0387 各部活動の勧誘
翌日は言われた通りに各種クラブの説明会の日だった。
エレノアにも部活動には色々とあるので、是非学生のうちに経験してみた方が良いと言われていたので、俺たちはクラブの説明会を楽しみにしていた。
ただし、エレノアから特待生はあちこちの部から、くどい勧誘を受けるかも知れないので、全員注意をするようにとも言われていた。
学校の大講堂に机と椅子が並べられて、そこに各部活動や研究会が屋台のように軒を連ね、一生懸命に新たなる部員を獲得しようと争っていた。
アインも俺たちと一緒に見学をするようだ。
部活動には様々な種類があった。
当然と言うか、魔法研究系の部活動が最も多い。
俺はシルビアたちと、まずは全部のクラブ活動の説明が貼られている大きな掲示板の場所へ行って、それを読んでみた。
全般的な魔法研究部に始まって、魔法はそれぞれ細かく、攻撃魔法研究会、航空魔法研究部、治療魔法研究会、使役物体魔法研究会などに分かれている。
魔法薬研究会、魔法道具研究会なんてのもあるし、レベル絶対至上主義行動部、魔物観察研究会なんて物もある。
おっと、錬金術研究会まであるのか?
まあ、魔法でも元素の合成は出来ないのは神様から聞いて知っているけど、地球でも錬金術は化学の発展に大きく貢献したからね。
これはこれで意義はあるだろう。
もちろん魔法と関係ないクラブ活動もある。
読書部、天文部、絵画部、水泳部、剣術部もある。
おや、迷宮探検部なんていうのもあるな?
面白そうだ!
おいおい!美女ジャベック友の会なんてのもあるぞ!
これにも惹かれるな~
どれも魅力的で入ってみたい!
掛け持ちも可能みたいだから2・3箇所に入ってみようかな?
「随分と色々な部活動があるね?」
「ええ、どれも魅力的で興味深いです」
俺の言葉にシルビアもうなずいて答える。
「私は攻撃魔法の研究会に入ろうかと思います!」
やはりアンジュはそっち方向か?
まあ、一族揃って攻撃魔法大好き村だからな?
当然だろう。
「私はやっぱり使役物体魔法研究会に入ろうと思うわ!」
うん、エトワールさんはそうなるだろうな?
「僕はどうしようかな・・・」
シャルルは色々と迷っているようだ。
本来だったらエトワールさんと同じで使役物体魔法研究会辺りに入りたいんだろうけど、そこはノーザンシティの関係者がウヨウヨいそうだし、バッカンさんからもそっち方面は止められているからね?
確かに迷うところだろう。
「う~ん・・どうも俺にはピンと来るのがねーな?
俺は部活動はやめておいて、家帰って寝るかな?
それとも一人で迷宮にでも行って鍛えるか?」
どうやらアインは部活動は面倒らしい。
さて、俺はどこに入るか?
本当に迷う。
それに俺が入る部には、自動的に俺の護衛である豪雷と疾風も入る事になるので、そこも考えなければならないだろう。
俺がそんな事を考えながら掲示板を見ていると、ドヤドヤと何人もの人たちが俺たちの近くにやってきた。
その一人が近くにいる俺と同じクラスの4年生に質問をする。
「なあ、今ここに来ているって話を聞いたんだが、ホウジョウってのはどの人だい?」
「あそこにいるよ?」
聞かれた俺と同じクラスの者らしいのが答えると、一斉にその人間たちが俺に近寄ってくる。
即座に俺の護衛である豪雷と疾風がズイッ!と前へ出て、その連中を牽制する。
シルビアとアンジュもだ。
しかしその連中は俺に対して、笑顔で友好的に話し始める。
「やあ、君がホウジョウ君か?
是非、うちの部に入ってくれたまえ!」
「え?」
いきなりの勧誘に俺が驚いていると、別の男たちが話し始める。
「何を言っているんだ!
