0950 聞き分けのない連中
フリッツがボート伯爵領へ向けて旅立った後で、俺も帝都へ向けて旅立った。
今回は全行程を馬車で行く余裕が無いので、ロナバールまでは飛行艇で行って、そこから馬車の旅だ。
今回の新年の挨拶の御供はエレノアとペロンなので、二人も一緒だ。
ロナバールに着いた俺は久しぶりにケントたちロナバール部隊と一緒にサクラ魔法食堂で食事をして、組合総本部に顔を出してみる事にした。
俺たちは久しぶりにロナバールの町をブラブラと歩きながら最近の話を聞く。
「そうか、ではやはりドナルドの手下の2級の組合員というのはベータルだったのか?」
「ええ、この間ランバルトさんとハイネさんが来て確認したので間違いありません」
「あいつ、ランバルトとハイネに会ってどんな感じだった?」
「かなり後悔した感じでしたね。
それとグローザット組を辞めてからアルフォンと少し一緒に仕事をした事もあったそうです。
私がアルフォンは砂漠で盗賊に成り下がっていたので、その場でエレノア様に消し炭にされたと言ったら愕然としていましたよ」
「そうだろうなあ・・・」
「ええ、再びドナルドの手下になったのをかなり後悔していた様子でしたね。
しかし私がアルフォンの話をしたので、今更ホウジョウ子爵家の家来になれないのもわかっているようでした」
「そうか」
「むしろ呆れたのはドナルドの奴がランバルトさんとハイネさんを再び雇おうとした事ですね」
「え?そんな事を?」
それを聞いて俺も驚いた!
「ええ、二人にお前たちもベータルのように、もう一度俺に雇われてみないか?給料ははずむぞ!とね。
もちろん二人ともそんな誘いは歯牙にもかけず、ハイネさんなんぞは苦笑していましたがね」
「そうか・・・」
俺たちがそんな話をしていると、突然ある母親とその子供らしき者たちが近づいて来て話しかけて来る。
「あんたたち!探したわよ!
こんな所にいたのね?
いい加減に私のウロヤズクちゃんをレベル上げしなさいよ!」
「そうだ!そうだ!
ボクちゃんをレベル上げしないとロクな事にならないぞ!」
そう言ってその二人はケントに詰め寄る。
二人とも貴族風ではないが、けばけばしい値段の高そうな服を着ていて、どうやら資産家らしい事はわかる。
母親の方は年の頃30才前後、子供の方は俺と同じ位の身長と見た目なので、年は15才前後か?
その二人を見るとケントをはじめとして、ギルバートたちはげんなりした感じで返事をする。
「やれやれ、またあなた方ですか?
いい加減にその話は終わらせてくれませんかねぇ?」
「そんな訳ないでしょ!
さあ、ウロヤズクちゃんのお誕生日までは、もう一週間もないのよ!
早くしなさい!」
キンキン声でどなって来るが、当然の事ながら俺には何の事かわからない。
「何なの?ケント?この人たちは?」
「ああ、ホウジョウ様が気になさるほどの事ではありませんよ」
しかし俺を見とがめたそのけばけばしい婦人は俺に突っかかって来る。
「何よ!あんたは!」
その婦人をケントが止める。
「ああ、ザルデルン夫人、この方は何も関係はありませんので、お引き取りください」
しかし相手は引き下がらない!
俺をジロジロと見て話し始める。
「関係ない?おかしいわよ!
だってこの子供、あんたたちと同じような服を着ているじゃないの!
それにずいぶんとあんたたちと親しげに話していたわ!
絶対にあんたたちと関係あるでしょ!」
どうやらこの女性は俺とケントたちの間柄を疑っているようだ。
俺はケントに聞いてみた。
「こちらの御婦人は?」
「ああ、この方はザルデルン夫人と申しまして、ロナバールにお住いの方ですが、ここ最近我々に問題を持ちかけていて、我々はそれを断っているのです。
しかしこのようにかなりしつこくてね?」
「まあ!御挨拶ね!
私は金はいくらでも払ってあげるから、こっちのいう事を聞きなさいと言っているだけよ!
