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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王の螺旋 ~最弱の英雄、最強の勇者を救う為に魔王を討伐する~

作者: アタタタタ



「済まないな、リリー。勇者えいゆうは一人で十分だ。目障りな貴様にはここで退場して貰う。」



そう言って今まで共に旅をしてきた仲間に魔法をかける。味方から攻撃されるとは思わなかったのだろう、レジストも出来ずに簡単に動きを封じる事ができた。



「…魔法?何故?」



「貴様!血迷ったか!?」



「…………アール?」



先程まで仲間だった者達が騒ぎ出す。魔法使いと騎士は何とか魔法を破ろうとするが、勇者はこちらを見つめて動こうとしない。



「魔王討伐の栄光はオレ一人のモノだ!貴様達にはオレの養分となって貰う!」



人類の劣勢を覆す為に王国は勇者パーティによる奇襲を決定し、遂に魔王城へと辿り着いた所だ。

ここに来るまでに多くの犠牲を出しており、これから魔王との決戦が待ち構えている。



「馬鹿な事を言うな!貴様に勝てる訳が無いだろう!すぐに魔法を解け!」



「これは…、賢者様の?何故貴方がこれを…?」



騎士は激昂し暴れようとしているだけだが、魔法使いは状況を分析し始めている。

マズイと思い、急いでドレインで三人の力を奪う。



「……アール…、何で……?」



身動きせずに勇者が呆然としている。何が起きているのか理解していないようにも見える。

その姿を見ている事が出来ず、続けて魔法を使う。



「貴様らにずっと虐げられて来た者の事など気持ち分かるまい!『英雄』であるというのに陰で蔑まれて来た、惨めな男の復讐と思うが良い!!」



反論をさせる間も無く転移魔法を発動し、3人を安全な地へと飛ばす。



「………。これで残りは魔王を倒すだけだ。」



ドレインで奪った力を確認しながら城に入る。

入ると中は閑散としており、事前の情報通りモンスターの姿は一匹も居ない。



城の中をゆっくりと進むと、段々と瘴気が漂って来た。

全てを拒むよう、或いは誰も逃さないように周囲に白煙が立ち込め、段々と体力が削られていく。



(ドレインで力を奪わなかったら既に倒れていたな。)



