏の前で堂々と喋るな――不愉快だぞ?
「し、俊介君! それぐらいに……」
「以前チラッと制服の上から見ただけなんだが、俺様のおっぱいセンサーによるとアレは――Aカップ。貧乳の中の貧乳『ザ・貧乳』だったぜ 」
まずい……本気でムカついてきた。
小雪のおっぱいに視線を向けたという話だけで不愉快なのに――貧乳を連呼するんじゃねぇよ。
そして何よりも、俺の彼女の身体的特徴を――貶すな。
……小雪の胸がAカップなのは、否定出来ない事実。
少ないお小遣いから自腹を切って、彼女の姉に聞いた情報なので……間違いない。
「俊介君! 言葉が過ぎます! お付き合いしている達哉君の前で言うのは非常識ですよ!」
「けど――事実だぜ? なぁ、達哉? お前の彼女は貧乳だよな?」
「………………」
本当に――キレそうだ。
「はぁ、仕方ねぇ。彼女が『貧乳』という可哀想な達哉のために、俺っち秘蔵の巨乳AVを何個か貸してやるよ! これでおっぱいへの欲求不満は万事解決だぜ! 最高のオナニーを保証するし、オカズにも困らなくなるぜ! 俺様に感謝しろよな!」
(ブチンッ!)
堪忍袋の緒が――キレた。
「いい加減にしやがれ俊介ッ! 巨乳に魂まで売ってしまったエロ男がッ!!」
俺は座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、俊介にそう言い放った。
「な、なんだよ? 何キレてるんだ?」
「てめえの鈍感さと失礼さと巨乳大好きさ加減にキレているんだよッッ!!」
「た、達哉君。どうか怒りを鎮めて下さい」
「無理だなッ! 丁度いいから英影も聞いておけッ!」
仲裁しようとした英影を相手にせず、溜まりに溜まった色々な怒りを――言葉として吐き出す。
「一番初めに言っておくが、俺は巨乳派ではなく貧乳派だ! そして貧乳好きの俺から言わせてもらうが――小さいおっぱいを『貧乳』と呼ぶんじゃねぇ! おっぱいの大きさを気にしている女の子は多いんだから、もっと違う言い方をしやがれ! それに『貧乳』という言葉自体が侮蔑的な呼び方で気に入らねぇんだよ! せめて『ちっぱい』と呼べ! まだこっちの呼び方のほうが可愛いからな! そして……お前達二人は知っているか? 食生活の変化などで、日本人女性のバスト平均サイズは――昔と比べて大きくなっているんだよっ! つまり、ちっぱいはステータスであり、希少価値が高くなっている! ゆえに、ありふれつつある巨乳なんかよりも、レアになりつつあるちっぱいの方が素晴らしい! 俺にとっては『ちっぱい』こそが最強最高絶対正義!!」
息を整えるために言葉を切ったが……。
まだ収まっていない怒りに突き動かされて――再び言葉を吐き出す。
「次だッ! お前達二人に一番大事なことを教えてやる! 俺はちっぱいの小雪が好きなんじゃねぇ! 小雪のちっぱいが大好きなんだよっ! ちっぱいを気にしている小雪。頑張って大きくしようと色々試している小雪。ラッキースケベ(偶然)で着替えを覗いてしまった時、恥ずかしそうに胸を隠して『ちっちゃくてごめんね』と申し訳なさそうに謝る小雪……。俺はちっぱいがキッカケで小雪に惚れたんじゃないっ! 小雪に惚れたから――ちっぱい好きになったんだよっ!」
「た、達哉君……」
英影が言葉を挟んできたが、無視して話を続ける俺。
「あとな! 男の全てが巨乳好きだと決めつけるんじゃねぇ! 男の全てが、おっぱいでオナニーしてるわけないだろうがっ! 俺がオナニーのオカズに使っているのは、小雪とアンなことやソンなことをする妄想だけだッ! 巨乳に欲求不満なんて抱えてないし、オカズにも困ってねぇよ! 余計なお世話だ! さらに言うと……」
「達哉君ッ! う、後ろに……」
「さっきからなんなんだよ!? 先生でも立っているのか!?」
夢中で喋っていた俺は、英影の言葉に若干の苛立ちを感じつつも、言われた通り後ろを向く。するとそこにいたのは……。
「こ、小雪!?」
い、いつからだ!?
