0834 東征への準備 後編
もう一つ重要な人員の募集、それは現地の駐在員だ。
何しろ隊商を組んで物を売りに行っても、あちらの勝手がわからなければ、ろくに物を売る事も出来ないだろう。
一番最初の隊商である俺たちは、それも込みで計画をしている訳だが、何回も隊商を送り出せば、初めての人間はいくらでも出てくるだろうし、国によっては事情も千差万別だ。
その度に現地で情報を掴み、それによって商売を考えなくてはならない。
それを毎回一から情報収集してはいられないし、継続的に現地にいなければわからない情報もあるはずだ。
そこで何箇所かにうちの中継点や根拠地を作る事にした。
つまり21世紀地球風に言えば、現地法人や海外支店、海外駐在所のような物だ。
これは当面、最終目的地であるミインの国と、途中の中継地点であるウガヤナ王国の最低2箇所には設置する予定なのだ。
当然、重要な立ち位置な上に、能力の他に信用が重視されるので、これはその辺の人間をいきなり雇う訳などにはいかない。
そこで俺はクレインに相談して、サクラ魔法食堂の店長候補たちの中から希望者を募り、何人かを選抜する事にした。
しかしやる事は未知の国で、知り合いなど誰もいないのに一つの店を構え、アムダール帝国から来る隊商の世話もしなければならない。
場合によっては、その国との折衝などもしなければならないだろう。
駐在所と言っても実際には領事館なども兼ねる事になるはずだ。
この世界では言葉と貨幣単位は全国共通なのが救いだが、それを考慮しても厳しい仕事なのは間違いない。
しかもそれがかなり長い期間に及ぶ事も募集の際に伝えておいた。
様々な困難な条件が重なり、俺は最悪希望者がいない場合の事も考えていたが、幸いな事に4人の希望者が現れた!
しかもその4人はそれぞれ若いカップルだったのだ。
うちで働いている間に愛が芽生えたらしく、どこかでうちの支店を任されたら一緒に行って、その店を繁盛させようと考えていたらしい。
それが今回、遠い異国の地となれど、重要な拠点を任される人物を募集していると聞いて、意を決して応募する気になったようだ。
しかもその4人は一人が魔法学士で、残りの3人は魔道士だったので、ちょうど良かった。
俺はその4人、ラタナス、ニーレ、ボーダイ、マロニエを集めて言った。
「よし!それでは君たちをサクラ魔法食堂の店主兼ホウジョウ子爵家の現地駐在員として採用する!
場所は私ですら行った事のない未知の異国の地だ!
当然、今は想像も出来ないような困難も待ち構えているだろう!
その覚悟はあるな!」
「はい、大丈夫です!」
「必ずやホウジョウ様の期待に応えてみせます」
4人はやる気満々のようだ。
「ラタナス、ニーレ、君たちはウガヤナ王国の駐在員兼領事に任命をする」
「「はい!」」
「ボーダイ、マロニエ、君たちはミイン帝国の駐在員兼領事だ」
「「はい!」」
「うん、一応両方とも最初の拠点作りと情報収集などは私が一緒にやるつもりだ。
それとオリオンやサーバント、ラボロなどのジャベックもかなりの数を配置する予定なのでそれを活用して欲しい。
さらに現地人の雇用も君たちの裁量に任せる予定だ。
どうか現地の人たちとうまくやっていって欲しい」
「「「「 はい 」」」」
「それと現地では何が起こるかわからないので、君たちのレベルを150以上にはしておこう。
それならば戦闘も含めて、様々な事態にかなり余裕を持って当たれるだろうからね」
「はい、ありがとうございます!」
俺はエレノアに頼んで、その4人を迷宮へ連れて行き、全員をレベル150以上にまで引き上げた。
レベル150と言えば組合の白銀等級に匹敵する。
ここまで上げておけば、大抵の力ずく関係の揉め事は収められるだろう。
するとその後で4人が恐る恐る俺に申し出た。
「あの・・・実は出発する前に、ホウジョウ様とエレノア様にお願いがあるのですが・・・」
「なんだい?」
「実は我々は出発前にアムダール帝国で結婚の儀をしたく、その立会人にホウジョウ様とエレノア様になっていただけないでしょうか?」
「なるほど、それは構わないよ。
確かにその方がより決意が固まるだろうしね」
「はい!」
「ではその結婚式自体も私が取り仕切ってあげるよ」
「ありがとうございます!」
俺はその申し出に同意し、4人の合同結婚式をサクラ魔法食堂のロナバール支店を貸しきって行った。
結婚立会人は俺とエレノア、それにクレインとペロンだ。
4人は感激して俺に言った。
「ありがとうございます!
