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恋愛の達人  作者: 涼
12/22

理想を追う美少女

■ 美少女の理想


シーンとする階段の踊り場から何やら声が聞こえてきた。


「好きです。僕と付き合ってください」

「えっと、ごめんなさい」


蒼井涼介は「またか!」と思った。誰かに告白されて断ったのは川島亜美。川島亜美は年下の25歳で背丈は大きいわけではないが、サラサラのロングヘアーに切り立った目と整った顔立ちをしたスレンダーな美少女といった感じだ。女子力も高く可愛いもの好きで外見磨きに必死なところもあって本当に女性らしい。川島亜美は誰に対しても友好的で話しやすいが、男性と話をするときの距離が普通より少し近い。何気ないボディータッチと少し思わせぶりな発言をする癖があるので、自分に気があるんじゃないかと勘違いする男性も少なくない。しかし、川島亜美にとってそんな仕草は普通のことなのだ。


蒼井涼介は東京から帰ってきて市のボランティアで水曜日と土曜日、週に2回行われる外国人と英会話でコミュニケーションをとるという集会に参加していた。学生時代に学んだ英会話を忘れないために参加したのだ。参加者は十数名ほどで、その参加者の1人に川島亜美がいたのだ。集会に参加して1ヶ月ほど経った頃くらいから、亜美の思わせぶりな態度に勘違いした男性参加者は、勇気を出して告白するがフラれてしまう。告白した男性は蒼井涼介の知りうるだけで2人目だろうか。


ある日、参加者である青葉健一が「亜美って俺に気があると思うんだよね。俺も気になるしアタックしてみようかなって思うんだけど、どう思う?」と聞いてきた。蒼井涼介は川島亜美が誰に対しても思わせぶりな態度をとるのをわかっていたので「いや、亜美って誰に対してもあんな感じだから、ちょっと考えたほうがいいよ」と言った。ところが青葉健一は「いやー俺に対してはなんか違うと思うんだよ」と言う。告白するのは待ったほうがいいとアドバイスするが、青葉健一は蒼井涼介の言葉に聞く耳もたない感じだった。それから次の集会日となる土曜日、いつものように参加すると青葉健一の表情が異様に暗い。予想はついていたが、一応聞いてみると「こっぴどくフラれたよ」と青葉健一は呟いた。やはり予想通りだったが、青葉健一には「また、次の出会いに期待して頑張ればいい」と慰めるしかなかった。


その土曜日の集会が終わった後、この参加メンバーで飲み会に行こうということになった。落ち込んだ青葉健一は不参加だったが、蒼井涼介を含めて8名ほど飲み会に行くことになった。その中には川島亜美もいた。近くの居酒屋に入ると店員に案内された座敷に参加者たちは座った。偶然にも一番端に座っていた蒼井涼介の隣に川島亜美が座った。乾杯をしてがやがやと話はじめる参加者達。何気ない会話が続いていた。


こういう場は苦手なので蒼井涼介は黙っていたが、隣に座っていた川島亜美が突然話かけてきた。


「あまり話さないんだね?」

「こういう多人数で話をするのってあまり得意じゃないんだよ」

「そうなんだ」

「そういえば、青葉、今日は元気なかったよね?」

「わたしのせいだと思う。実はこの前、告白されたんだけど断っちゃったから・・・」

「亜美って結構モテるよね?他にも告白されているようだけど、断ってるの?」

「うん、何人か忘れたけど・・・みんなわたしのことを好きだって言ってくれるんだけど、タイプじゃないし、なんか違うんだよね」

「そうなんだ。ちなみに亜美のタイプってどんな人?」

「わたしのタイプか・・・イケメンでわたしの心を大きく包んでくれて、わたしだけを本気好きって思ってくれる人かな」

「イケメンで包容力のあって自分だけを見てくれるって感じの人かあ」

「そんな感じだね。イケメンがいたら思わず突っ走ってしまうかも」


まるで少女漫画の主人公にでもなって白馬の王子様でも待ってるかのようで、ただ夢見てるだけにすぎない。そんなことを思いながら蒼井涼介は川島亜美の話を聞いていた。


飲み会が終わると、最後にみんなで連絡先の交換をすることになった。これからも仲良くしていこうという意味でもあったのだろう。どうでもよかったのだが、蒼井涼介は川島亜美とも連絡先の交換をした。