いつから俺の背後に!?
「は、はい! これ、たっちゃんの分のお弁当だから!」
俺と目を合わさずに、可愛らしいピンク色の弁当袋を手渡してくる小雪。
……って、今重要なのは弁当じゃない!
俺の喋っていた内容が耳に入っていたのかどうか……尋ねなくては!
「小雪は俺の話……聞いてた?」
「っ!?!? う、ううん、聞いてないよ! 私ね、先生に用事があるのを思い出したから、今日は一緒にお昼ご飯食べられないの! ごめんね、たっちゃん! それじゃあ私――もう行くね!」
小雪はそう言うと、俺の返事を待たずに教室を早足で出て行った……。
(あの反応は……絶対に聞かれている)
「「ど、ドンマイ!」」
「てめぇらのせいだろうがっ! どうしてくれるんだよぉぉぉおおおおおお!!!!!」
見事にハモった俊介と英影の言葉に怒鳴る俺の声が、昼休みの教室内に響き渡るのであった……。
♢ ♢ ♢
やらかしてしまった昼休みの放課後。
俺は今、小雪と一緒に下校しているのだけど……。
「…………」
「…………」
ち、沈黙が気まずい。
どうする? どうすればいい?
『小雪をエッチな目で見ていてごめんなさい!』と謝ればいいのか?
『小雪のことが好きすぎてエッチな妄想をしていました! エッチしたいです! エッチさせて下さい、お願いします!』と正直に打ち明ければいいのか?
……分からない。
彼女に男同士のエロなボーイズトークを聞かれた場合、どうフォローすればいいのかが分からない……。
「怒ってくれて、嬉しかった」
「え? 何の話?」
唐突な彼女の言葉に理解が追い付かず、聞き返す俺。
「……昼休みのお話。私のために、たっちゃんはお友達に怒ってくれたから――嬉しい」
「あ、ああ、なるほど。そっちの話か……。俺が怒るのは当たり前だよ、自分は小雪の彼氏なんだからさ。彼女を悪く言われているのに、黙っていられるわけがない」
「ありがとう、たっちゃん」
「なぁに、彼氏として当然さ! ……やっぱり、昼休みの俺の話……聞いていたんだな」
「……うん……ごめんなさい」
「いやいや! 小雪が謝ることなんかじゃないさ! 俺の方こそ、なんか……その……すまない。……どこからどこまで聞いてた?」
「……多分ね、最初から最後までのほとんどだと思う……。廊下からでも話し声が聞こえるほど、たっちゃんの声は大きかったから……」
「そ、そっか……」
「…………」
「…………」
二人の間に、またも沈黙が降りる。
(気まずいなぁ……。いくら怒ってくれたのが嬉しいとはいえ、俺が喋っていたのは男としての本心であるエロトーク。どう考えても、自分の彼女に聞かれてはいけない話だった……)
「…………」
「…………」
……お互いが無言で歩いている。
俺の耳には「コツ、コツ」という両者が出す革靴の音しか聞こえてこない。
小雪とは約10年の付き合いであり、お互いのことをよく知っているつもりではあるが、それはあくまでも友達としての話。
俺達が幼馴染みの関係を卒業し、恋人として過ごしてきた約1年の間に、デートや恋人繋ぎ、キスまではしたんだけど……それ以上のことはしていない。
そもそも俺と小雪自身、どちらも男女交際はお互いが初めて。
恋愛経験値がゼロな二人だからこそ、ゆっくり関係を深めていきたいと自分自身は考えていたのだけど……。もはや手遅れ、か。
「あ、あのね? 聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」
俊介達とのボーイズトークで俺の本心を小雪に聞かれてしまった以上、今さら隠すものなど何もないし、沈黙で歩き続けるのも気まずかったので、俺は「いいよ。何でも正直に答えることを約束する」と彼女に返事をした。
「……た、たっちゃんは、おっ……む、むね。胸が……。女の子の胸が……好きなの?」
『おっぱい』と言えない小雪、可愛い。
「好きだよ、おっぱい。ただし、小雪のおっぱいに限るけどな。小雪以外のおっぱいには興味ありません!」
「……ウソつき。私の胸は小さいから、男の子のたっちゃんが好きなはず……ないよ」
「『俺は巨乳派ではなくちっぱい派だ!』という
俺の話――聞いてた?」
