0727 ショーナン領の大掃除
予想を超えた俺たちの魔道士としての格好、そして本領から来た人々を見て、この屋敷の面々は相当驚いた様子だ。
俺はそんな驚いて声も出ない家人たちに話しかける。
「さて、そこで今から名前を呼ぶ者は前に出なさい。
事務長トラーシュ、料理長ガベジ、女中頭セイフ」
俺に呼ばれた三人が弾かれたように即座に前へ出る。
「はっ、はいっ」
「はい!」
「なんでしょうか!」
その三人に俺はにっこりと笑って話しかける。
「うん、君たち三人はたった今、この瞬間でクビだ!
この屋敷から出て行って、どこへでも好きな所へ行け!」
突然の俺の言葉に三人が愕然として抗議をする!
「なっ?何故ですか?ホウジョウ様?」
「そうです!一体、どうして!」
「子爵様!それはあんまりです!」
騒ぎ立てる三人に俺は先ほどとは違って冷たい表情で、冷ややかな言葉を浴びせる。
「あんまり?あんまりなのはお前らの所業だろ!」
俺の言葉に三人は再び驚く。
今まで穏やかに笑顔で話していた若い領主様が、突然人が変わったように冷淡な口調で話し始めたのだ。
その変わり様に驚いたのだろう。
そしてこのために俺は今まで温和で女狂いの馬鹿そうな領主を演じていたのだ。
「え?」
驚く三人に俺は淡々と説明を始める。
「トラーシュ、お前は事務長なんだよな?
帳簿と倉庫を見たが、何で帳簿の穀物の数と、実際に倉庫にある穀物の数が合わないんだ?
しかも誤差っていう範囲じゃない。
これって絶対に誰かが勝手に穀物を使い込んでいるよな?
それを出来る人間は限られているよな?」
「それはっ・・・」
当然の事ながらそれは倉庫を管理している事務長以外にはいない。
絶句する事務長を無視して俺は次に料理長に話し始める。
「ガベジ、お前はこの屋敷の料理長だよな?
それなのに主人たる私に毒を盛るとはどういう事だ?」
その俺の言葉に料理長が驚愕する!
「え?毒ですって?
そんな馬鹿な!私がそのような事をするはずがないでしょう?」
「ではお前がいつもこっそりと私の料理に入れていた物は何なんだ?」
「げえっ!それを御存知で?」
驚くガベジに俺は衝撃の事実を伝える。
「当然だ、あれは毒薬だろう?」
「どっ!毒薬?
そんな!私はあれをガルシア様に言われて入れていただけで・・・」
驚く料理長に俺はうなずいて答える。
「ああ、だからクビですんだんだよ。
もしお前がアレを毒だと知って入れていたらこの場で即座に処刑だ!
むしろ領主に毒を盛って、処刑されないのは私の恩情だと思え!」
「ヒイッ!」
「料理長たる者、自分がわからない材料を主人の料理に混ぜるんじゃない!
そんな事は当たり前だろう!
ましてや相手はこの領地の領主だぞ!
お前には料理人としての味覚だけでなく、矜持もないのか?」
「うう・・・」
当然の事ながら料理長からは何の言葉もない。
この料理長は舌馬鹿の上に、判断力もなかったのだ。
さらに俺は女中頭に話しかける。
「セイフ、お前は女中頭だろ?
それを良い事に一体どれだけ家の物資を勝手に横流しして、使い込みをしているんだ?」
「えっ・・・そんな事は・・・」
「とぼけようとしても証拠は挙がっているぞ?
しかも納品業者から賄賂まで強要しているようだな?
まったくお前の強欲さにはあきれ返ったよ!
今まで一体どれだけそれで、儲けてきたんだ?
もっともせっかく儲けたその金も、マイオスにいるお前の馬鹿息子が全て散財したみたいだな!
だがそれもこれまでだ!
