0447 魔道大会
年が変わると魔法学園祭と並び、魔法学園の大きな行事の一つとなる、魔法学校の名物の「全学年対抗魔道大会」があった。
これは文字通り、魔法を使って勝負をする試合で、その時点での参加希望者で魔法のトーナメント戦をするのだ。
優勝者には優勝の賞状と盾、副賞として賞金金貨100枚と、何かしら魔法学生としての希望があれば叶えてもらえる。
大抵の場合は、希少な魔法道具をもらったり、学費免除をしてもらったりするそうだ。
中には自分が支部を作る時の資金援助を取り付けたり、帝都への就職を願い出る者もいたそうだ。
しかも6年生はこの大会の出欠、順位で成績や卒業時の席次にまで影響が出るので、ほぼ全員が参加する事となる。
まずはそのための予選からだ。
参加生徒は8ブロックに分けられて、その各ブロック優勝者と準優勝者が本選に進む事となる。
特に6年生はこの順位が卒業席次に響くのでかなり必死だ。
もっとも学園側もそれは考慮していて、6年生はかなり有利な場所に配置される。
逆に4年生はかなり不利な場所だ。
ただし、俺を含めた特待生やそれに準ずる生徒がいる場合は、必ずシードにしてトーナメントを進める形式だ。
今年は特待生が多い上にアイザックまでいるのでどうなるかと思っていたが、豪雷と疾風は棄権したので、ちょうど1ブロックに一人の特待生が入る勘定となった。
今年の6年生に特待生はいないし、5年生は二人、4年生は六人なので、計8人だ。
予選トーナメントはほぼ番狂わせもなく、予想通りに勝ち残り、それぞれがシードの特待生との対決となった。
番狂わせが起こったのはここでだった。
エトワールさんがブロックを勝ち進んできた6年生に負けたのだ。
エトワールさんは特待生の中で一番レベルが低かったとはいえ、100を超えていた。
その相手は「レベル絶対至上主義行動部」の猛者で、レベルはかなりエトワールさんよりも上だった。
しかも今年の特待生対策として、この大会のために迷宮で秘密特訓をしてかなりレベルを上げたらしい。
レベル絶対至上主義行動部は文字通りレベル至上主義で、レベルこそ全てと言う団体だ。
この部に所属している生徒は同じ部の上級生や卒業生に鍛えられて、4年生でもレベル80近く、6年生ともなれば全員が100を超えているらしい。
事実過去で何回も優勝している実績もある部だ。
勝負は御互いにタロスの出し合いとなったが、相手のタロスがタロス限界値のレベル100だったのに対して、エトワールさんの戦闘タロスは90前後で、魔力量も相手の方が多かったために残念ながら負けてしまったようだ。
負けたエトワールさんはかなり悔しがる。
「くっ!悔しいわ!
もうちょっとの差だったのに」
「まあ、仕方ないじゃないの、エトワール」
悔しがるエトワールさんをシルビアが慰めるが、相当悔しそうだ。
そのシルビアは順当に勝って、本選への出場を果している。
そしていよいよ勝ち残った16名による本戦だ。
俺の最初の相手はエトワールさんを負かせた「レベル絶対至上主義行動部」の猛者だった。
「頑張って!シノブさん!私の仇を取ってね!」
「うん、頑張るよ」
エトワールさんを下した相手を俺は瞬殺だった。
「やったぁ!さすがシノブさん!私の仇を取ってくれたわ!」
喜ぶエトワールさんにシルビアが容赦なく突っ込みを入れる。
「・・・でも、エトワール?
もしあれがあなただったとしたら、あなたも本選の一回戦で瞬殺よ?」
「う、それは確かにそうだけど・・・」
2回戦の俺の相手はアインだった。
アインは敵意むき出しに襲ってくるかと思いきや、不戦敗となった。
俺が驚いてアインに尋ねる。
「どうしたのさ?アイン?」
「うっせー!俺はまだ五体満足でいたいんだ!
6年の席次に関係する時ならともかく、こんな所でお前なんかと戦っていられっか!
本選の2回戦に来れただけ儲けもんだ!
棄権だ!棄権!」
「え~・・・」
アインとの戦いを結構楽しみにしていた俺はがっかりだ。
その俺の横でビクトールが嘆く。
「それじゃそのアインに本選の1回戦で負けたボクはどうなのかねぇ?」
「あほかっ!じゃあビクトール!お前がこの化け物と戦ってみろってんだ!」
「いや、それはゴメンこうむるッ!」
なじるアインにビクトールは即答だ。
どうやらビクトールも俺と戦う気はないようだ。
続く2回戦でローレンツはシルビアに、ギュンツはアンジュに負けた。
シルビアに負けたローレンツだが清清しく笑って話す。
「いや~負けた!負けた!