「……それがウソ、って言っているんだよ。男の子は大きい胸が好きっていうことぐらい、私だって知っているんだよ?」
「勿論、小雪の大きいおっぱいなら、好きになると思うけど……。今は小雪のちっぱいが一番好きだな。だって好きな人のおっぱいだもん。大きい小さいなんて関係ないさ」
「……分かった。もっとハッキリ言うね」
何かを決意したような声音で言った小雪。
彼女は一つ深呼吸をしてから、口を開いた。
「――私、少ししか膨らんでないよ? ほとんどぺったんこだよ? そんな胸を、お、おお、おっ…………ぱい、とは呼ばないでしょう? 呼べないでしょう? 小さいおっ……ぱい、は、おっ……ぱい、と呼ばれる資格なんてないでしょう? まな板とか、絶壁って言うんでしょう? 私の胸はおっぱいなんかじゃない。平べったいぺちゃんこの、ただの胸、だよ。おっぱいと呼ばれない小さい胸なんかが好きな人なんて……いるはずない」
多分最初は恥ずかしさで『おっぱい』を言いづらそうにしていた彼女だけど、後半は見事つまらずに『おっぱい』と言えた小雪。
(やべー、興奮する!)
だって当然だろう?
小雪が『おっぱい』って言ったんだからさ!
好きな女の子の口から発せられる、おっぱいという単語の破壊力! 凄まじい! もっと聞きたい! もっと小雪におっぱいと言わせたい!
(ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ!)
「小雪の胸は絶対におっぱいだよ! 何故ならば、全ての女の子の胸を『おっぱい』と呼ぶのだから! そこに大きさなんてものは関係ないッ! 膨らんでいようが、いなかろうが、女の子の胸は『おっぱい』なんだッ! ……あとさ、小雪の考えは偏見だよ。確かに男は巨乳好きが多いかもしれないけど、全員じゃないよ。少数ではあるけれど、ちっぱい好きの男も存在する――この俺のようにッ!!」
自分自身を親指で示して言い切った俺。
彼女の言葉を否定したくて、なりふり構わずに本心から叫んでしまったけど……。
フォローになった……かな?
俺には夢中になって後先考えずに感情のまま喋ってしまう癖があるので……不安だ。
昼休みの件だって、元を正せばこの悪癖が原因だしな……。
「そ、そこまで言うんだったら、私に教えてほしい。小さいおっぱいの方が好きだっていう……理由を」
ふっ――いいだろう!
俺に聞くならば、語ってあげよう、ちっぱいを!
「まず、小さいはかわいい! 小さいおっぱい略して『ちっぱい』はかわいいんだよ! 子猫がメチャクチャ可愛いのと一緒さ! 親猫にはない、小さいがゆえの可愛さと一緒! ちっぱいには、巨乳にはない、小さいがゆえの可愛さがあるんだッ!! さらに、ちっぱいはどんな服でも着こなせて、どんな服を着ようともおっぱいが主張しないから似合う! ちっぱいには、慎ましさという品があるんだよ! あとは……触ったことないけど、小さいおっぱいは柔らかい! 大小関わらず女の子の胸は、男にはない柔らかさが必ずあるんだッ!」
「もしも私の『ちっぱい』が柔らかくなかったら……どうするの?」
「万が一、億が一、兆が一、小雪の胸に柔らかさがなかったとしても、俺はその『ちっぱい』を触りたいです! だって好きな女の子の『おっぱい』だから! 好きな彼女の胸ならば、ちっちゃくても、柔らかくなくても、全然問題はない! 男としては、交際している女の子のおっぱいを触れるだけでご褒美です! つまり! 彼氏の俺としては、小雪のおっぱいに興味しかありません!!」
恥も外聞もかなぐり捨てて、俺の本心を叫んだ。だって正直に話すと約束したから。
小雪に『気持ち悪い』と思われる可能性もあるけれど……。
彼女に嘘はつきたくない。
それにそもそも、俺が小雪をエッチな目で見ていることは昼休みの件でバレているので、今更隠しても意味がない。
「……ごめんね……たっちゃん。やっぱり私は、ちっちゃい胸が好きっていう言葉を……信じられないよ」
「……どうして?」
謝ってきた小雪に、俺は純粋な疑問を投げかけた。
食べ物に好き嫌いがあるように、おっぱいの大きさにも人それぞれの好みがあるだけの話だと思うんだけど……。
何故、小雪は俺の『ちっぱい好き』を認めてくれないのだろうか?
