0458 ポルテとアンジュの魔法博士論文
俺の所に客がやってきた。
無事に高等魔法学校を卒業して、今や魔法修士となったポルテ・サーマルだ。
「おや、ポルテじゃないか?
サーマル村へ帰ったんじゃないの?」
「そうしたいのは山々ですが、まだ、ここで色々とやる事があります。
一応、一回帰って魔法修士になった報告はしてきましたけどね。
そうそう、あなたの事は父たちに報告しておきましたよ」
「なんだって?」
「父たち曰く、「世話になったのはこっちだ!あっちが恩人だ!」だそうです」
「あはは・・・」
「それともう一つ」
「なんだい?」
「クラウスが師匠によろしく、だそうです」
「ああ、なるほど」
「全く!何でクラウスがあなたの弟子だと言ってくれなかったんです?」
「ちょっと忘れていただけさ」
俺がそう言うとポルテは少々ためいきをついて再び話し出す。
「まあ、その事はいいです。
実はあなたに頼みがあって来ました」
「頼み?こりゃまた珍しい。何かな?」
この娘は人に借りを作るのを嫌がるタイプだ。
それがわざわざ人に頼みごとをしに来るとは珍しい。
「私の博士号に関する事です」
「博士号?」
彼女は無事に卒業して修士号は取れたので、さらに将来の支部長として、箔をつけるために博士号に挑んでいるという話は聞いていた。
どうやらそのためにまだここに残っているようだ。
「ええ、私は現在博士号の論文を書いているのですが、それには協力者が必要なのです」
「ほほう?」
「その協力者は、万一強力な攻撃魔法を浴びても生き残り、高度な計算が可能で、航空輸送魔法を操り、タロスを一辺に最低でも1千体、出来れば1万体以上出せる事が望ましいのですが、私の知り合いでそんな能力を持っているのは、あなたとその御仲間しかいないので、嫌々協力を仰ぎにきました」
「嫌々ねえ?」
これはとても人に協力を頼みに来る物言いではないが、俺は苦笑しながら話を聞く。
「ええ、あなたに協力を依頼すると、どうなるかわかっているので、本当は協力を申し出たくないのですが、他に人がいないのです」
「どうわかっているのかな?」
「あなたに協力を依頼するとして、報酬をいくら望みますか?」
「そんな物はいらないね、貸しでいいよ」
その俺の答えを予想していたようにポルテが即答をする。
「それがイヤで来たくなかったんですよ!」
「なぜ?」
「あなたに言えば、そういうのはわかっていましたけど、あなたに対する貸しは溜まる一方です。
私はそういうのイヤなんですよ!」
「まあ、気にするな」
「気にします!」
「で、どうするんだい?」
「仕方がないので貸しにします。
他に人がいないんですから仕方がないです。
それにもし仮にいたとしても、こんな実験に付き合ってもらうだけの報酬になるお金も私は持っていませんから。
背に腹は代えられません」
中々正直だ。
それにしてもそこまでして俺に頼みに来るとは、よほどその論文を完成させたいようだ。
「で、一体どういう研究なんだい?」
「マギア・チオム・エラッソ・・つまり魔力全放出(M・C・E)の研究です」
「君もか?こりゃまた物騒な研究だね」
「え?君もか?って?」
「まあ、それは後で話すよ。
それで、MCEのどういった研究なんだい?」
「これまでは魔力全放出の範囲は自分の周囲全体か、前方方向に限っていましたが、私はそれを円環状にする事を考案したのです」
前方の場合は高レベルの相手に、全周囲の場合は、レベルはそれほどではないが、数が多い相手にそれぞれ有効だ。
「なるほど、それは確かに画期的だね」
「これにより、魔力全放出を作動させる時に自分の家や村などに被害を与えずに、そのさらに外の周囲に対して攻撃が可能です」
「なるほど」
「ですが、それを実験して検証するためには実際に撃ってみなければなりませんが、御存知のように、あの魔法を使った直後には、ほぼ無力になり、倒れてしまうので、その間の護衛が必要なのです。
また計算違いで誤爆する場合もありうるので、万一その誤爆に巻き込まれても防御可能な人でないと危険です」
「確かにね」
魔力全放出すなわちMCEの攻撃力は半端ではない。
確かによほどレベルと技量の高い者でないと付き合いきれないだろう。
それは俺もメディシナーで経験済みだ。
ましてや術者が魔法修士ならばなおさらだ。
「そしてその攻撃範囲に魔物の代わりにタロスを大量に配置して、攻撃範囲や攻撃力をきちんと計測する必要があるのです。