流石に将来の天賢者様候補の次席秘書監ともなると強いね!」
「申し訳ございません、ローレンツ様」
「謝る事なんてないさ!勝負の世界はこれみんな実力さ。
むしろこっちが王族だからなんて手加減してくれなくて感謝するよ」
「ありがとうございます。ローレンツ様」
その一方でギュンツはかなり困惑しているようだった。
「ローレンツ様などはまだ戦いになったので良かったでござる!
拙者などはアンジュ殿に一方的にやられただけでござる!」
「ははっ!まあ、それも修行さ、ギュンツ」
「然り!拙者もさらに精進するでござる!」
全ての2回戦が終了し、ついに四強が揃う。
残ったのは俺とフレイジオ、シルビア、それにアンジュだ。
順当と言えば、これ以上順当はないかも知れない。
通年だったらこの四強は大抵が6年生らしいが、今年はそういう意味では大番狂わせだ。
俺の準決勝はシャルルことフレイジオとの対決だった。
「フレイジオ!どっちが勝っても恨みっこなしだぞ!」
「ああ、わかっているよ!シノブ!」
流石にレベルも高く、技巧派のシャルルには俺も翻弄される。
シャルルは多数の戦闘タロスを出して俺を巧みに揺さぶり、隙を突いて攻撃魔法で襲って来る!
しかし残念ながら現在の俺とシャルルのレベル差は100近くもある。
シャルルは俺の火力の前に負けた。
「いや~やっぱりシノブに勝つのは難しいね?」
「いや、今回勝てたのはレベル差のおかげだな。
もっとレベル差が拮抗していたらおそらく俺が負けていたよ」
「ははっ!そう言ってもらえるとありがたいね」
そしてもう一つの準決勝はシルビア対アンジュの対決となった。
ローレンツとギュンツが俺のそばに来て尋ねる。
「どうだい?あの二人の予想は?」
「やはりアンジュ殿でござろう?」
「・・いや、どうかな?
確かに火力ではアンジュが勝っているけど、まだレベルはシルビアの方が上だし、何よりもまだアンジュは対人戦の経験はほとんどないし、シルビアは何といっても戦闘法務官で人間相手に百戦錬磨だからね?」
「なるほどね」
「確かにそうでござるな?」
二人の勝負が始まり、確かに見ているとアンジュは大火力で押すが、肝心な所でシルビアに攻撃を外される。
この辺はやはり経験の差だろう。
焦ったアンジュが強引に火力に頼った攻撃をするが、シルビアはそれを優雅に避けて行く。
そしてついにアンジュの隙をついて放ったシルビアの一撃が、会心の一撃となって勝負が決まる!
「くっ・・・!さすがはシルビアさん・・・
しかし次はこうは行きませんよ?」
「ええ、いつでも相手になるわ、アンジュ?」
そして決勝戦は俺とシルビアの戦いとなった。
「ふふふ・・・いよいよこの時が来ましたね?
シノブ君?遠慮はしませんよ?」
「うん、僕もさ、シルビア!」
やはりシルビアは凄い!
アンジュとの戦いでもそうだったが、実際に戦ってみると、実戦経験の差が如実に現れる!
しかしそれでも俺とのレベル差と、長い間エレノアに鍛えられた俺の前にシルビアは敗れ去った。
「さすがは御主人様です」
「ふ~ちょっとでも手を抜いたら危なかったよ!」
こうして俺は魔法大会に優勝した!
4年生の優勝は数十年ぶりだそうだ。
優勝台に立った俺に司会が尋ねる。
「おめでとうございます!
優勝者である、シノブ・ホウジョウ君には優勝の賞状と盾、そして副賞として金貨100枚が贈られます!
また、何か魔道士としての希望があれば叶えられます。
何か希望はありますか?」
その質問を予期していた俺は力強く答える。
「はい、あります!」
「何でしょう?」
俺はスウッと息を吸って大声で答える。
「それはエレノア・グリーンリーフ先生との魔法勝負です!」
その俺の言葉に司会は驚いて尋ねる。
「えっ?エレノア先生とのですか?」
「はい、でも私一人では勝てないのはわかっているので、準優勝者であるシルビア、それに3位のアンジュとフレイジオでの四対一の戦いを望みます」
「なるほど、わかりました。
それではこの場で検討をしますので、少々時間をくださいね」
「はい、よろしくお願いします」
しばらくの間、教師陣で相談すると、結果がまとまったようだ。
「お待たせしました!
ただいまのシノブ・ホウジョウ君の希望ですが、結果からお話しますと、その希望は叶えられました」
その司会の言葉に「おお~」という歓声が起こる。
「ただし、この戦いは協議の結果、過去に例のない、極めて高水準の戦いとなるために、魔法学校の教師全員で防御結界を張っても周囲の安全を保証できないという予想になったので、日時と場所を改めて行います。
その日時と場所は後日発表となりますので、それをお待ちください」
あと3日ほどで旧作に追いつく予定です!
いくら4人がかりでもエレノア先生に勝てる訳ないだろ!と思った方は、ブックマーク、高評価をお願いします!
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