0865 脱獄と決断
俺たちは牢獄の中で相談していた。
裁判の結果がこうなった以上、もはや脱走あるのみだ!
ガッファールとジハンギルを処刑だの幽閉だのさせる訳にはいかない。
俺はヘンリーたちにいつでも出発できるように魔法念話で指示をして、エレノアたちと今後の事を話し合った。
そして朝になり、いよいよそれを実行しようと考えていると、そこへデンキン王子が来た。
「さあ、早く!
ここから出ましょう!」
「大丈夫なのですか?」
「ええ、部下の者たちには私が兄から頼まれてあなたがたの国外追放処分をする事になったと伝えました。
これがもっとも穏便に済ませる方法でしょう。
あなた方が実力でここを脱獄すれば大騒ぎになるでしょうからね。
しかし兄に知られれば、すぐに追手が来るでしょう。
急ぎましょう!」
「わかりました」
確かにデンキン王子の言う通りだ。
このまま座している訳にはいかないし、かと言って俺たちが実力行使をすれば、大騒ぎになるのは間違いない。
俺たちはデンキン王子の手引きで牢屋を出た。
もちろんガッファールとジハンギルも一緒だ。
さすがに第2王子が一緒だったので、牢番たちは誰も特に疑わず、俺たちは馬車まで辿り着いた。
ヘンリーたちが俺たちを迎え出る。
「おかえりなさいませ!
ホウジョウ様!大変でしたね?」
「ああ、まったくだよ!
それではすぐに出発しよう!」
「はい、準備は全て整っております」
俺とヘンリーがそう話している間にも全ての馬車の車止めは解除され、安定脚は引き上げて出発準備は整っていた。
「では出発!」
俺たちは出発してリョウギ王国を旅立った。
国を出るにも、王子が一緒なので問題はない。
とりあえず追手がいない事を確認すると俺はみんなと話した。
「やれやれ!とりあえずは一安心だね!
しかしこれは帰りはどうするかな?
やはり今後、リョウギ国は通過するしかないか?
それとデンキン王子、あなたは今後どうするのですか?
このまま国に戻っても大丈夫ですか?」
その俺の言葉に王子は意外な事を言い出す。
「いいえ、おそらく私はもう国には帰れますまい。
実はその覚悟で出てきました」
その返事を聞いて俺は驚いた!
「えっ?それで良いのですか?」
「はい、ガッファール王子たちがいらした時からこうなる事は薄々覚悟をしておりましたので・・・
こう見えても一応私は正規の魔道士なので、重要な物は全てマギアサッコに収納してまいりました。
出来ればこのままどこか落ち着いた場所まで御一緒させてください」
「それは構いませんが・・・
本当に宜しいのですか?」
「ええ、私は元々あまりあの国に未練はないので・・・
もう王子の身分も捨てるつもりなので、どうかこれからはデンキンと気軽に呼んでください」
「はあ・・・」
またしても気軽な王子か?
まあ、今回の場合は亡命のような物なので、仕方がないとも言えるが・・・
しかし数時間後、少々事態が変化した。
俺が念のためにリョウギ王国に偵察に残しておいたV3から連絡があったのだ!
《おやっさん!
たった今、ホンケン王子の命令で追撃部隊が国を出ました!
早馬五十騎ほどによる騎馬隊です!
指揮しているのはホンケン王子自身です!》
《わかった、お前はその部隊をつけて報告を続けてくれ。
気づかれないようにな》
《わかりました!
任せてください!おやっさん!
王子のすぐそばに潜り込んで報告をしますよ》
《頼む》
そして俺はみんなに報告をする。
「リョウギ王国に残しておいたV3から連絡があった。
ホンケン王子自らが早馬の騎馬隊で追撃隊を率いてたった今国を出たそうだ。
これでは数時間のうちに追い付かれるのは間違いないだろう。
さて、どうしようかね?」
俺の質問にエレノアが答える。
「そうですね、駱駝を犠牲にすれば追撃を振り切る事は可能ですが・・・」
駱駝を除けばうちの馬車は高性能な馬型ジャベックだ。
重い大型馬車とは言え、その気になれば、追撃隊を振り切る事も可能だろう。
俺は少々考えてガッファールに質問をする。
「ううむ・・・ガッファール、君はホンケンをどうしたい?
