0055 グレイモン伯爵との勝負
屋敷の外に出て、いよいよ勝負を始める。
ははっ、しかし俺が女を賭けて勝負する日が来るなんて考えもしなかった。
しかも相手は伯爵様ときたもんだ!
そして俺たち二人の前で、エレノアが勝負の内容を発表する。
「では、まず一つ目は飛行勝負です。
ここから見えるあの山を回って、先に帰ってきた方を勝ちとします」
「わかった」
「用意はいいですか?」
エレノアの言葉に俺と伯爵がうなずく。
「では、はじめてください!」
俺とグレイモンはエレノアの合図と共にその場を飛び立つが、俺はグレイモンが山に辿り着きもしないうちに出発点に帰ってきた。
俺の勝ちだ。
「こ、こんな馬鹿な事が・・・」
グレイモンは現実に起こった事が信じられないらしい。
しかし無常にエレノアが次の勝負を発表する。
「二つ目は炎熱勝負です。
ここに用意した鍋の水を先に沸騰させた方の勝ちとします」
俺たちが飛んでいる間に執事たちに用意させたらしい同じ鍋が庭においてある。
そこには水が満々と張ってあって、どうやらそれを沸騰させる勝負らしい。
「よし、今度は先ほどのようには行かぬぞ」
グレイモンは今度こそと意気込み、勝負を始める。
しかし、俺はグレイモンの鍋の水がまだ生ぬるいくらいのうちに、自分の鍋の水を沸騰させて、あまつさえ蒸発までさせてしまった。
勢い余って、鍋自体を少し熔かしてしまったほどだ。
「ありえん!ありえんぞ!こんな事は・・・!」
ワナワナと体を震わせるグレイモンにエレノアが最後の勝負を発表する。
「最後の三つ目は旗取り勝負です。
御互いに旗を用意しました。
この旗を奪い合って取った方の勝ちです。
ただし自分で動いてはいけません。
相手の旗を取るのも、自分の旗を守るのも、自分で作り出したタロスでやってください」
そのエレノアの説明を聞いて、グレイモンが声を上げる。
「なにっ?タロスで勝負だと?」
「はい、そうです、あなたが苦手とあらば、種目を変えても良いですが?」
「構わぬ!いや、むしろそれで勝負させてくれ!」
「宜しいのですか?」
「ただ、少々待ってくれ!頼む!」
「わかりました、どれほど待てば良いのですか?」
「すぐに戻ってくる、ちょっと待っていてくれ!」
そう言うと、グレイモンは屋敷の中に入っていった。
その様子を見て、エレノアが俺に話しかける。
「御主人様、一応あれを用意しておいた方がよろしいかと」
「わかった、そうする」
そう言って俺は自分のマギアサッコから一つの指輪を取り出して自分に装備する。
ほどなくグレイモンが屋敷の中から戻ってくる。
その表情はまるで勝利を確信したかのように笑いと自信に満ちている。
「待たせたな!では勝負だ!」
いよいよ最後の勝負だ。
「では最初に一体のタロスを出して、御自分の旗を持たせてください」
エレノアがそう言うと、俺と伯爵はそれぞれタロスを一体出して、自分の旗を持たせる。
俺のタロスは青い西洋甲冑型、伯爵の方はデッサン用の木の人形のような形だ。
「では、私の合図と共にタロスを出して相手の旗を取ってください。
タロスの数、そして攻めと守りの数は好きにしてよろしいです。
良いですね?」
「わかった」
「もちろん、構わぬ」
「では、始めてください」
エレノアの合図と共に、グレイモンは得意げにタロス250から300体ほど出して戦い始めた。
これは一介の中堅どころの魔道士が、一辺に出すタロスの量ではない!