「……だって私の胸……本当にちっちゃいんだもん。クラスの女の子の中で、一番ちっちゃいんだもん。自分でもちっちゃくて魅力がないおっぱいだと思うんだもん。そんな、そんなちっちゃいおっぱいを好きって言われても……。幼馴染みのたっちゃんから言われても。恋人のたっちゃんから言われても……信じられない。信じられないんだよ……たっちゃん。ごめん、ごめんね? こんな自信のない、泣き虫な彼女で。おっぱいの大きさなんかでウジウジ悩む彼女で……」
「小雪……」
途中から彼女は――涙声だった。
(ああ、そうか……そういうことか……)
ようやく気付いた。
小雪は自身の小さい胸が――コンプレックスなんだ。
「……ちょっとごめんね」
彼女はそう言うと、俺に背を向けた。
……おそらくは、零れそうになった自身の涙をふいているのだろう。
小雪は昔から涙脆くて、自分に自信を持つことが出来ない、内気な女の子。
それは今でも……変わっていないんだ。
「…………」
「…………」
彼女の気が静まるように、少しの間を置いてから、俺は問いかける。
「なぁ、小雪? 俺は今までに一度でも、小雪に嘘をついたことってある?」
「……ううん」
「小雪を騙したことは?」
「……ないよ」
こちらに向きなおって否定する彼女の声は、もう先ほどまでの涙声ではなかったので、多分感情の高ぶりは落ち着いたのだろう。
「まだ約1年前のことだから覚えてると思うけど……。俺が小雪に『好きだ』って告白した時も、なかなか信じてくれなかったよね?」
「……うん」
「小雪に『好き』を信じさせるために、俺がしたこと覚えてる?」
「ちゅ、チュウー……」
て、照れながら言うなッ!
こっちまで恥ずかしくなっちゃうだろ!
知らないとは思うけど、いくら相手が幼馴染みとはいえ、意中の女の子に自分から初めてキスをするのは……めちゃめちゃ緊張したんだからな?
……小雪にはカッコいい所しか見せたくないから、絶対に言わないけどさ。
「正解。これ以上俺の『ちっぱい好き』を信じてくれないなら、もっとすごいキスをしちゃうぞ? そしてそのまま止まれずに、小雪を押し倒しちゃうよ? それでもいいかな?」
まあ、さすがに冗談だけど……。
こうまで言わないと、本当に信じてくれなさそうだからな……。
「たっちゃんになら……されてもいいよ……」
え? マジで!?
「~~~ッ」
小雪は恥ずかしそうに顔を赤らめている!
「こ、小雪?」
「~~~~~ッッ!!」
小雪は恥ずかしさのあまり俯いてしまった! 耳まで真っ赤ッかだ!
……彼女が勇気を出して言ったのだ。
ここで逃げたら、男が廃る!
漢になるんだ、俺ッ!
「本当に――いいんだな? 俺が狼になっちゃっても?」
「……うん………………ぃぃょ」
かろうじて聞こえた小雪の「いいよ」という言葉に、俺は興奮と同時に……緊張を覚えた。
お、おおおおおお落ち着け俺!
この日のために、何度も何度も妄想でシミュレーションしてきたし、初めてエッチを成功させるための勉強もしてきたんだ!
大丈夫、俺ならやれる!
やれないはずがない!
