0470 閣僚たちの視察
飛び立ったセドリックが大アンジュへと向かう。
飛行艇の中で俺が三人に話しかける。
「この飛行艇で大アンジュまでは3時間ほどかかります。
その間、時間もあるでしょうからこれでお楽しみください」
そう言って俺は三人に双眼鏡を渡す。
「ほう?これは一体?」
「これは双眼鏡と言って、望遠鏡・・・遠くの物を見る道具の一種です。
是非これで飛行艇の窓からの景色をお楽しみください」
俺の説明にコルベール侯爵が驚く。
「なにっ?望遠鏡だと?
では最近ミヒャエル閣下が自慢していた、あの魔力も使わず、遠くが見える道具と言うのは、ホウジョウ殿が出所だったのか?」
「はい、総督閣下を始めとして、数人の方に贈らせていただきましたが、あまり数がございませんので、内密にと御願いしております。
御三方にも視察には重宝するので差し上げますが、どうかこの品に関しましては御内密に御願いいたします」
「うむ、わかった」
「ありがたくいただこう」
「では早速見てみるか?」
「但し、その双眼鏡で決してラディを見ないでください。
さもないと眼が焼け焦げて失明します。
その点だけは御注意ください。
これはその双眼鏡を他の方に使わせる時も、必ず御注意を御願いします」
俺の言葉に三人がうなずく。
「うむ、承った」
「その話はミヒャエル閣下から聞いている」
「それは注意せねばな」
さらに俺はミヒャエルにも双眼鏡を渡す。
「総督閣下も視察団の一員ですから、こちらの双眼鏡をどうぞ。
広い景色を眺めるのには、望遠鏡よりもこちらの方が向いてますよ」
「うむ、かたじけないの」
双眼鏡で魔法艇の窓から外を眺めた三人は驚いて叫ぶ。
「これは凄い!
魔法を使っている訳でもないのに、これほど物が近くに見えるとは!」
「うむ、実に素晴らしい!」
「見やれ!
あの村の人の動きまでここからわかるぞ?
驚きじゃ」
三人はかなり双眼鏡に驚いた様子だ。
「ほほう?これは確かに景色を眺めるには望遠鏡よりもこちらの方が具合が良いの?」
ミヒャエルも双眼鏡を気に入った様子だ。
やがてセドリックが大森林を横切り、大アンジュが見えてくる。
その外周部分では防衛ジャベックがちょうど何匹かの魔物と戦っていた。
しかもそのうちの一匹はサイクロプスだった!
そのサイクロプスにちょうどうちの白虎が襲い掛かった所だった。
それを双眼鏡で見たロッシュ伯爵が驚く。
「あれは、まさか・・・サイクロプス?」
驚くロッシュ伯爵に俺が説明をする。
「はい、何しろここは魔物が跋扈する大森林なので、魔物の数も多いです。
そのために町の外郭には多数の防衛ジャベックを配備しております」
「しかし・・・あれはサイクロプスですぞ?」
「うむ、あやつは確か最低でもレベル230ほどはあるはず・・・」
「はい、実はジャベックの名工バッカン氏に4体ほど高レベルの防衛ジャベックをいただいております。
我々はその四体に「守護四石」と名前をつけております。
その守護四石が四方を守っている上に、その弟子でもある私の友人たちが作った防衛ジャベックも配備されているので、例えサラマンダーといえども、この中には入れません」
「何と?サラマンダーまで?」
「しかもあの名工バッカン氏や、その弟子たちの作品まで防衛に配備されているとは・・・」
「はい、私の友人でもある彼らの作ったジャベックは中々に優秀です。
それに今あのサイクロプスと戦っているのは、その守護四石の一体の白虎で、我が大アンジュが誇る防衛ジャベックの一体です」
そしてその戦いを双眼鏡で見ていたコルベール侯爵が興奮して叫ぶ!
「おう、ロッシュ伯爵見やれよ!