これ以上はお前にも、お前の馬鹿息子にも錆びた銅貨1枚とてやらん!」
「くっ・・・」
この女中頭は都会に勉強しに行くと言ってサンドロスに行った息子に対して不法に儲けた金で仕送りをしていたものの、その馬鹿息子はそれを勉強になど使わず、全て博打と女遊びで使い切ってしまっていたのだ。
しかもそれを承知の上で、さらに賄賂や物資の横流しで儲けた金を仕送りをしていた。
三人とも俺の言葉に何も反論は出来ない。
俺はこの1ヶ月の間、偵察用の虫型タロスや鳥型タロスなどを使って、屋敷はおろか、町中の人間の情報を集めていた。
それをシルビアたちと毎日分析し、ペロンの匂いと照合して、全ての人物を篩いにかけていた。
その結果、この三人は解雇となった訳だ。
情けない事にそれぞれの部門の長が全員解雇された訳だがいたし方がない。
さらに俺はもう二人を呼び出す。
「そしてナベル、オートウ!
お前たちもそれに加担した罪でこの三人同様、クビだ!」
それはエドモンのほかにもう一人いた代官補佐と、領主直営の商店の店長で、両方ともガルシアの腹心でもある者だった。
「げっ!」
「そんな!」
さらに俺は全員に説明をする。
「それともう一つ、君たちには初耳かもしれないが、ケット・シーというのは人の善悪を見抜く能力があってね。
良からぬ事をたくらんでいる者は全てわかってしまうんだよ。
先ほどペロンが特別面接指導官と言ったのはそういう意味だ。
つまり君達がどういう考えを持っているか、私にはペロンを通じて筒抜けだったという訳だ。
それと私は魔道士最高位である天賢者なので、君達が屋敷の中や町でどういう話をしていたかも全部魔法で知っているという事さ」
そう言って、俺は家人たちを見回すと、その半数以上が青くなっている。
まあ、ペロンの能力や俺の魔法を少々大袈裟に言ったからね。
魔法やケット・シーの特殊能力を実際に知らなければ、相当勝手に拡大解釈はするだろう。
そしてそれは今後の行動の抑制となる。
「さあ、クビになる理由はわかっただろう!
全員、本来ならばクビどころか財産を全部没収されても不思議はないくらいだ!
クビだけで済むのは私の温情だと思え!
クビを言い渡された5人は、今すぐこの屋敷から荷物をまとめて出て行け!
夕飯の時間になっても、まだこの屋敷の中にいたら容赦はしないぞ?
その時は今度は役職的にではなく、生物学的にクビが飛ぶからな!
それと今後もこの屋敷内だけでなく、どこでもお前たちが私の視界内に入ったら、ただでは済まないと思え!
この町や領内だけでなく、例え他の領地や帝都でもな!」
「ヒィッ!」
「そんな・・・!」
「あわわわ・・・」
俺の言葉に慌てて5人は玄関広間から出て行く。
実際にはこの5人は今までの罪状から考えて、全員財産没収の上で領外追放にしても良かったのだが、それをしなかったのは一応この5人にも家族がいた事と、あくまで自主的に領外へ行って欲しかったからだ。
何しろうちから領外追放となると、必然的にマイオス領へ追い出す事となる。
それではうちが犯罪者を隣接領へ押し付けた事になってしまい、何かの時にそれがマイオス伯爵とその周辺に知られた時に問題がある。
しかし単にクビと言う事であれば、後は本人たちの自由だ。
どういう行動を取ろうがこちらの知った事ではない。
だが今回は領主自ら使用人を解雇したのだ。
しかもこれからそれを大々的に領内全域に発表する予定だ。
もちろんそんな人材をうちの領内で雇う者がいる訳がない。
そんな事をすれば、その人物や店は領主に反抗するも同然となるからだ。
さらに俺は今後俺の視界内に入れば容赦しないとも宣言した。
そうなれば必然的にこの5人は家族もろとも領外へ行くしかない。
その時に無一文では一家全員野たれ死ぬしかないので、財産を没収しなかったのだ。
もっともそれすら早めに決断しなければ、家屋などの売値は二束三文になるだろうし、ショーナン領内にいれば財産はどんどん減っていく。
しかも何かの拍子に俺の目に入れば何をされるかわからないのだ!
当人たちとしては可能な限り、出来るだけ早く遠くへ行きたい所だろう。
最低でもショーナン領の外へ、出来るならマイオス領からも外へ!
どの道それだけでこの連中は財産をほぼ使い切ってしまうだろう。
そして今後はいつ俺の目に触れるかをビクビクとしながら生きていく事になる。
それはある意味、全財産没収よりも厳しい生活だ。
これでこの連中の処分は終わった。
5人がいなくなった所で、俺は残った使用人たちに話を続ける。
次はいよいよ今回の本命だ!