ウチの部こそ彼には相応しい!」
「いや、うちだ!」
「うちよ!」
どうやらこれは俺の勧誘合戦らしい。
前世の漫画などでこういうのは見た事があるが、実際に自分がそんな物に巻き込まれるとは思わなかった俺は驚きだ。
「え~と、皆さんは一体?」
俺の質問にそこにいた連中が争うように答える。
「俺は魔法研究部の者だ!」
「俺は使役物体魔法研究部だ!」
「私は航空魔法部よ」
「俺はレベル絶対至上主義行動部だ!」
かなりあちこちの部が揃っているようだ。
「あの~皆さん、何で僕を?」
俺の質問にそこに来た人たちが興奮して答える。
「そんな事、決まっているだろう?」
「今年入った特待生の中に、レベルが300を越えて、すでに賢者確実な奴がいると聞いた!」
「そんな奴を放っておける訳がないだろう!」
「どうかウチに!」
「いや、ウチだ!」
「君は魔法全般に詳しいと聞いた!
それならば全ての魔法を満遍なく研究できる、我が魔法研究部が最もふさわしいと思う!」
一人がそう説明をすると、即座に別の女性が口を挟む。
「何を言っているの!魔法研究部なんて全部の事をやっていて、結局どっちつかずでしょ?
そんなのもったいないわ!
彼なら航空魔法部に入れば、必ず世界最速を狙えるわ!」
そしてその後は怒涛のように勧誘だ。
「いや、彼はすでに魔法を使えるジャベックを作れると聞く。
それならば使役物体魔法の2級相当だ!
是非我が使役物体魔法研究部に招きたい!」
「私も使役物体魔法研究部だけど、私はエトワールって人を誘いに来たのよ!
何でもこの間のゴーレム大会で準優勝をしたって聞いたの!
しかもあのユーリウス様とも懇意と聞いたわ!
その人は是非うちに欲しいわ!
あなたたちの内の誰がその人なの?」
「いやいやいや!レベルが300を超える特待生なんて初めての事だ!
ここは当然我がレベル絶対至上主義行動部しかない!」
「俺はアンジュって子を誘いに来た!
あの最強魔人一族のサフィール族だって聞いたからな!
それなら是非我が攻撃魔法研究部に入って欲しい!」
そう言いながらその連中は俺たちに迫って来る!
おいおい!俺だけじゃなくてエトワールさんやアンジュの勧誘も混ざってんぞ!
御指名を受けている二人もビックリだ!
やはりエレノアの忠告通りのようだ。
レベル300を越える特待生の俺は期待の新入生という訳か?
そりゃ確かに自分の部活動に勧誘したくなるのもわからないではない。
そんなのは滅多にいないだろうからね?
とりあえず、レベルの高い特待生は囲っておこうという寸法か?
エトワールさんやアンジュも、それぞれの分野ではすでに知れ渡っているようだ。
エレノアが特待生は勧誘が凄いと言っていたのはこの事か?
これは確かに凄い!
しかし俺としても、当然の事ながら訳のわからない部に入りたくはない。
さて、どうするべきか?
「え、え~と・・・」
俺が困っていると、そこへまた新しい別の集団がやってくる。
先頭が豪華な金髪縦ロールの、いかにも身分の高そうな御嬢様だ。
後ろには何人かのお供のような人もいる。
そっちも結構な御嬢様な感じだ。
しかし何と言っても先頭の御嬢様の存在が圧巻だ!
周囲に燦然と御嬢様オーラを放っていて、それはもう御嬢様を通り越して、まるで御姫様のようだ。
事実その人が歩くと、その周囲の人間全員が、サッと道を空ける。
まるでモーゼの前の海のように、人垣がサーッと左右に分かれていく。
こりゃもう完全に御姫様だな?
