0905 大陸横断貿易の成功 後編
俺は護衛隊の副隊長をしていた侍のシンザエモン・モウリにも報告を聞いた。
彼はうちの第1軍団の侍の中でも中堅で、次回からは護衛隊長をやってもらう人物だ。
「やあ、砂漠の旅はどうだった?」
「いやはや!ホウジョウ様!
私も初めての旅だったので身構えて行ったのですが、まさかこんな結果になるとは思いませんでしたよ!」
「ああ、ポニェッツに聞いたけど、何でも一回も盗賊にもタルギオスの連中にも遭わなかったそうじゃないか?」
「ええ、全くその通りです。
これでは何のために護衛としてついていったのかわからないほどです!
しかも我々は普段の給料の他に砂漠の出張手当や危険手当までついているのにね!
何しろ今回の旅で働いた時と言えば、たまに出る魔物を倒したのと、市場での店の警備ていどですからね。
後はテギンの連中が襲って来た程度ですが、その連中もうちの竜人たちがドラゴン化するとすっ飛んで逃げましたね。
何しろその時はミインへの見送りも兼ねて、ブルースさんやアスールさんたちもいましたからね。
竜人が全部で8人もいた訳です。
確かにドラゴンを8頭も相手をするなど、私でも御免被りたいですからねぇ。
そこは連中が泡を喰って逃げた気持ちもわかりますよ。
おかげでその時も私たち他の護衛隊は何もする事がありませんでしたよ。
部下とも散々話しましたが心苦しい位です」
それを聞いて俺は笑って答えた。
「いやいや、そんな事は気にしなくても良いよ?
その辺はいつかまとめて君たちが働く事になるかも知れないんだからね?
あの割増分はそういう部分を含めて何だからね」
「そうありたいですな。
いくら何でもこれでは仕事として楽すぎます。
何しろ数ヶ月もの旅の間、ただのんびりと馬車の中でのほほんとしていただけですからね。
砂漠なので魔物もせいぜい1日に一回か2回、出る位です。
後は夜の野営の時に、体がなまらないように多少訓練をしていた程度です。
同じ馬車にいるサクラ魔法食堂の主計官たちは毎日我々の食事を作って働いているのに、心苦しいほどでしたよ」
「まあ、彼らはそれが仕事なんだから、その辺は気にしなくとも良いさ」
「ええ、次の旅の時は物騒な話ですが、是非とも盗賊の一つや二つは出て欲しい所ですね。
おっと、これは護衛として失言でした」
「あはは、まあ確かに盗賊が出ないに越したことはないだろうけど、それじゃ君たちは少々不満かも知れないね。
気持ちはわかるよ」
「全くです」
さらに俺は戻って来たブルースたちにも話を聞いた。
「やあ、ブルース、ロプノールの方はどうだった?」
「は、順調です。
今回の大規模馬車隊のおかげで資材も大量に搬入し、新たな建物も増え、食料も十分ですし、町の作物が育つまでは十分に間に合うでしょう。
交代したアスールもこれから見守っていくのが楽しみだと言っておりました」
「なるほど、町の農作物はどうだい?」
「はっ、そちらも問題はございません。
オスカー殿たちに農業を仕込まれたジャベックたちが、農業を営み、順調に作物も育っております。
2・3年もすれば、主食の麦などは自給自足可能となりましょう」
「それは良かった。
オアシスの水量にも問題はないね?」
「ええ、そちらも問題はありません」
砂漠の町にとってオアシスの水量は文字通り死活問題だ。
俺はそれを気にしていたが、その辺も問題はないようだ。
「そう言えばロプノールの駐在官はどんな人物だい?」
その俺の質問にブルースは少々考え込んで答える。
「そうですね、何と言うか、博識なのに捉えどころがないと言うか・・・それとどこかホウジョウ様に似ております」
「ははは、それはアンカーもそう言っていたよ。
そう言えばその駐在官は何て名前なんだい?」
「はっ、ソウマ・シバ魔法学士と申しまして、何でも父はミインで、母はミズホの人間だそうです」
「ほう?母親がミズホの人ね」
「ええ、しかし幼い頃に母を亡くし、それで父の商売の関係でウガヤナ王国へ行き、そこで育ったそうです」
「なるほど。
ロプノールの生活は気に入ったようかな?」
「はい、元々読書などが好きなようで、一日のほとんどを読書しているようです。
時間があるので、アンジュ様の魔法研究なども、かなり熱心にしているようです。
食事もかなり気に入ったようで、特にカエデ殿たちやジャベックが作る菓子類を楽しみにしているようです。
ま、駐在所のほとんどの仕事は副官のジャベックとサーバントやラボロたちが可能ですからね。
シバ駐在官の仕事は日に一回の町の見回り程度です。
一応ロプノールに到着してすぐの時にテギンへも行って、状況調査をしたようですが、テギンの連中の反応に呆れかえった様子でした」
「連中は魔法協会に何を言って来たんだい?」
「何でも即座に自分たちの味方になって一緒にロプノールを攻めろと言って来たようです」
俺はそれを聞いて笑った。
「そりゃ無茶だ!」
「ええ、それでシバ駐在官も、それ以降はテギンの連中は放ってあるようです」
「なるほどねぇ・・・例のジャベックの事は話してあるんだろう?」
「ええ、「ノグレー・パウーク」の事ですね?
もちろん話しております。
シバ駐在官もそんな物騒な物を使われたら、たまった物ではないな、と頭を掻いておりました」
「ほう?」
「そしてその後で、「ここでこんな楽隠居のような生活をさせてもらっていては、その時は何とか役に立たなくてはならないだろうなぁ・・」と呟いておりました」
「ほほう?」
どうやらそのシバ駐在官とやらは、事が起こった時には、少なくとも何とかする気でいてくれているようだ。
実際にはどうなるかはわからないが、気に留めてもらっているのはありがたい。
こうして俺は東方への貿易で成功を収めた。
それは一回の往復で金貨3万枚以上もの売り上げになり、人件費、食料代など諸経費を引いても金貨2万5千枚以上の利益になったのだ!
そしてその貿易の大成功を聞いてアムダール帝国中の領主や商人は羨むようになり、それぞれが東方への貿易を求めるようになった。
俺はそれを余程問題がない限り許可をした。
その結果、大アンジュは当初の狙い通りに東西の貿易の拠点となり、大いに賑わうようになるのだった。
貿易部隊は1ヶ月ほど休みを取ると、再びミインを目指して、第2次大陸横断貿易部隊として旅立って行った。
今回の馬車隊は前回よりもさらに数が多く、総隊長であるアンカーの進言もあって、300両近くにもなった。
そしてそんな時に俺がロナバールに所用で滞在していた時に、カベーロスさんが訪ねて来た。
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