0855 砂漠の旅 3
ウガヤナ王国を後にした俺たちはその後も様々な国や町を通り、色々な見聞をして大いに知識を深め、旅を続けた。
もちろん後日のためにそれらは全て記録をしながらだ。
時には歓迎され、時には胡散臭がられ、時には拒否をされ、そして砂漠の魔物や盗賊の集団とも出くわす。
まさに気分はマルコ・ポーロか、三蔵法師になったような気分だ。
そしてある町に寄った時に忠告をされた。
「あんたたち、まだこれより東に行く気なんかい?」
「ええ、そうですが?」
「そうか、じゃあ気を付けた方が良いぞ。
最近はここから東には色々と出るからな」
「色々と出る?タルギオスの連中ですか?」
俺たちは今回の旅でまだ一回もタルギオスに会っていない。
しかし確率から言ってそろそろ出会ってもおかしくはないはずだ。
「ああ、それもあるが、最近この辺では馬鹿に強い「砂漠の虎」って盗賊が出るのさ」
「砂漠の虎?」
「ああ、めっぽう強い盗賊団でね。
特に盗賊頭と副頭は二人ともレベル100を超えている集団で、他の連中もめっぽう強いのさ。
一時期は副頭がいなくなって勢いがなくなったんだが、最近新しく副頭になった奴がレベル120を超えている奴で、結構なキャラバンがやられているんだ」
「レベル120ですか?
組合員でもないのに、それは凄いですね?」
盗賊だの山賊だのは普通はそれほどレベルは高くはない。
組合員などになってもロクに稼げない連中が盗賊などに成り下がるので、レベル100を超える者ならば普通ならばまともに組合員をやっているはずだ。
「ああ、何でも昔はまっとうな組合員だったらしいんだが、落ちぶれて砂漠の盗賊になったみたいだぜ」
「それは残念ですね」
「ああ、どうも聞いた話じゃどこかのキャラバンの護衛をやっていたんだが、そこのキャラバンが「砂漠の虎」に襲われた時に、その盗賊頭に気に入られて仲間になっちまったらしい」
それを聞いて俺は驚いた!
「え?では護衛の者が自分の護衛していたキャラバンを裏切ったという事ですか?」
「そういうこったな」
「それは世も末ですね」
「まあ、とにかく、気を付けるこったな。
あんたらは大型の馬車で数も多いから狙われ易いと思うしな」
「はい、御忠告ありがとうございます」
俺たちはそんな忠告を受けて、その町を旅立った。
「しかし護衛が自分のキャラバンを裏切って盗賊につくとはひどいね」
「ええ、もっとも稀に最初からそれを考えてキャラバンに盗賊仲間を潜ませておいて、裏切らせるという場合もありますがね」
「そういう場合もあるか」
「ええ、ですから護衛の者は、あまり流れの者を雇うのはお勧めできませんね」
「そうだねぇ」
そんな事を話していると俺たちの斜め前方に何やら砂煙が見えてくる。
俺は浮き馬車の中からその砂煙を見てエレノアと話す。
「あれは何だろう?」
「どうもあの様子だとタルギオス族か、盗賊のどちらかのようですね」
俺は望遠鏡でその連中を見ると、どうやら盗賊団のようだ。
第1隊のビンセントから念話が入り、総隊長である俺に判断を求めてくる。
《ホウジョウ君、どうやら砂漠の盗賊のようだがどうする?》
《そうだな、では一応全体を止めて様子を見るとするか?》
《了解した》
やがてその連中は俺たちの近くに来ると声をかけてくる。
「そこのキャラバン!命が惜しくば止まって積み荷と有り金を全部寄越せ!」
先頭の馬車にいて、その馬車から降りて来たビンセントが質問をする。
「そういうあんたらは何者だい?」
その問答の間にバルディ戦団えり抜きの護衛団もビンセントの周囲にザザザッと展開する。
「俺たちはこの辺を仕切っている「砂漠の虎」ってもんよ!」
それを聞いたビンセントも軽く驚く。
「へえ?あんたらが「砂漠の虎」って奴かい?