その御姫様が俺たちの近くまで来ると話しかけてくる。
「あら?皆さんお揃いです事ね?」
「げっ!生徒会長!」
「副会長と料理部長まで・・・」
「しまった・・・!」
「まさか・・・!」
「それはないだろう?」
「反則よ・・・」
制服の徽章を見ると、どうやらこの人は魔法学校上級生の5年生で、周囲の話からすると生徒会長のようだ。
しかもこの雰囲気と物腰から言って、貴族の御嬢様のように思える。
それも相当な大貴族っぽい。
周囲の反応から見ても、それは間違い無さそうだ。
ニッコリと微笑むその姿は可憐で美しく、大輪の花のようだ。
周囲がシン・・・と静まり、誰もが見守る状況となる。
その衆人環視の状況で、俺の眼前に出てきたその御嬢様上級生が俺に向かって話し始める。
「あなたがシノブ・ホウジョウさんですか?」
「はい、そうですが?」
「サクラ魔法食堂の店主の?」
「ええ、そうです。よく御存知ですね?」
「ではあなたが、あの「ペロン印の幸せプリン」を作った方なのですね?」
「はい、そうです」
俺が返事をすると、この人物は感慨深げにうなずいて、ゆっくりと話し始める。
「・・・あれはとても驚きの味でしたわ。
私、初めて食べた時、感動して心が震えましたの」
御姫様がそう言うと、残りの人たちも熱心にうなずく。
「ええ、その通りです!」
「あれは感動以外の何者でもありませんわ!」
どうやら後ろの人たちもプリンを食べたらしい。
「あはは、そこまで褒めていただくと、とても嬉しいです。
私も自分が作った物が、そこまで評価されるとは驚きです。
ありがとうございます」
それにしても、ロナバールから遠く離れたこのマジェストンにまで、プリンの噂が流れているとは驚きだ。
この世界にはテレビやラジオはおろか、まだ定期的な娯楽雑誌すらないのにね?
俺が礼を言いながら驚いていると、この上級生が自己紹介を始める。
「初めまして・・・・
申し遅れましたが、私はロッシュ伯爵家の長女でフローラと申します。
この学校では現在、5年生で生徒会長を勤めさせていただいております。
どうか今後とも御見知りおきを・・・」
そう言ってフローラ先輩は制服の裾をつまんで俺に深々とお辞儀をする。
いや、この人本当に動作が優雅だわ。
ごく普通の日常の動作どれ一つをとっても気品がある。
この世界に来て、俺も今まで何人か貴族に会っているけど、この人は本当にこれぞ貴族の御嬢様って感じだ!
俺が感心していると、フローラ先輩は頭を上げて両脇の二人を紹介する。
「こちらは副会長のミレイユ。
そちらは料理部部長のマルセルです」
「副会長のミレイユ・カーライルです」
「料理部部長のマルセル・ポキューズです。
どうか今後ともお見知りおきを」
フローラ先輩に続き、左右の二人が同じく優雅に挨拶するが、俺には全く状況がわからない。
ただ一つわかったのは5年生で生徒会長というのは只者ではないという事だ。
学年が改まったこの時期に生徒会長と言う事は、4年生の時点で生徒会長だったはずだ。
それはつまりこの人は昨年の4年生だった時点で生徒会長になったという事だろう。
昨年いた5年生や6年生を差し置いてだ。
しかも隣にいる料理部長は、この人より上の6年生だ。
明らかにその先輩より格上の扱いだ。
そんな人が只者とは到底思えない。
しかもこの魔法学校で生徒会長はかなりの権限を持っているとエレノアは言っていた。
さらに副会長と料理部の部長とやらまでが一緒だ!
何だか俺は嫌な予感がしてならない。
俺はどこかの乙女の嗜む武道の家元の娘じゃないし、別にこの学校が廃校の危機になっている訳でもあるまい?
変な事に巻き込まれるのはごめんだぞ?
そう思った俺は、とりあえず相手に丁寧に挨拶をする。
「はい・・・その、よろしくおねがいします?」
俺がそう挨拶すると、このフローラ先輩とやらは再び話し始める。
「実は私達、今日はあなたに御願いがあって参りましたの」
「はい・・・何でしょう?」
生徒会長で伯爵令嬢様が新入生の俺に御願いとは一体何だろうか?
しかもこの人たちは俺がサクラ魔法食堂の店主であると知っている!
正直、今までの経験から言って、貴族と言う物は何を言い出すかわからない。
その生徒会長や貴族の権限で、俺に何かムチャな事をさせようと言うのだろうか?
少々不安になってきた俺は、これから何を言われるのかと身構えた。
すると、その三人がいきなりその場で土下座をして両手を床についた!
「御願いでございます!ホウジョウ様!
どうか!料理部へ入ってください!」
「御願いします!」
「御願いします!」
そう言って三人は俺に入部を頼み込む!
一瞬、その場を静寂が訪れるが、次の瞬間、その場にいた全員が絶叫した!
「「「「「「 えええっ!!!???? 」」」」」
いきなり何なの?この人たち!