「さあ、次は一番の大物だ!まずはガルシア!」
「はい!」
俺に呼ばれた現ショーナン領代官がギクシャクとしながらも前に出る。
「それから奴隷の5人、前に出なさい」
「は、はい」
領主に直接呼ばれるとは何事かと驚いて5人の奴隷たちがゾロゾロと前へ出る。
俺は立ち上がると、その奴隷たち一人一人にガルシアに触れながら奴隷解除の呪文を唱えて奴隷解放をする。
それぞれの首からパチン!と音がして、奴隷の首輪が外れる。
俺はその5人に話しかける。
「うん、君達は下がっていなさい。
後で話をする。
悪いようにはしないから安心しなさい」
「はい・・・」
俺の言葉で5人の奴隷たちはホッと一安心したように後ろへ下がる。
そこで俺は自分の椅子へ戻るとそこへ座り、改めて冷淡に命令を出す。
「さて、ガルシア、君は死刑だ!今から即座にな!」
その突然の言葉にガルシアが驚き引きつる。
「なっ!」
家人たちも息を飲んで一斉にガルシアを見つめる。
その中で俺は容赦なく、部下に命じる。
「アーガス、ラルコフ、早速ですまないが、今から少々話をする。
その話が終わったらこの男を裏庭へ連れて行って処刑しろ!」
「はっ!」
「かしこまりました」
「豪雷、君を処刑官に任命する。
私の話が終わったら、こいつを裏庭に出して、首を切れ!」
「はっ、仰せのままに」
3人が俺に命じられて即座に逃げられないように代官のガルシアを引っ立てるが、当然の事ながらガルシアが騒ぎ立てる!
「お待ちください!子爵様!
一体何故私が処刑されねばならぬのです!」
しかし抗議するガルシアに俺は淡々と説明をする。
「残念だが証拠は挙がっているんだよ。
確かにお前は数十年に渡り、巧妙に事を運んでいた。
だが私がここに来た事によって慌てたせいで、色々とボロが出始めた。
お前は今までここが本領から遠く、領主がここに来ないのを良い事に、好き勝手をしてきた。
しかし領主である私が来て、それができなくなった。
しかも今まで自分がやって来た事が私にばれれば極刑は免れない。
それで秘かに私を亡き者にしようとしたのだろう?
だがそれによってお前は焦って馬鹿な行動に出た。
お前が料理長に入れさせた毒が決定打だ。
あの薬は一回や二回で効く物ではなく、徐々に人の体を弱らせていく薬なんだろう?
たまに要人の暗殺に使われる物だそうだな。
私の知り合いには優秀な薬師がいてね。
あの薬の分析を頼んだら、即座に分析して教えてくれたよ」
「くっ・・・そんな・・・」
「そしてお前の部屋から同じ物が見つかった。
しかも買った経緯やマイオス領での売人もわかっていて、裏が取れている。
つまりは領主の殺人未遂、いや、これは殺人も同然だ!
これだけでもお前は終わりだ!」
「くっ・・・」
続けて俺が説明をする。
「そしてそれ以上に重要なのが「クジョウ」の件だ!
身に覚えがあるだろう!」
しかしここでガルシアは知らぬ振りをする。
「クジョウ?何の事ですかな?
以前にも言ったように、そのような物は存じ上げませんが?」
「今更とぼけても無駄だ!
私はすでに全て知っているんだよ。
ジェイル、出てきたまえ!」
俺がそう言うと、それまでフードを被って本領の家臣団の近くで隠れるようにしていた人物が前へ出てきて、フードを取る。
それは一人の奴隷の男だった。
しかしその姿を見てガルシアが愕然とする!
「貴様!なぜここにいる!」
驚くガルシアを無視して俺は再び立ち上がると二人のそばへ行き、ガルシアに触れながら、ジェイルの奴隷魔法を解く。
パチン!と音がして奴隷の首輪が外れる。
「さあ、ジェイル、これで君は自由だ」
「はい、ありがとうございます。
ホウジョウ子爵様」
「さあ、では仕上げだ。
ここにいる諸君、これを見たまえ!」
そう言って俺は、自分の横に用意した大きく透明な壁、すなわち大型映像スクリーン型のジャベックを指差した。
そこには誰もが驚く光景が映し出されていた・・・
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