0423 イライジャ・ラーガンの襲撃
デフォードやシャルルたちがあちこちで噂をばらまいて、我々が白狼族の村で着々と防衛を固めていた頃、ラーガン伯爵領でも動きがあった。
部下から白狼族の村の話を聞いたラーガン伯爵の長男であるイライジャ・ラーガンが驚く。
「何?あの獣人どもの村が防備を固めている?」
「ええ、そのようです。
散り散りになっていた者たちが集まり、再び村として再興するつもりのようです。
しかも今度はどんな敵が襲って来ても問題ない。
来れば返り討ちで、相手は後悔して帰る事になるだろうと吹聴しているようです。
そして居酒屋で若様直属の部下を叩きのめして帰って行ったそうです。
しかも、そのう・・・」
「何だ?どうした?」
「そのう・・・実はどんな貴族の馬鹿息子が来ても返り討ちだと吹聴しているようです。
そして領内では、その馬鹿息子というのがイライジャ様の事だと噂されておりまして・・・」
途端にイライジャが大声を上げる。
「何だと?何故それを早く言わん!
ええい!しゃらくさい!
以前あれほど痛い目に合わせてやったのにそんな事を始めるとは・・・
そもそもそんな程度で我々を防げると思うとは片腹痛い。
しかもどんな相手でも返り討ちだと?
我らを舐めきっているな?
ええい!これで我等があの村を放っておけば、世間では我々が本当にあの村を恐れていると思うではないか!
では奴らの望み通り、もう一度行って蹴散らしてくれよう!
奴等は一体今どれ位いるのだ?」
「はい、散り散りになった者たちが戻って来たとはいえ、以前の半分もおりません。
おそらくは全部でも60人はいるかどうかといった所かと・・・
それと話によると、現在は復興を手伝っている旅の行商人のような連中がいるようですな」
その答えにイライジャはあきれ返る。
「何?たったそれだけでそんな大口を叩いているのか?
やはり獣人どもは馬鹿だな!
そもそも前回とて、あの異様に強い獣人一人と、途中で変な灰色の猫さえ出てこなければ奴らを全滅できたのだ!
それをまるで実力で我らを撃退したかのように勘違いしよって・・・」
「御意」
「しかもそのような復興をするとは、何か新しい財源でも出来たのか?」
不思議そうに尋ねるイライジャに副官が答える。
「はい、部下の話によりますと、彼の村の者は大金を手にして金貨を湯水のように使えると吹聴しているそうです。
実際に居酒屋でも金貨数枚を支払い、しかも釣りを求めなかったそうです」
「ふむ・・・流れの者を雇って復興をしている事と言い、居酒屋でそんな支払いをする事と言い、どうやら本当に何か大金を掴んだようだな?
ならば余計に都合が良い。
その大金、我等がもらうとしよう。
では奴らがつまらん事にその金を使いきらないうちに、急いで攻めなければな。
奴等は確かに少人数なのだな?」
「はっ!流れの者を数に入れても間違いなく人数は80人にも満たないかと・・・」
「うむ、その程度なら一捻りだ。
前回より手間も掛からないだろう。
あの獣人は死んだし、まさかまたあの変な灰色の猫が出て来ると言う事もないだろうからな!
大した数も用意も必要ないだろうから私の直属兵だけで十分だろう。
明日にでも出発するぞ。
全員に通達して用意しておけ」
「承知いたしました」
そしてその時、たまたまそばにいた妹のニーリャも同行を求める。
「お兄様、面白そうですわ!
私も連れて行ってくださいな」
「良かろう、ニーリャ、だがあの村は少々遠い。
途中で一泊、野営する事になるが、大丈夫なのか?」
「あら、その程度大丈夫ですわ!
私、一泊くらいでしたら馬車の中で寝るのも問題ありませんわよ?
でもその村で金貨を手に入れたら私にも分けてくださいましね?」
「やれやれ、目的はそれか?