あのジャベック、サイクロプスに勝ったぞ!」
「本当ですな・・・これは凄い、さすがは名工の作ったジャベックですな」
「ううむ・・・ここまで防衛が完璧だとは・・・」
「これなら少々の外敵が来たとしてもひとたまりもありませんな?」
「然り!」
どうやら三人はうちの防衛能力にも驚いたようだ。
やがて大アンジュの中央部の広場にセドリックが到着する。
そこにはすでに数十棟の建物が立ち並び、宿舎らしき物や食堂、風呂屋まで出来ていた。
しかもそこここで大工やジャベックたちが働き、さらに町を拡張していた。
その町並みを見た4人が驚く。
「これは・・・これほど広いとは・・?」
「この広さをたった一発の魔法で?」
そのロッシュ伯爵の質問に俺がうなずいて説明をする。
「はい、こちらのアンジュが魔法の実験を兼ねてこの空き地を作りました」
俺の説明に横にいたアンジュがペコリと頭を下げる。
「ううむ・・・このような少女がたった一つの魔法で・・・」
「・・・しかし広さもさる事ながら、すでにこれほどの規模の町を作り上げているとは・・・」
「うむ、余もこれほど町が出来ているとは驚いたわい!」
「確かこの場所は例の大実験をしてから、まだ一月程度しか経っていないと聞いているが・・・」
「はい、まだ一ヶ月少々ですね」
俺の説明にモンパシエ侯爵が驚く。
「一ヶ月・・・それでこの町並みなのか?」
「はい、御覧の通り、優秀なジャベックやたくさんのタロスが働いております。
ここで働いている大工や職人たちも、その使い方になれているので、非常に効率よく、各建築作業も進んでおります」
「なるほど・・・」
そして視察団の面々は町のあちこちを見てその設備に感心し、農地予定の場所も見て感心した。
「むう、これほどの土地が一気に開拓されるとは・・・」
農務大臣であるモンパシエ侯爵の驚きに俺が説明をする。
「はい、たくさんの農業用ジャベックもさる事ながら、こちらもバッカン氏から農業開拓用の開拓ジャベクを四体もいただいておりますので、そちらを中心に作業が非常にはかどっております」
「何と!ここでもまたバッカン氏が?
先程の防衛ジャベックと言い、ホウジョウ殿はそれほどバッカン氏とも親しいのか?」
「はい、以前より懇意にさせていただいております。
今回のジャベックもバッカン氏からこの土地の開拓祝いにいただいた物でございまして」
「ううむ・・・あの伝説の名工とも聞いている、バッカン氏とそれほど懇意とは・・・」
感心するモンパシエ侯爵にミヒャエルがさらに俺の交友関係を説明する。
「な~に、伝説級ならホウジョウ殿は、あのユーリウス氏とも懇意じゃぞ?」
「何ですと?あのノーザンシティのゴーレム魔道士ですか?」
「伝説のゴーレム魔道士と言われている・・・」
「はい、こちらのエレノアがユーリウスさんの師匠なものでして」
「何?こちらのエレノア殿はユーリウス氏の師であるのか?」
「さすがは天賢者・・・」
驚きの目で見つめる三人にエレノアが頭を下げる。
「恐れ入ります」
「いやはや、聞けば聞くほど、ホウジョウ殿の、能力、人脈には驚くばかりだな」
「全くですな、確かメディシナー家の当主とも懇意なのでしたな?」
「ええ、それも私は娘のフローラから聞いております。
そうですな?ホウジョウ殿?」
「はい、メディシナーの現当主レオンハルト侯爵、ならびに最高評議会のレオニー評議会議長とは懇意にさせていただいております」
「むむ・・・」
「そしてホウジョウ殿本人も今や賢者級の学生という訳か・・・」
「なるほど、これはうちの娘が傾倒する訳です」
どうやら視察団の皆さんの評判は上々のようで俺も安心した。
一部始終をみた視察団を連れて俺たちはロナバールへと戻った。
「いや、今回は色々とホウジョウ殿に驚かされました!」
「我々はこれで帝都へ帰り、陛下へ御報告をさせていただきます」
「ミヒャエル閣下の御推薦もあるゆえ、悪い結果とはなりますまい。
どうか御安心めされよ」
「はい、皆様、どうかよろしくお願いいたします」
俺たちは全てを視察団とミヒャエルに任せ結果を待った。
数日後、ミヒャエルから連絡があり、俺は帝都へ行く事となった。
「シノブ、陛下の裁可が下った。
近日中に御主は叙爵されるので、余と一緒に帝都へ行くぞ」