そしてその結果を統計的に高等演算する能力もです。
その能力を確実に全て一人でこなせるのは、私の知り合いでは、あなたとグリーンリーフ先生しかいません。
そのどちらに頼むにしても、あなたの了承が必要ですから」
「なるほどね」
まあ、その程度なら、シルビアやシャルルでも出来そうだが、その辺は言わないでおこう。
俺がやった方が面白そうだからね。
「いかがですか?」
「わかった、興味もあるし、僕自身がつきあおうじゃないか」
「ありがとうございます」
早速翌日になると、俺はポルテと共に魔法実験場へと行く。
お供は豪雷と疾風、それにハムハムとムサビーだけだ。
「ここで実験をします。
まずはタロスをここを中心に半径300メルほどに配置してください」
「承知した」
俺が標的用タロスを1万体ほど配置すると、ポルテが魔力全放出を放つ。
「魔力全放出!」
呪文と共に俺とポルテの周囲に爆裂魔法が広がる。
それは確かにドーナツ状に広がり、その外側にある俺が配置していたレベル100のタロスたちは全てきれいに消し飛んだ!
さすがは魔力全放出魔法だ。
俺も一回メディシナーで喰らった事はあるが、あの時は正規の魔法学士ではない魔法使いのゴロウザだったので、完全な魔法ではなく、俺も助かった。
正規の魔法学士級が正確な魔力全放出を使用するのを見たのはこれが初めてだ。
これを当時の俺がまともに喰らったら間違いなく死んでいただろう。
その威力に俺は感心した。
「ほう!これは見事なもんだ!」
「ありがとう・・・ございます・・・」
そういうとポルテは、その場にパタン!と倒れこむ。
「おっとぉ!」
俺は気絶したポルテに、彼女が用意してあった魔力回復剤を何とか飲ませる。
気づいたポルテが俺に頼み込む。
「計測をお願いします」
「わかった。君は休んでいろ」
「はい、わかりました」
「豪雷、疾風、彼女を頼む」
「はっ!」
「お任せください」
ポルテが休んでいる間に俺は吹き飛んだタロスを計測して、形と数を記録する。
「計測した結果だと内径が50メル、外径が100メルだね。
そして減衰率は距離に反比例してる。
ほぼ君の計算通りだね」
「ありがとうございます」
「さて、じゃあ帰るか」
「はい、お願いします」
多少は回復したと言っても、さすがに魔力全放出を使った後ではヘロヘロだ。
俺は集団航空魔法を唱えると、ポルテと共に空を飛び、マジェストンに向かう。
その途中でポルテが俺に尋ねる。
「そういえば、誰か私と同じ研究をしていると言ってましたが?」
「ああ、うちのアンジュが君と同じような研究をしているよ」
「アンジュさんが?」
「ああ、君と同じ魔力全放出の研究だ」
「え?まさか・・・」
「安心していいよ、君とは方向性が違う」
「そうですか・・・」
俺の言葉にポルテはホッと一安心する。
すでに賢者級であるアンジュと論文が重なってはたまらないと思ったのだろう。
「何なら明日は一緒にやってみるかい?
こっちもその方が良い、
何しろ彼女の魔力全放出にも付き合わされているんだ。
二人いっぺんの方が事が簡単に済む。
それに方向性は違っても、同じような研究だから、お互いに何か得る部分があるんじゃないかな?」
「はい、それは私も興味深いので、お願いします」
「ま、詳しい内容は、明日本人から聞いてくれ」
「わかりました」
翌日になると、再びポルテがうちにやってくる。
アンジュが待ち構えていて、御互いに挨拶をする。
「こんにちは!」
「こんにちは、ポルテさんの研究は聞いています」
「ありがとうございます」
ポルテと挨拶を交わしたアンジュが、目をキラキラとさせながら自分の研究の説明をする。
「私の研究は同じ魔力全放出ですが、私の場合は、魔力を爆弾状にして、遠距離に投射する方法です。
つまり魔力全放出を遠距離爆裂魔法に転換する感じですね」
「それは画期的ですね?」
「ありがとうございます。
今までは練習程度でしたが、今日はいよいよ本番をするつもりです。
実際にやってみましょう」
「はい、お願いします」
今日は5人で魔法学校の実験場へ行き、そこでまずはアンジュが魔法をやってみせる。
ここは数百カルメル四方の広範囲にわたって魔法学校の土地で、こうした場合の魔法実験をする場所なので、一般人は入場禁止だ。
今日は俺たちの貸切になっている。
「さて、いよいよ本番だ。
準備は良いか?アンジュ」
「もちろんです!」
「よし、ではやってみろ!」
「はい、では行きます!