■ 好奇心と発動


蒼井涼介は川島亜美に何の感情も抱いていなかったが、何人もの男性に告白されて断り続けているという部分に興味があった。まさに男殺しというべき女性であることは間違いない。この興味は次第に好奇心へと掻き立てられる。もし川島亜美を攻略して見事に口説き落とすとしたらどういう手段を使うのだろうか・・・蒼井涼介はそんな想像をしていると、また悪い癖がでてきた。それは川島亜美を攻略してみたいという好奇心。その感情は次第に大きくなっていって歯止めがきかなくなってきている。しかし、恋愛感情もない相手を攻略するのは、人道に反する行為だ。蒼井涼介の心の中でその葛藤が続く。川島亜美に対して何かしらの感情を持てばいいのではないかと思った。どうなるかわからないが、川島亜美に感情を抱く可能性は十分にある。蒼井涼介はとりあえず攻略法だけでも考えてみることにした。


まず、川島亜美は他の男性からちやほやされているので一般的な恋愛テクニックを使っても効果は薄そうだ。それに相手は理想を追う夢見る女性。しかし所詮は理想であって現実ではない。その理想を打ち砕くことができれば攻略できるかもしれない。理想を打ち砕く方法とは現実を見せつけて夢から目を覚ましてやることなのだ。しかしどうやって現実を見せつけるか、あれこれ考えていると蒼井涼介は理想を打ち砕くということに捉われすぎていることに気がついた。現実を見せつけるのは最初でなく一番最後でいいのだ。まずはそこに至るまでのプロセスを考える必要がある。そう思った蒼井涼介は最初に何をしていくべきか、そして何をしていくべきか、意図しないことが起こった時はどう対応するか考えはじめた。


相手が思わせぶりな態度をとるのであれば、自分も同じようにすればいい。ただ同じようにするのではなく、その中に巧妙な手口を含ませる。とりあえず周りにいる人の誰もが蒼井涼介は川島亜美に好意を抱いていると思わせて、川島亜美の心をゆさぶっていく。こちらの行動が理解できなくなるくらい困惑させていく。そして川島亜美が感情的になった時に、こちらも感情的になってお互いに感情をぶつけ合う。そのタイミングで現実を見せつけて理想を打ち砕く。最後に川島亜美のハートを突くことができれば攻略できるのではないだろうか。しかし、この方法には少し時間がかかりすぎてしまうという問題がある。それに、もし川島亜美に対して何の感情も抱かなければ、この行動は中断しなければならない。なぜなら攻略してしまったら、必然的に川島亜美と付き合うことになるのだ。ただの好奇心だけで付き合うことはできない。どちらにしても蒼井涼介自身の感情がどうなるかの賭けになるが、攻略するための行動を実行していって様子をみていくことにするのがいいだろう。そう思った蒼井涼介は考え出した攻略法を実行していくことにした。その前に、この攻略法を実行するにあたって、ルールを設定しておかなければならないことがあった。それは、どんな雰囲気になっても絶対に先走って告白しないこと、感情的にならずあくまで冷静に行動していくこと、周りや本人にどんなこと聞かれても否定し続けること、相手が感情的になるまで待ち続けること。まさに根競べになるが、これらのことは絶対にルールに従って行動していかなければ、この攻略法は無駄になってしまう。


あとは最後の仕上げをどうするか。つまり川島亜美のハートを突く方法。ただ「好きです、付き合ってください」というだけでは、他の男性がやってることと変わらないのだ。もっと大きな感情をぶつけて、それが相手に伝わらないといけない。そこは伝え方、言い方、表現力の問題になる。どんな言葉で伝えるべきか考えてみたが、どれだけ考えてもいい言葉が浮かんでこない。もしかすると普通の言葉という考えが間違っているのかもしれない。普通ではなく異常だったらどうだろうか。感情をぶつけるわけなので、異常なくらい狂おしいほど伝えればいいのだ。それにはあれこれ飾った言葉など必要なく、ストレートでいいのだ。