私にここまで言わせるなんて大した物なのよ!
だからいい加減に私の言う事を聞きなさい!」
しかしケントはにべもなくその話を断る。
「その話は正式に断ったはずですが?
しかも組合からも断られていますよね?
それがまだわからないんですか?」
「だからあんたたちにこうして直接話に来ているんでしょうが!
感謝しなさい!
私がわざわざやって来て、直接頼むなんて滅多にない事なんですからね!」
「滅多にない事だろうが、とにかくお断りします!」
どうも話は堂々巡りのようだ。
状況がわからない俺が二人に話しかける。
「あの・・・一体これは何の話なのかな?」
「あんたは何者よ!」
「私は青き薔薇の団長で、シノブ・ホウジョウと言う者です」
それを聞いた相手は目を丸くして驚く!
「は?団長?あんたが?」
「ええ、そうですよ」
それを聞いた女は激高して叫び始める!
「ちょっと!青き薔薇の団長がこんな子供だなんて聞いてないわよ!
こんな子供が団長をやっているのに、なぜ私のウロヤズクちゃんを相手にしないのよ」
「いえ、この方は見た目は少々幼く見えますが、20才を超えているんですよ」
「はあ?そんな事を言って騙そうとしたって、私は騙されないわよ!
さあ、とっとと私のウロヤズクちゃんのレベルを上げなさい!
今なら100程度で勘弁してあげるわ!」
激しく騒ぐ女性を俺が宥めて状況を聞く。
「まあまあ、そう興奮しないで。
ちょっと話を聞かせてもらえませんか?
どうしてあなたの息子さんのレベルを上げなければならないのですか?」
「当然でしょう!
うちのウロヤズクちゃんは後一週間で13になるのよ!
そうなったら組合に登録して華々しく1級で御披露目するのよ!
そのためにはレベル100程度にはならないと話にならないでしょ!」
「そう、ぼくちゃんは13歳の誕生日に華々しく社交界に初登場するのだ!
そのために最少年齢の13才で組合に1級で登録と言う偉業を達成しなければならないのだ!」
なるほど、段々話が分かって来た。
つまりこのバカボンぽいのを史上最低年齢で組合に1級で登録したいがために、レベルを上げろと言っている訳か?
「え~と?つまりそちらのお子さんがもうすぐ13才の誕生日で、その日に組合員の1級に登録をさせて華々しく世間に売り出したいと?」
「ええ、その通りよ!
わかっているじゃない!」
「ええ、それはわかるのですが、何故それにうちが関係するのですか?」
「それはもちろん、組合の関係者に今一番凄い戦団はどこだって聞いたら、全員が青き薔薇って答えたからよ!
うちのウロヤズクちゃんは特別な子で、全てが一流なのよ。
だから当然、その相手をするのも、最高の戦団でなければならないわ!
それで組合にその青い薔薇だか、青い朝顔とやらに言って、うちのウロヤズクちゃんのレベルを上げなさいと言ったのに、そんな事は引き受けられませんとか言ったのよ!
信じられる?
それで組合じゃ埒があかないから、こうして直接言いに来たんじゃない!
あなたが団長だと言うなら、そんな簡単な事くらいわかるでしょう?」
いや、全然わからんがな!
しかしある程度事情を知って呆れた俺が答える。
「いえ、組合の言う通りですね?
そんな事はうちはやっていられませんよ」
「何でよ!
金ならいくらでも支払うって言っているのよ!」
「金の問題ではないのですが?」
「はあ?そんな訳ないでしょう!
金なら金貨100枚でも200枚でも出すわよ!
だからとっとと引き受けなさい!」
こりゃ完全に頭が壊れているな?
ケントたちもこんなのを相手にしているんじゃ大変だな?
俺がそう思ってチラリとケントを見ると、ケントも肩をすくめて、首を横に振りながら両手を挙げて見せる。
そりゃそうだよな?
さて、この連中どうしてくれよう?
