0477 アムダール帝国で一番有名な魔法使い
バルディさんの屋敷を出た後で、エレノアが俺たちに紹介するもう一人の話が出た。
「それともう一箇所、ガンダルフの所にも案内しておきましょう」
その名前を聞いて俺はギョッ!として驚いた。
それは確かアンジュの大好きな賢者の名前だ。
エレノアの弟子とも聞いているが、アムダール帝国で一番有名な魔法使いの名とも聞いている。
アンジュが一度会ってみたいと言っていたが、とても忙しい人で、普通の魔法使いでは簡単には会ってなどくれないだろうとも言っていた人だ。
「えっ?ガンダルフって、あの有名な賢者の人?」
シルビアも驚いてエレノアに尋ねる。
「確かエレノアさんの御弟子さんでしたよね?」
「ええ、そうです」
シルビアの質問にエレノアがうなずく。
そしてアンジュは上ずった声でエレノアに尋ねる。
「え?ほ・ほ・ほ・本当に賢者ガンダルフ様の所に?
わ、私、今もガンダルフ様の本を持っているんです!
あの・・・サインを頼んでも大丈夫でしょうか?」
アンジュは尊敬する人に会えるかと思うと緊張しているようだ。
しかしエレノアが難しい顔をして話す。
「それは全く構いませんが・・アンジュ?
あまり期待しない方が良いですよ?」
「え?それはどういう事ですか?」
「あなたはガンダルフの何の本を読んでいるのですか?」
「はい、たくさん読んでいます!
特に好きなのが「わが闘争」という本です!」
なんじゃその題名は?
ガンダルフ賢者とやらは、当局に逮捕されて、どこかの獄中で執筆活動でもしていたのか?
しかし、アンジュの言葉を聞いたエレノアがため息をつきながら答える。
「・・・やはりその本ですか・・・」
「はい!旧態依然とした魔法界にガンダルフ様が風穴を開けて改革をする部分などは最高です!
あ、そう言えば、あの本の中に何回も「最愛の我が師」とか「美しき我が師」という言葉が出てきますが、それはエレノアさんの事なんですか?
それにどうして名前を出していないのでしょう?」
「確かにそうですが・・・いいですか、アンジュ?
よくお聞きなさい?
まず、あの本の内容の半分は作り話です」
「えっ!」
突然のエレノアの説明にアンジュが愕然とする。
「私が絡んでいる部分は事実しか書いてありませんが、他の部分はかなりガンダルフが創作した内容です。
最初は私の部分もかなり作り話にしていたので、私が出版前にそれを読んで差し止めて、私の名前を決して出さない事、そして最低限、私が関係している部分は決して作り話を書かない事を条件にあの本の発行を許可したのです。
まあ、それに限らず、ガンダルフには自分の弟子と兄弟弟子以外には、私が師である事を言うのは固く禁止してありますが・・・
それに以前少々説明しましたが、私の名前は魔法協会の一般出版物には一切非公表にするようにと、魔法協会の書籍関係の担当には言ってあります。
ですからメディシナーやアッタミなどの一部の地域以外では、私の名が載っている物は、魔道士便覧の原本など、ほんの一部の書籍だけです」
「ええっ!?
そうなんですか!?」
「まあ、それも行けばわかります・・・」
考えてみれば、ガンダルフ賢者とやらは魔法の世界で知らぬ人がいないほどの有名人らしい。
俺は以前からその師匠が無名っておかしいと思っていたけど、エレノアは自分が師である事を公表するのを禁止していたのか?
それに魔道士便覧には、その魔道士の名前と称号、魔道士番号、得意魔法、連絡先などと一緒に師匠の項目があるが、どうもエレノアはそれも含めて、自分の事を非公表にするように言ってあるらしい。
なるほど、それでエレノアが世間では無名のままの訳だ!
アインだって、グロスマンさんに聞くまでは、全然エレノアの事を知らなかったもんな?
魔法使いマニアのアンジュやトムだってそうだ。
マジェストンやメディシナーみたいな特定の場所以外では、エレノアが全く無名な訳がわかってきたよ。
事実、今年から俺たちも魔道士として魔道士便覧には載っているが、師匠の項目には、不詳と書かれていた。
その時も俺は不思議に思ってエレノアに聞いてみたら今と同じような事を言われた。
どうやらエレノアは可能な限り、自分の存在を世間からは隠しているようだ。
俺たちは帝都を見物しながら、エレノアの案内でガンダルフ賢者の屋敷に着く。
大きい!
