0936 ローランドの話
ローランドの話はやはり数年前までウトロウで流布されていた、ライオネルに取って都合の良い話だった。
ライオネルは小国のウトロウで病に困っている人を救うために、わざわざやって来たという例の話だ。
違うのはライオネルはアッタミ聖国の魔法大臣で重鎮だったが、エレノアとアルデイスさんの陰謀でアッタミ聖国を追放されたという部分だ。
その間、アイシャルは無言で聞いていた。
すべてを聞き終わった俺は、うなづいてローランドに話した。
「なるほどな、先ほどのペロンが言った意味が良く分かったよ。
君は今までそこの母親に騙されて育ったのさ」
「何ですって!?」
「いいかい?よく聞いてくれ。
ルネオイラ教団は弱者を救う組織などではない。
それは私利私欲にまみれたそこの女の欲望を満たすだけの組織なのだ!」
その俺の説明にローランドは愕然とする!
「それは一体どういう事なのですか?
説明をしてください!」
「わかった。
君は本当に何も知らないようだから、最初から説明をしてあげよう」
そして俺は実際にローランドに説明をした。
ガレノス様がPTMを開発した事。
そのPTMを習得した者が6人いた事。
それは「ガレノス六聖」と呼ばれ、父親であるライオネルもその一人であった事。
そしてライオネルはアッタミ聖国に招聘されて魔法大臣になり、STMという劣化魔法を編み出し、それをPTMだと偽ってアッタミ聖国で普及させた事。
それが世間にばれて、メディシナーや魔法協会からも説明を求められたが無視をした事。
しかしライオネル自身が「クリッペン・マギニス症候群」すなわち今の世界では一般に「ライオネル病」と言われる病気に罹って、進退窮まった事。
仕方なくメディシナーに詫びを入れて、兄弟弟子のアスクレイさんに助けてもらい、その後、全てが明るみに出て、アッタミ聖国を追放されて流浪の旅の結果、ウトロウへ行った事。
そしてその後、アッタミ聖国でエレノアが本当のPTMを伝えて、それを習得した4人は「アッタミ四聖」と言われ、その一人が叔母のアルデイスである事などだ。
それを聞いたローランドはそれこそ愕然としていた。
「そんな・・・」
しかしそれをそばで聞いていたアイシャルは大声で叫ぶ!
「嘘よ!ローランド!
こんな連中の言う事を信じてはいけないわ!」
それを聞いた俺は面白がってアイシャルに尋ねる。
「おお、そうか?
では今の私の話のどの部分が嘘なのか教えてくれないかな?
本当の話を知っている君ならもちろんそれをわかるよな?」
「くっ・・・
ライオネルはアッタミから追放などされていない!
彼は自分からアッタミから出て行ったのよ!」
「ほう?そうか?
では何故そんな事をしたのかな?
しかも何故魔法大臣の地位を捨ててまでそんな事をしたんだい?」
「それは・・・ライオネルがウトロウの国の人々を心配したからよ」
「何故ウトロウの国だけを心配するんだい?
ほかにも病人を抱えて困っている国はいくらでもあるぞ?
それにそんなにウトロウが心配なら何故何年も他国を彷徨っていたんだい?
すぐにウトロウへ行けば良かったじゃないか?」
「それは他の国の人々が心配だったので、そこで治療をしながら・・・」
「おや?その間、ウトロウの事は心配じゃなかったのかい?」
「くっ、ウトロウには先に何人か魔法治療士を送っていたのよ!
それで十分でしょ!」
「おやおや?それで十分ならライオネルがわざわざウトロウへ行く必要はないじゃないか?
何故彼はわざわざその後でウトロウへ行ったんだい?
しかも魔法大臣を辞めてまで?
辞める必要がどこにある?」
「くっ、それは・・・」
俺の追及に流石にアイシャルも説明のしようが無くなって来たようだ。
そしてローランドも昔を思い出したようで、その事を話し始める。
「・・・確かに私は幼い頃に両親と共に各国を放浪してました。
私も何故そのように各地を転々としていたのか、わかりませんでしたが・・・」
「父親であるライオネルは君に何か話さなかったのかい?」
「ええ、父は言葉少なで寡黙な人でしたから」
ライオネルはメディシナーやアッタミにいた当時、雄弁で陽気な人物と聞いている。
それがそんな無口になったとは、よほど追放が堪えたのだろう。
それに自分の事を話せば息子に恥を話す事になるので、必然的に息子に対して無口になるのもわかる。
「そうか、私は君の父親であるライオネルは陽気で話好きだったと聞いている。
それがそんな事になったのは、余程息子である君に自分の現状を話すのがいやだったのだろうな」
「・・・」
押し黙るローランドにエレノアが話しかける。
「そうですね、ライオネルはメディシナーにいた時は陽気で明るく、いつも人々の中心にいるような人物でした」
「あなたは?」
「私はエレノア・グリーンリーフ。
あなたの父親の姉弟子でもあり、昔「ガレノス六聖」と言われた者の一人です」
「あなたが・・・!」
初めて会った自分の父親の姉弟子に驚くローランド。
そのローランドにアルデイスさんも話しかける。
「そうですね。
ライオネルはここアッタミ聖国でも陽気で賑やかな人物でした。
あの事件が起こるまでは・・・」
「あの事件・・・」
「ええ、アッタミ聖国では「うそつきライオネル」事件と呼ばれています。
あの一件があり、追放される頃のライオネルは別人かと思うほど、容貌も性格も変わりましたね?
まあ、無理もありませんが・・・」
自分の人生全てを懸けた嘘をついて失敗したのだ。
その程度の変化があっても不思議はない。
「そんな・・・」
あまりの衝撃的な話に沈黙するローランドに再びアイシャルが釈明を始める。
「信じてはダメよ!ローランド!
母の言う事が正しいのです!
こんな連中の言う事を信じてはいけません!」
「では母上、先ほどのこの方の質問に対する説明をしてください!
何故父はウトロウへ行ったのです?
いえ、それ以前に魔法大臣と言う重職にありながら、何故アッタミを離れたのです?
おかしいではありませんか?」
「くっ、それは・・・」
「それに母上は今まで私に父上はアルデイスとエレノアに騙されてアッタミを追放されたと言っていたではありませんか!
それなのに先ほどの説明では自分から魔法大臣を辞めてアッタミを出たと言っている。
それにルネオイラ教団は父の名誉回復のために活動をしていると言ってますが、自分から魔法大臣を辞めたというのであれば、それもおかしいではないですか!
一体どっちが本当なのですか?」
「くっ、それは・・・」
返答に窮するアイシャルに息子が淡々と問いかける。
「母上は私を騙していたのですね?
いいえ、母上だけではありません。
今にして思えば、私の側近は全て母上が選んでいました。
そして私は昔から箱入り息子で、世間との接点が全くと言っても無かった。
私はそれを少々不思議に思いながらも受け入れておりました。
しかしそれは全て私に余計な知識を入れないためだったのですね?」
「違うわ!」
「では先ほどの質問に答えてください!」
「そ、それは・・・」
息子に問い詰められてもアイシャルは答えられない。
「どうやら息子の質問にすら答えられないようだな?」
その俺の言葉にローランドが懇願する。
「教えてください!
本当の事を!
ルネオイラ教団とは一体どういう組織なのかを!」
「わかった、君には包み隠さず教えよう。
但し、かなり衝撃的な事だと言う事は覚悟してくれ。
しかしその前にそいつを騒がせないように口を閉じさせよう。
疾風」
「はっ!」
そう言って俺は説明をする前にアイシャルに猿轡をした。
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