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恋愛の達人  作者: 涼
10/22

影の浮気者

■ 楽しいオフ会


東京生活が続いて年が明けたある日の金曜日。ある音楽アーティストのチャットのオフ会に参加することにした。仕事をさっさと切り上げた蒼井涼介は1時間も早めに集合場所に着いた。そこにいたのは3ヶ月ほど前から仲良くしていた石川啓介がすでに来ていた。


「ずいぶん早く来たんだね」

「ここ、仕事場の近くだから早く着いたんだよ」


そういった会話をしながら待っていた。啓介とは年末に2人で飲みに行ったので久しぶりというほどでもなかった。


「そういえば、年末にもらったお土産のうなぎパイ、めっちゃ美味しかったよ。ありがとうね」

「浜松の叔父さんの店がクリスマスに人手不足らしくて、休みとって手伝いにいったんだよ」

「年末によく休み取れたね」

「まあ、なんとかね」

「そうなんだ」

「また今度、浜松に行くからうなぎパイ買ってこようか?」


集合時間が近づくと数人が集まってきた。そこにチャットではいつもテンションの高い稲葉真一が女の子と手を繋ぎながら現れた。真一は「おっす!今日は俺の彼女になった長瀬愛奈も連れてきたよ」と言う。愛奈はチャットのメンバーではないが、オフ会は人が多いにこしたことはないし、誰もそのことに関しては何も言わなかった。真一はかなりのイケメン男子で、周りの女の子から絶妙の人気がある。街中でスカウトされたりモデルの仕事をしていたこともあるようだ。その彼女になった愛奈は20歳で背丈が小さく、茶髪で遊び人風にみえて気が強そうに見える。


予約していた居酒屋の個室に入るとチャットの管理者である西城祐樹が乾杯のおんどをとった。蒼井涼介はいつものように端っこの席、啓介は斜め前の席に座っていた。参加者はお酒を飲みながら何気ない会話をしている。最初は真一と愛奈は隣の席に座っていたが、次第にみんな他の人と話をしようとして席を移動した。真一も席を離れて他の女の子と楽しく会話をしていた。愛奈はチャットメンバーではないので、他の人と話しづらいのか少し淋しそうに座っていた。そんな愛奈の隣の席に啓介は座った。何やら啓介と愛奈は真剣な話をしているようだった。真一はまた別の女の子と楽しそうに話をする。1時間ほどして啓介は蒼井涼介のところにやって来た。


「真一、ちょっと酷くない?愛奈に話を聞いてたんだけど、他の女の子と話してばっかで不安らしいよ」


啓介の言う通り、たしかにチャットメンバーでもない愛奈を一人残して他の女の子と話してばかりいるのはダメだろうと蒼井涼介は思った。再び啓介は愛奈の隣の席に移動して話をしていた。そんな啓介と愛奈を見た真一の表情をみると少し不機嫌になっているようだ。そして真一が蒼井涼介のところにやって来た。


「あいつらちょっと2人で話しすぎじゃねえ?」

「まあなんか相談事でも聞いてるんじゃないかな」

「そういえば、ちょっとこのメールみてよ」


蒼井涼介は愛奈からのメールを見せてもらうと『あなたに一目惚れしました。付き合ってください』という内容で送られてきていた。真一は「女ってバカだよね。まあ、俺も彼女いなかったから付き合ってあげたんだけどね」と話した。それを聞いて真一は愛奈に対して気まぐれで付き合ってるようにしか思えなかった。


3時間ほどしてオフ会終了になったが、2次会に行こうという話になった。啓介と話続けていた愛奈は2次会に参加したいと言った。しかし真一は不機嫌そうに「勝手に行ってこいよ」と愛奈に言った。愛奈は「真一君、何か怒らせちゃったかな?」と言うと啓介は「気にしなくていいんじゃない?」と答えた。2次会はここから歩いていける蒼井涼介の家で行うことになった。集まったのは啓介と愛奈を含めて6人。コンビニでお酒を買って家へと向かう。