・・・魔力全放出投射爆発ッ!」
アンジュが呪文を唱えると、カッ!と現れた光の玉が離れた山に向かい、着弾すると爆発して、山の半分がすっ飛ぶ!
まるで小型の核兵器だ!
今までもこいつは魔法で地形を変えた事があったが、今回はその比ではない!
同じ魔力全放出とはいえ、自分とは桁外れのその威力にポルテが驚く。
「凄い・・・」
もっともポルテとアンジュではその魔力量に100倍以上の差があるので、仕方がない。
初めて見た俺もあきれた。
「おいおい!山が半分ふっとんじゃったぞ!」
「・・・いかが・・・でしたか?」
自分の実験の結果をかろうじて見ると、ドヤ顔で倒れるアンジュ。
「おっとと」
俺が早速魔力回復剤を飲ませる。
アンジュはこのために自分で魔力回復剤を百個ほど作っていた。
アンジュがある程度回復すると、こんどはポルテが実験を始める。
「では今度は私が・・・シノブさん、お願いします」
俺はうなずくと自分とポルテの周囲に1万ほどのタロスを出現配置させる。
そして中心にいる俺たち周囲には念のために防護幕を張る。
「いいぞ、ポルテ、準備完了だ」
準備が整った所で、今度はポルテが呪文を唱える。
「はい、魔力全放出ッ!」
俺たちの周囲に爆炎が広がり、綺麗に円環状に広がる。
その形状の正確さに今度はアンジュが唸る。
「これは凄い!きれいに円環になっていますね?
私はどうも威力の方に目が行って、こんな正確さは望めません!」
「ありがとう・・・ございます」
今度はポルテが倒れる。
俺は今度は魔力回復剤をポルテに飲ませる。
そして攻撃範囲を計測し、計算する。
さすがに魔力回復剤を飲んでも、魔力全放出を使った後では二人ともヘロヘロだ。
アンジュはもう一回位、実験をしたそうだったが、俺が止めた。
ヘロヘロなアンジュを背負い、ポルテを豪雷が航空輸送魔法で運んで家に帰る。
ちなみにアンジュを背負っているのは、本人がそれを希望したからだ。
二人とも集団航空魔法で運ぶ方が俺も楽なのだが、アンジュが甘えたがって、俺に背負って行って欲しいと言っているのでまあいいだろう。
少々ポルテが白い目で見ているが気にしない事にしよう。
こうして俺は二人の研究に何回か付き合った。
当然の事ながら魔力全放出はせいぜい1日に1回しか使えないので、実験は1日1回だ。
それでもアンジュの実験のせいで、山が無くなったり、クレーターが出来たりと、広い実験場の地形はずいぶんと変わってしまった。
俺に授業や講義などの用事がある日は、エレノアが代わりに付き合った。
この研究で二人とも無事に博士号を取ったようだ。
俺たちは二人を祝って内輪で宴会を開いた。
しかし無事に論文が通った次の日にアンジュは俺に頼み込んできた。
「実は博士号をもう一つ取ろうと思ってます」
「え?もう一つ?」
博士号を取ったばかりなのに、すぐさまもう一つ取りたいとは随分と研究熱心だなと俺は感心した。
「はい、実は爆裂投擲呪文の方は、これの前段階だったのです。
それに関して御主人様だけではなく、エレノア先生や他の皆さんの協力が欲しいのです」
俺だけではなく仲間全員の協力が必要とは、今度の研究はずいぶんと大掛かりなようだ。
「そりゃ構わないが、今度は一体何の魔法だい?」
「PMCEの投擲爆裂呪文です」
「なにっ!?」
その言葉に俺は驚いた!
いよいよ大森林領編に突入です!
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