0691 ゾルフィとの勝負
俺は山賊頭のゾルフィに確認をする。
「何?お前と俺が戦って、俺が勝てば良いのか?」
「そうだ!」
「そうすれば本当に俺に下るのか?」
「ああ、白狼族の誇りに誓ってやる!」
「わかった!こっちはそれで良いぞ!」
「よし!勝負だ!」
しかし勝負を急ぐゾルフィを俺が止めた。
「まあ、ちょっと待て」
「なんだ?怖気づいたのか?」
「違うよ。お前のやっつけ方をミルキィに聞くのさ」
「なんだとぉ?
貴様、姉さんに俺の弱点を聞こうって言うのか?」
「いや、それはちょっと違うな」
俺はゾルフィを目の前にして、あからさまにミルキィに聞いてみる。
「どうすれば良いかな?ミルキィ?
どういう風にやっつければ一番あいつは納得する?」
再び奴隷の首輪をパチン!とはめていたミルキィが、俺の意図を察してハキハキと答える。
「弟の性格からして早めに勝負をつけた方が良いでしょう。
早ければ早いほど良いでしょう。
それも圧倒的な力の差を見せ付けてあげてください。
そうすれば納得はしなくとも、少なくとも現状を理解はするでしょう。
弟はそこまで馬鹿ではありません。
ゾンデルさんたちと同じです。
それこそ象と蟻ほどの差を見せてあげてください」
「わかった」
俺とミルキィの話を聞いていたゾルフィが猛り狂う。
「圧倒的な力の差を見せ付けるだぁ?
象と蟻だとう?
馬鹿馬鹿しい!親父や師匠じゃあるまいし!
お前みたいなガキにそんな真似が出来てたまるか!
面白い!やれるもんならやってみろ!」
「ああ、わかった」
「いくぜ!覚悟しろ!」
「来い!」
「うおおぉっ!」
「グランダ・フルモバート!」
バリバリバリ!
ゾルフィは俺に飛び掛ってきて・・・それで終わった。
瞬殺だった。
山賊頭のゾルフィは一瞬で俺の無詠唱の上級雷撃呪文で丸焦げにされた。
そして叫び声も出さずにその場に倒れた。
危うく、中身まで焼く所だったが、何とか表面だけで収めた。
俺に焦がされて倒れているゾルフィにミルキィが治療呪文をかける。
気を失っていたゾルフィが意識を取り戻して驚く。
「ね、姉さん?治療呪文が?」
「ええ、これでも私は今は正規の魔道士ですからね」
「え?魔道士だって?しかも正規の?」
「レベルだって300を超えているのよ」
「ええっ!300だって?」
「それもこれも全てこちらにいらっしゃるシノブ様のおかげなのよ?」
「そいつの?」
倒れているゾルフィに俺が声をかける。
「どうだ?これで俺の言う事を聞くか?」
寝ていたゾルフィがガバッ!と起き上がって、自分の手下たちに叫ぶ!
「ちくしょう!だが俺はともかく、俺の手下たちは違うぞ!
おい!お前ら!
遠慮はいらねえ!こいつを叩きのめしちまえ!」
だが副頭らしき男は首を横に振って答える。
「そいつは遠慮しとくよ、ゾルフィ」
「なんだと!どういうつもりだ!ジーラン!」
猛り狂うゾルフィにジーランと言われた副頭の白狼獣人が淡々と答える。
「お前が瞬殺された相手に俺たちが束になったって、勝てる訳ないだろう?
ましてやバロン師匠までいるんだ。
ここはまずおとなしくして話を聞いた方が良さそうだ。
それにお前は負けたらその人の部下になると約束したのだろう?
しかも白狼族の誇りに誓ってまで。
その約束を破る気か?」
「くっ・・・」
あきらめの悪い弟をミルキィが諭す。
「あきらめなさい、ゾルフィ、あなたがシノブ様に勝てる事などありえないのだから」
「くう・・・」
「ゾンデルさんやゾンガーさんたちが束になってかかっても話にならなかったんですからね」
「え?ゾンデルさんたちが?」
「ええ、仮に父さんが生きていたとしたって御主人様には敵わないわよ?」
「ぬぅ・・・」
どうやらこいつもようやく状況を察して、ある程度はわかってきたようだ。
しかし山賊は山賊だ。
このままでは俺たちが捕縛して当局に差し出すしかない。
そうすればまず全員が死刑か、よくても犯罪奴隷だろう。
「それにしてもこいつらはどうしよう?