蒼井涼介は全体的なプロセスがまとめることができた。そして考え出した攻略法を実行していくことにした。



■ 特別扱い


次の集会から蒼井涼介の行動ははじまった。川島亜美に対して「今日も綺麗だね」、「そのアクセサリーに会ってるよ」などと褒めてみたり、マメに気を遣ってみたり、過度に優しくしてみたりした。まるで今までの蒼井涼介ではない姿は川島亜美も不思議に感じているようだった。その次の集会の時も同じように繰り返した。そしてまた次の集会の時も同じ振る舞いをし続けた。褒めたり気遣ったり優しくするのは恋愛テクニックの1つだが、これは好感度をアップさせることが目的ではない。あくまで川島亜美に好意があるということを意識させることが本来の意図なのだ。さすがの川島亜美も「最近、わたしに対して態度変わってない?」と聞いてくるが、蒼井涼介は「そんなことはないよ」と言って誤魔化し続けた。


そんな蒼井涼介の振る舞いは周りの誰からみても、川島亜美に対して特別扱いしているのがわかるほどだった。周りの人からは「亜美のこと好きなの?」と聞かれることもあったが、それでも蒼井涼介は「別になんとも思ってないよ」と誤魔化し続けた。しかし、周りは完全に疑っている。次第に周りからは蒼井涼介が川島亜美に好意があるという噂にまで発展していった。それでも「亜美のことは別になんとも思っていない」ということを貫き通した。川島亜美は鈍感なのか、まだ意識しているように思えなかった。それでも蒼井涼介は態度を変えず川島亜美への特別扱いをし続けた。誰がどう見ても川島亜美に対する蒼井涼介の振る舞いは好意を抱いているようにしか見えないのは明らかだった。周囲の疑いの目はどんどん増すばかりだが、まさに思惑通りなのだ。つまり周りが動き出すと、本人にも伝わって意識していくはず。周りがどんどん疑いの目を持って、それが噂になればなるほど蒼井涼介の思い通りになっていくのだ。おそらく川島亜美に対しても「あの人、絶対亜美に気があるよ」と伝える人でてくるはず。それでいいのだ。ただ、周りの目を気にして絶対に感情的になってはいけない。あくまで冷静に特別扱いを続けていくことが今は重要なのだ。


1ヶ月ほど経ったある日、川島亜美の態度が少し変わった。どうやら蒼井涼介を少し避けているようだった。ついに川島亜美も意識しはじめたと感じたところで少し振る舞いを変えてみることにした。これは蒼井涼介のちょっとした悪戯心かもしれないが、今度は川島亜美ではなく別の女性を特別扱いしてみた。これで川島亜美の態度がどうなるのか観察してみたかったのだ。1日だけではそれはわからないので、次の集会日も川島亜美とは口を聞かず、別の女性を特別扱いしてみた。蒼井涼介はちらっと川島亜美の表情を伺っていると、なにやら不思議そうな感じで困惑しているようだった。今まで自分が特別扱いされていたのに、それが突然他の女性を特別扱いしているのだから、わけがわからないだろう。蒼井涼介のこの行動は、川島亜美を嫉妬させることでなく、少し不安にさせて困惑させることが目的なのだ。結局、集会のあった2日間は川島亜美とは口を聞かず、他の女性を特別扱いしていた。周りからは蒼井涼介と川島亜美に何かあったんだろうかと思われたに違いない。


