0065 ハムハム登場
一通り、エルフィールの話が終わった所で、俺が話を切り替えた。
「ところでついでと言っては何ですが、僕の作ったジャベックも御覧になりますか?」
「ええ、それは是非見てみたいわ」
「私も!」
「はは・・・もちろんエルフィールとは比較になんかならないですけど、初心者の僕がそれなりに一生懸命に作ったので、下手でも許してくださいね」
「大丈夫よ!」
「ええ、笑ったりしないから大丈夫よ」
「それでは・・・出ておいで、ハムハム」
俺がそう言うと、俺の服のポケットからピョコッと顔を出した小型物体がダダダ・・・と俺の体を駆け上ると、俺の肩にチョコンと座り、ペコリと二人に頭を下げる。
背中は茶色く、腹側は白い。
見かけは完全にハムスターだ。
これが俺がエレノアに課題として出されたジャベックだ。
何か変わったジャベックを一体作って見せて欲しいと課題を出されたので、これを作ってみたのだった。
「僕が練習で作った小型動物型ジャベックです。
名前はハムハムで、レベルは5です。
ハムハム、二人に御挨拶」
俺がそう説明すると、ハムハムは「ウキュッ」と鳴いて、もう一度頭をペコリと下げる。
それを見てエトワールさんが叫ぶ。
「いやぁ!何これ!かわいい!」
「私もこんなジャベック初めて見たわ」
「どうぞ、噛んだり暴れたりしませんから手にとってみますか?」
「うん!触らして!」
「はい、ホラ、ハムハム、二人と遊んでもらいなさい」
俺がそう言うと、ハムハムは俺の肩から駆け下りて、腕を伝って手まで行くと、ピョンとエトワールさんの手のひらに飛び移る。
エトワールさんの手の上でもう一度頭をペコリと下げると、小首をかしげて「ウキュ?」と声を出す。
そのしぐさを見て再びエトワールさんが叫ぶ。
「いやあああ!何これ?可愛い!しかも凄い、ふわっふわ!」
「どれどれ・・・あら、本当にこれ触り心地いいわね?」
エトワールさんの手のひらの上にいるハムハムの背中をシルビアさんも撫でると感心する。
「ええ、触り心地はかなり熱心に考えて作りました」
そう、俺はオネショタ好きだが、モフモフ好きでもあるのだ!
モフモフ好きな俺としては、かなり触り心地にはうるさく、モフる際の事を考えて、触り心地に関しては何回も設計しなおしたのだ。
その甲斐もあって、ハムハムの触り心地は俺もかなり気に入っている。
俺の説明にうなずきながらエトワールさんとシルビアさんはハムハムを撫でる。
「ウキュゥ~」
ハムハムは背中を撫でられると、気持ちいいのか、そのまま手足を伸ばして体全体の伸びをする。
「撫でると、その相手を気に入って、色々と芸をしたりしますよ」
「え?そうなの?じゃあ・・・」
そう言ってエトワールさんが、さらにハムハムを撫でると、ぐてーと寝転んでいたハムハムが突然サッと立ち上がり、ダダダ・・・とエトワールさんを肩まで駆け上ると、エトワールさんにスリスリと頬ずりをする。
「きゃ~可愛い!くすぐったい~」
「あら?本当に可愛いわね?」
そう言ってシルビアさんがエトワールさんの肩にいるハムハムを撫でると、今度はシルビアさんの腕を駆け上り、同じように頬ずりをする。
「あん、確かにこの子、気持ちいいわね」
「よし、ハムハム、戻っておいで」
俺がそう言って腕を伸ばすと、「ウキュ」と鳴くと、ピョンと飛んで俺の手のひらに飛び乗る。
「よし、またこの中にお入り」
俺がそう言って、ポケットを開けると「ウキュ」と鳴いて、そこにスボッ!と収まる。
「まあ、こんな具合です」
「いいわ~それはそれで、いいわ~」
「ええ、とても愛らしくていい感じね」
「ありがとうございます。では次は家の案内をしますね」
無事にエルフィールとハムハムの説明が終わり、俺とエレノアは二人に屋敷の案内をした。
教室や大浴場、そしてこの世界ではまだ有り得ない斬新な構造の数々に、二人はこれまた目を白黒させて驚いたようだ。
それぞれを俺が説明する度に驚きの声をあげる。
「驚いたわねぇ。こんな構造の家があるだなんて・・・」
「ええ、特に客室の構造に驚いたわ。
各部屋全てに水道が引かれているだけでも驚きなのに、トイレと御風呂があるなんて信じられない位だわ」
「それにあの御風呂!あれほど、小さいのにあんなに機能的なんて、それも驚きだわ!」
「全くね、大浴場はともかく、あんな御風呂があるなんて、想像もしなかったわ」
当然ながら独立型ユニットバスを知らない二人は、風呂の構造にビックリだ。
「それとあの散水器!あれには驚いたわ!