これで思う存分、現地でも働いてご覧にみせます!」
「はい!必ず期待に応えてみせます!」
「はは、まあ、よろしく頼んだよ」
こうして現地拠点を管理運営する四人も決定した。
俺たちの東征の準備は着々と進んでいった。
そして俺には旅の事以外で、後二つの懸念があった。
それは新年の挨拶とショーナン祭の事だ。
一応来年の春先前には帰って来るつもりだし、ショーナン祭には間に合うつもりだが、おそらく新年の挨拶には間に合わない。
新年の挨拶はアムダール貴族としては皇帝陛下に対する礼儀だし、重病や戦争などの理由でない限り、最優先すべき行事だ。
しかし残念ながらおそらく年末までに帰って来る可能性は低い。
いっその事、俺だけでも航空魔法で現地から帰って来て新年の挨拶には行こうかとも考えた。
しかしここでエレノアが提案してきた。
「大丈夫ですよ。
新年の挨拶は代理でも問題はないので」
「それは領主が病気とかの場合でしょ。
今回は単なる旅なんだからそういう訳にもいかないじゃない?」
「では戦争中という事にしておきましょう」
それを聞いて俺は驚いた!
「え?戦争?どこと?」
「タルギオス王国とです。
実際、今回の旅であそこと戦う確率は非常に高いですから、少なくとも係争中で領主がいなければ話にならないという事にすれば大丈夫です」
「なるほど・・・」
タルギオス王国と言えば東の砂漠で暴れまわっている盗賊国家の事だ。
一応王国と名乗ってはいるが、その実態は旅人やキャラバンを襲って生計を立てているような強盗集団で、正確には国家とも言えない無法者集団だ。
これから我々が東に向かえば、途中ほぼ100%の可能性で出くわして戦う事になるだろうとエレノアやライデーンも言っている集団だ。
少々詭弁的ではあるが、確かに今回の主目的は東の国との貿易が目的だが、その際にほぼ揉め事が起こる事は間違いない。
特に往路か復路のどちらか、もしくは両方でタルギオス族とは出会って戦いになるとは見込んでいる。
そういう観点からならば、確かに戦争状態ではあるだろう。
俺はその話に納得し、エレノアの案を採用する事にした。
「わかった、そういう事にしよう」
「それと代理の者はエイジュが良いでしょう。
但し、素のままで」
「そうだね」
影主はこういう時のために俺に似せて創ってあるのだ。
すでにこういう時のために2回も新年の挨拶にも連れて行っている。
今回は影武者としてではなく、単なる領主の代理で行くのだから、素の金髪のままでよいだろう。
「それと間に合わない場合はショーナン祭りの方もエイジュに代行をさせて宜しいかと」
「そうだね」
ショーナンの方は視察と祭り自体が目的な訳だが、まじめなレイモンドやエドモンが不正をしているとも思えないし、そもそも視察は本来領主自身でやる事ではない。
大抵は視察官が代行でする物だ。
それを影主に任せても何も問題はない。
祭り自体の方も俺がやる事といえば、基本は山車の上で座っているだけなので、それこそ俺の影武者である影主で十分だろう。
後はせいぜい光物を作る程度だが、その程度であれば影主にでも出来る。
俺は影主が俺の代わりにシノーラになっているのを想像すると、ちょっと笑った。
どうやらこれで俺のいない間の事も何とかなるだろう。
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