こりゃ有名どころにあったもんだな?」
「ほう?俺たちはそんなに有名かい?」
「ああ、この辺の町じゃ結構有名みたいだね」
そのビンセントの答えに盗賊頭は満足そうに話す。
「そいつは結構!
それなら痛い目に会わないうちに有り金と積み荷を寄越すんだな」
「いやいや、そいつは御免被るね。
私は生粋の商売人なんだがね。
何が嫌いって、もっとも嫌うのはお前さん方みたいな人の物をタダで取ろうとする盗賊なんだよ。
商人としてはこれが一番許せなくてね」
それを聞いた盗賊頭が豪快に笑って答える。
「はっはっは!
嫌うのは構わないが、素直に積み荷を渡さないなら力づくでいただくまでよ!
そこらの商人が俺たちに勝てると思うのか?」
そこに自分の馬車から降りた俺がトコトコと後ろから歩いてきて、ビンセントに話しかける。
「どうだい?ビンセント?」
「やあ、ホウジョウ君、こいつらは何とあの「砂漠の虎」なんだとさ!」
それを聞いた俺も驚いて答える。
「ほう!そいつは大物じゃないか!
手伝おうか?」
しかしビンセントは笑って答える。
「いやいや、この程度の奴らは我々で十分さ。
君たちに頼るまでもない。
これでも我々も一応商隊の護衛なんだ。
少しは活躍しないとね」
「そうか、じゃあ任せるよ」
「ああ、任せてくれ」
俺はこの案件をビンセントたちに任せる事にした。
そもそもこういった砂漠の盗賊程度ならば、本来の護衛部隊だけで排除できなければ、こんな長い行路の貿易はできない。
それに俺たち「青き薔薇」の強さが異常なのであって、バルディ戦闘団の護衛団とて、相当強いのだ。
護衛隊長であるビンセントだってエレノアに鍛えられていて、学生時代からレベル130は超えていた訳だし、今やレベルは150以上はある。
組合員で言えば白銀等級なのだ。
他の護衛団員も軒並みレベルは100を超えている魔戦士や戦魔士なので、いくらこの界隈で有名とは言っても、この程度の盗賊にやられる訳がない。
俺がビンセントに任せて突っ立っていると、その俺をジロジロと見て、先頭のごつい盗賊頭らしいのが話しかけてくる。
「なんでい?その毛並みの良いボンボンみたいのは?」
その問いにビンセントが得意げに答える。
「ああ、彼がこの隊商の総隊長さ」
それを聞いた盗賊頭が今度は俺に話しかけてくる。
「はっ!こんなのが総隊長とはね?
おい!そこのボンボン!
命が惜しけりゃこいつに命令して金と荷物を置いていくように言いな!
そうすれば馬車1台とお前たちの命くらいは見逃してやる!」
その盗賊に対して俺が堂々と答える。
「私はこの隊商の総隊長を務めるアムダール帝国のホウジョウ子爵だ!
お前たちに渡す物は錆びた銅貨一枚、スイカの種一粒とてないな!」
「はあ?帝国の子爵様だ?
へっ!おとなしく町の中で暮らしていれば良かったものの、こんな砂漠まで来やがって!
おめえの運もここまでよ!」
しかしここで盗賊頭の横にいた覆面で顔を隠している副頭らしい男が突然騒ぎ始める。
「まずい!お頭!逃げた方が良い!」
「はあ?テメエ、何を言ってやがる?」
「あれは俺たちの手には負えん!
一刻も早く逃げよう!」
あくまで逃げる事をすすめる副頭目に頭は呆れかえったように答える。
「馬鹿か?テメエは?」
「あんたが逃げなくても、俺は逃げるからな!」
そう言うとその男は乗っていたラクダの踵を返すと走り去ろうとする!