やはり俺とエレノアの予想通り、グレイモンは魔力消費削減のアイテムを持っていたらしい。
先ほど屋敷の中へ戻った時に、それを取って来たのだろう。
そして一気に俺の旗を取るつもりなのだろう。
最初の一体のタロスだけを旗持ちに残して、残り全てのタロスを俺への攻撃に回した。
タロスでの勝負ならば、それは基本的に数で決まる。
魔法力消費削減アイテムを持っていた伯爵は、これこそ起死回生の勝負だと考えて、自分の屋敷へそれを取りに戻ったのだろう。
しかしそれに対して、俺は一気に1500体ほどの甲冑タロスを出した。
これ以上出す事もできたのだが、伯爵屋敷の広い庭とはいえ、これ以上は出現させる場所がないので、制限したのだ。
しかしその凄まじい数に、それを見た伯爵は驚きのあまり声を失った。
「なっ!」
俺の出したうち、100体のタロスは念のために旗を守り、残り1400体のタロスは敵陣に向かい走り出した。
そしてこちらに向かって来た伯爵のタロスを迎撃して、そのタロス達は俺の青い甲冑タロス部隊に津波のように押しつぶされた。
その光景に伯爵が絶叫を上げる。
「うぎゃ~!」
そしてそのまま俺の甲冑タロスが、伯爵の陣のたった一体のタロスに襲い掛かり、あっという間に旗を奪い去って決着はついた。
「どうやら勝負はついたようですね?」
エレノアの言葉に愕然とするグレイモン。
「こ、こんな事が・・・」
全ての勝負に負けたグレイモンだが、納得はしていない様子だった。
「有り得ぬ!こんな事は有り得ぬ!認めぬぞ!」
「そうだと思ったよ、では仕上げだ、そら!」
俺が合図をすると甲冑タロス軍団が、怒涛のように伯爵に向かい、囲い込む。
「何だ?何をするつもりだ?」
動揺する伯爵を青いタロス軍団が、胴上げし始める。
「やめろ!何をする!下ろせ!」
最初は普通の胴上げだったが、その内に伯爵の体をポーン、ポーン、とあちこちに投げ合うようになる。
何しろタロスは1500体もいるので、庭じゅうどこに投げられてもタロスたちにキャッチされて、再びどこかに飛ばされる。
そうしている間にさすがに伯爵が悲鳴を上げ始める。
ちょっと考えれば航空魔法を使えば良いのだが、混乱してその考えにもならないようだ。
もっともそんな事をすれば、俺も飛び上がって叩き落すつもりだ。
しかも次第にその距離と高さが徐々に大きくなっていくと、伯爵がこの世の終わりのように絶叫する。
「やめてくれ!私が悪かった!やめてくれ!」
「では勝負の負けを認めるか?」
「認める!認める!私の負けだ!
だからこれをやめさせてくれ!」
絶叫する伯爵をようやく俺が合図して胴上げをやめさせる。
ようやくの事でやっと地面に着いたグレイモンはがっくりと膝をついた。
「わかった・・・私の負けだ。
全てを持っていくがいい・・・
私の家も、財産も・・・そして今日からお前はグレイモン伯爵だ・・・」
負けを認めた伯爵は思ったよりも潔い。
俺はてっきりもっと渋ったり、約束をなかった事にしようとするかと思っていた。
それが本当に全財産を渡そうとするとは中々感心だ。
こいつは思ったより、本来は律儀なのかもしれない。
しかし別に俺はそんな物はいらなかった。
「そんなもんはいらん!お前に返す!
ただし今後俺たちの邪魔は二度とするな!
それが俺たちの望みだ!
さもなければエレノアだけでなく、俺も次は容赦しない!」
「わかった・・・約束は守る」
さすがにこれほどの圧倒的差を見せ付けられれば、もはや俺たちに手向かう気も失せただろうと思う。
俺たちはそれもあって、あえて伯爵の勝負を受けたのだ。
しかし俺はある気になっていた事があったので、それを伯爵に質問してみた。
「・・・だが、最後に俺もお前に一つ聞きたい事がある」
「何だ?」
「お前がエレノアの事が好きなのはわかるが、それは本当に好きなのか?」
「何?どういう意味だ?」
「例えばエレノアに見分けのつかない双子の妹がいたら、お前はエレノアを見分ける自信があるか?」
俺の質問にグレイモンは愕然とする。
「何?」
どうやらそんな事は考えた事もなかったようだ。
こいつ、やっぱりエレノアの見かけだけに惚れていたな?
まあ、無理はないが・・・
「俺にはある!
例え、エレノアそっくりの人間が百人いようが、必ずその中からエレノアを見分けて見せる!
だがお前にそれができるか?
いや、できるという自信があるか?」
「いや・・・おそらく、できんだろうな・・・」
俺の質問にグレイモン伯爵は正直に答える。
15年間もストーカーっぽい事をしていただけで、全然相手の事なんか考えてなかったみたいだもんなあ・・・当然だろう。
お前、もう少し相手の事を考えろよ?
「では、お前が惚れていたのはエレノアの見てくれだけだ。
本当のエレノアに惚れていた訳ではない。
財産や、地位、魔法の力の違いなんかじゃない!
それがお前と俺の決定的な違いだ!
わかるか?」
「・・・そうかも知れんな」
もはや完全に勝負も負けたせいか、こいつも妙に素直だ。
「俺が言いたい事はそれだけだ。
じゃあな!本当に二度と俺たちの邪魔はするなよ!」
「・・・」
こうして俺たちはグレイモン邸を去った。
しかし、その帰り道、俺はある事を考えていた。




