外伝 アンジュの杖 中編
俺たちがウガヤナ王国に着いてアンジュはキャロルたちと共に魔法協会へと向かった。
アサド販売部長との約束を果たすためだ。
アンジュは魔法協会の販売部に着くと、今度はアンジュの顔を見ただけで即座に販売部長を呼ばれた。
「これはアンジュ様!
おまちしておりました!」
「はい、約束でしたからね」
「それでウガヤナ王国にはどれほど御滞在の予定で?」
「はい、おそらく1週間ほどはいると思います」
「ふむ、では次の自由日にアンジュ様の杖を販売させていただくという事でよろしいでしょうか?」
「はい、それで構いません」
「売っていただける杖は何本ほどで?」
「今回は10本です」
「おお!10本も!
それは助かります!
実はすでにアンジュ様がここで杖を売ると言う噂が出回って、問い合わせが驚くほどあって困っていたのですよ」
「そんなに?」
「ええ、それで早い者勝ちにするか、抽選にしようかと色々迷っていたのですが、10本売っていただけるというのであれば、5本を抽選で、5本を競売という形にしてもよろしいでしょうか?」
「そうですね、抽選は構いませんが競売となると少々考え物ですね・・・
少々一回宿に帰って御主人様や師匠に相談をしてみてまた明日結果を報告に来ますよ」
「承知いたしました。
それと実はもう一つお願いがあるのですが・・・」
「なんでしょう?」
「ええ、このような機会は次はいつになるかわかりません。
そこで是非天賢者のアンジュ様に講演会を開いていただきたいのですが?」
「講演会?」
「ええ、講演会と言っても、難しい魔法関係の事でなくて構わないのです。
アンジュ様のこれまでの人生や、今までの事を少々話していただければ、みんな喜ぶ事でしょう」
「なるほど、例えばヤマタノオロチ討伐の事などですか?」
「ああ、それは聴衆は大喜びするでしょう」
「わかりました。
それではその講演会とやらも引き受けましょう」
「ありがとうございます!
それと講演会が終わった後で、出来ればサイン会などもしていただきたいのですが?」
「なるほど、それも構いませんが人数は制限してください」
「承知いたしました。
それでは先着100名ほどでよろしいでしょうか?」
その数に少々アンジュは驚いた!
「100名?そんなに来ますかね?」
「ええ、アンジュ様はサイン会も初めてなのでしょう?」
「そうですね」
「それでしたらその程度は余裕ですよ」
「そうですとも!御姉様!
何と言っても天賢者のサイン会ですよ!
制限が無ければ1000人並んだって不思議はありません!」
そのキャロルの言葉にアンジュが苦笑いして答える。
「まさか!」
しかしアサド部長は真面目な顔で答える。
「いえいえ、キャロル様のおっしゃる通り!
制限が無ければその程度希望者がいても不思議はございません」
「ええ~?
まあ、とにかく明日また来ますよ」
「はい、よろしくお願いします」
西門要塞の宿に戻ったアンジュはシノブやエレノアと相談をした。
「そういう訳でウガヤナ支部としては抽選と競売で私の杖を半分ずつうりたいそうなのですが?」
「なるほど・・・さて、どうするかねぇ?」
「あまり競売と言うのは感心しませんがね」
「う~ん、確かにそうだけど、これは今後のアンジュの杖の価値の指針にもなるし、現場に本人がいるんだから一回試しでやってみるのもいいんじゃないかな?」
「そうですね、確かに今後の事を考えると、一回そういった事を試してみるのも一案かも知れませんね。
どの道、今後アンジュの杖が何本も出回れば、いずれは競売に出品される事は必然でしょうからね」
「ああ、だから今回はその試しで競売をしてみるのも良いんじゃないかな?
ボクもアンジュの杖がどこまで値が上がるのか知りたいしね」
ここでキャロルが勢い込んで話す!
「それは私もです!
是非御許可をお願いします!
グリーンリーフ先生!」
「わかりました。
それでは一回試しに許可してみましょう」
「ありがとうございます!
エレノアさん!」
こうしてアンジュの杖は5本が抽選で、5本が競売にかけられる事になった。
それを聞いたアサド販売部長は大喜びだった!
そして当日が来た!
まずは午前中はアンジュの講演会だ。
アサド部長自らが司会進行を引き受け、嬉しそうに説明をする。
「さて、ここに御集りの皆さん!
本日は何と!あの魔法協会で唯一魔道士便覧に載っている、天賢者のアンジュ・サフィール様の初の講演会です!
他では聞けないような素晴らしい話が聞けるでしょう!
どうか皆さん、ご期待ください!
そして午後からはその天賢者アンジュ様の自作の杖の独占販売会を行います。
本日アンジュ様が出品される品は10本!
その内5本は抽選で、残り5本は競売とさせていただきます!
どうか皆さん、奮って御参加ください!
それではアンジュ様、どうぞ!」
アサド販売部長に紹介されてアンジュが舞台の中央に来る。
「皆さん始めまして!
