0940 事件の結末
残務処理が終わったルネオイラ教団の各拠点は、各国の魔法協会、もしくは組合預かりとなり、有効活用される事となった。
大抵の場合はそのまま治療所となったようだ。
マーヘンに関する製造や販売過程に関わった連中もほぼ全てが捕まり、犯罪奴隷となった。
教団の中層部で罪の無かった者や、下層部、及びただの信者などは、そのほとんどが罪には問われず、無罪放免となった。
ローランドは裁判にも大人しく出廷し、包み隠さず教団の事を証言し、何も知らなかった自分にも重い罰をと請求した。
しかし逆に俺やエレノアが証言に立ち、ローランドは母親であるアイシャルに生まれた時から洗脳されて騙されて何も知らなかったので、基本的に罪は無いと証言した。
それでも教団の教祖だった事は事実だったので、無罪とは行かず、財産没収の上で追放刑となり、さらに無期限でホウジョウ子爵預かりとなった。
ホウジョウ子爵預かりである事以外は、奇しくも自分の両親と同じ罪に服役する事になったのだ。
俺は一応引き取る事になったローランドに聞いてみた。
「お前さんたちはこれからどうする?」
「正直、今は混乱して何も考えられません・・・
母は亡くなり、アッタミ聖国とウトロウ王国から追放された以上、どこに行けば良いやら・・・
このままでは父のように放浪してどこかへ辿り着くしか・・・
それにホウジョウ子爵預かりとなったのですから、子爵が言う場所へどこへでも行きましょう。
しばらくは離島などでひっそりと暮らすのも良いかも知れません。
しかし今は混乱していますが、いずれは自分の無知と馬鹿さ加減の罪を償いたいと考えています」
「では当分の間、大アンジュへ来るのはどうだい?」
「え?」
「うちはまだ出来て日が浅い。
そしてベサリウスみたいに、他の場所に身の置き所がない人間が結構いるんだ」
「しかし我々は罪人ですよ?
ベサリウス様のように犯罪者でもないのに単に追われていた方とは違います」
しかし俺はその質問にも笑って答える。
「ああ、それに関しても大丈夫だ。
うちの領地には罪人なんかも結構いるんでね?
何しろ私の部下には元山賊なんかもいる位さ。
もちろん犯罪者と言っても、悪意のある奴は御免だが、君たちのように、知らないで悪事に加担してしまった連中なら問題はないさ」
「そうなのですか?」
「ああ、それに君たちはエレノアやアルデイスさんに教わるのは抵抗があるだろうが、ベサリウスには何も含む所はないんだろう?」
「そうですね」
ローランドはアイシャルに散々エレノアとアルデイスさんの事を悪く刷り込まれていた。
今はその事が虚偽だったとはわかっても、そう簡単に心情を切り替えるのは難しいだろう。
しかしベサリウスには何も好悪の感情はない。
「それならしばらくはベサリウスに弟子入りして、色々と教わるのはどうだい?」
「え?ベサリウス様に?」
「ああ、ベサリウスもお前さんならPTMを習得できるだろうと言っているし、そうすればほとぼりが冷めた頃には、うちからどこかへ行っても仕官できるだろう?
PTMを施術可能な魔法使いなら、どこへ行っても歓迎されるぞ?」
「それは確かに・・・しかし本当にそれでよろしいのですか?」
「ああ、構わないよ」
「しかしずうずうしい事を申し上げますが、出来れば私を慕っている者たちも御一緒させていただきたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、それで構わないよ。
全員、まとめてしばらくはうちの食客になれば良いさ」
「ありがとうございます。
それでは御世話になります」
こうしてローランド一派は大アンジュへ来てベサリウスの弟子となった。
そして後日、大アンジュを気に入ったローランドは、そのままうちの副医療長へと就任する事となる。
全ての案件が片付いて、俺はアルデイスさんとアッタミ国王に話す。
「さて、これで今回の件は全て解決いたしました」
「はい、ありがとうございます。
青き薔薇の活躍には心より感謝します」
「うむ、全く大儀であった。
王としても深く礼を言いたい。
ありがとう。
そして今回の指名ミッションの依頼料として、魔法協会に金貨1万枚、アースフィア広域総合組合には同じく金貨1万枚、青き薔薇には金貨3万枚を支払いたい」
「はっ、ありがとうございます」
金貨3万枚とは中々羽振りが良いが、中堅規模の国家転覆を防いだ額と思えば妥当だろう。
俺はその額を納得した。
「それとは別に是非今回の事で貴公らと宴席を設けたいとアルデイスも申しておる。
余も賛成だ。
金銭の支払いとは別に心情的にも宴で労いたい。
どうか受けてはくれぬだろうか?」
なるほど、アルデイスさんに言わせるとエレノアに拒否されると踏んで、王様に言わせた訳か?