正直な意見を聞かせてくれ」
「そうだな、奴の友情とやらが偽りとわかった今、もはや私もあいつに情はない。
今までそれに気づかなかった自分自身にも呆れるがな。
しかし今やそれがわかり、我がウガヤナ王国に敵対する気が満々なのもわかった。
一個人としてもウガヤナ王国の王子としても許すつもりはない。
もし出来るのであれば、この機会にうち滅ぼしたい所だ」
ガッファールの気持ちはわかった。
俺はデンキン王子にも聞いてみた。
「ふむ、デンキン王子は?」
「そうですね・・・私としても兄は許しがたいです。
以前の兄は良かったのですが、最近の兄はもう救いようがありません。
権力と王位を取る事に固執するあまり、行動がおかしくなっています。
私はもし兄が国を継いだのならば、それは我が国に取っても害悪なような気がします」
その意外な答えに俺は少々驚いた。
「え?ホンケン王子は優秀なのではないのですか?」
「ええ、しかしそれはあくまで個人として優秀と言う事です。
確かに兄は魔法や剣においては今でも間違いなく我が王国一の使い手でしょう。
しかしそれが国を治める能力という訳ではありません。
兄にはそういう物が欠けています。
今は無能ながらも父が王位を保っているのでまだ問題ないですが、もし兄が実際に王位を継いだら何かの箍が外れて暴走して国が崩壊するのではないかと思います。
それを考えると、私もここで兄を討ち取った方が良いのではないかと思います」
「兄上を我々が討ち取った場合、リョウギ王国は混乱するのではないですか?」
「ええ正直、相当混乱をするでしょうね。
しかしそれも仕方がありません。
それに一応飾り物状態とはいえ、王である父がいるのです。
何とかするでしょう」
「では二人ともここでホンケン王子を我々が討ち取ってしまっても問題はないと?」
「ああ、問題ない」
「私としてもそれで構いません」
「ふむ、うちとしても我々に害悪であるホンケン王子を討ち取るのは問題ないが・・・
エレノア?ここで我々が王子を始末してしまうのと、生き残しておくのではどっちが良いだろうか?」
俺の質問にエレノアが考えながら答える。
「そうですね。
確かに生き残らせてしまうのは今後確実に禍根を残してしまうでしょう。
そうなればうちの商隊は今後リョウギ王国に立ち寄るのは論外となるでしょう。
かと言って討ち滅ぼしてしまえば、リョウギ王国自体は混乱し、今後うちの商隊の立ち寄りは、やはり難しい事になる可能性は高いです。
外交的にはどちらにしても問題はありますが、何の証拠も無しに我々を始末しようとした事が知れれば、王子を討ち取っても対外的には問題はないでしょう。
それはガッファール王子も証言してくれるでしょうからね。
そうなれば問題は純粋にホウジョウ子爵領に対するリョウギ王国だけの問題となりますが、それはうちの隊商がリョウギ王国を避けて行けばさほど問題はないでしょう。
他の町や国にまでうちの隊商を襲撃しに来るという事は考えにくいです。
また先日の裁判の話ではありませんが、この国の国力では、大アンジュに攻め込める力は間違いなくありません。
ですからどう選択してもホウジョウ子爵領としては大差ないという事です。
しかしどちらに転んでも我々に敵対的となるのであれば、より確実な敵となるホンケン王子をこの際に取り除いてしまう事をお勧めいたします」
「やはりそうか・・・」
そのエレノアの考えは俺の考えと一致していた。
要はどうせ敵対されるのであれば、より有能な敵をこの際にやってしまおうという事だ。
「ホンケン王子が今後考えを改める可能性はないかな?」
俺の質問にデンキン王子は首を横に振って答える。
「まず無理ですね。
兄はこうと考えたら考えを変えない人ですから。
一生ガッファール王子とホウジョウ子爵を恨んで、何らかの行動を起こすでしょう」
「捕獲して説得しても無駄かな?」
「その場合、兄が一番取る可能性が高い行動は、その場では子爵の言う事を聞く振りをして、改めて機会を狙う事でしょうね。
事実、今までのガッファール王子に対する行動がそうだった訳ですから。
面従腹背の潜在的な敵を作る事になる訳ですから、とてもお勧めは出来ません」
確かにその通りだ。
「王子を討たれた場合の王や他のリョウギ王国の人々の反応はどうかな?」
「父は兄が亡くなっても、ウガヤナ王国やホウジョウ子爵領にどうこうする気はないでしょう。
正直そんな気力も判断力もありません。
息子の私が言うのも情けない限りですが・・・
私たちの母はすでに亡く、最近の兄は人望もないので、他に異を唱える人もこれと言っていないでしょう」
それを聞いて俺も考えを固める。
「そうか・・・
では仕方がない!
ここでホンケン王子を始末する事にする!」
俺としても今後いつまでもそんな奴にしつこく絡まれるのはごめんだ。
ここで俺は決断をする事にした。
俺たちの手で今、ホンケン王子を討つ!
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