アレ、うちの寮の御風呂にも欲しいわ~」
「さっき説明した通り、原理は簡単なので、何かの折に魔法協会にかけあってみてはいかがですか?」
魔法協会ならばジャベックを使える人たちはかなりいるはずだ。
構造的にはそれほど難しくはないので、ジャベックを使える人がいる魔法協会で散水器、つまりシャワーを作るのはさほど問題はないはずだ。
後は費用の問題だろう。
「そうね、そうするわ!」
エトワールさんは寮の風呂にシャワーを設置させる気が満々のようだ。
シルビアさんも感心した様子で俺に聞いてくる。
「それにしても本当によく考えてあるわね?
シノブさんは、よほど御風呂が好きなのかしら?」
「はは・・・確かに僕が風呂好きなもので、ここに泊まりに来た人にも、是非同じように良い御風呂を体験してもらいたくて作ったんですよ」
俺の説明にシルビアさんが感心して答える。
「ええ、本当に素敵だわ。
私も御風呂は好きだから、今の寮よりもここに住みたい位だわ」
シルビアさんの言葉に俺も答える。
「はは・・・何かの折には泊まりに来てください。歓迎しますよ」
「ふふ・・・そんな事言うと、私、本当に泊まりに来るかもよ?」
「ええ、構いませんよ」
しかし、この時点で俺もシルビアさんも、まさか近い将来に、本当にシルビアさんが、ある事情で、この屋敷に住む事になるとは、予想もしていなかった。
屋敷の案内も一通り終って、二人が帰る事になったので、全員でお見送りだ。
俺は玄関で二人に御土産をわたした。
「今日は御二人に来ていただいて、大変楽しかったです。
また何かの折には遊びにいらしてください。
これは御土産です。寮に戻ったら食べてください。
多めに用意しておきましたから、寮の他の御友達と御一緒にどうぞ」
「あら、どうもありがとうございます。何かしら?」
「先ほど食事の時にお出ししたプリンです。
私も好きなので、多めに作ってありましたし、二人とも気に入った様子でしたので」
俺が中身を説明すると、二人も喜ぶ。
「え?あの台形山型の甘いの?確かにアレは気に入ったわ~」
「ええ、私もあれはとてもおいしかった」
二人がその味を回想するかのように話すと、作ったキンバリーが笑いながら話す。
「ええ、たくさん作りましたから寮の御仲間と一緒にどうぞ」
「あはは・・・私一人で全部食べちゃいそう」
「もう、エトワールってば!」
「うふふ・・・でもシノブさん、これ売ったら絶対に売れるわよ?
どこかで売り始めて商売にしたら?・・・っていうか、売って!
私きっと毎日買いに行くから!」
「ええ、私もこれは売ったら凄く売れると思うわ。
それこそロナバールの名物になるほどに」
「私もそう考えます。
是非このロナバールにこのプリンの店を作りましょう!」
二人の意見にキンバリーも激しく賛成する。
どうやらプリン屋を作る気満々の様子だ。
「そうですね、それは考えておいてみましょう」
実際それは本気で考えている所だ。
他の菓子も色々と作ってみたが、やはりプリンが、目新らしさを最初として、材料的にも、大量生産をするにも、もっとも売りやすそうだ。
キンバリーやアルフレッドも、これは必ず成功するだろうと言っているので、近い将来に店を出そうかと考えている。
しかしそれには材料の安定供給と、店で働く人をどうするか考えなくてはならない。
いつもバーゼルさんに頼るわけにもいかないだろう。
「それでは今日はとても御馳走になりました。
こんなに御土産までいただいてありがとうございました」
「本当に!私、シノブさんたちと仲良くしてて良かったわ~。
一日でこんな凄い体験をいくつもするなんて、きっと一生に何度もないわよ?」
「はは、二人とも楽しんでいただけたみたいで良かったです。
私も御招待した甲斐がありました」
「ええ、ではさようなら」
「さようなら、また魔法協会に来てね♪」
「はい、また」
俺が最後の挨拶をすると、家の全員が頭を下げる。
こうして我が家の初めての客となった二人は満足して帰っていった。
俺も世話になった二人に楽しんでもらって満足だった。