改めて決意を固めた俺は、羞恥で顔を俯かせてしまっている小雪の手を握った。
「っ!!」
「俺の両親、今日も帰りが遅いから……うちでいいよね?」
最後の確認に「コクン」と頷きだけを返す彼女。
……言葉で返事をする余裕もないほど、小雪自身、緊張や不安でいっぱいいっぱいなのだろう。
――頑張ろう。
とにかく優しく丁寧に。
決して焦らず、ゆっくりゆっくりと、時間をかけてすれば……きっと上手くいく。
「体は大丈夫か?」
お互いにとって初めてのエッチを成功させたあと、俺達はまだ服を着ないで、ベッドの上で横になり余韻に浸っていたのだが、エッチが終わってからずっと気になっていたことを、彼女に聞いてみた。
「うん、平気。覚悟していたほどの痛みはなかったよ」
「なら良かった。……ちなみに、覚悟していたということは、俺とのエッチ……想像してたの?」
「た、たっちゃんと……同じだよ。お、女の子だって、好きな人とのエ、エッチ想像……するもん……」
小雪は目元付近まで布団を被りながら、モニョモニョと恥ずかしそうに言った。
……布団を剥がせば、また彼女の裸が見れるんだろうけど、それをしてしまうと俺の中の狼がまた目覚めてしまうことは明白だったので、さすがに止めておく。
小雪は今日が初めてだったんだから、2回目を求めることなんてせずに、女の子を労る紳士な男でいなくては!
……彼女が帰宅したら、さっきまでのエッチをオカズにオナニーだな。
「小雪のおっぱい。すっっっっごく、可愛いくて、柔らかくて、天にも昇る触り心地だったよ♡」
幼馴染みのコンプレックスが頭をよぎったので、俺の本心を伝えてフォローしてみる。すると……。
「――良かった♡ たっちゃんに喜んで貰えて、たっちゃんを満足させられて、私とっても嬉しいよ♡」
「あれ? 『本当の本当に?』みたいな感じで、また疑ってくると思ってたんだけど……何で?」
「それはね……。もう疑いようがないぐらいに、私のおっぱいをたくさんたくさん――可愛がってくれたからだよ♡」
……そうだったけ?
正直、緊張と興奮と必死さで、自分がどんな風に小雪とエッチしたか……あんまり覚えていない。
けれど言われてみれば、確かに小雪のおっぱいを重点的に可愛がってあげた気がするな……。
「私ね、自分の胸の小ささが、あんまり気にならなくなったよ。たっちゃんが『ちっぱい好き』というのを、言葉と行動で示してくれた――おかげでね」
どうやら俺の力説と、勢いでしたエッチが、彼女のコンプレックスにいい影響を与えたようだ。良かった良かった。
「大丈夫、安心してくれ。例え小雪のおっぱいが、今よりも『ちっぱいさん』になったとしても、俺は嫌いになったりしないからさ」
「こ、これ以上、小さくなんてならないもん! たっちゃんのイジワル!」
冗談で言っただけなのに、彼女は俺に背を向けて拗ねてしまった。
「……」
「……」
二人、沈黙。
……失言だったな。
仕方ない。
幼馴染みの頃によくやっていた、イジケてしまった小雪の機嫌を直す、とっておきの必殺技を使おう。
「ギュッ……と」
「ッ!?!?」
俺は小雪を背後から抱きしめ、右手で彼女の綺麗な黒髪を撫でながら「……ごめん。無神経なこと言った」と謝る。
「……ううん、大丈夫だよ。それよりも……久しぶりだね?」
「ああ、かもしれないな」
「どうして恋人になってからは、頭を撫でてくれなくなったの? 私、ちょっと寂しかったんだよ?」
「……幼馴染みの関係が嫌だったから」
「?」
俺の言葉が足らず、意味が通じていないようなので、もっとハッキリ言う。
「幼馴染みの男の子じゃなく、男女の関係を結んだ恋人の男として、小雪の頭を撫でたかったから」
「複雑だね。そして……私と一緒だね」
「……小雪も?」
「うん。小さい頃のように、幼馴染みとして頭を撫でられるのも好きだったけれど、恋人としてたっちゃんに甘えたくもあったの。……だからね、今、念願の彼氏ナデナデをされて――すっごく嬉しい♡」
小雪の髪を撫でている俺の右手に、彼女の手が重ねられる。
「好きだよ、小雪。今日は頑張って俺を受け入れてくれて、ありがとうな」
「私も大好きだよ。優しくしてくれて、気遣ってくれて、自信をつけさせてくれて、私の方こそ――ありがとうね、たっちゃん」
……この後も、俺の両親が帰宅する時間のギリギリまで、二人でピロートークを楽しんだ。
♢ ♢ ♢
後日。
俺と俊介と英影の三人は、「人それぞれのおっぱい好みを尊重するべきであり、大きさに関わらず全てのおっぱいは素晴らしい!」という理念を共有することで、無事和解した。
おっぱいで争い、おっぱいで仲直りをした俺達の友情は、前よりもいっそう深まった気がする。
俊介は巨乳北半球派。
英影は巨乳南半球派。
そして俺は――ちっぱい派だ!