ここで下手に断れば王に恥を掻かせる事にもなりかねないので、俺は慎重に答える。
「はっ、陛下の申し出はありがたいのですが、今回の件は複数の国にとっても害のあった出来事、例え問題が解決したとはいえ、宴をするには少々我々も気が重いかと・・・」
「うむ、そちの申す事ももっともだ。
しかし余の心情としても、金銭を渡してそれで終わりというのも何とも歯がゆい。
それに正直に言って、余もアルデイスの師であり、このアッタミ聖国の礎を作ってくれた、グリーンリーフ殿とは是非昔の話も伺ってみたいのだ。
どうか余の我儘だと思って、この宴の申し出を受けてもらえないだろうか?」
そこまで言われて俺も折れる。
「はっ、陛下にそこまで言われては是非もございません。
ありがたくその宴の申し出を受けさせていただきます」
「うむ、感謝するぞ!子爵」
こうして俺たちはさらに数日アッタミ聖国に滞在し、王の設けた宴会をそれなりに楽しんだ。
アッタミ王は国の功労者たるエレノアと実際に話せて大変喜んだ。
何しろ生まれた時からアルデイスさんにいかにエレノアが偉大な人物かを刷り込まれてきたのだ。
そりゃその人物に実際に会ったら感激はするだろうな?
しかしふと俺は、これはローランドの状況も同じではないかと考えた。
アッタミ王はアルデイスさんに、ローランドはアイシャルにそれぞれ生まれた時からエレノアやライオネルの事を吹き込まれた。
同じような事をされて育ったのに、その結果の明暗は凄まじい。
もっとも一方は本当の事を多少誇張した程度に話していただけだが、一方は完全に嘘を吹き込んでいたのだ。
その結果がこうなるのも仕方がない事だ。
アルデイスさんも久しぶりにエレノアと存分に話せて満足をしたようだ。
改めて俺に礼を言って来た。
「ホウジョウ子爵閣下、今回は本当にありがとうございます。
あなたがいらっしゃらなければ、このアッタミ聖国はどうなったかわかりません。
どうか今後とも末永く、私どもとお付き合いをください」
「もちろんです。
私こそ、アッタミ聖国とは今後とも良いお付き合いをしたいと望んでおります。
そして個人的にもアルデイスさんには弟弟子として感謝したいです」
「感謝?」
「ええ、あのエレノア製品の数々です。
私はあれに感動しました。
是非今後とも頑張ってください」
「まあ・・・そのような事まで言っていただけるとは・・・
本当に感謝いたしますわ」
そして俺は小声でアルデイスさんの耳元で付けたす。
「もし、あの商品の事でエレノアに文句を言われたら、こっそりと私に言ってくださいね?
善処しますので」
「ありがとうございます」
そう言ったアルデイスさんの顔は今までにないほどの良い笑顔だった。
これにてようやく今回の大事件も解決だ。
結局アッタミ聖国へ来てから1ヶ月近くも掛ってしまった。
俺は大アンジュへ帰る朝に旅館の外へ出てエレノアたちと話した。
「ふう、ずいぶんと予想よりも時間がかかったが、ようやくこれで帰れるね?」
「そうですね」
「お疲れ様でした」
「ああ、大変だったよ」
そう言って俺は青空を見上げると、そこにふと目がついた物があった。
「そうか・・・しばらく空なんて見てなかったから忘れていたけど、もうそんな頃になっていたのか?」
そして俺の見ている方向を一緒に見たエレノアがうなづいて同意する。
「ええ、そうですね」
さらにそばにいたヒカリやハゼルも同じ物を見て驚く!
「わあ!あれがホウジョウ様が言っていた物ですか?」
「あんな物が本当にあるなんて、驚き」
「ああ、無事に事件も終わった事だし、大アンジュへ帰ろう」
「ええ、そう致しましょう」
こうして俺たちはようやくアッタミ聖国での大事件を解決して大アンジュへ帰ったのだった。
ようやく体調も戻って来たので、今後しばらく従来通り、火・木・土の更新で行けると思います。
来週に少々いくつかの話を挟んだ後で、その次はいよいよ再びガルゴニア帝国との対決の話です。
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