次の集会日、蒼井涼介は再び、川島亜美を特別扱いするようにした。川島亜美は少し不思議そうな表情をしていたが、今度は避けているような態度ではなく、いつもの態度だった。次の集会日も、またその次も、川島亜美に対する特別扱いが続く。次第に周りからは「思い切って告白しなよ」、「勇気を出して想いをつたえるべき」とアドバイスされるようになった。もうここにいる環境の中では蒼井涼介が川島亜美に気があることが前提になっているのだ。それでも蒼井涼介は「亜美のことは何とも思っていない」と言って意見を貫き通した。そして、ついに周りは蒼井涼介と川島亜美を2人きりにする裏工作までしだした。ある日、集会が終わるといつも一緒に帰っていた人達が「用事があるから」といってさっさと別の場所へ行き、川島亜美と2人で帰ることになった。蒼井涼介にはあきらかに裏工作していることはわかっていたが、2人で話をするのもいいだろうと思ったので見知らぬふりをした。2人で歩きながら話をしていると、川島亜美は少し恥ずかし気な態度になっていた。いつ告白してもおかしくない雰囲気だが、絶対に先走って告白してはいけないというルールを厳守していたので、それを徹底したのだ。その時はただ2人で話をしただけでお互いに帰宅した。


次の集会日、周りからは「もう告白した?」などと聞かれたが、あくまで蒼井涼介は「告白もなにも亜美のことは何とも思ってない」と言い張った。しかし、川島亜美への特別扱いは続けていた。周りからは”蒼井涼介はフラれるのを恐れてる”とまで思われるようになっているようだった。そして「勇気を出して」、「怖がっててもはじまらないよ」などと周りは言うが、それでも徹底して否定し続けたのだ。ところで、最近の川島亜美の態度をみていると、かなり意識しているようで、特別扱いされている時も、どこかしら恥ずかし気で複雑な表情になっていた。集会メンバーのほとんどは間違いなく蒼井涼介が川島亜美に好意を抱いていると疑い、噂にまでしている。この状況下であっても、焦らず冷静に特別扱いを続けた。



■ 本人からの疑い


いつも男性に好意を持たれたら、すぐに告白されてきた川島亜美だが、今回ばかりはわけがわからなかった。周りからは「絶対にあの人、亜美に気があるよ」と言われているし、蒼井涼介の特別扱いはどう考えても自分に気があるに違いない。しかし、誰が何を言っても「亜美のことは別に好きじゃない」と否定し続ける。そんな状況下で川島亜美はわけがわからず困惑していた。集会メンバーに噂されたり裏工作されて2人きりにされたり、もうこんなわけのわからない状態を何とかしたいと思っていた。そこで川島亜美は本人にハッキリ聞いてみようと思った。連絡先の交換はしていたので蒼井涼介の電話番号は知っていた。


そしてある日の夜、川島亜美から電話がかかってきた。


「あの、亜美ですけど、ちょっといい?」

「どうしたの?珍しいね」

「今、なんというか、集会メンバーの中で噂になってること知ってるよね?」

「噂?あーそういえば何か言ってるよね。それがどうしたの?」


蒼井涼介はわざとすっとぼけた。


「うーん、なんか聞きにくいんだけど、もしかしてわたしに気があったりする?」

「うん?いや別にそんなことないけど、どうして?」


まだ感情的になっていないので最後の仕上げの段階ではない。蒼井涼介はそう心の中で思っていた。


「だって、その・・・なんかわたしにだけ特別扱いしてるって感じがして・・・」

「そうかな?ただ、亜美は話しやすいからかもね」

「・・・そっか・・・それだったらいいんだけど、すごい噂になってるから」

「まあ、俺は噂なんてどうでもいいし、誰になんと思われようがいいけどね」

「それならいいんだけど、勘違いされたままって嫌じゃない?」

「別にどうでもいいよ。勘違いされてるのは俺でしょ?」

「そうだけど、少しそこに気を遣ったほうがいいと思う。噂は酷くなるばかりだし」

「そっか。まあ話はわかったよ」


これで電話を切ったが、川島亜美がかなり意識していることはわかった。そしてここが分岐点になっていた。蒼井涼介が川島亜美を特別扱いしはじめてから2ヶ月経った。何気なく可愛い仕草や少し恥ずかし気な態度をする川島亜美のことが以前にも増して可愛いと思っている。ここで中断するか続行するか少し考えたが、蒼井涼介はもし攻略できて付き合うことになってもいいと思ったので続行することにした。あとは川島亜美が感情的になるのを待つだけだった。


