0945 砂漠の民の意識改革
俺は砂漠の民にうちの馬車の内装を見せて、その性能を知ったらさぞかし驚くだろうと思ってアンカーに聞いた。
「連中、驚いただろう?」
「ええ、それは凄い驚きようでした。
何しろただでさえうちのB型馬車は、普通では滅多に見かけない大型馬車です。
しかも旅をする馬車なのに、食堂に寝台と便所、おまけに風呂までが完備ですからね?
常識ではありえない存在です。
ましてや場所が砂漠ではそれ以上でしょう。
しかも中はシモン式凍結タロスのおかげで砂漠とは思えない涼しさです。
宿屋の主人たちは度肝を抜かれてましたよ」
「そうだろうねぇ・・・」
俺は苦笑した。
それは当然だ。
うちの居住型大型馬車は基本的に俺が地球21世紀のキャンピングカーなどを参考にして作ってあるのだ。
そんな物を想像もした事が無い砂漠の民が、うちの居住型馬車を見れば、度肝を抜かれるのも当然だろう。
そもそも王族のガッファールや、その副官のジハンギルとて驚いていたのだ。
一般庶民が驚かない訳がない。
「そして馬車での食事も多少試食させてみせました。
まあ、もちろん魔法パンで作った燻製肉と萵苣のメティとか、白米と鳥の照り焼きとか、うちではごく普通の物をですがね?
しかしそれにも彼らは相当衝撃を受けたようです」
「ははは、でも納得はしたんじゃないかな?」
「ええ、実際彼らは相当考え込んだようです。
何しろうちの居住型馬車は普通の感覚ではありえない馬車ですからね?
寝台はまだしも、厨房に食堂、それに照明や冷房、挙句の果てに便所と風呂まで完備している馬車なんぞ夢にも見ないでしょう。
私だってホウジョウ様にお仕えしていなければ、こんな馬車の存在など信じられなかったでしょうね。
砂漠でならなおさらです。
全く今更ながらあの馬車は大した物です!
こうして改めて話すと、しみじみとそう思いますね。
実際、もし私たちが砂漠の旅をするのに、あの馬車が無かったかと考えると、その光景を想像するだに恐ろしいです。
何しろあの馬車は、移動する宿屋も同じですからね!
例えば極端な話、もし我々がB型馬車をオアシスに置いて宿屋として使えば、それだけで旅の客は我々に取られてしまうでしょう」
「確かにそうだな」
俺はそんな事を考えた事も無かったが、確かにオアシスにB型馬車を数台置いて、宿屋として運営すればそうなるかも知れない。
そう言えば前世でも確か古くなった寝台車や食堂車を、そのまま引き取って宿屋や食堂として再利用している会社などを聞いた事があるし、実際に見た事もある。
それは中々繁盛しているようだ。
うちのB型馬車でもそれをやろうと思えばできそうだ。
もう一台、食糧倉庫用の馬車を用意して、それで人間を一人配置して、後はサーバントやラボロを使えば運営も出来そうだ。
何かの時に実際にそれをやってみるのも良いかも知れない。
いや、そう言えばオリエント・リモを出てから最初のオアシスの町まで4つの小さなオアシスがある。
一応、そこは現在ホウジョウ子爵領が占有を宣言して管理をしているが、正直町を造るほどの規模のオアシスではない。
特に2番目のオアシスなどは、俺が初めて行った時は水が枯れていたほどだ。
何しろあの後、復路で周囲を掘って、ようやく湧き出て来た水を確保したほどだ。
だからその4つのオアシスではせいぜい水源を整えて、簡易基地代わりに周囲を煉瓦で囲んでB型馬車を1両置いてあって、サーバントとラボロ数体に管理をさせている程度だ。
そこでその方法を試せないだろうか?
俺がそんな事を考えていると、アンカーが話の続きをする。
「それで驚いた宿の主人たちはとりあえず、今回はシモン式凍結タロスをいくつか購入したようですね。
そうすれば少なくとも宿は涼しくなるでしょうから。
それと多少食事の事も考えたようです。
実際、復路の時に何人かの宿屋の主人には、うちのおかげで客が増えたと感謝されましたよ。
後は衛生的な事に気を付けて、食事さえもっと良くなれば、客が増えるのは間違いないでしょう。
部屋の広さ自体は馬車よりも広いのですからね」
そのアンカーの言葉に俺もうなづいて話す。
「そうだね。
ところで第1ホウジョウオアシスから第4ホウジョウオアシスに、今君の言ったB型馬車を宿として何台か置くのはどうだろう?」
「なるほど!それは確かに良い案かも知れませんね?
あそこはどこも大した広さではありませんから、町を造るほどの大きさはありません。
うちの馬車隊も水を補給するのに少々寄る程度ですからね。
しかし宿としてB型馬車数台を置くのは丁度良い実験になると思います。
それと倉庫代わりとして1両B型馬車を置いて、もう1両移動店舗を置いて、定番商品を販売して、ラボロに管理させておけば良いかと思います」
「うん、それが良いな。
では君とは別動隊を編成して、その案に沿って計画を進めてみよう」
「それは面白そうです」
「ああ、君が次の旅から帰って来る頃は、きっとそこに小さな馬車村が完成していると思うよ?」
「それは楽しみですね」
さらに俺はふとある事を思い出してアンカーに聞いてみた。
「そう言えば、砂漠では彗星も見えたかい?」
「ええ、良く見えましたよ。
もちろん行きにはまだ全然見えませんでしたが、帰りの時にはロプノールに到着した辺りから見え始めましたね?
もっともホウジョウ様から聞いて無ければ、一体何事かと驚いたでしょうね。
空にあんな物が張り付いて見えるなんて、本当に驚きです!
アスールさんやシバ駐在所長も感心していましたよ。
一応各商館には普段の5倍ほどの数の望遠鏡を置いて来ましたが、その後どうなったかはわかりませんが・・・」
「ああ、各地からの報告では全部売り切れたそうだよ」
「何と!そうでしたか!」
「ああ、今回の彗星騒ぎはうちの望遠鏡の認知度を高める良い機会だったね。
ここ3ヶ月でそれこそ今まで売ったのと同じくらいの数が売れたほどさ。
何しろ作っても作っても足りなくてね?
工場を全力稼働させてもまだ足りなかった位さ」
「それは嬉しい悲鳴と言った所ですね?」
「全くさ。
何しろいまだに売れ続けているからね。
彗星が見えているしばらくの間は売れ続けるだろうな」
「では次の隊商でも望遠鏡は多少多めに持って行った方が良さそうですね?」
「そうだね」
どうやら今回の貿易の旅も中々面白い結果になったようだ。
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