一歩一歩足元を確認しながら進み、王の間へと到着した。

そのままゆっくりと扉を開き、中に入る。



「…ダレダ。妾ノ眠リヲ妨ゲルノハ。」



玉座には一人の少女が座っていた。

周囲に魔法陣が描かれ、玉座ごと鎖で縛られている。



「意識が、あるのか……。」



その余りにも異様な姿に言葉を失う。

オレが得た情報では既に理性は無いとの事だったが、強靭な精神力の成せる業なのかも知れない。



「偉大なる魔王よ、オレは今代の勇者だ。貴方を討伐に来た。」



静かに告げる



「止メヨ…。其方ニモ呪イガ振リ掛カルゾ。」



鎖を軋ませながら苦しそうに警告をしてくる。限界が近いようだ。



「全て知っている。賢者の依頼により全てを終わらせに来たのだ。」



「賢者ガ…?…有リ得ン。ク、去レ…。モウ、長クハ…モタン……!」



徐々に鎖が壊れていく。魔王の意識が有る内に急いで準備をする。



「螺旋の終焉を告げる時だ。ハイドラよ、安らかに眠れ。」



先代勇者の名を告げ、浄化の炎を使う。

魔王は驚きながらも抵抗はせず、そのまま静かに炎に包まれていった。



「ソウカ…。終ワリガ、来タノカ…。勇者ヨ、感謝スル…。」



魔王が消滅すると同時に、オレの体に何かが入ってくるのを感じる。



これで全てが終わると思いながらも、今までの事を思い出す。





---





オレとリリーは同じ村で育ち、ずっと仲良く過ごして来た。

リリーは他の女の子と違い活発で、いつも勇者ごっこをして遊んでいた。

どちらが勇者になるかでいつも喧嘩してた。

そんな日々を過ごしながらも、オレが危険な事をしようとすると本気で怒り、失敗をして大人に怒られる時は庇ってくれる、そんなリリーに段々と惹かれていった。





最初の切欠は、村に老婆が現れた事だ。



魔法使いを名乗る老婆は村を訪れ、リリーを見ると懐かしそうな悲しそうな目をした。

そして「勇者の素質が有るね。」と言い、出来るなら隠しなさいと続けた。



勇者と言われた事にリリーは興奮し、すぐに村へと駆けて行った。

そんなリリーを羨ましく思いながらも、「オレが勇者になるんだ!」と老婆に食って掛かった。

悲しそうにリリーを見ていた老婆は、オレを見て少し笑い、真剣な顔で聞いてきた。



「どうしても勇者になりたいのかい?」



「当たり前だ!リリーには負けられないんだ!」



すぐ様返すと、「取って置きだよ。」と言って魔法をかけてくれた。



「今の魔法で坊やは勇者に近い存在になれた。成人してもまだ続けたいなら『賢者の塔』までおいで。」



そう言うと、老婆は去っていった。

勇者になれた事が嬉しくてすぐにリリーの後を追い、皆に自慢していった。





その後の鑑定の儀では『英雄』のクラスを得て、『勇者』のリリーと共に村中で祝われた。

話はすぐに王都まで伝わり、村まで騎士達が迎えに来た。



「やったな!リリー!オレ達2人でモンスターを退治しようぜ!」



これからの英雄譚を思い浮かべ、意気揚々と王都へと進む。

村から出た事の無いオレ達は見る物全てに驚き笑顔が絶える事は無かった。



王都へ着くと盛大に歓迎され、様々なパーティに出席しパレードまで行われた。

歓迎が終わると早速訓練が始まるが、オレの方だけ進みが遅い。



リリーが日々の訓練で騎士に劣らぬ技量を身につけて行く中、オレは見習いに勝つのがやっとだった。

魔法も専門の魔法使いは愚か、学生の扱う魔法にも勝てなかった。

回復魔法だけは上手く使えたが『英雄』の名を冠するには遠く及ばなかった。



周囲にはまがい物と呼ばれる事が続き、何度も鑑定をさせられた。

いつも『英雄』と結果が出るが、その度に落胆の声が響く。



そんな日々を過ごしていると、村の事を思い出す事が多くなってきた。

リリーを避ける事も多くなり、全てを捨てて逃げ出したいという思いが強くなっていった頃、老婆の事を思い出した。



(そう言えば、昔に会った老婆は何だったんだろう…。)



オレに魔法をかけ、『勇者に近い存在になった』と言っていた。

今まではずっと戯言だと思ってきたが、何か有るのかも、という思いが段々と強くなり、藁にも縋る思いで『賢者の塔』に向かう決心をした。



「リリー。」

「あ!おはよう!アール!」



久しぶりに声をかけると、リリーは大喜びで返事してくれた。

その姿に何とも言えない気持ちでいると、横合いから怒鳴り声が響いた。



「貴様!!神を騙す不届き者が!勇者様に近付くな!」



そう言って石突で突き放される。

最近は英雄と呼ばれる事も少なくなり、段々と鑑定石に細工をしていると噂される様になって来た。

未だに王城で生活は出来ているが、細工を見破る為という意味合いも有るのかも知れない。



「アール!!何て酷い事をするんだ!」



小突かれた瞬間にリリーは動き、オレを支えてくれた。

その姿を一切捉える事が出来ず、改めて差を感じさせられる。



「リリー、済まない。」



感謝の方が良いと思いながらも謝る事しか出来なかった。

『賢者の塔』へと向かう事も告げられずに殆ど会話もしないままその場を離れた。



次の訓練の時、兵士に『賢者の塔』へ向かう事を告げ、了承された。

「やっと身の程を弁えたか!」という言葉と共にすぐに追い出され、僅かな路銀を渡された。



リリーの部屋に何とか手紙を忍ばせる事が出来たが、愛想を尽かされたら、という恐怖にさいなまれている。

それでも塔へ向かうしか無いと思い旅を始めた。



幸い『賢者の塔』は近くに町があり、乗合馬車で近くまで来る事ができた。

町からは歩きになる。そこまで遠くないが、許可の有る人間しか近付く事は出来ないらしい。



(成人したら来いと言っていたし、大丈夫な筈だ。)