■ 争いのはじまり


蒼井涼介の家で2次会をしていると、もう終電もなくなった時間になっていた。深夜になるとみんな眠くなってきたようだ。蒼井涼介と他のメンバーはリビングにいたが、啓介と愛奈は隣の和室で何か話をしているようだった。次の日の朝、いつのまにか眠っていたんだろうと思いながら目覚める。まだ他のメンバーもごろ寝していた。そこには啓介も愛奈も眠っていた。啓介が目を覚ましたので愛奈と何の話をしていたか聞いてみた。どうやら愛奈は真一が本当に自分のことが好きなのかわからない、遊ばれている気がすると言っている。昨日のオフ会でも他の女の子とばかり話していて相手してくれないのが淋しかったらしい。啓介はそんな愛奈の相談を聞いていたという。午後になり2次会に参加したメンバーが帰って行った。


その日の夜、チャットに入ると真一と啓介が何か言い争っていた。


「人の彼女を連れ出して何とも思わないのか?」

「俺はただ愛奈の相談を聞いてただけだよ」

「何の相談か知らないけどお前が聞くことないだろ?」

「真一が愛奈をほったらかして他の女の子と話しているからだろ」

「そんなことお前に関係ないだろ」

「愛奈がかわいそうだろ」


2人の言い争いが続いていたが、このままだとらちがあかない。そう思った蒼井涼介は2人の間に入った。


「まあ、2次会で家に誘ったのは俺だし、昨日のことは啓介だけが悪いわけでもないから、俺からも謝るよ」


真一は蒼井涼介に一目置いてることもあって話を聞き入れたようだ。


「勝手に行けっていったのは俺だから、そこまで責めるつもりはないけど、ただ気分が悪かっただけだから」


蒼井涼介は角が立たないように話した。


「真一も昨日のオフ会でちょっとハメはずしすぎてて、愛奈をほったらかし状態になってたから淋しかったと思うよ」

「それは俺も悪いと思ってるよ」

「まあ、啓介はそういう愛奈を慰めて話を聞いてあげてただけだから、もうこの話は終わりにしようよ」

「わかったよ」


なんとか言い争いを終わらせることができた。しかし、なぜ真一は啓介だけに牙を向けていたのかわからない。嫉妬という感じにも思えない。何やら啓介のことを警戒しているようにも思える。険悪な雰囲気が和んだが、これは一時的なものだった。


ある日、突然啓介から電話がかかってきた。「真一、チャット内でも女の子としゃべりまくってるけど酷くない?」という内容だった。たしかに真一はチャットに女の子がいると見境なく話している。はじめてチャットに入ってくる女の子がいれば、話の腰を折ってまで食いついていく。愛奈はチャットメンバーではないので、そんなことは知らないのだろう。


「ときどき、愛奈と電話してるんだけど、真一と付き合うのやめたほうがいいって言ってやった」

「そこまで言ったらダメだよ。愛奈の気持ちもあるし。確かに真一のやってることは酷いとは思うけどね」


啓介は少し黙り込んだので蒼井涼介は一応言うことは言っておこうと思った。


「とにかく、真一と愛奈のことはあまり首を突っ込まないほうがいいよ」


ところがこれは既に遅かった事態に発展していたのだ。


次の日、真一から『お前本当にうぜえよ。人の恋愛関係に首突っこんでくるな』というメールが啓介に届いたらしい。啓介は『俺はただ愛奈の相談を聞いてるだけで、真一が他の女の子と楽しそうに話してるのが問題だろ』とメールを返信した。すると真一から『そんなことお前には関係ないだろ。もうほっとけよ。マジお前うぜえだけだから』とメールが返ってきたという。そんなメールのやりとりがあったことを啓介から聞いた蒼井涼介は、またチャットで険悪な雰囲気になりそうだと感じていた。



