0924 アッタミ聖国からの使者
アースフィア広域総合組合大アンジュ支部長のアレクシアさんから話が来た。
どうも要請ミッションの話らしい。
大アンジュで要請ミッションとは珍しいと思って俺はアレクシアさんと会ってみた。
組合の話だと言うので、一緒にいるのは現在大アンジュにいる青き薔薇の団員であるエレノアとシルビア、ミルキィ、アンジュ、キャロル、ライラ、アレック、フリッツ、ライマー、ニコラス、それに俺の護衛の豪雷、疾風、ヒカリ、ハゼルだ。
「お久しぶりです、シノブさん。
先日のお祭りは盛況でしたね?」
「やあ、アレクシアさん。
ええ、中々良い祭りになって私も安心しましたよ。
ところで今回は要請ミッションの話だとか?」
「ええ、但し要請をしているのは大アンジュ支部ではありません。
こちらのアッタミ聖国組合本部からの要請です」
「ほう?アッタミ聖国の?」
アッタミ聖国と言えば、メディシナー、ベープと並び、世界の3大治療都市とも言われている場所だ。
そしてエレノアとも色々と関係がある国でもある。
そんな国からの要請ミッションとは興味深い。
「はい、こちらはそのアッタミ聖国騎士団のリシャール・バレル氏、そしてアッタミ組合本部の副本部長のベルトール・モンバール氏です。
ではどうぞ」
「ただいま御紹介に預かりました。
リシャール・バレルと申します。
実は我がアッタミ聖国で少々騒ぎが持ち上がりまして、その騒ぎを究明し、解決するために、国王陛下が噂に高い青き薔薇に要請をする事になったのです。
そしてその事を正式に組合に申し込みました」
そしてその後の話をモンパール氏が引き継ぐ。
「ええ、それで組合としてはこれをアッタミ聖国からの正式な要請と受け取り、大アンジュ支部のフレサンジュ支部長に連絡を取った訳です」
「なるほど、それでその内容はどういった事なのでしょう?」
「はい、実はここ数年でアッタミ聖国で急激に勢力を伸ばしてきた集団がおりまして、その名を「ルネオイラ教団」と言うのです。
その教団はアッタミ聖国の民衆を惑わし、国家の転覆を計っている節があるのです。
そこでその正体と行動の調査と、場合によってはその教団の壊滅を含んだミッションをしていただきたいのです」
それを聞いた俺は不思議に思った。
「国家転覆?
しかしそんな大層な相手ならば、そちらにも国の保安機関や警察に相当する部署もあるでしょう?
たかだか組合の一戦団などに要請をする事ではないと思いますが?」
ここでアレクシアさんが俺に説明をする。
「いえ、青き薔薇は今や特級の組合員を多く擁する稀有な集団です。
そしてその実績はヤマタノオロチ討伐や、アジダハーカ退治、昇降機の設置、三竜人の里の問題解決など枚挙にいとまがありません。
その結果、紫線英雄章を叙されるほどの集団です。
このような集団でしたら国家の問題に解決を要請されるのも不思議ではありません」
「なるほど」
俺はそのアレクシアさんの説明で納得したが、エレノアは今一つ納得しないようだ。
「この要請ミッションはアッタミ聖国の国王からの要請と言いましたね?」
「はい、そうですが?」
「では実際に要請したのはアルデイスですね?」
そう言ってエレノアはリシャールさんをキッと見据える。
すると当のリシャールさんは何だか動揺している様子だ。
「そ、それは・・・」
エレノアの質問に口ごもるリシャールさんにエレノアが、今度は先ほどよりもきつく質問をする。
「アルデイスなのですね?」
するとリシャールさんは観念したように答える。
「・・・はい、その通りです。
しかしアルデイス様からその事は決して話すなと・・・」
「ふう・・・やはりそうですか・・・」
何やら納得の行った様子のエレノアに俺が質問をする。
「どうしたの?
そのアルデイスさんって何者なの?」
「アルデイス・グローリーはアッタミ聖国の四聖の一人で現在はアッタミ聖騎士団の団長を勤めているはずです。
そしてアッタミ聖国の実質的な権力者です。
王よりも上位の」
「え?王様より偉いの?
それにその四聖って確かエレノアの弟子じゃなかった?」
「そうです。
アルデイス・グローリーは私の弟子で、ライオネルの一件で私がアッタミ聖国に派遣された時にPTMを教えた一人です」
「え?あの時の?
でもあれからもう何百年も経っているよね?
その弟子って・・・」
「ええ、アルデイスは女性のエルフです。
そして四聖唯一の生き残りです」
四聖の最後の生き残りだって?
そりゃ最高権力者になるはずだ!
エレノアがメディシナーで名誉最高評議員になったみたいなものか?
俺はそれを聞いて納得をした。
「なるほど」
そしてエレノアはリシャールさんに質問をする。
「アルデイスは自分で調査をしなかったのですか?」
「いえ、もちろん我々も調査をしたのですが、その後でアルデイス様は聖母エレノア様、いえ、青き薔薇に要請をと・・・」
「なるほど・・・」
うお!「聖母エレノア様」か!