その後も蒼井涼介は態度を一変させることなく、川島亜美への特別扱いを続けた。かなりじらしている感じに思えるが、この方法はあくまで感情のぶつけ合いにならないと意味がない。それまでは冷静でいるしかないのだ。あと一歩のところまできていると感じた蒼井涼介は、もう少し大胆になって川島亜美を特別扱いすることにした。それは「亜美はめちゃくちゃ可愛」、「亜美のためだったら何でもできる」、「亜美のことばかり考えてる」、「亜美の彼氏になれたらいいなあ」などの発言をしていった。他の誰が聞いても恥ずかしくなるような言葉で、意味的には遠回しに告白してると思われるほどだった。さすがの川島亜美もそんな発言を聞いて照れ臭くなっている。もはや誰もが蒼井涼介が川島亜美に好意を持っていることは間違いないと確信している。周りからは「最近、大胆だね」、「もういい加減、告白しなよ」、「片想いのままじゃ始まらないよ」などと言ってくるのだが、それでも「別に亜美のことは何とも思ってない」と否定し続けた。しかし、ここまでくると、もはや否定したとしても「絶対嘘」、「もう素直に認めなよ」と周囲から言われてしまうほどにまでなった。川島亜美のほうも「絶対、あの人、亜美に気があるよ。亜美はどう思ってるの?」などと質問されているようだ。


さすがの川島亜美も蒼井涼介に好意を持たれているのは間違いがないと確信を持ち始めていた。ただ、ハッキリしたことはわからないし、本人にそれを聞いても「別にそんなことはない」と言い返される。それは蒼井涼介が周りの言うことを否定し続けているのを知っていたからという理由もあった。しかし、明らかに好意を持たれているように思えるのだが、本人はあくまでも否定し続けている。もはや川島亜美にとってハッキリしなくて意味のわからない状態になっていた。それどころか以前にも増して、周りは騒ぎ出して噂もひどくなっていくだけだった。川島亜美は心の中でモヤモヤしだしていた。

この状況は蒼井涼介にとって思惑通りに進んで好都合であった。周りが騒げば騒ぐほど、川島亜美の心の中を揺さぶることになる。それでもさらに特別扱いする行動を続けていく。川島亜美が困惑すればするほど思う壺なのだ。じらしてじらし続けることに意味があった。


ここまでくると、蒼井涼介と川島亜美を無理にでも交際させようする人すらでてきた。蒼井涼介にこっそり気持ちを聞いてきたり、川島亜美を説得してみたり、まるで愛のキューピット役にでもなっているかのような行動だ。しかし、それでも蒼井涼介はそれにも屈しなかった。あくまで川島亜美に対して気持ちはないと否定し続けたのだ。しかし、このような周りの行動や、それでも冷静に否定している蒼井涼介が、川島亜美の理性を失わせるきっかけになっていくことになった。



■ 感情伝達と結末


蒼井涼介が川島亜美を特別扱いして3ヶ月が過ぎた。もういい加減にしてほしいと言いたいぐらい周りからのお節介な行動。そんな状況の中、わけがわからなくなって困惑している川島亜美はだんだんイライラしてきた。それでもそのイライラを抑えようと必死にこらえる。周りから無理矢理にでも交際させられようとしているのはわかるが、川島亜美にとって重要なのは蒼井涼介の気持ちであった。ところが本人にそれを聞いたとしても否定されるだけなのだ。そして、それとは裏腹に特別扱いはしてくる。こうなると川島亜美にとって「何なのこの人?」という疑問だけが残るだけで本当にわけがわからないのだ。


蒼井涼介は川島亜美の表情からイライラしているのを抑えているのがよくわかった。顔がひきつっていて、何を言っても苦笑いしている。しかし、もっともっとイライラさせて、理性を失わせることによって、完全に怒らせることにした。蒼井涼介はいたって冷静にいつものように接していったが、それが川島亜美にとっては余裕があるように見えて、余計にイライラさせているようだ。