何か助ける方法はないだろうか?」
このままでは頭目であるゾルフィと副頭目らしきジーランと言う奴は間違いなく死刑だし、他の連中も全員死刑か重犯罪奴隷になるのはほぼ確定だ。
俺が考え込んでいると、エレノアが案を出してくる。
「一つだけ方法があります」
「何?」
「我々が保証人となって、ゾルフィたちを買う事です」
「買う?」
「はい、御主人様も御存知のように、特級の組合員にはいくつかの特別権限があります。
その一つに罪人を犯罪奴隷として買って、自分の物にするというのがございます」
「なるほど」
そう言われてみれば、特級組合員規則にそんな項目があった。
「ただし、その場合はミッションの報奨金ももらえず、逆に多額の保証金を取られる場合もございます。
今回の場合は間違いなく、最低でも金貨数百枚は保証金として取られるでしょう」
「そうか、しかし他に方法がないのなら仕方がないな」
その俺とエレノアの会話を聞いたゾルフィが叫ぶ。
「けっ!てめぇの奴隷になるだと!
そこまでして助かりたかねーや!
こうなったら煮るなり焼くなり好きにしやがれ!」
そう言ってふてくされてその場に座り込む。
それを聞いたミルキィが弟を叱責する。
「いい加減にしなさい!ゾルフィ!
それにそこまで弟たちの事で御主人様やエレノアさんたちに御迷惑をかける訳にはいきません!
やはり、この場は私が弟を討ち果たします!
ゾルフィ!最後はせめて私が看取ります!覚悟なさい!」
そう言ってミルキィは再びゾルフィに向かって剣を向けて首を取ろうとする!
「わあ~待った!待った!ミルキィ!」
俺は慌てて後ろから抱きかかえるようにしてミルキィを止める。
「気持ちはわかるけど、君にとってだって大切な弟なんだろう?
それだったら僕に取っても身内も同然だ!
義理の弟みたいなものだよ!
ここは何とか助ける方向で考えようよ!」
「確かに私も弟は大切です!
しかしけじめはつけなければなりません!
それに山賊頭の弟の首さえ当局に差し出せば、他の者は助かるかもしれません!」
俺とミルキィがそんな問答をしていると、ゾルフィの手下たちがもめ始める。
「おい!ゾルフィ!いい加減にこの人の言う事を聞いたらどうだ?
どっちみち俺たちには他の選択肢なんぞないんだ!
この人たちには俺たちでは絶対に勝てないし、逃げられもせんのだぞ?」
「そうよ、それにこんなに私たちの事を心配してくださって・・・
この人がいらっしゃらなければ、私たちはとっくにミルキィ様か、バロン師匠に討たれているのよ?」
「そうです、ゾルフィ様、それに今聞いた話の通りならば、この方は私達の代わりに仇を取ってくれた上に、村まで復興してくださったのですよ!
しかも奴隷として売られた人たちまで、わざわざ全員探して買い戻してまでくれたのです!
そうならば我々から見ても大恩人です!
そんな恩人に対して、我ら誇り高い白狼族が、恩知らずになりたいのですか?」
その部下たちの言葉にゾルフィは何も反論できない。
「うぐぐ・・・」
さらに部下たちはゾルフィを責める。
「そうだぜ?親分?
それにどの道、死刑になるしかないなら、生きていくにはこの人の言う事を聞くしかないだろう?」
「ええ、私も村が復興したのなら生きてそれを見てみたいわ!」
「俺も生まれ故郷がどうなったのか見てみたい!」
「ああ、奴隷の身でも構わない!俺も死ぬ前に一目故郷を見てみたい!」
「おう!他に俺たちを救う方法があるなら、すぐにこの場で言えよ!」
「そうだ!そうだ!言ってみろ!」
仲間たちに散々責められて、流石にゾルフィも折れざるを得なくなったようだ。
「わかったよ・・・お前たちがそれほど言うのであれば・・
こいつの手下になるよ・・・
奴隷にでも何でもなってやるよ・・」
不承不承ゾルフィは俺の言う事を聞く事になったのだった。
こうしてミルキィの弟、ゾルフィとその一党十数人は俺たちの手下となった。
俺は組合に行って依頼が完全に解決した事を報告し、ゾルフィたちの身柄を希望した。
予想通りに相当な保証金を取られたものの、何とかそれは許可されて、全員が犯罪奴隷となり、俺の管轄になったのだ。
俺の組織の中に獣人部隊が組み込まれ、ゾルフィがその隊長となり、ジーランとミーティアが副長となった。
そして母であるミルファがその獣人部隊の監査役となった。
最初はミルキィにやらせようとしたのだが、建前が奴隷では、その役をさせる事に世間的に問題があったからだ。
それにミルキィは俺の護衛隊長でもあるし、他の事でも色々と忙しい。
さらにバロンにも外部監査役となって、場合によっては指導してもらう事で納得してもらった。
まあ、母親と師匠の言う事なら聞くだろう。
他の連中もミルファは元族長の奥方様なので従順だ。
そして元山賊たちは自分たちの故郷の村を見る事を熱望したので、俺はそれを叶えてやる事にした。
当小説を面白いと思った方は、ブックマーク、高評価、いいね、などをお願いします!
ブックマーク、高評価、いいねをしていただくと、作者もやる気が出てきますので是非お願いします!




