0968 新帝国領の人事 前編
そしてアムダール帝国は当座の処置が終わると、俺を帝都へ呼び戻し、当事者である俺を交えて、本格的に今後の事を考えるために閣僚貴族を集めて会議を行う事になった。
俺はガルゴニア帝国を影主、飛鷲、ヘンリーの3人と副官衆及び各軍団長に任せて、エレノア、豪雷、疾風、ヒカリ、ハゼル、ラウール、レティシアと共にアムダルンへと向かった。
俺とエレノアを交えた閣僚会議の結果、正式に俺を旧ガルゴニア帝国の総督に任命し、改めて旧ガルゴニア帝国全体を俺が監視する事になった。
そして当分の間は俺がその総督を勤める事になった。
少なくともガルゴニア帝国内が落ち着き、アムダール帝国の一部として問題がなくなるまでという間だ。
その期間は不定だが、おそらく数十年と予測されている。
その間、俺がガルゴニア帝国のアムダール帝国帰順化を進める訳だ。
俺以外の者ではどう考えても甘くみられるだろうし、逆に俺が監視役となれば、ほとんどのガルゴニア帝国貴族が恐れおののくだろう。
純軍事的に考えても、俺以外の監視役はあり得なかったからだ。
それに下手におかしな奴に任せて反旗を翻されても、アムダール帝国としてはたまった物ではないからだ。
その点、俺は絶対に安全で間違いないのは、皇帝陛下を始めとして、アムダール帝国の上層部全員が承知していた。
そんな野心があるなら、わざわざガルゴニア帝国を制圧した際に、アムダール帝国に報告などする訳がないからだ。
それこそ独立して自分が新ガルゴニア皇帝とでも名乗っていただろう。
俺はそんな馬鹿な事はしないだろうという安心感がアムダール帝国上層部にあったからだ。
まあずいぶんと俺も信用されたもんだ。
そういう俺と言う便利な存在があったせいで、アムダール帝国上層部もこの際、ガルゴニア帝国を完全併合してしまおうという気にもなったのだ。
それに俺が新興貴族で、まだおかしなしがらみも少ないという部分も大きい。
そう言った様々な理由で、俺がガルゴニア帝国の監視役と言うのは渋々ながら納得せざるを得なかった。
さらにガルゴニアという旧名をそのまま使うのも紛らわしいし、変にガルゴニアへの忠誠心が燻るのも良くないとして、旧ガルゴニア帝国領の名称を「ヒッタイト地方」、帝都ガルゴルンを「ハットウサ」と改称する事となった。
ヒッタイト地方というのは俺の命名で、このガルゴニア帝国は鉄鉱山が豊富で、古くから鉄器の生産が世界的に有名と聞いたので、新名称を問われた時に、何となくその名前にしてみたのだ。
これで俺のガルゴニア方面での称号は「ホウジョウ藩王」から「アムダール帝国大森林自治領伯爵兼ヒッタイト地方総督」になった。
しかも大森林領とガルゴニア帝国領、ショーナン領などを合わせれば、その面積はそれこそアムダール帝国その物にも匹敵するので、俺のアムダール帝国内での立場は伯爵であるにも関わらず、序列や建前はともかく、事実上の実力は皇帝陛下に次ぎ、アムダール帝国の第二位となってしまった。
この事により、元々俺と友好的だった者は喜び、敵対していた者たちは少なからず恐怖した。
そして基本的にガルゴニア帝国の領土はすべてアムダール帝国となったが、俺のある提案により、ガルゴニア帝国自体は存続する事になり、その領土として、「ある場所」を新しくアムダール帝国から割譲される事になった。
この事により、公式にはガルゴニア帝国はその新たなる領土で独立国として存続する事となった。
但し、ガルゴニア皇帝ガルガン一世は今回の戦争の責任を全てとり、永久に「特別終身流刑」という罪状でそこへ行き、死ぬまでホウジョウ伯爵監視下に置かれる事となる。
そこでガルゴニア皇帝は一家とともに皇帝の身分のまま生活する事となる。
その事がアムダール帝国と旧ガルゴニア帝国内全域で正式に発表された。
しかしその新しいガルゴニア帝国の土地がどこなのかは発表されなかった。
旧ガルゴニア帝国領改め、ヒッタイト地方の総督となった俺だが、俺には大森林領やショーナン領があるし、かと言って、これほど広範囲な場所を治めるのに、そうそうヒッタイト領を離れている訳にもいかない。