これはまるで貴族の屋敷のようだ!
今や子爵である俺の屋敷はおろか、伯爵であるグレイモン所くらいの大きさがあるぞ?
先程のバルディさんの屋敷にも匹敵する!
そして屋敷の門の所に小屋がある。
おそらくここが受付なのだろう。
エレノアがその小屋の受付に話しかける。
「こんにちは、ガンダルフに会いたいのですが在宅ですか?」
エレノアの質問に受付の年配の女性がぶっきらぼうに答える。
「どちらさん?」
「私はエレノア・グリーンリーフと申します」
「何の御用でガンダルフ様に会いたいの?」
「ええ、ガンダルフに私の弟子を紹介しようかと思いまして」
「はあ?何でガンダルフ様があんたの弟子なんぞと会わなけりゃならないの?」
なんとまあ、ずいぶんと偉そうな受付だな?
エレノアの顔を見ただけで瞬間に反応して通した、先程のバルディさんの所の受付とは対照的だ。
しかしエレノアは聞かれた通りに説明をする。
「それは私がガンダルフと会わせておきたいと思ったからです。
ちょうど帝都に来たので、良い機会だと思いましてね」
「ああん?何であんたがそう思ったからって、あんたの弟子をガンダルフ様に会わせなきゃならないの?」
「それはあなたに話すような事ではありません。
とにかくガンダルフは今ここにいるのですか?いないのですか?」
「何よ!偉そうに!
そもそもさっきから聞いていれば、うちの御主人様を呼び捨てにして!
一体なんなのよ!あんたは!」
「先ほども言った通り、私はエレノア・グリーンリーフと言う者です。
何者かと問われれば、ガンダルフの師匠です」
「えっ?ガンダルフ様の???」
「ええ、そうです」
エレノアが当然と言った感じで説明するが、その受付はエレノアの事をジロジロと見た後で大声で話し始める。
「・・・!そんなウソを言ったってムダよ!
大体アンタ、よく見たら奴隷じゃないの!
奴隷がガンダルフ様の師匠の訳がないでしょ!
さっさと帰りなさい!」
おいおい!
この受付、人を見た目で判断しすぎだろ?
そもそも、それって受付の判断する部分じゃないだろうに?
その受付の対応にエレノアがため息をついて答える。
「全く・・・仕方ないですね・・・ではサルンダはいますか?
サルンダがいるなら今すぐ呼びなさい」
「え?サルンダ様を?」
「ええ、そうです、早く呼びなさい」
「サルンダ様だって呼ぶ必要なんかないわよ!
鬱陶しいわね!早く帰りなさい!」
サルンダって何者だ?
それにしてもこの受付、本当に使えないな?
どう考えても受付に向いていないだろ?
エレノアもそう思ったらしい。
「どうもあなたは受付には向いていないようですね?
そういえばあなたの顔は初めて見ますが、一体いつからここの受付をやっているのですか?」
そのエレノアの質問に受付のおばはんが得意満面に答える。
「は?私ね、もうここの受付を2年もやっているのよ!
2年!もう受付の大ベテランなのよ!
ベ・テ・ラ・ン!
その私の目に狂いはないわ!
とっとと失せなさい!このペテン師!」
おいおい!
とうとうこの受付はエレノアをペテン師呼ばわりだ!
こんにゃろう!よくも俺の大切なエレノアをペテン師呼ばわりしてくれたな?
俺はうちの女性陣に対する侮辱の沸点は恐ろしく低いんだぞ?
そう言えば今思い出したけど、俺って貴族になったんだっけ?
いっその事、ここでどっかの副将軍みたいに、この間もらった子爵章を見せて、この受付を恐れ入らせてやろうか?
それともこの小屋ごと、この受付を吹っ飛ばしてやるか?
・・・いやいや、思いとどまれ、俺!
やはりここはエレノアにもう少し任せよう。
しかしエレノアもかなり困っているようだ。
「私をペテン師呼ばわりしている暇があったら、まともに受付の仕事をしなさい。
とにかくサルンダを呼びなさい。
さもないと後で後悔しますよ?」
「はん!そんな脅したって無駄よ!
あんたこそとっとと失せなさい!」
受付はあくまで俺たちを追い返すつもりだ。
エレノアは一体どうするつもりだろうか?
そこへ1台の馬車がやって来た。
その馬車は俺たちの横にある門の前でピタリと止まった。
いよいよ明日には旧作に追いつく予定です!
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