0045 正義の味方現る!
その連中は迷宮の帰りに森の中ほどを歩いている時に現れた。
「よおよお、兄ちゃん、あんた最近羽振りがいいんだってな?」
「町で知り合いに聞いたんだ」
「ちょっと俺たちにも分けてくれや?」
「いいだろう?」
あからさまに盗賊っぽい4人組だ。
あれ?何か以前にもこれと似たような事があったような・・・?
もっとも盗賊に会うのもこれで3回目だ。
1ヶ月かそこらで3回も盗賊に会うとは、この森にはよほど盗賊がいるのか、それとも俺がひ弱そうな少年なので鴨として狙われているのか?・・・どうもそっちの気がする。
鑑定してみるとレベルは42,40,36,32・・・これも以前と同じような数値だな。
まあ、エレノアに聞いた所、盗賊という連中はみんな似たようなレベルらしい。
つまりレベルが30未満だとさすがに相手にやられてしまうし、レベルが50以上なら盗賊なんぞやらずに、他に儲かる仕事はそこそこあるからだ。
わざわざお尋ね者に自分からなる必要などない。
つまり盗賊のレベルっていうのは、余程の例外を除いて、大体30から50未満が相場らしい。
こいつらもその範疇と言う訳だ。
「どうすればいい?エレノア?」
すぐに片付けても良いのだが、一応エレノアに聞いてみる。
「御主人様のお好きになさってよろしいですよ。
今回は面倒なら私が排除いたします」
つまり今度は俺の練習台にもならなそうな連中って事か?
だからしたいなら煮るなり焼くなり好きにしてみろって事ですね、先生?
まあ、こんな奴らが平和な森をうろつくとは迷惑千万だ。
俺は前の2回同様、まとめてとっ捕まえて、魔法協会に突き出すことにした。
一応、盗賊たちに投降を促す。
「お前ら、ここで我々に会ったのが運の尽きだ。
今すぐおとなしく捕まるなら後で弁護もしてやる!
さもないと後悔するぞ!」
「なにぃ!」
「てめえ、舐めてんのか?」
案の定、盗賊たちはやる気満々だ。
どうもやはり俺はなめられているらしい。
まあ、見かけが見かけだから仕方がないか。
やれやれ・・・仕方がない、片付けるか・・・
俺がそう思った時だった。
森のどこからか、トランペットの音のような物が響いてくる。
しかもどこかで聞いたような曲だ。
「何だ?このトランペットは?」
「どこだ!」
「ん?なんだ?」
「イライラするぜ!」
盗賊たちは激しく動揺して周囲を探す。
いや、何でこの音だけで、そこまで動揺するんだ?
やっぱり悪事を働いているからなのか?
「誰だ!」
「出て来い!」
ようやく一人の盗賊が、木の枝の上で、あさっての方向を向いて、高らかにトランペットを吹く赤い人物を見つける。
いや、何だか知らないが、この人物、本当に全身が赤い。
「ん!あそこだ!」
盗賊たちに見つかると、その男はトランペットを吹くのをやめて、こちらを向く。
見た感じでは30代ほどのおっさんだ。
と言っても、はっきりと顔はわからない。
顔に仮面をしているからだ。
おっさんと思ったのは若そうなのに、老けて見えるからだ。
全体から想像した感じでは、イケ面というよりは濃い顔の類のようだ。
顔にはどこかの飛騨の忍者のように赤い仮面をしていて、上唇の上に左右にピン!とした口ひげを生やし、貴族風の服に赤いマントを羽織っている。
持っているトランペットも真っ赤だ。
髪の毛だけは黒いが、その他はとにかく全身赤尽くめだ。
一言で言えば、見た目のインパクトが凄い赤いおっさんだ。
大抵の人は一回見たら二度と忘れないだろう。
そのおっさんが木の上から口上を始める。
「悪のある所、必ず現れ、悪の行われる所、必ず行く・・・
正義の魔道士!男爵仮面!」
ん?どこかで聞いた事があるフレーズだな?
まあ、正義の味方なんて、誰でも似たような者か?
「トオォ~ゥッ!」
一言叫ぶと、男爵仮面とやらは地上に飛び降りてくる。
うん、改めて見ると、本当に全身赤いな。
別に3倍早いという訳でもなさそうだけど。
見事に着地した赤い人は盗賊たちに向かって言い放つ。
「盗賊どもよ!