基本的に俺は両方を頻繁に行き来する事になるだろう。
また帝都やショーナンにも行く事も多い。
そうなると必然的にヒッタイト地方の面倒を専門に見る総督代理となる者が必要だ。
そして他にもうちの人事には大きな再編成が必要になるだろう。
何しろあの広大なガルゴニア帝国を全て俺が治める羽目になってしまったのだ。
困った俺はショーナン領からレイモンドたちを呼び寄せた。
これほど広大な場所を治められるのは俺の部下では能力と過去の実績、信用の面で、今のところはエレノア、シルビア、リュウゾウ、レイモンドの4人しか考えられなかったからだ。
しかし俺としてはエレノアやシルビアには常にそばにいて欲しいし、リュウゾウも軍の総司令官の地位から動かす訳にはいかない。
飛鷲や影主を総督代理にしようとも考えたが、まだ二人ともそこまでの教育は出来ていない。
そこで急遽レイモンドを呼び出す事にしたのだ。
かつて広大なカラバ侯爵領を、その分領をも含めて切り盛りしてくれたレイモンドならば、広大なヒッタイト領も何とかしてくれるだろうと考えての事だ。
まさかこんな事になるとは思ってもいなかったが、レイモンドにはいずれ小アンジュや他の俺の領地を統括して治めてもらいたかったために、ショーナンをエドモンや地元の連中に任せる事が出来るように言っておいた事が役に立った!
予定よりも少々早まった感じだが、俺はレイモンドにヒッタイト地方を任せる事にした。
そう考えた俺はレイモンドと彼の腹心であるスティーブとチャールズを呼んだ。
俺はレイモンドたちに伯爵に昇爵し、ヒッタイト総督となった事を話し、その説明をした。
「そういう訳なんだ。
ショーナンの代官の方はエドモンに任せて、君はヒッタイト総督の代理として、旧ガルゴニア帝国領全体を治めてくれないか?」
いきなり俺に広大な旧ガルゴニア帝国全てを任せられたレイモンドはさすがに驚いていた。
「これはまた・・・なんという大役を・・・」
そりゃ驚くのも無理はない。
何しろ言うなれば、これはガルゴニア帝国の宰相をしてくれと言っているのと同じような物なのだ。
「いきなりの話ですまないと思うが、私の部下でここまでの事を任せられるのは君しかいないんだ。
どうか頼むよ」
そう言って俺はレイモンドに両手を合わせて頭を下げる。
「これは子爵、いえ伯爵閣下、どうかお顔をお上げください。
承知いたしました。
大恩あるホウジョウ様の御命令です。
私のような者にそのような大役が務まるかわかりませんが、謹んでお受けします」
「ありがとう、あ、スティーブは飛鷲と一緒に2人で副総督を頼むね。
チャールズは私の直轄領の統括代官を頼む。
何しろ旧ガルゴニア皇帝直轄領が全て私の領地になったんだ。
一応元皇帝直轄領の代官は差し当たって残留させるけど、それを統括する者が必要なので、それを頼むよ。
君たちもよろしく、レイモンドを助けてあげてね」
「はっ、ありがたき幸せ」
「謹んでお受けいたします」
「ショーナンの方はエドモンたちで大丈夫だよね?」
元々ショーナンの代官補佐でもあったエドモンは今や副代官でもあり、かなり代官の仕事を把握しているはずだ。
「そうですね、一度ショーナンへ戻り、エドモンと何人かの者に、もう少々教育をすれば・・・」
「うん、引き継ぎも含めて1ヶ月ほどでよろしく頼むよ。
その間にこちらも体制を整えておくからね。
それとヒッタイト総督相談役としてジュリアンに来てもらおうと思うんだ。
そうすれば君たちも多少は気が楽だろう?」
その俺の采配に3人はまた驚いたようだ。
「なんと、ジュリアン様を?」
「ありがとうございます」
「それはうれしいです!」
レイモンドたち三人は、かつての自分の主人の息子に対する信頼は厚いようだ。
「うん、それならシャロンも一緒に来るから重要な人材は、シャロンに聞けばわかるだろうしね。
ま、しばらくはショーナンの時と同じように、私とエレノアもいるから大丈夫だよ」
「は、よろしくお願いいたします」
このように新ホウジョウ伯爵領の人事は決まって行った。
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