0461 大実験の軌跡
何と俺のレベルは一気に17ほども上がった!
しかもまだ上がり続けている!
そして豪雷が抱いているアンジュは真っ白に輝いて叫びを上げている!
「あああああっ!!!」
この状況はアンジュが魔力量を獲得した時の状況とそっくりだ!
「大丈夫か!?アンジュ?」
俺の問いかけに白く輝く光の中でアンジュが答える。
「だ・い・じょ・う・ぶ・で・す・・・」
俺はアンジュの状況を確認しようとアンジュを鑑定する。
すると、アンジュは何とレベル123まで上がっていた!
しかも俺同様にまだ上がり続けているようだ!
ついさっきまでは間違いなくレベル1だったのにだ!
とりあえず、アンジュが大丈夫なのを確認すると、俺がエレノアに質問する。
「これは一体どういう事だろう?」
しばらく考えたエレノアが俺の質問に答える。
「この大森林にはたくさんの魔物がいます。
その数は通常の場所の比ではありません。
ましてや今アンジュはその内の数万匹、いえ、数十万匹を殲滅したかもしれません。
また、金剛杉も魔物と同じで、倒せばある程度の経験値が入ります。
普通は1本ずつしか倒しませんが、今回、アンジュはそれを数万本、いえおそらくは数十万本も倒したのです。
考えてみればその双方を合わせれば、合計した経験値は途方も無い数値になるでしょう。
そして我々のいる位置でも減衰してすらこの威力です。
我々は爆心地から一番近くにいたので、その経験値の一部が入った結果、レベルが上がったのでしょう。
私のレベルも2ほど上がりました」
「私は25も上がりました」
「私もです」
豪雷と疾風も報告をする。
「僕も23も上がったよ!
でも、中心地から百カルメルも離れていたんだよ?」
「それだけ、凄まじい数を倒したという事でしょう。
そもそも現在我々が受けている衝撃波だけでも、この下にいる魔物などは相当レベルの高い魔物でも消滅しているでしょう。
その経験値も入ります。
おそらく危険を承知で、もう少し中心地に近い場所にいれば、アンジュは元のレベルより上がったかも知れません」
「そうか・・・でも今までの完全魔力全解放の実験報告でこんな事はなかったんだろう?
どうしてだろう?」
その俺の質問に今度はエレノアではなく、レベルが上がり回復してきたアンジュが答える。
「それは・・おそらく状況が全く違うからだと思います」
「状況が?」
「はい、私が調べた限りでも、この魔法実験でレベルが上がった例はありません。
しかしこの魔法は私やポルテさんが開発するまでは攻撃は範囲が2種類しかありませんでした。
つまり自分を中心とする半球型と、自分の前方を攻撃する前方放出型の2つです。
ゴホッ!」
ここでアンジュが咳き込んだので、俺は水筒の水を飲ませた。
「ありがとうございます。
そして半球型の場合は文字通り、完全に自爆です。
自分を中心として魔力量を放出するのですから生き残る事は決してありません。
前方放出型は命が助かりますが、こうした実験の場合、我々がそうしたように、当然の事ながら周囲への影響を考えて場所を選びます。
私が調べた限りではその全てが、草原、海、砂漠です。
しかしそのどれにしても目に見える範囲内に魔物がいなければ経験値は入りません。
基本的に経験値が入るのは倒した魔物の周囲5メルから遠くても10メルと言われています。
それ以上の距離は経験値が小さすぎて計測不能だったのです。
ですからこの実験で、たとえ100メル先で何か魔物を倒していたとしても術者には経験値はほんのわずかしか入りません。
そんな物は誤差の範囲な上に計測不能です。
前回、私が小規模実験をした時も、今回よりも遥か遠方からの投擲でした。
しかし今回の場合は前回よりも爆心地に近い上に、規模が違います。
範囲が数百カルメルにも渡り、その中には何万、いえ何十万もの魔物がいたはずです、
しかもその中にはおそらくレベル200を超えるような物もいたはずです。
そして金剛杉も何十万本とあったはずです。
それらの経験値は合算すれば普通に魔物を倒した時の数十万、場合によっては数百万倍になったかも知れません。
その経験値の一部が我々に入った結果だと思います」
「なるほど」
「私も今のアンジュの考察が正しいと思います」
「確かにね。
よし、それは帰って記録を見てからもう一度考えよう。
後は観測班に任せてマジェストンに戻るぞ!
アンジュ、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です!」
俺はアンジュを背負うと、三人に声をかける。
「よし、アンジュ、しっかり捕まっているんだぞ?
ではエレノア、豪雷、疾風、出発するぞ!