■ 冷戦状態


チャットに入ると真一と啓介はお互いに話をしない雰囲気になっていた。それどころか他のチャットメンバーも啓介と話をしようとしない。チャットに入ってきた人に啓介が挨拶しても、無視しているように思えた。蒼井涼介はここでどんな立場でいればいいのか悩んだ。真一は啓介とは口をきかないが、蒼井涼介には話しかけてくる。蒼井涼介は啓介とも話をするので中立の立場になっている状態だった。そんな状態だったが、豊橋に住む郁香ふみかと中学二年生の早織さおりだけは啓介と普段通りに話していた。もともと啓介と郁香はチャット内でも仲良く話していることが多かったし、早織は啓介のことをお兄ちゃん的存在として話していたので、突然態度を変えるのは不自然なんだろう。それにおそらくこの2人は何も知らないのだろう。しかし、どうしてこんな状態になったのか?


蒼井涼介は真一がチャット内でも特に仲良くしている後藤健司にメールをして事情を聞いてみることにした。健司は一回り年上でしっかり者だったので何か知っていると思ったのだ。すると『絶対に他言無用にしてほしい』ということで健司から事情を聞きだすことができた。どうやら真一はチャット内で『啓介が自分と愛奈との関係を壊そうとして、愛奈を奪い取ろうとしている』ということを言いふらしているという。それでチャット内の人達は啓介に対して不信感を抱いていることがわかった。それにしても啓介が関係を壊そうとして奪い取ろうとしているなんて、あまりにも酷すぎることを言いふらしている。蒼井涼介は”それはあまりにもやりすぎだ”と思った。真一と愛奈の間でどんな話になってるのかわからないが、何か根拠でもあるのかわからない。健司に他言無用と言われているが、それとなく真一に話を聞いてみることにした。


蒼井涼介は真一に啓介についてどう思っているかという内容のメールを送ってみた。すると真一から『あいつはちょくちょく愛奈と連絡とりあってるみたいだし、俺と別れろとまで言ってるらしい。マジでムカつくよ。愛奈に気があるからって、やり方が汚いと思わない?』という内容のメールが届いた。蒼井涼介はそれとなく『その話、チャット内の人は知ってるの?』とメールで聞いてみた。真一は『あまりにも腹立つからチャットで話してやったよ。あいつの本性をみんなに教えてやろうって思ったから』とメールが返ってきた。蒼井涼介は『ちょっとやりすぎなんじゃないか?』とメールを送ったが真一は『このくらいやらないと気が済まない』と返ってきた。

これで事情はわかったので、蒼井涼介はそれ以上何も言わなかった。しかし、このままだと啓介はチャットに入りづらくなるんじゃないか。この冷戦状態をどうしたものか?真一のやってることは酷すぎると思うが、気持ちはわからなくもない。しかし啓介はただ相談に乗ってるだけで、愛奈を奪い取ろうとまではしていない。たしかに愛奈に”付き合うのはやめたほうがいい”といったのは事実だし、それを知った真一が怒るのも当たり前かもしれない。


いつものようにチャットに入ると相変わらず真一は他の女の子と楽しそうに話している。啓介は疎外されているような状態になっていて、郁香とだけ話している。真一とその周囲の世界、啓介と郁香の2人だけの世界、まるで分断された状態である。この状態はなんとかしなければならない・・・



■ 大きな間違い


蒼井涼介は先日のオフ会の2次会に集まったメンバーに「また家に集まってミニオフ会をしよう」と声をかけた。啓介に不信感を持っているのかわからないが、そのメンバー全員が集まることになった。もちろん啓介に愛奈も誘うように言った。次の土曜日から連休なのでその日にしようと提案したのだが、啓介は「その連休はまた浜松に行かないといけないから次の週にしてほしい」といって日程を連休後の土曜日に集まることになった。


ミニオフ会の当日、集まったメンバーでお酒を飲みながら何気ない会話をしていた。しかし、愛奈は元気がなくかなり悩んでいるようだった。啓介が愛奈の相談を聞くんだろうと思ったが何もせず、他のメンバーと話をしている。気になった蒼井涼介は「なんか元気ないけど大丈夫?」と愛奈に声をかけてみた。愛奈は「ちょっと悩み事があるだけで大丈夫」と答えた。チャットでの真一と啓介のことで悩んでいるのか?いや、チャットにこない愛奈がそこまでの事情を知ってるとは思えない。真一と別れるかどうか悩んでいるのだろうか、それならなぜ啓介に悩みを相談をしないんだろうかなどいろんな疑問があった。そんな状態のまま夜も遅くなりミニオフ会は終了した。