微かに覚えている老婆の言葉を信じ、塔への旅を再開した。



『賢者の塔』へはあっさりと到着する事が出来、中に入ると老婆に迎えられた。



「久しぶりじゃのう。坊や。随分頑張ったんじゃなぁ。」



昔会った時と変わらぬ姿のままで、時が戻ったかのような気持ちにさせられる。



「『英雄』について聞きたい!昔言ってたのはどういう意味だったんだ!?」



その笑顔に感情が爆発し、斬りかかるように詰め寄った。



「落ち着け、坊や。今戻してあげよう。」



そう言って魔法をかけてくる。



「そっちの鑑定石に触れてみるんじゃ。」



流れるように魔法をかけられた事に驚き、言われるままに鑑定石に触れると『聖者』というクラスが表示された。



「……どういう事だ!」



今度こそどうにかなってしまいそうだ。今までの事を思い出し、あの日々は何だったのかと怒りが湧いてくる。



「坊やが勇者になりたいと言ったんじゃろう?…………と言いたい所じゃが、今までの頑張りを称え、少し話してやるかねぇ。」



「このままだと、勇者の嬢ちゃんは長くないよ。」



急に真剣な顔になり、意味の分からない事を告げて来た。



「何の話だ?リリーの事か?貴様に何が分かる。」



いくら力有る存在でも人の運命を見通す事など出来やしない。

これ以上虚言を続けるなら戦いも辞さないと考え剣に手をかける。



「本当の話さ。…近々魔王復活が公表されるじゃろう。嬢ちゃんはその戦いで消えるんじゃ。」



「何を馬鹿な事を…。仮に復活したとして、リリーが倒すさ。『聖者』のオレも今度こそ助けになってやる!」



「倒しても消えるんじゃよ。…歴代の勇者の『その後の物語』を聞いた事が有るかい?」



「何を言っている、皆幸せに暮らしたんだろう。」



「……先代勇者が何処に行ったのかは知ってるかい?」



「旅に出たんだろう?…何が言いたい、いい加減にしろ。」



オレの言葉に「やれやれ…」と言い、核心に触れ始めた。



「魔王を倒した勇者は次代の魔王となるんじゃよ。歴代の勇者は幸せに暮らしてなんかおらん。魔王として地獄の日々を送るんじゃ。」



「ふざけ…!」



怒鳴ろうとするが最後まで言葉を続ける事は出来なかった。

『賢者の塔』、それは先代勇者と旅をした賢者の住む場所だ。つまり、魔法使いと名乗るコイツは……。



「ようやく理解出来てきたかね。…先代勇者は今も魔王城に閉じ込められたままじゃよ。賢者の名に懸けて誓ってやろうよ。」



そう、最悪の真実を告げて来た。







その後語られた話は御伽噺の裏側の物語だった。

いつからかは分からないが、歴代の魔王は勇者が汚染された姿で、魔王を倒した時に強制的に呪われるらしい。

長い年月をかけても汚染を解こうとしたが全く浄化出来ず、先代勇者はもうずっと意識が無い状態だと言う。

勇者達の失踪については箝口令が敷かれており、王家はその事実を握りつぶしているとの事だ。



「オレの『聖者』で何とかならないだろうか?」



聖者は神聖魔法を得意とし、呪いの浄化は専門の分野と言える。

微かな希望を抱くが、現実はやはり非常だった。



「無理じゃな。以前似たようなクラスの人間に頼んだが、呪いに耐え切れずに死んだよ。」



オレに話を振らない時点で察してはいたが、既に試した事があったとは。



「じゃあどうしろって言うんだ!!」



八つ当たりだと分かりつつも声を荒げる。

こんな話聞きたく無かったとさえ思ってしまう。





「一つ、方法が有る。坊やは嬢ちゃんの為に全てを捨てれるかい?」



悪魔との取引を持ち掛けるように厭らしい顔で笑っているが、目つきは鋭いままだ。

その眼差しに負けないように返事をする。



「当たり前だ!!」



王都での苦しい日々を逃げずに過ごせたのはリリーが居たからだ。

村に居た頃から、ずっと中心にリリーが居た。



「良い返事じゃ。」



オレの言葉に満足したのか、先程までの厭らしい笑みを消す。



「やる事は簡単じゃ。『聖者』を捨て、今度こそ『英雄』として生きて行くのじゃよ。」