いたいけな少年を数に頼んでの横暴な振る舞い・・・
そのような事はこの男爵仮面が許さんッ!」
「こ、こいつが男爵仮面・・・」
「何?あのうわさの男爵仮面か?」
「なんだこの変なオッサンは?」
「畳んじまえ!」
ああ、盗賊の間でも、知っている奴と知らない奴がいる、微妙な知名度な人なのね?
「愚かな悪人どもよ!正義の力を見よ!」
「何だと!」
「野郎ども!こいつから畳じまえ!」
「おお~っ!」
襲い掛かる盗賊どもに男爵仮面を名乗るおっさんは容赦なく攻撃をする。
「食らえ!魔道パンチ!」
「ぐあっ!」
「魔道キック!」
「ぐえっ!」
おお!強い!強いぞ!男爵仮面!
いかにも正義の味方って感じだ!
攻撃を食らった相手は一撃でのされる。
結構格好良い!
しかもその動きの一つ一つが何故か芝居がかっている。
でも魔道って言っている割には、何でただのパンチやキックなの?
「しゃらくせえ!」
「おろかな!必殺!魔道正拳突きぃ~っ!」
「ぐああ~」
「くっ!この野郎!これでも食らえ!
フラーモッ!」
おおっ!盗賊の頭は火炎魔法使いだったのか!
大丈夫かな?男爵仮面?
もし危ない場合は俺が助けなくちゃ!
俺はヒーローショーを見る子供のようにハラハラしながら戦いの推移を見た。
だが、その心配は不要のようだった。
「愚か者め!私の正義の燃える心が、そのようなチャチな炎で消せると思うか?」
おおっ!いいぞ!男爵仮面!
よく見ると、火炎系遮断の防御魔法を張っているのがわかる。
あ、魔道はそこの部分なのね?納得。
でもここまでの防御魔法が使えるならこの人、攻撃魔法も使える筈だよね?
何で使わないんだろう?
俺がそう考えていると、男爵仮面が盗賊の頭に止めをさす。
「うむ、自らの非道を反省もせず、そのような行い!
もはや許せぬ!行くぞっ!
魔道ッ!三ッ段ッ蹴りぃっ!」
そう叫んだ男爵仮面が、そこらの木を利用しながら相手に3回連続蹴りを食らわす。
「うっぎゃ~!」
ついに絶叫して盗賊の頭が倒れる。
特撮の怪人なら爆発した事だろう。
・・・いや、もちろん、やっつけるのはかまわないんですが、やっぱり魔道って叫びながら、攻撃魔法を一回も使ってないんですけど?
この人、本当に魔道士なんですか?
まあ、防御魔法は使っていたから魔法使いには違いないか?
俺がそう考えている間に、男爵仮面がこてんぱんに倒した4人を縄でふんじばる。
このおっさん、結構強いわ~。
鑑定してみたらレベルは88、うん、さすが正義の味方を名乗るだけはあるね。
でも本当に魔道士?
4人をふんじばった男爵仮面が俺に尋ねる。
「大丈夫か?少年よ?」
「はい、ありがとうございました」
助けてもらったから、当然の事ながら俺は礼を述べる。
「なんの、この辺にはこのような輩も多い、気をつけるが良い」
「はい、え~と、もう一度お名前を?」
「うむ、正義の使者、魔道士「男爵仮面」と言う」
「あの・・・もう一つ聞いても良いですか?」
「うむ、何なりと聞くが良い」
機嫌よく答える男爵仮面に、先ほどから見ていて我慢しきれない俺は聞いた。
「何で全身赤なんですか?」
俺の質問に多少気分を害するかと思いきや、逆に我が意を得たりとばかりに男爵仮面はとくとくと説明を始める。
「良い質問だ!
良いかね?赤こそは正義の印!
私の正義の心、燃える心の炎、滾る正義の血、全て赤だ!
すなわち赤こそが正義の色なのだ!
だから私は遇えて全身を赤に染めている、
わかるかな?少年よ?」
「はあ、なるほど」
正義の心の色って赤なのか?
うん、ちょっと変だが、別に間違っているとも思えない。
確かに正義の味方の戦隊リーダーは赤が多いしな。
それに俺はこういう人が好きだ。
ちゃんともう一回お礼を言っておこう。
「どちらにしても助かりました。
ありがとうございました」
「うむ、ではさらばだ!
そら!キリキリ歩け!悪党ども!」
そう言うと縄でつながれた盗賊たちを街に向かって歩かせる。
残された俺とエレノアが呟く。
「・・・ちょっと変だけど、良い人みたいだね」
「そうですね」
これが俺がその後、長い付き合いとなる、男爵仮面との初めての出会いだった。