以前聞いてはいたけど、本当にエレノアはアッタミ聖国ではそう呼ばれて尊敬されているんだなぁ・・・
何やら納得をするエレノアに俺が再び質問をする。
「何?どうしたの?エレノア?」
「おそらくアルデイスは単に私に会いたいだけでしょう。
そのために御主人様をダシに使って私を呼びだそうとしたのでしょう」
「え?どういう事?」
「アルデイスは私の弟子で優秀なのですが、その・・・私に対して少々、いえ、かなり盲目的な部分がございまして・・・」
「それって、エレノアに対するレオンや、アンジュに対するキャロルみたいな感じ?」
「基本的にはそれと同じですが、もっとひどいです。
それはもう狂信的と申しましょうか・・・」
「そんなに?」
アレよりひどいだと!
レオンやキャロルだって、エレノアやアンジュに対して相当入れ込んでいるぞ!
アレ以上となると確かにほとんど病的だ!
ちなみにこの俺たちの会話を聞いてキャロルは少々ムッとしている。
何か文句を言いたそうだが、さすがにこの会話に加わろうとはしない。
「ええ、ですからこの要請ミッションはお断りしても良いかと・・・」
ここで慌ててリシャールさんがエレノアを説得し始める!
「お待ちください!聖母エレノア様!
確かにアルデイス様は聖母様にお会いしたがってはおりますが、本当に困ってもおいでなのです!
ですからどうか、今回は我らをお助けください!」
「しかしこれは明らかにアッタミ聖国に対する内政干渉になりますよ?」
「それに関しては国王陛下もアルデイス様も構わないと申しております!
聖母エレノア様と青き薔薇の皆様が我が国に来て、調査のために何をしようとも決して何も抗議はしないと、必ず申し上げろと私は言付かっております!」
「・・・」
無言のエレノアにさらにリシャールさんから懇願は続く。
「どうか、今回の件はお願いいたします」
そして一緒にいたモンパールさんも歎願する。
「私からもお願いいたします。
一国から正式に要請された件を組合が引き受けなかったとなると、今後の信用にもかかわるので・・・」
そういうモンパールさんの横でアレクシアさんも困った顔をしている。
その様子からすると、どうやらこっちの支部的にも困る事のようだ。
そしてエレノアが主人で団長たる俺に伺いを立てる。
「いかがいたしましょう?御主人様?」
「そうだねぇ?
とりあえずヤマタノオロチの時と同じで、詳しい話を聞きに行くだけでも行ってみて良いんじゃないかな?
あまりにもおかしな話だったら、そこで断るっていうのはどう?」
俺がそう言うと、リシャールさんはさらに懇願する!
「はい、どうかそれでお願いします!
まずは聖母エレノア様をアルデイス様にお引き合わせをしないと、私も使いとしてどうされるかわかりません!
最悪、騎士団を解雇され、投獄されるやも知れません!」
それを聞いて俺は驚く!
「え?アルデイスさんって、そんな厳しい人なの?」
そう言いながら俺がエレノアを見ると、エレノアは困ったように説明をする。
「いえ、そういう訳ではないのですが・・・
もう少し御主人様にわかりやすく説明すれば、私に対するアルデイスの感覚は、レオンとガンダルフを足したような感覚と申せばおわかりいただけるでしょうか?」
ああ!
あの二人の感覚を合わせたら確かにエレノア狂信者になりそうだ!
つまりエレノアに関する事だけは容赦しないって事か?
納得した俺がエレノアに質問をする。
「要するにほかの事には寛容だけど、エレノアに関する事だけは箍がはずれるって事?」
「おおむねその通りです」
なるほど!
完全に納得した!
つまりこのリシャールさんはエレノアを連れていけないと、そのアルデイスさんとやらにシバかれるという事か?
う~ん、それはちょっと可哀そうだな?
それにそれほどエレノアに入れ込んでいる人物は俺としても興味はある。
俺の姉弟子でもある訳だからね?
「じゃあ、この人が可哀そうなのもあるから、やはり行くだけは行ってみようよ。
ボクもそのアルデイスさんという人に会ってみたいし」
「あまり、お勧めはいたしませんが・・・」
「まあ、取って食われる訳じゃなし、エレノアの弟子の一人な訳でしょ?
それならボクの姉弟子でもある訳だし」
「承知しました。
それではとりあえずアッタミに行くだけは行ってみましょう」
それを聞いたリシャールさんは歓喜する!
「ありがとうございます!」
しかしここでエレノアは釘を刺した。
「但し、アルデイスに言っておきなさい。
まず、私を聖母エレノアというのはやめなさい!
あなたもですよ!
そしてあくまで現在の私はホウジョウ子爵閣下の家臣の一人です。
御主人様や他の家臣たちをないがしろにするならば、その時点で私たちはこの要請を受けずに引き上げます。
それを必ずアルデイスに伝えなさい!」
「ははっ!かしこまりました!
せい・・・いえ、エレノア様!」
「それと私たちが行く場合は隠密行動になりますから、大げさな出迎えは決してしてはいけません!」
「え?それは・・・」
「当然でしょう!
私たちはその教団とやらの隠密調査から始めるのですよ!
それが大騒ぎして私たちを迎えてどうするのです?」
「し、しかしアルデイス様はすでにせい・・エレノア様歓迎の準備を・・・」
「ですからそれも中止です!
私たちはあくまで青き薔薇の要請ミッションとして行くのですからね?
仮に宴会のような物をするとしても、それは事件の解決後です!
それをアルデイスに伝えなさい!
わかりましたね!」
「ははっ!仰せのままに!」
そしてエレノアは俺に向き直って話す。
「御主人様、このような事ですが、アッタミ聖国に参りましょう」
「うん、とりあえずはそれで良いよ」
何やら少々おかしな流れではあるが、俺たちはアッタミ聖国の要請を受けて組合の要請ミッションとして事件に臨む事となった。
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