「……捨てる、だと…?」



『聖者』というクラスを自ら捨てると言う事は、神々の祝福を捨てると言う事。

王国、と言うかこの世界での絶対的な禁忌とされている行為だ。



「…待て、理由を説明してくれ。」



自ら地獄の蓋を開けてしまったと恐怖しつつ、リリーの為だと何とか話を聞く。



「儂は魔王の螺旋をこの世界の強制力に近い存在と見ている。全ての人間はその呪いから逃れられないじゃろう。」



だが、と続ける。



「世界の理から外れた存在なら逃れられる可能性は有る。逃れられないとしても呪いを弱める事は可能かも知れん。」



「魔王を倒す手段は用意してやる。全て儂の推測じゃし、そもそも魔王を倒しきれんかも知れん。」



「………」



「もしもの為に儂が後詰をする。少なくとも嬢ちゃんだけは救えるだろうよ。」



畳みかけるように話が続いていく。



(この話を聞いた時点で答えは1つか…。)



リリーが魔王になるなど許せる筈が無い。

確実にオレは助からないだろう。祝福を捨てるとはそういう事だ。



「分かった。やろう。」



「…すまぬな。本来なら儂がやりたいが、『賢者』の称号は特別でな。捨てた瞬間死に至るのだ。」



こうして賢者との取引は終わった。



二つ目の切欠は確実にコレだろう。





---





アレから永い時が経ち、オレは未だに意識を保ったままだ。



最近では昔の事を思い出す位しかやる事が無く、いつも夢を見ているような感覚だ。



汚染された欠片も体の中に感じられるから新たなる魔王が生まれる事も無いだろう。



平和な世界を願いなら幸福な時代を思い出す。





---





「『英雄』アール、只今帰還した。」



賢者との取引は無事終わり、すぐ様王都へと舞い戻った。



魔王復活の布告は既に成されており、現在リリーは王都を中心に行動しているらしい。





「ペテン師が!何をしに来た!?」



取次を頼むと、門番が怒鳴り返してくる。

兵士たちにまで既に顔が知れ渡っている事に驚きつつも、尊大に返す。



「たかが門番が、そんな口を利いて良いのか?」



そう言って指示書を見せる。

賢者に渡された物で、戻る時に使えと言われた。

効果はてき面で、すぐに勇者と会う事が出来た。



「アール!!絶対戻って来るって信じてたよ!?」



再会するなりリリーが抱き着いて来た。

いきなりの事に驚きつつも、優しく返す。



「ただいま、リリー。置手紙をしたが届かなかったようだな。これからは気を付けるよ。」



そう言って頭を撫でる。

久しぶりに会話する事が出来た気がして自分でも驚く。



「うん!うん!!…戻って来てくれて本当に良かった!」



もしかしたら久しぶりに本音で話せたからかも知れない。少し涙を浮かべながらも本当に喜んでくれている。



「リリー、そいつが例の…?」



「…『英雄』、だっけ?…足は引っばらないでね?」



慌てて離れるとリリーが説明してくれた。



白銀の鎧に身を包んだ騎士は公爵家の令嬢で、魔法使いのローブに身を包んだ少女は賢者の弟子との事だ。

挨拶をするが素っ気なく返される。



それからは怒涛の日々を送った。

賢者から先代勇者達のアイテムを譲り受けたオレは以前とは比べ物にならない程強くなり、何とか皆に付いていけている。

祝福を失った事も『英雄』のお陰で誤魔化せている。



行動を共にしている中で二人とも最低限の会話くらいは出来るようになり、何とかパーティとしてやって行けている。



その間にも魔王軍は日に日に力を増して行き、いくつもの街が滅ぼされていった。

勇者パーティを始めとする騎士や冒険者達も頑張っているが段々と人類は劣勢になって来ている。

最近では勇者を批判する人間まで現れて来た。



「魔王城へ奇襲をかけよう。」



いつものように王城へ報告に来た日、強制的に出席させられた会議でそんな提案が出された。

とある冒険者によって魔王城が発見され、その位置が判明したと言う。



(ついに来たか…)