先程の衝撃波を追い抜くんだ!」
「はい」
かくして魔法史上最大のかくも盛大な実験は成功し、現地で実験を見届けた俺たちは超音速でマジェストンへと帰った。
真っ先に俺たちを迎えたのはキャロルだ。
彼女は今回の実験に同行したがったのだが、俺たちが危険だからと止めたのだ。
「お帰りなさいませ!
アンジュ御姉様!エレノア先生!ホウジョウ先輩!」
「ああ、ただ今、キャロル」
「御姉様は御無事ですか?」
「ああ、大丈夫だよ」
「ああ、でもおいたわしい!レベルは1になってしまったのですよね?」
「いや、それがさ、驚いた事に今のアンジュのレベルは163なんだ」
その俺の答えにキャロルはきょとんとなる。
「え?それは一体どういう?」
「ま、それはおいおい話すよ。
今はかなり疲れたから休ませてくれ」
「はい、承知しました。
こちらへどうぞ」
俺たちがキャロルの案内でその先へ進むと、ミルキィとミルファがいた。
「お帰りなさいませ!御主人様、エレノアさん、アンジュ、豪雷、疾風」
「用意は出来ております。
こちらでゆっくりとお休みください」
「ああ、ありがとう、ミルキィ、ミルファ。
さあ、エレノアもアンジュも疲れただろう?
しばらくは休憩だ。
豪雷と疾風も御苦労様」
「はい」
「はい」
俺たちは用意されていた場所で、ようやく疲れた体を休ませる事が出来た。
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一方、その頃の実験本部の計測班は大わらわだった。
アンジュが呪文の詠唱をし始めた時点で魔力計測員が叫ぶ!
「アンジュ魔道士の魔力増大!
現在1000万クラリッサを超えました!・・・1200万・・・1500万・・・2000万を突破!
これ以上は計測不能です!」
「完全魔力全解放詠唱終了!
呪文発動します・・・発動しましたっ!」
「呪文発動!
光球が目標地点へ向かいます!
投擲地点までの到達予測時間、約4分30秒!
誤差は30秒以内の予想!」
「実験班退避開始!まもなく100カルメル地点まで退避完了」
「発動魔法は順調に目標地点へ飛んでいます!」
全員がその4分少々の間、本部の大映像盤に映る光る玉を固唾を飲んで見守る。
そしてついにその瞬間が来た!
観測員が叫ぶ!
「着弾しましたっ!」
「目標地点で爆発を確認!」
「光球、広がっていきます!
視直径約100メル・・・200メル!
さらに増大中!」
「光球内の計測ジャベック、全て消失していきます!」
各地点で光球、熱、地震、風速等が細かく計測されて、記録していた。
計測本部にある多数の映像ジャベックの画面には様々な角度からの撮影画面が映っている。
そして爆心地から200カルメル以内の撮影・計測ジャベックは次々と消滅していた。
その部分を映していた映像ジャベックの画面が次々と暗くなっていく!
もっともそれは予測どおりだったので、計測班は消滅寸前までの数値をそれぞれ記録していった。
総合指揮所でシルビアが叫ぶ!
「とにかく記録です!
解釈は後でいくらでもできます!
まずは全て記録しておきなさい!
映像、魔力、温度、風速、距離、時間、衝撃の大きさ!
その他に気が付いた事も全てをです!
細大漏らさずに何もかもです!」
「はい、大丈夫です!
もちろん記録しています!」
何十人もいた計測員たちは、それぞれの数値を記録するのに大騒ぎだ!
これらを細かく解析して実際に起こった事がわかるのは何年も先の事になるだろう。
そして各地の観測所からも報告が入る。
まずはアインからだ。
「こちら大森林西側入口観測所!
衝撃波を確認!
現在、風速約15カルメル!」
「まったく!1000カルメル以上離れていてこの威力とは・・・!
ちょっとした小型台風だねぇ?」
「ああ、まったくだ!
あの化け物魔法使いめ!恐れ入るぜ!」
「はは・・・我々と同じ魔法学校の同級生とは思えないねぇ?」
「あほっ!前にも言っただろ!
ビクトール!あんな連中と俺たちを一緒にするんじゃねぇ!
俺たちが普通で、あいつらが異常なんだ!」
「まったくだねぇ・・・」
爆発は大森林、東側でも確認されて衝撃波が到達する。
「こちらスレッダー!爆発の衝撃波を確認・・・って、
やっぱり念話が通じないねぇ?
こりゃ予想通り、念話中継ジャベックが全てやられてしまったみたいだねぇ?
どうしますか?ガイエル先生?」
「仕方がない、予定通り記録だけきっちりと取って、我々も帰投しよう」
「そうですね」
そしてその後、その衝撃波はサーマル村にも到達する。
家の外にいたサーマル父子がそれを見て会話する。
「うおっ!こりゃすげえな!