「そうなんだ、じゃあ無事に陛下の許可は取れたんだね?」
俺の質問にミヒャエルが少々憤慨したように答える。
「当たり前じゃ!あれで許可されなければ誰が貴族になれるというのじゃ?」
「うん、無事に審査を通って良かったよ。よろしくね」
「その際には必ずエレノア殿とペロンを必ず同行させるようにな」
「そうなんだ?」
「ああ、その方が陛下の覚えもめでたいのだ」
「わかった」
確かにあの視察団の様子ではその二人を連れて行った方が良いだろう。
俺とエレノアたちは帝都へ向かった。
その際にはペロン以外にも、エレノアの弟子がほとんど全員で行く事となった。
エレノアがそう希望したからだ。
「良い機会なので帝都の何箇所かにも行こうと思います。
御主人様も貴族となるからにはある程度、帝都の事も知らなければならないでしょうし、その部下となるシルビアたちも同じです。
みんな、これから貴族の家臣となるのに帝都の事は何も知りませんではすみませんからね。
それに私の弟子としてみんなを紹介したい場所もありますから全員で行きましょう」
「わかった」
エレノアの指示に従い、我々は帝都へ向かう事となった。
そして一旦、マジェストンへも戻って、学校の方にも叙爵のために陛下に呼ばれて王宮へ出仕する旨を伝えて少々休みを取った。
それにエレノアの意向により、エトワールさんやフレイジオ、ポリーナも連れて行かねばならない。
俺が叙爵されると聞いて、級友たちは騒然としたようだ。
ローレンツが俺に助言をしてくれた。
「ほう?シノブもいよいよ叙爵かい?
もっともあんな場所を開拓したのだから当然だね。
御爺様は話のわかる御方だから、それほど怖がらなくても大丈夫だよ」
「うん、ありがとう」
スチューも彼なりに励ましてくれる。
「やれやれ・・貴族だの宮廷なんぞなどは面倒なだけだぜ?
まあ、しかし確かにシノブの状況では仕方がないか?
せいぜい頑張って来い!」
「はは・・・そうするよ」
アインとビクトールも俺に話しかける。
「おいおい!今度はその若さで御貴族様かよ?
全く相変わらずお前はとんでも無い奴だな?
ま、グロスマン師匠には報告しておくぜ」
「はは・・全くボクも君に自分が子爵の息子だなんて偉そうに言ってなくて良かったよ?
まさか学生のうちに叙爵されてしまうとわねぇ?
しかも開祖じゃ親からただ譲り受けるだけの僕とは比較にならないじゃないか?」
「はは、でもこれで僕も貴族らしいから帰ってきたらよろしくね?」
「ああ、こちらこそだよ」
こうして俺たちは友人たちに一通り話すと、マジェストンからロナバールへ戻り、帝都へ行く準備をした。
行く面々は俺とエレノア、シルビア、ミルキィ、ミルファ、アンジュ、ペロン、アルフレッド、シャルル、エトワールさん、ポリーナ、豪雷、疾風、影主、飛鷲、それに案内役のミヒャエルとその御付が2人だ。
ミヒャエルに関しては家臣団が一人で旅をさせるなど論外と騒いだようだが、本人がそれを黙らせた。
「うるさいのう、たまには余も友人と旅をしてみたいんじゃ。
旅と言っても少々シノブの魔法飛行艇に乗っていくだけじゃ。
何も問題はないので安心せい!
それにリンドバーグには一度は乗って旅をしたかったのでのう。
これは良い機会じゃ。
あちらに着けばいくらでも護衛はいるのじゃ。
問題はなかろう?」
そう言って強引に一人旅をしようとしたのだが、流石にどうしても護衛は一人つけると言って、あちらの家令さんが譲らなかったのだ。
まあ、当然だろう。
水戸の御老公だって、旅に出る時は助さん格さんはついているしな?
俺たちは弥七に八兵衛、お銀の担当枠か?
結果としてミヒャエルには護衛アイザックが一人、そして世話のメイドが一人ついてリンドバーグの二人部屋を使う事となった。
そしてミヒャエルの進言に従い、俺たちは2泊3日で帝都アムダールへ向かう事となった。
本来ならば、リンドバーグならば1日で帝都まで行けるのだが、ミヒャエルがリンドバーグで旅行をしながら、その間にゆっくりと今後の説明をしたいと言ったからだ。
さしあたっては中間地点にある町、バーランが目的地だ。
ついにあと2日で旧作に追いつく予定です!
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