ミニオフ会から1週間ほど経ったある日のこと。真一は愛奈と仲直りしたとチャット内で話していた。どうやら真一と愛奈は2人で会って話し合ったという。その時、愛奈は”啓介の言うことは説得力がないし信用できない”と言っていたらしい。蒼井涼介と啓介が仲が良かったことを知っていたのもあってか、真一が「啓介に『もう愛奈と一切連絡するな』と伝えておいてほしい」と言った。蒼井涼介は「わかった、伝えておく」と答えた。先日のミニオフ会の時、愛奈はかなり悩んでいた感じだったのはこのことだったのかと思ったが、何か違和感がする。真一と仲直りをするかどうかの悩みであれば啓介に相談していただろう。そして啓介が仲直りするように促したのであれば、真一は啓介に感謝するべきではないだろうか。しかし、これで問題は解決したことだし、また楽しくチャットで会話ができると思うとホッとした気分でいた。


蒼井涼介は啓介に電話をして真一が愛奈と仲直りしたこと、今後は『愛奈と一切連絡をするな』ということを伝えた。啓介は「わかった。もう俺はあのチャットに行かないようにするよ。真一とは仲良くできそうにないし・・・」と言った。啓介のテンションが少し低かったように感じたので心配ではあったが、たしかに真一と啓介はしばらく話さないほうがいい。啓介が別のチャットに行くのであれば、自分もそっちのチャットへついて行くと言っておいた。


こんな結末になってしまったが、これで一件落着といった感じだろう。なんだか煮え切らないものがあるけど面倒なことはなくなったのだ。蒼井涼介はベッドに横たわりながら少しの間、ぼーっとしていた。すると突然、頭の中で何かがおかしいと感じた。ベッドから起き上がってパソコンをの電源を入れた。もう一度、チャットの画面を開いて、さきほど真一が話していたチャットログが残っていたので読み直してみた。そして愛奈が真一に言っていた啓介のことに目が留まった。愛奈の言った『説得力がないし信用できない』という意味を考えてみると、ある真実が見えてきたのだ。そして蒼井涼介は自分が大きな間違いを起こしていたことに気がついた。


まだ真一がチャットにいたので、蒼井涼介は早速ログインして真一と話してみた。


「今更だけど愛奈ってどんな子?」

「うーん、結構遊び人で気が強そうに見えるけど押しに弱いっていうか、人に頼まれたら断れない感じかな。優しすぎる時があったりする」

「なるほど、ところでさっきのことは啓介に伝えたけど、愛奈は啓介ともう連絡しないって言ってるんだよね?」

「ああ、愛奈はもう啓介に関わりたくないって言ってたよ」

「わかった、ありがとう」。

「大人げないことしたかもだけど、俺は陰でこそこそ話されるの気分悪いから」


蒼井涼介は最後に「こそこそ話してただけじゃないと思う」と意味ありげに言った。真一は「それってどういう意味?」と質問してきたので「いあ、なんとなくそういう感じがするってことだよ」といって言葉を濁して返しておいた。チャットをログアウトした後、蒼井涼介は今までの出来事を思い返してみた。真一や啓介、チャットメンバーの行動や発言。全てを頭の中で整理していくと「そういえばあの時・・・」と何かを思い出して「なるほど、それなら全てのつじつまが合う!」と心の中で呟いた。そして、もう1つの真実が浮かんできたのだ。蒼井涼介は明日の夜にでも啓介に電話をしてこの真実を突きつけようと決心した。



■ 裏側にある真実


仕事を終えて自宅に帰った蒼井涼介は啓介に電話をかけて、いきなり話を切り出した。


「単刀直入に聞くけど、啓介、愛奈に手を出しただろう?」

「もう終わったことだから正直に言うけど、手を出したよ」


やっぱりそうだったか!