話には聞いていたが、こんな嵐みたいな風が吹くとはな!」
「大丈夫です!
計算によれば、ここまで来ればせいぜい木がしなる程度までに弱まっているはずです!
それに私とミランダが防御タロスも張ってありますからね!
でも危険ですから家に引っ込んでいてください!
父さん!」
「ああ、しかしお前の友達は凄いな?
これは1000カルメル以上も先で魔法を使った結果なんだろ?」
「ええ、私とは比較にもならないですよ!
アンジュはね!
一緒に魔法博士号論文を書いて、話し合った仲とは思えないほどです!
でも、本当にこんな物の爆心地近くにいて大丈夫なのか心配です。
もっともエレノア先生とシノブさんがついているのだから、問題などないでしょうけどね!」
ポルテは自分の博士論文を書いた時に、主題が似通っていたのでアンジュと一緒に論議もしていて、すっかり仲良くなっていた。
魔道士としては魔力量に極端な差がある二人だったが、妙にウマが合ったのだ。
しかしその話を聞いて、ふとサーマル村長は今年から寮に入ってロナバールの初等魔法学校へ通う事になった孫が心配になって呟く。
「クラウスの奴、無事かな?」
「大丈夫です!ロナバールはここよりもさらに爆心地から遠いのですから!
ましてやあの子は魔法学校の中にいるんですよ!
私達よりもよほど安全ですよ!」
「そうだな」
サーマル村長は娘の言葉にうなずく。
やがてその衝撃波はロナバールにも到達する。
「こちらロナバール、フレイジオ!
現在、衝撃波がロナバールに到着しました!
風速は8メル程度にまで収まっています!
街壁の内側は防御タロスのおかげで風速5メル以下です」
この時に備えてポリーナは実験本部が考案した15メル四方にも及ぶ、巨大な網型のタロスを何層にも渡り、町の外に何千と張っていた。
それは基本的にサーマル村でポルテたちが展開していた物と同じだったが、二人の魔力量には20倍以上の開きがあり、カリーナさんやイルーゼさんなど、ロナバールの魔道士たちも手伝ってくれたので、規模が段違いだった!
それのおかげで外から飛んできた物体は魔物から落ち葉に至るまで、全てそこで止められた上に、風も大幅に軽減されたおかげで、ロナバール内部の被害はゼロだった。
同じ物がロナバールとサーマル村だけでなく、爆心地から半径1500カルメルの被害がありそうな町村には全て観測員と計測員を兼ねた魔道士が派遣されて多数展開されていた。
同じような報告がその他の各部支部や観測所からも入ってくる。
やがてそれはついに爆心地から数千カルメル以上離れたマジェストンにまで到達した!
「衝撃波、マジェストンへ到達予測時刻です!
しかし風速はほとんど変わらずです!」
「他にも特に目立った兆候はありません!」
その報告を受けたシルビアが宣言する。
「了解しました。
皆さん、本実験総指揮のシルビア・ノートンです!
実験による衝撃波は現在マジェストンを通過しました!
これにて本実験は終了とします。
各計測員、観測員の皆さんはお疲れ様でした!
全員現場から帰投して報告が終わり次第、休んでください。
ただし、ジャベックによる観測と計測は三日後まで継続します」
そのシルビアの宣言により、各参加者たちは数時間ぶりに全身の力を抜いた。
あちこちからため息や呟きが聞こえる。
エトワールがその場で伸びをして叫ぶ。
「ん~!こりゃ流石に疲れたわ!」
「お茶をどうぞ、エトワールさん」
「あ、ありがとー!ミルキィ!
はふぅ~生き返るぅ~」
「ふふ、エトワールさんは首席オペレーターで大変でしたからね?」
「そうね、確かに大変だったわ。
でもこんな歴史に残る大実験の一員になれて光栄よ」
「そうですね」
シルビアにはミルファが茶を渡していた。
「お疲れ様です。シルビアさん」
「ええ、ありがとう、ミルファ」
そう言いながらシルビアは椅子に座り、茶を受け取る。
「立ちっぱなしで総合指揮は大変だったでしょう?」
「ええ、でもとてもやりがいのある仕事だったわ。
御主人様たちは?」
「ええ、先程帰って来て、休んでおられますわ」
「問題はない?
何か話していた?」
「ええ、何でも帰る途中で衝撃波を追い抜いてきたらしく、それが中々面白かったとアンジュと二人でお話していましたわ」
「そう?いかにも御主人様とアンジュらしいわね?
でも、みんな無事で良かったわ」
「ええ、本当に」
こうして魔法史に残る未曾有の大実験は終了した!
あと3日ほどで旧作に追いつく予定です!
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