まあ良い、それではついて来るが良い」
「ええ」
こうしてハーベイ村でも一応の防衛準備が出来上がった所へ、ラーガン伯爵領から敵が攻めてきた。
いや、攻めて来たと言うのは少々語弊がある。
相手としてはごく普通の狩りの延長のような物で、村を攻めるなどという感覚はなかっただろう。
そう、それは少々大規模な狩りの程度の感覚だ。
しかも目的地には金貨の山があるとの噂つきだ。
敵は騎馬数十騎を中心とした200人ほどで、指揮官は領主であるラーガン伯爵の息子のイライジャと娘のニーリャ、そして将軍のボブソンだった。
彼らはせいぜいの所、ちょっとしたピクニック気分だった。
事実ニーリャなどは、自分専用の外出用の馬車で見物がてらにやって来たほどだった。
そして噂には尾鰭がつき、兵士たちの間では、目的地に到着すれば、各自が金貨を取り放題らしいとまで噂が膨らんでいた。
しかし襲撃隊であるラーガン伯爵領のイライジャ部隊は、白狼族の村の様子を見て少々驚いていた。
思ったよりも防備が固めてあるからだ。
その集団の実質的な指揮官であるボブソン将軍が驚いた様子で話す。
「これは・・・!イライジャ様、あの村に柵が出来ておりますぞ?」
「ほう?確かに聞いた通り、以前とは違うな?
馬鹿獣人どもも、少しは頭が働いたのか?」
「それに空堀が掘られて、土塁も積まれております。
まだ正面だけですが、煉瓦で多少強化もしてあるようですな」
「ふん?獣人にしては賢いじゃないか?」
「ふふふ、お兄様?そんな物、蹴散らしてあげましょう」
「もちろんだ。
あんな物、村の中に入れば、むしろあいつらの逃げ場がなくなる。
やはり獣人は馬鹿だな。
おい!入口に兵を10人ばかり残しておけ!
奴らが外へ逃げられないようにな」
「さようですな。入口に橋があるようですが、ちょうど今は掛かっております。
これはまさに今が攻め時かと」
「その通りだ!
あんな跳ね橋を作っておきながら上げておかないとは、やはり獣人は馬鹿だ。
敵が入り放題ではないか?
どうやら物を作るだけ作っても、それを使えるだけの頭がないようだ。
さあ!馬鹿な獣人どもに対してこのまま突撃だ!」
「「「「 お~う! 」」」」
そう言ってイライジャたちは白狼族の村へ向かって馬で駆け出した。
村へ向かって来た襲撃隊を見て俺は指示をした。
「よし!予想通りだ!
いきなり村の中へ入ってくるぞ!
訓練の通り、誘導しろ!」
「おお~!」
俺たちは入口の跳ね橋も上げず、連中が勢いよく進軍してきても、何も抵抗をせずに村への進入を許した。
実際には西門と南門の跳ね橋は上げてあり、開いていたのは東門だけだったのだが、襲撃隊はそれには気付かず、特に不思議とも思わずに勢いよく進んでくる。
ニーリャも馬車を降りて自ら馬に乗り、兄たちを追いかける。
しかし村の中へ入って来た襲撃隊はそこで初めて驚いた。
「これは・・・!」
村の入口から入った部分は広い広場となっていた。
しかしその先にはズラリと太い木材を柱のように地中深く打ってあり、その間隔は一見広いようには見えるが、その隙間は馬や人では簡単に通りぬけられる物ではなかった。
もし無理に通り抜けようとすれば、相手にそこを攻撃されるのは目に見えている。
そしてそれは誘導路のようになっており、一定の方向へしか進めないようになっていたのだ。
しかもその木の杭の林の向こう側では、何やら獣人たちと、怪しげな灰色の衣装の連中がこちらを見ながらにやにやと笑ってる。
いよいよ旧作に追いついて参りました!
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