♢ ♢ ♢
「最近ね、やっとエッチが気持ちいいって、思えるようになってきたよ」
お互いに初体験から数えて、三度目のエッチを終えたばかりの本日。
定番になりつつある、エッチ後にベッドの上でするピロートークは、小雪の嬉しい一言で始まった。
「今日はいつもより声が出てたもんな。一人の男として、エッチが気持ちいいって言われるのは何よりの喜びだから、男冥利に尽きる。ありがとうな」
そう言いながら、こちらに視線を向けている小雪の頭を優しく撫でる。
「ええっ!? 私そんな大きい声出してたの!? やだ、なんだか恥ずかしいよ……」
「俺としては、俺だけが聞くことの出来る、小雪の可愛くてエッチな声、もっと聞きたいし聞かせてほしい、っていうのが本音かな」
「う、うう~~~。たっちゃんは……ズルい」
「何が?」
「だってそんな風に言われたら、イヤなんて言えないし……」
「し?」
「たっちゃんにだけなら、もっと聞いてほしい……って……思えちゃった……から、ズルい……よ」
羞恥で顔を赤く染めながら、モニョニョッと言葉を紡いだ小雪。
俺はますますそんな彼女が愛しくてたまらず、頭と髪を撫で続ける。
「……ナデナデ気持ちいい♡」
「俺もだよ」
小雪の綺麗な黒髪は、ずっと触っていたいと思えるほどサラサラな手触りで、撫でている俺の方も気持ちがいい。
「たっちゃんのナデナデ嬉しい♡」
「甘えん坊さんだな」
俺に身を委ねきって頭を撫でられている、心地良さそうな小雪の様子が、俺は何よりも嬉しい。だってそれは――信頼の表れなのだから。
「…………私ね、エッチの後にこうしてたっちゃんから頭を撫でられるの、すっごく好き♡ だから、ね? これからもずっとずっと、私の頭を撫でてほしいよ――たっちゃんに」
それは遠回しなプロポーズに近いのでは? と思った俺だけど、言葉には出さない。
何故ならば――俺も小雪と同じだからだ。
愛しい人と過ごす今の時間が、かけがいのないのものであり、一生続いていってほしいと俺自身も望んでいる。
この想いを正式に伝える日は、もう少し先になるだろうけれど……。
伝える時が来たならば――俺のほうから伝えたい。
だからさっきの小雪の言葉には返事をせず、代わりに少しイジワルなことを言う。
「今度するときはさ、小雪が今日よりもいい声を出すよう、いっぱいテクニックを勉強しておくから――楽しみにしててくれよな」
「……エッチ♡」
小雪は俺に頭を撫でられながら、まんざらでもない様子で――甘く囁いたのだった。
彼女とのエッチを重ねていって、俺には気付いたことがある。
それは何かというと、昔からある噂「貧乳は感度が良い」に、小雪は当てはまっていた、ということ。
この事実を知った俺は、エッチするたびに小雪の「ちっぱい」を可愛がった――結果。
小雪のちっぱい様は――もの凄い敏感さんになったのでした♡