一計を案じた俺が答える。
「そうですか・・・ではどうしてもと言うのであれば、うちが引き受けても良いです。
その代わり、請負料として前払いで金貨3000枚といくつか条件があります。
それで良いなら引き受けましょう」
金貨3000枚と聞いて流石に相手も少々怯む。
「なっ!金貨3000枚ですって?
・・・ええ、それでも良いわよ!
さあ、さっさとうちのウロヤズクちゃんのレベルを引き揚げなさい!」
「それに関しては明日にでも正式な書類を作って渡しましょう。
それで了承すれば、息子さんのレベル上げをしても良いですよ?」
「わかったわ!」
そこまで言ってようやく相手は去って行った。
相手がいなくなった所で、ケントが俺に詫びる。
「申しわけありません、ホウジョウ様。
おかしな手合いに関わらせてしまいまして・・」
「いや、構わないよ、ケント。
君たちも毎回あんなのを相手にしていたら大変だろう?」
「確かにそうなのですがね・・・」
「ちょっと今の連中に関して調べたい事があるから、顔役の所にでも寄って行こう」
「はい」
俺は久しぶりにザジバの所に寄って見た。
「やあ、ザジバ!久しぶり!」
「これは子爵様、今回はどのような御用件で?」
「ああ、君たちにちょっと聞きたい事があるんだ。
ザルデルンとか言う人を知っているかい?」
「ああ、それならロナバールでも有数な資産家ですよ。
手広く商売もやってかなりの金持ちです。
しかも人格も中々に出来ている人です」
「その嫁さんは知っているかい?」
「ええ、ザルデルン氏同様に、とても優秀で温和な性格で良い人ですよ」
それを聞いて俺は驚いた!
「えっ?とても優秀で温和な性格?
私はさっきその人に会って来たけど、かなり我儘で無茶苦茶な感じだったよ?」
「ああ、それはおそらく第二夫人の方でしょう。
理由は知りませんが、ザルデルン氏にはもう一人細君がおりましてね。
これがもう箸にも棒にも引っかからないような人物でしてね?
息子が一人いるのですが、それを溺愛していて、どうしようもないのですよ。
しかもその息子自体も相当な馬鹿息子です。
確かもうすぐ13歳の誕生日で、その時に必ず世間をあっと言わせて見せるとか吹聴していますね」
「ははあ、私が会ったのはそっちか?」
「どうかしたのですか?」
「その息子とやらを派手に社交界に出したいから、我々にレベルを100にしろとか言ってきているんだ」
「それは災難でしたね?
ザルデルン氏の本妻には息子がいるのですが、その息子は親に似て優秀で、すでに跡を継ぐ事が決まっているのですが、その第二夫人がそれを認めないのです。
そして何とかして自分の息子が優秀な事を世間に見せたいのでしょう。
しかしその息子と言うのがまた母親に輪をかけてぼんくらで、どうしようもない奴でしてね?
とにかく魔法もだめ、剣術もだめ、商才もなく、何の知識もない、頭も悪く、性格も最悪と、どうしようもない奴なんです。
母親が甘やかして育てたもんですからダメ息子の見本のような感じになっているのですよ。
正直どういう風に育てたら、あそこまで馬鹿息子になるのか不思議なほどです。
最近は特にそれがひどくなって来ましてね?
うちの連中も色々と迷惑をかけられています。
どちらにも関わらない方が良いです」
「なるほど、確かにありゃそうだな」
その後で商売関係の事なので、ロナバールにいるシルビアのお父さんのシヴァさんや、カベーロスさんに会って話を聞いてみたが、ほぼザジバの言った話と同じ事を聞いた。
ただザルデルン氏自体も、第2夫人とその息子には手を焼いているようだ。
何でも親の都合で、本人はしたくなかったのに、無理やり第2夫人と結婚させられたそうだ。
その息子も本当にザルデルン氏の息子かどうか、怪しいらしい。
実際には離縁したいようだが、色々と理由があって、それも出来ないようだ。
そこで俺は考えていた条件を、さらに修正して誓約書を作った。
そしてザルデルン邸には明日夫婦そろっているように通告をしておいた。
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