「いつ手を出した?」

「あのオフ会の2次会の時、みんなが寝てしまった時、思わずキスしたんだよ。それから何度か電話して2人で会った時だよ」

「啓介、相談役といっておきながら、手を出したってことは愛奈のことを弄んだだけじゃないのか」

「お互い同意のもとでやった事だし、何か問題ある?」

「愛奈は真一の彼女なんだから問題ありだろ」

「あんな浮気者に文句言われる筋合いはないよ。それに俺は愛奈の相談を親身になって聞いてきたわけだし、手を出すくらいの代償くらいあってもいいだろ?」

「真一のことを浮気者って言うけど、実際に真一が浮気した事実なんてどこにもない。ただ愛奈の前で他の女の子と楽しく話していただけじゃないか」

「いや、真一はこの前、他の女の子を家に呼んだ事実がある」


蒼井涼介は「そんな事実があったのか?」と心の中で思った。


「だからといって何かしたって証拠もないだろ」

「男と女が部屋の中で2人きりになったってことは、絶対何かしてるに決まってる。そういうもんだろ?」

「それは違うと思う」

「なんだよ、今になって真一の肩持つのか?」

「そういうわけじゃない、俺はただ真実を言ってるだけなんだよ」


喧嘩口調ではないが、この話は平行線を辿りそうな感じだった。

少し間があいたあと啓介が「たしかに俺は愛奈に手を出した。でもお互い同意のもとでやったことだし、その時、愛奈は真一と別れるとまで言ってた。それが悪いっていうのならお互い様でしょ?それでも俺が一方的に悪いって言うの?」と冷静に話す。たしかにお互い同意のもとでやったことなので、それについてこれ以上は口出すことではない。「たしかにお互い同意のもとでやったことなら、これ以上責める気はないよ」と少し小さな声で蒼井涼介は言った。啓介は勝ち誇った言い方で「まあ、こういう形になったけど、あいつに痛い思いをさせることができたからよかったよ。そう思わない?」これを聞いた蒼井涼介は啓介の言うことに同意できなかったので何も答えなかった。それならそろそろ核心に迫るか・・・蒼井涼介はいよいよ真実を突きつけることにした。


「ところで啓介、今度はいつ浜松へ行くの?」

「は?」


少し動揺しているような答え方をする啓介。


「1か月に1回は浜松に行ってるよね?」

「それは、叔父さんの店忙しいから手伝いに行ってあげないとだから・・・」

「その叔父さんの店、女の子の匂いがプンプンするのは気のせいかな?」

「女の子なんて・・・いないよ・・・」


啓介は完全に動揺しているのが電話越しでもわかった。さらに蒼井涼介は突っこむ。


「いるでしょ?郁香っていう女の子がね」

「え?それは・・・」

「仕事が終わってから1泊2日で浜松に行ってできることって何だろう?高い交通費まで払ってまで店の手伝い?そこまで忙しいならバイト雇ったほうが安いんじゃない?」


啓介は完全に黙り込んでいるが、蒼井涼介はさらに突っ込んだ。


「昨年のクリスマスイブの夜、平日でありながら浜松に行ってたよね?わざわざ次の日は有給休暇までとってね」

「なんで郁香なんだよ?」

「真一と啓介の冷戦状態が続いていた時、チャットに来ていた女の子はほとんど真一と話していた。まるで啓介が悪者みたいな扱いを受けていた。でもそんな中、郁香と早織だけは啓介と普通に話していた。最初、郁香は真一のテンションに合わないんだろうと思っていたし、早織は中学二年生で大人の事情がよくわかってなかっただけだと思った。でも、あれほど真一が啓介のことを言いふらしていたから郁香もそれを知っていたはず。それなのに郁香と啓介はまるで2人だけの世界にいるような会話をしていた。なにより啓介が浜松に行った日はきまって郁香もチャットに来なかった。たしか去年のクリスマスイブの時もね。これは偶然だったのかな?」