私が天賢者のアンジュ・サフィールです。
そして私の頭の上に載っているのは私の創ったアイザックのシャペロと言います。
どうぞよろしく」
アンジュがそう言って挨拶をすると、シャペロも少々浮き上がって両目を光らせながら自己紹介をする。
「アイザックのシャペロですじゃ」
その光景を見た聴衆が早速「お~っ!」と言って騒ぐ。
「あれが唯一の天賢者アンジュ・サフィール様か!」
「むう、話には聞いていたが、あれほど若いとは・・・」
「しかも帽子型のアイザックとは何と斬新な!」
「ああ、魔道士年鑑で特集したのは見たが、本物は初めて見た!」
そしてアンジュが話始める。
「まず最初に言っておきたい事があります。
私を紹介される時、よく「唯一の天賢者」と紹介されますが、それは、間違いです。
正確には先ほどアサド販売部長はおっしゃった通り、「魔道士便覧に唯一掲載されている天賢者」です」
そのアンジュの説明に聴衆たちが少々ざわつく。
「え?どういう事だ?」
「今の2つに何か違いがあるのか?」
戸惑う聴衆にアンジュが説明をする。
「実は天賢者という存在は私以外にも数は少ないですが、数人いらっしゃいます。
そして御存じの方も多いと思いますが、天賢者、天魔道士、賢者の称号を持っている者は魔道士便覧に名前を掲載するのを拒否する事が出来ます。
これは魔道士便覧に名前を載せてしまうと、数が少ないために、問い合わせが大変な事になってしまうからです。
そのような訳で、現在天魔道士と賢者の半分ほどは魔道士便覧に名前を掲載されておりません。
そして天賢者は私以外は全員が掲載を希望しないために、魔道士便覧には載っていないのです。
それで私は「魔道士便覧」に載っている唯一の天賢者という訳なのです」
ここでアンジュが話を区切ると、またもや聴衆がざわつく。
「何と!そういう事だったのか!」
「確かに私も勘違いをしていた!」
そしてアンジュが話を続ける。
「そして私は私以外の天賢者のほとんどの方と知合いですが、その皆さんは私よりもはるかに優秀な方ばかりです。
むしろ天賢者の中では私が一番の下っ端だとお考え下さい。
事実、私は自分が天賢者の中では一番弱いし、知識も少ないと思います」
ここでまたもや聴衆が騒ぎ始める!
「何と!そうなのか?」
「いや、単にアンジュ様が謙虚なだけではないのか?」
「そうだな?何しろ天賢者なのだからな!」
「ああ、どちらにしても天賢者なのだから我々のような一介の魔道士などとは比較にならん!」
「うむ、そうだ」
「しかしもしアンジュ様の言う通りだとしたら、他の天賢者は想像を絶するな!」
「ああ、全くだ!」
そしてアンジュは自分が「魔力欠乏症」で数年前までは全く魔法が使えなかった事、そして「ある人物」によって、それを治してもらって魔力が湧出した事、それでようやく魔法学校に行けるようになった事などを話した。
「ううむ、天賢者様ともあろう方がそのような過去があったとは・・・」
「ああ、まさに波乱万丈だな」
さらに天賢者になった後で、最初の依頼として、ミズホ皇国からヤマタノオロチ退治を依頼され、それを引き受けて実際にヤマタノオロチを倒した事を話した。
但し、自分は八玉衆の一人に過ぎず、他の7人の仲間や、侍や忍者たちの協力が無ければとても倒すなど出来なかった事を説明する。
「むむむ・・・それほどヤマトノオロチとは大変な魔物なのか?」
「あったりまえだろ!何しろ伝説の魔物なんだからな!」
「ああ、レベルは700を超えると聞いているぞ!」
「レベル700~?
よくそんな魔物を倒せたな!」
「ああ、俺なんぞ掠っただけでも死ぬのは間違いないな!」
アンジュの話は興味深く、聴衆たちも満足したようだ。
そして講演会が終わるとサイン会だ!
アンジュの前に100番までの整理券を持った人間が殺到する!
いや、それだけではない!
整理券を手に入れられなかった人々も殺到した!
アンジュはテキパキとサインをしてサイン会自体は30分ほどで終わった。
しかしそれからが大変だった!
「アンジュ様!せめて握手だけでもしてください!」
「こちらを向いて笑ってください!」
もはやアンジュは魔法界のトップアイドルのようだ!
人々は押し寄せ、アンジュは身動きが出来ないほどになった!
魔法協会の係員たちが大声で叫んでもさほど効果はないようだ。
「はい!どいてどいて!
アンジュ様が動けないでしょ!」
「サイン会はこれで終わりです!
皆さん、一旦、退いてください!」
そしてついに係員が痺れを切らして、強硬手段に出る!
「はい、今ここでアンジュ様の周囲からどかない人は、強制的に監禁して、午後の抽選会や競売には参加できません!
それでも構わない人はそのままで構いません!」
そう係員に言われて、さすがにアンジュに群がっていた聴衆たちは一斉に引いた。
それでようやく午前の部であるアンジュの講演会を終える事が出来たのだった。
この外伝は前後編にしようかと考えていたのですが、長くなったので3部に分けました。
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