ある日、ついに川島亜美は不機嫌な表情になり、蒼井涼介に対して無視するようになった。何を言っても「話してこないで」と答える。これはもう精神的に限界にきているように思える。いつ感情が爆発してもおかしくない状態なのだ。そう感じた蒼井涼介は「ちょっと帰りに2人で話をしよう」と川島亜美に声をかけた。川島亜美は不機嫌な表情で「わかったよ」と言った。一緒に帰ると周りの目があるので、帰り道にある公園で待ち合わせすることにした。


集会が終わり、待ち合わせした公園のベンチに座って待っていた。するとかなり不機嫌な表情をした川島亜美がやってきた。その表情からして、もはや爆発寸前という感じだ。蒼井涼介はこれからその起爆スイッチを押す覚悟をしていた。川島亜美はベンチの前にきて「話って何よ?」と聞いてきたので「何か怒ってる?」と聞いた。すると川島亜美はついに理性が切れた。


「一体、あなた何なの?」


完全に感情的になっているので、蒼井涼介も感情のスイッチを入れた。


「何なの?ってなんだよ?」

「わたし、この前、電話で気を遣ったほうがいいって言ったよね?なのにあなたの態度は変わらないじゃない!」

「俺は普通にしてるだけだろ!」

「どこが普通なのよ!噂もあなたの態度も酷くなってるじゃない!もうわけがわかんないよ」

「わけがわからないって何がだよ?」

「あー何もかもわけがわからないのよ!一体、何を考えてるの?」

「何考えてるって言われても困るよ」

「もう正直に言ってよ!」

「何をだよ?」

「わたしのこと、どう思ってるのよ?あなたの本当の気持ちを言ってよ!」


怒り狂いながら話してる川島亜美のこの発言を聞いた蒼井涼介は、このタイミングを逃さなかった。


「じゃあ、言ってやるよ!亜美、大好きだよ。好き好き好きたまらなくたまらなく好き。好きなんだよ。もう好きで好きで狂いそうなくらい好きなんだよ」

「だったら、どうして今まで告白してこなかったのよ?」

「簡単に告白なんかしても軽く見られるだけだろ?こんな強い想い、簡単に伝わるもんじゃないって思ったからだよ!悪かったな、イケメンじゃなくて!」


やっと蒼井涼介から告白されて川島亜美の怒りはおさまってきた。そして涙を流しながら小声で「イケメンとかもうどうでもいい・・・」と呟いた。鼻をすすりながら涙を流す川島亜美。蒼井涼介も冷静になって「ごめん、泣かせてしまって・・・」と言った。


「違うの。嬉しかったの。こんなに好きだなんて言われたことなかったから・・・」


川島亜美は涙を流しながらそう答えた。


「俺の想い、伝わった?」

「うん、すごく伝わってきた・・・」


それから川島亜美はベンチに座りわんわんと泣き出した。蒼井涼介は隣で「もう泣くなよ」と呟きながら、川島亜美の頭を撫でていた。そして「亜美、彼女になってほしい」と呟いた。川島亜美は涙を浮かべながら、蒼井涼介の目を見て「はい」と答えた。相手に対する強い想いとは時として相手の持つ理想までも打ち砕く力を持っているのだという証明ができた瞬間であった。理想は理想、人の持つ強い想いは現実のものなのだ。蒼井涼介は今回、感情をぶつけ合うこと、現実であるこの強い想いをぶつけることに賭けてみたのだ。そしてそれは見事に伝わって川島亜美のハートを突くことができた。ここに至るまで時間がかかり、忍耐勝負にもなったが、この男殺しともいうべき理想を追う美少女を見事に攻略したと言えるだろう。その後、蒼井涼介と川島亜美は付き合うことになった。


3ヶ月後、お互いに趣味や考え方が合わないという理由で川島亜美と別れることになったが、お互いに多くのものを得た気がする。今は何をしているかわからないが、少なからず理想を追う夢見る美少女から現実と向き合う美少女になっていると信じたい。恋愛は幻想であるといえばそれまでだが、蒼井涼介はその心の中にあった想いは大切にしたいと思った。

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