賢者の準備が済んだと思い、こちらも最期の準備をする。





「あんたは……?」



闇ギルドへと訪れ、皆への餞別を残す。

全てが終わった後に王都へと戻れば王家に囚われる可能性が有る。

賢者が居れば任せられるが、恐らくは賢者も死を覚悟しているだろう。



「近々魔王が討伐されるかも知れない。もしそうなったら届けて欲しい物がある。」



そう言って王家の秘密を記した物や先代勇者達の秘宝を渡す。

賢者に縁の有る組織だから安心して良いと言われている。



「………分かった。祖先に懸けて届けよう。」



その言葉が聞ければ十分だ。



(一度は村に帰りたかったが、とうとう叶わなかったな。)



そう思いつつ、今までの事を思い出す。世界を救う旅が出来たんだ、我ながら上出来だろう。



「…アール?」



いつの間にかリリーがすぐ傍まで来ていた。

心配そうに顔を見つめられる。



「……大丈夫?…最近のアール、少しおかしいよ?」



ジッと瞳を見つめられる。

見透かされそうな気がして慌てて話を逸らす。



「ついに魔王城攻略だからな。少し昂っているのかも知れない。」



「ううん。そうじゃない!旅から帰ってからおかしいよ?目を離すとすぐに消えて行ってしまいそうで…。」



勇者の洞察力か幼馴染の直感かは分からないが、リリーの言葉に驚かされる。



「2人も心配してるよ?もし体調が悪いなら「リリー。」」



リリーの話を途中で遮る。



「全てが終わったら村に行ってみないか?2人も誘って。久しぶりに一面に広がる麦畑を見たくなったんだ。」



戦場を転々としているから青々と実った畑なんてもうずっと見ていない気がする。

オレの言葉に目をパチクリとしながらも、すぐに笑顔で返してくれた。



「うん!皆で行こう!2人に村を案内してあげよう!」



元気にはしゃぐリリーを見て一層気を引き締める。

風邪を引くと行けないと早々に城へ帰り、決戦に向けて慌しい日々を過ごしていった。





そして決戦の日、人類は総攻撃を仕掛け、それを囮にオレ達は魔王城へと向かった。

侵攻の手順については全て賢者に任せていたのでオレは従っていただけだ。



皆に魔法をかける事には最後まで悩んだが、他に方法は無いと割り切るしか無かった。





勇者を転移させる時、『嘘つき』と言われた気がした…。





---





魔王消滅と同時に賢者は結界を張り、異界へとオレを封印した。



呪いは弱まっているものの、システムから外れたオレに賢者の魔法は一切通用せず、空間ごと封印するしか方法が無かったらしい。

恐らく魔王の魂の浄化に力を使い切ったのだろう、既に殆ど消えかかっている賢者を責める事は出来ず、そのまま封印を受け入れた。







最近は村の夢を見る。

無邪気なままリリーと駆け回り、毎日を過ごす夢だ。

穏やかな夢に包まれながら終わるのも悪くないと思いつつ、ゆっくりと目を閉じるのだった…。





---























































































---





「アール!!!」



………何か、懐かしい声が聞こえる。



「退け!妾が癒してくれる!」



「離れなさい!何で顔を近づけてるのです!!」



「…抜け駆け禁止。」



騒がしい声に目を開けると、見慣れた顔ぶれが目に入ってくる。



夢の続きと思い、声をかけようとするがうまく声が出ない。



「アール!アール!!良かった!」



リリーと目が合うとそのまま抱きしめられた。

久しぶりの感覚に段々と意識が覚醒していく。





泣きじゃくるリリーを見ながら、永い夢の終わりを知るのだった。







Fin


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