「いつから気づいてた?」

「もともと2人は仲がいいなって思ってたけど、確信したのは先日の連休の時かな。浜松に行くって言って集まりの日程変えたでしょ?それに郁香は豊橋に住んでるって情報もあったから、2人きりで会える場所といったら浜松だと思った。郁香は学生だし、交通費の負担をあまりかけさせたくないって理由もあったんじゃないかな?」

「・・・その通りだよ」


啓介はついに白状したのだ。そして啓介が口を開いた。


「郁香が付き合ってることは絶対に言わないでほしいっていうから黙ってたけど、こんなところでバレるとは思わなかった」

「郁香は啓介の彼女って認めるんだね?」

「ああ、郁香は俺の彼女だよ」


蒼井涼介の推測は見事に的中して、それをついに認めさせたのだ。いよいよ最後の切り札に入る。



■ 終結


蒼井涼介は啓介を追い込むように言った。


「つまり啓介、彼女がいるにも関わらず愛奈に手を出したってことになる。これでも問題ないって言える?」

「郁香には悪いと思ってる。罪悪感はあるけど、郁香にバレなければいいと思ってる」


この言葉を聞いた蒼井涼介は怒り口調になった。


「もし郁香が同じことしたら、啓介はどう思うんだよ?罪悪感があるっていうなら正直に言って郁香に謝るべきだろ?」

「でも正直に話したら郁香を傷つけてしまうことになる」


蒼井涼介は少し冷静さを取り戻した。


「真一と愛奈のことだから、啓介が手を出したことが噂になる可能性は高いよ。それで郁香が知ったら、もっと傷つくし、本当に終わってしまうよ。そうなってもいいの?」


少し考え込んでる啓介が口を開いた。


「わかった、郁香には正直に話すよ」

「結局、真一はただ他の女の子と楽しく話していただけで、本当の浮気者は啓介だったってことだよね。チャットを去るのは勝手だけど、せめて真一には一言でいいから謝っておいたほうがいいよ。メールでもいいからさ」

「わかったよ」

「あと、1つ疑問だったんだけど、前に家に集まった時、愛奈がかなり悩んでいたようだけど、啓介に彼女がいるって知ったからだよね?どうしてバレたの?」

「プリクラだよ。財布落とした時にたまたま郁香と写したプリクラを見られたから」

「なるほど、そういうことか」


そして長い電話が終わった。これで愛奈の言っていた『説得力がないし信用できない』という意味、真一と突然仲直りをしたこと全てが明らかになった。


その後、啓介は郁香に真実を話した。当然、郁香は涙を流しながら落ち込んだらしいが、啓介はなんとか説得して『もう二度とこんなことはしない』と約束したという。なんとか郁香と別れずにすんだらしい。愛奈のほうは啓介との出来事は真一に黙っているようだった。啓介は一応、真一にも「いろいろすみませんでした」とメールを送ったらしいが返信はこなかったらしい。


啓介はもうチャットに行くことはなかったが、蒼井涼介はしばらくの間、チャットの出入りをしていた。ある日、真一が愛奈と別れたと話した。その予想はしていたが、やはり真一は愛奈のことを本気で好きではなかったんだと確信した。真一は女の子からかなり人気がある存在だが、心の中は淋しい人間ではないかと思った。


チャットで真一と2人になった時に蒼井涼介は「真一は誰かを本気で好きになったことある?」と質問してみた。真一は「年上で本当に俺のことを見てくれた人がいて、フラれたけど今でも忘れらない人ならいるよ」と言った。おそらくその年上の女性は真一の本質を見抜いていたのだろう。いつも外見だけで言い寄られて、自分の心の中まで見てもらえない。それはあまりにも淋しいことではないか。たとえ周りにたくさんの人がいたとしても、心と心で会話できる人がいなければ独りぼっちなんだろう。


蒼井涼介は次第にチャットへ行く回数が減って、自然消滅するかのごとく完全に行かなくなった。

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