0052 ロナバールの屋敷
案内された家を見て俺は驚いた。
いや、これは家などではない。
庭付きの御屋敷だ!
「これがその家ですよ。シノブ様」
正直、俺はもっと小さな物を想像していたのだが、これは驚きの豪邸だった。
家の周りにはしっかりとした塀が囲ってあり、その上部には尖った槍のような鉄の格子まである。
これなら中に進入するのは容易ではないだろう。
庭も広く、2階建てなので、部屋は明らかに30部屋以上ありそうだ。
家の他にも納屋や倉庫、馬車小屋らしき物も揃っている。
しかもこの屋敷の周囲は似たような大きさの家が立ち並んでいる。
ひょっとしたらこの辺は、高級住宅街なのではないだろうか?
なるほど、ただの家では色々と嫌がらせをしにくるだろうが、確かにこの家ではそれもそうそうできまい。
「素晴らしい家ですね?
これを本当にいただいてしまって良いのですか?」
「差し上げるのではなく、売ったのですよ。
エレノアさんの付属としてね」
「はい、ありがとうございます」
「だいたい生活するには問題はないと思いますが、中の備品も込みですから御自由に使ってください。
また何か家を改築したい部分があれば、良い大工をご紹介しますよ」
「ありがとうございます」
鉄格子の門を開けて中に入ると、またその広さが分かる。
玄関まで歩いていき、中央の部分から入ると、中は広いホールになっている。
アルヌさんの案内に従って、屋敷の中を歩くと、普通の部屋だけでなく、書斎、食堂、厨房、居間、応接室と様々な部屋があり、風呂まであった。
「いかがですか?お気に入りましたか?」
「ええ、気に入ったどころか大満足ですよ」
「それは良かったです」
一通り、屋敷を見た俺たちは、オルフォン亭へ戻ると、主に報告をした。
「良い場所を見つけましたので移ります」
「それは良かったですね、どちらですか?」
「7番通りの5番地です」
「7番通り?高級住宅街じゃないですか?
そこへ下宿するんですか?」
「いえ、家を買ったのです」
「家を買った?
あの辺は最低でも金貨800枚くらいはするはずですが?」
金貨800枚だって?
うへえ!高級住宅街だとは思ったが、あそこはそんな凄い場所だったのか?
「ええ、良い出物がありまして、何とか私でも支払いができそうだったので・・・」
俺が何とかごまかそうとすると、主も別にそれ以上の追及はせずにうなずく。
「なるほど、どちらにしても良かったですね」
「はい、もしサーマルさんが来たら、シノブはそちらに引っ越したと伝えてください」
「わかりました」
当日のうちに俺たちはそこへ引っ越した。
もっとも荷物も大した事はないので、2人で一回、馬車を借りて荷物を持っていけば、それで引越しは終わりだ。
その日は俺とエレノアは、思いがけなく手に入れた、この屋敷の改装や、今後の事を計画して話し合っていた。
屋敷を手に入れた次の日に、俺とエレノアは魔法協会に行った。
家の改装をする際に俺の提案でジャベックを家に組み込む事になったので、魔石が必要になって、それを購入しに行ったのだ。
それと、エトワールさんがエレノアの事でやきもきしていたので、エレノアが正式に俺の奴隷となったのと、屋敷を購入した事を二人に報告するためだ。
魔法協会に着くと、ちょうどシルビアさんとエトワールさんが受付にいた。
二人を見つけた俺は、早速エレノアを連れて、受付で挨拶をした。
「こんにちは、シルビアさん、エトワールさん」
「あら、シノブさん、こんにちは!そちらの方は?」
シルビアさんの質問に俺が答える。
「エレノアですよ。
先日、僕の正式な奴隷になったので、今日は御二人に、その報告にきたんです」
俺の説明に二人は仰天する。
フードをかぶってないエレノアを見たのは初めてなので、驚いたのだろう。
「え?エレノアさんって、エルフだったの?」
「私もまさかエルフだったとは思わなかったわ・・・」
「はい、事情があって、今まで顔を隠していたんですけど、ようやく正式に僕の奴隷になったので、今日はこうして顔をお見せする事ができました」
俺の説明の後に、エレノアも二人に挨拶をする。
「この度、正式にシノブ様の奴隷となったエレノアでございます。
改めて御二人には、よろしくお願いいたします」
「え、ええ・・・こちらこそよろしく」
「それにしても驚いたわね・・・まさかエレノアさんがエルフだったとは・・・
女性にしては背が高いとは思っていたけれど・・・」
確かにエルフ自体がそうそういないのに、それを奴隷にしている者など、まず見かける事はないだろうし、知り合いにいる人間などもいないだろう。
二人が驚くのも当然と言えた。
「ええ、それと引越しもしました。
色々と片付いていないので、まだいらしていただくのは無理ですが、整理が終わったら近いうちに一緒に遊びに来てください」
「ええ、喜んで」
「いつでも誘ってね?」
「はい、新居でもう少し落ち着いたらお誘いさせていただきます」
「待ってるわ」
「私もね!」
こうして二人に挨拶をした俺たちは、魔石をいくつか買って新居へと帰った。
俺とエレノアは家の改装計画を立てたり、ジャベックの製作を検討したりして、忙しい毎日を送っていた。
しかしそうした日々の中、俺たちの事に気づいたのか、例の執事らしき男が我が家を尋ねてやってきた。
「中々良い場所を見つけましたな」
「ええ、おかげさまで」
「しかし例え家を見つけても、そのうち色々と困る事になると思いますよ」
あからさまに脅すような男の言葉にエレノアが逆に言い返す。
「その件に関しては、私も伯爵に言いたい事があります。
今から案内してください」
「それはこちらとしても助かります。
伯爵様もさぞかしお喜びになる事でしょう。
少々お待ちください・・・」
そう言うと男は目を閉じてしばらく黙り込む。
?何をしているんだ?
俺がそう考えていると、無言のエレノアから俺に直接声が届く。
《おそらく、これは魔法念話で伯爵と連絡を取り、今から私達が行く事を伝えて何か準備をさせているのでしょう》
そうか、そういえば魔法の修行中に魔法念話という物を教わったんだっけ。
俺も無言でエレノアに返事をする。
《そうか、じゃあこれから僕たちが行けば、準備万端で何か待っているという訳だね?》
《はい、そうです》
俺たちがそう魔法念話で会話していると、男も念話が終わった様子だ。
「お待たせいたしました、さあ、参りましょう」
「ええ、わかりました」
こうして俺たちはその男について行き、伯爵邸へと向かった。