「あ、テメエ!何を逃げてんだ!」
副頭を追いかけようとする盗賊頭よりも早く、俺はその男に呪文をかける。
「アニーミ・カティノ・エスト!」
たちまち青い蔓が発生し、その男を捕らえて、男はラクダから落ちる。
「うぎゃ!」」
砂の上でもがいている男を見て感心したようにビンセントが話す。
「ほう?何で逃げ出そうとしたのかわからないが、そいつの判断は正しいね。
ありがとう、ホウジョウ君」
「ああ、そいつには後で少々質問をするとして、後は好きにすると良いよ。
ビンセント」
「全部やってしまって構わないのかい?」
「ああ、どうせこの連中は協会や組合に連れて行っても死刑だろう。
ここで我々に殺されても大差はないさ。
降伏するならともかく、襲ってくるなら全員始末してしまって構わない」
「わかった!ではお言葉に甘えて・・・
おい!「砂漠の虎」とやら!
今ここで降伏するなら上の2、3人以外は犯罪奴隷程度ですむが、逆らうなら全員ここで死ぬ羽目になるぞ!
どうする?」
そうビンセントは宣言するが、もちろん相手にはその気は全くない。
「しゃらくせい!お前たち!かかれ!」
「「「 おおう! 」」」
しかし20人ほどいた盗賊団も、ビンセントたちにかかれば話にならない。
こいつらはそれなりに強い盗賊団だったようだが、最低でもレベル100を超えているバルディ護衛団の敵ではなかった!
しかもそのほとんどが魔法士か魔道士で魔法を使えるのだ!
たちまち敵の盗賊頭以外はビンセントの部下たちに切り伏せられる!
「うあっ!なんだこいつら!」
「まさか!全員魔法使いなのか?」
「剣も強いぞ!」
「こんな馬鹿な!ぐぎゃあ!」
容赦のない魔法と剣の攻撃で、盗賊たちは瞬く間に盗賊頭を除いて全員が絶命する。
襲い掛かった自分の部下を全て殺された盗賊頭は驚いて聞いてくる。
「な、なんだ!貴様ら一体何もんだ!」
「何、ただの隊商の護衛だよ」
「馬鹿な!隊商の護衛隊ごときがこんなに強い訳がねえ!」
「いやいや、我々なんぞ総隊長殿の戦団に比べれば子供のような者さ。
ま、君たちが弱すぎたってところかな?」
そう言って笑うビンセントに盗賊頭がやけになって突っ込んでくる。
「ちくしょう!テメエラごとき!
俺一人で十分だ!」
そう言って切りかかってくる盗賊頭に向かってビンセントが呪文を放つ!
「上位雷撃呪文!」
バリバリバリ!
「うぎゃ~っ!」
さしもの盗賊頭もビンセントの放った上位電撃呪文には成すすべもなく、黒焦げになって息絶える。
これにて「砂漠の虎」も全滅だ。
そしてビンセントと俺は最初に捕縛した転がっている男に目を向ける。
「さて、残るはあいつだけか?」
「ああ、あいつは何故か我々の実力をわかっていたみたいだな?」
そう言いながら俺は蔦状タロスで縛られて砂の上に転がっている男を乱暴に引き起こす。
「おい、お前は何で逃げ出したんだ?」
そう言いながら俺は引き起こした男の顔を覆っていた覆面を引きはがす。
だが俺が見たその顔にはどこか見覚えがある。
「ん?お前は誰だ?
どこかで見たような記憶があるが・・・?」
俺が思い出そうとしていると、後ろからエレノアが声をかけてくる。
「御主人様、その男はアルフォンです」
「あ・・・」
そうだ!
俺も思い出した!
こいつはグローザット組にいたアルフォンだ!
「なんだい?知り合いかい?ホウジョウ君」
「ああ、ちょっと以前にね」
ビンセントにそう答えると、俺は改めてアルフォンを詰問する。
「お前!アルフォンか!
何でお前がこんな所で盗賊をやっている!」
俺がそう質問してもアルフォンは目を背けて答えない。
そんなアルフォンの頬に俺は軽くバシッ!と平手打ちをして再度質問をする。
「答えろ!
何故お前はこんな場所で盗賊をしている!
事と次第によっては容赦しないぞ!」
俺がそう言って襟首をつかむとアルフォンは渋々と答え始める。
「その・・・どこから話せば良いか・・・」
「ではグローザット組を抜けた時点から話せ!」
俺がそう言うと、アルフォンはボソボソと話し始めた。
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